ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「寂しい時は、いつでも抱いてやるよ?」

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「……昨日、どこに泊まったの?」

 他の人と、紅音となにかあったんじゃないかと思って。
 自分は羽琉と関係を持ったくせに琉生にはそうしてほしくないなんて、身勝手にも程がある。

「あぁ、友達んち。久しぶりに会う友達もいたから遅くまで飲みながら話してた」
「……そう」
「だから、あんま寝てないんだ。風呂入ってからちょっと寝る」

 ふはぁ、とあくびをして、琉生はパーカーを脱ぎ捨ててバスルームへと向かった。
 紗奈はそれ以上なにも言えず、その後ろ姿を見送るように見るしかできない。


 その言葉が嘘か本当か、それを見分ける術は残念ながら持っていない。
 嘘じゃないと思いたいのに、琉生から漂う女物の香水の匂いのせいで疑いたくなる。
 一緒にいれば匂いが移ることもあるのに、それ以上のことがあったんじゃないかって。
 こういう時に不安を掻き消すように抱いてくれれば少しは気持ちが楽になるのに、琉生はセックスしてはくれないんだ。

 ――どうして抱いてくれないの。

 いつも喉の奥で引っ掛かってる言葉は、今日も出てきそうにない。
 どれだけ『好き』と言ってもキスをしても、それ以上のことはしてくれない。
 そこにちゃんとした気持ちがあっても、体を繋げたい時がある。
 女にだって性欲があるのに、どうして琉生はわかってくれないんだろう。
 それとも、わかっていながら気付かないふりをしているのか。
 セックスしたくないから?

「…っ」

 涙が滲む。
 羽琉に抱いてもらって体は満たされても心は全然満たされなくて、琉生が愛してくれているとわかっていても心にある隙間は埋まらない。
 ただ肌を重ねて『好き』って言ってくれれば、それで満たされるのに。

「…っ琉生…っ」

 一人きりのリビングで座り込みながら、そう言葉を漏らす。
 琉生に気付かれないように、声を抑えて。
 ポタポタと溢れる滴は、フローリングの床に静かに落ちた。

 同棲を始めた最初の頃はまだ、琉生は回数こそ多くなくても抱いてくれた。
 仕事で時間が合わない時が増えるにつれて、セックスも減っていった。
 自分から誘うこともなかなかできなくて、寝る時に琉生に抱き着くことで自分の気持ちを伝えてるつもりだった。
 だけど、彼は抱き返してキスをするだけで、求めることをしてはくれなかった。

「…うっ……うぅっ…」

 琉生が脱ぎ捨てたパーカーを抱きしめて、涙を溢す。
 そこにも女物の香水の匂いがほのかについていて、不快にさせられた。
 だけど今はとにかく不安で、他に縋るものがなかった。
 抱いてくれないことをこんなにも寂しいと感じるのは、昨日の同窓会がネックになっている。
 もっと素直に琉生に本音をぶつければいいのに、それもできない自分は可愛くない。


「いつもそうやって一人で泣いてんの」

 その声に振り向くと、さっきまで寝ていたはずの羽琉がいた。

「バカだね。兄貴の服なんて抱きしめてないで、言いたいこと言えばいいのに」

 羽琉は小さく笑って目線を合わせるように屈むと、そっと瞳の涙を拭った。
 触れた指先は優しいのに、今求めているのは羽琉じゃない、と叫ぶ自分がいる。
 羽琉に抱かれて満たされてもすぐに物足りなさを感じるのは、好きな人に抱かれる悦びを忘れてしまったからだ。
 それは羽琉じゃ無理で、琉生にしか満たされない。
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