ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「それで楽になれるなら、もっと求めろよ」

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「そんなに俺のことでいっぱいになってんの? 兄貴を拒絶するくらい?」
「…っそ、れは…!」
「はは、俺の思惑どおりってわけだ。紗奈は、もう俺とのセックスなしじゃ生きていけなくなってんだよ」

 羽琉の唇がまた降ってきて、その熱さに今にも溶けそうになる。
 同じ家の中に琉生がいるのに、羽琉に触れてほしくてたまらない。
 いつのまに、こんなに淫乱になったんだろう。
 そんな自分に驚きながらも、羽琉が相手だとどうも抵抗できそうにない。

 ソファの上に体を沈められ、あちこちに優しいキスが降ってくる。
 額、頬、首筋、耳――そのたびに感じて、体が疼いて仕方ないなんて。

「は、る……だめ、変になる…っ」

 琉生が抱いてくれないから、羽琉を求めるんだって思ってた。
 だけど、そうじゃなかった。
 琉生を拒絶してでも羽琉に抱かれたくなるのは、彼とのセックスが良すぎるからだ。
 いつもこうしてほしいと思ったところに触れて、夢中になるくらいに感じさせられる。

「ほんとエロ。紗奈のそういうとこ、すげえ好き」

 たったそれだけの言葉なのに、ドキンッ、と胸の高鳴りを覚えた。
 その『好き』の言葉に特別な意味なんてないのに、つい反応してしまう。

「体だけ、でしょ?」

 確認するように聞くと、羽琉ははっきりとしたことは言わずに笑うだけ。
 それが問いかけに肯定しているようで、ほんの少しだけ胸が痛んだ。
 そんな心情なんて知らないはずなのに、まるで見透かすような瞳を向けられる。

「紗奈はどう言ってほしい? 体だけじゃないって言えば満足する?」
「………」
「欲張りだね。兄貴と別れる気なんてないくせに俺も欲しがるんだ?」
「そういうわけじゃ、」

 ――違う、そのとおりだ。
 琉生の気持ちが離れていくのに気付いていながら『好き』の言葉に縋って、無理やりに一緒にいる理由を作ってる。
 本当のことを言うと、琉生を想う気持ちにも迷いが出ているのに。
 それもこれも、羽琉のせい。

「紗奈にとって、俺はなに?」

 なんでそんなこと聞くの。
 体だけを最初に求めたのは羽琉のほうなのに、どうして勘違いするようなこと。

「そういう羽琉こそ、私のこと、本当はどう思ってるの?」

 ――体だけ、セフレ。
 抱き合う理由がなくても抱き合うことができるなら、それでいい。
 羽琉の腕の中でなら、〝女〟であることを思い出すことができる。
 セックスして甘く淫らな声を上げて、これでもかと欲しがって。
 たったそれだけでいい。
 それが羽琉を求めてしまう理由、意味――そのはずだったのに。

「ずっと言ってるだろ、俺は紗奈を抱ければそれでいいんだよ」

 そう言われて、胸の奥がツキンと痛んだのはきっと気のせい。
 同じことを思ってるのに、なんでこんな気持ちになるんだろう。

「特別な感情なんて、紗奈も俺に求めてるわけじゃないだろ?」
「……そう、ね」

 聞かれたことに頷いただけなのに、羽琉はほんの少しだけ寂しそうな顔を見せた。
 こんな何気ない顔をして心を持っていこうとする羽琉は、どこまでもズルい。


「紗奈」

 改まったように呼ぶ声はまっすぐで、見つめてくる瞳は透明で目が逸らせない。
 そんな瞳で見られたら、特別な気持ちがあるんじゃないかって勘違いしてしまう。
 いつも思わせぶりな態度や言葉で振り回すんだから。
 琉生と付き合ってるのに、それを嫌だと思えない自分がひどく醜いような気がする。

「もし、俺が――」

 羽琉はなにかを言おうとして、でも最後まで言い終える前に止めた。
 その先の言葉を待ったけど、それが出てくることはなかった。
 それどころか、「……やっぱいい」と言うのをやめた。
 その後また唇を重ねられて、なにも言うことができなかった。
 落ちてくるキスはいつも以上に優しくて、骨抜きにされるほど気持ちよく感じた。


 羽琉、なにを言おうとしたの?
 どんな気持ちで触れて、どんな気持ちでこんなに優しいキスをしてくるの?

 聞きたいことはなにひとつ聞けず、紗奈はただキスを受け入れるだけだった。
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