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「こんな大事な日を、俺が知らないわけねえだろ?」
(1)
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「……ごめん、紗奈」
琉生がそう謝ってきたのはデートの前日、金曜日の夜のことだった。
仕事から帰ってきて紗奈が作った料理を食べた後、彼はそう言った。
申し訳なさそうに眉尻を下げて、何度も。
「友達と先に約束してたの忘れてて、だから、その、また今度――」
誘ってきたのは琉生のほうで、時間を作ってくれることが嬉しかった。
明日がなんの日か覚えてくれていたから誘ってくれたんだと思っていたのに、そうじゃなかった。
たまたま誘った日がその日だった、というだけ。
それこそ、ただの気まぐれで誘っただけだったのかもしれない。
「でも、明日は…っ」
私の誕生日なんだよ、と言おうとして、口をつぐんだ。
そのことすら覚えてない琉生に無理強いして一緒にいてもらっても、意味なんてない。
なにかしてほしいわけじゃない、ただお祝いしてほしいだけなのに。
「…? 明日じゃないとダメなの?」
琉生は本当に覚えてない。
去年も一昨年もちゃんとお祝いしてくれていたのに、今年は。
もっと他に気に掛ける人ができたから、ないがしろにされてる?
琉生と過ごした2年半が色褪せていくようで、なにも考えられなくなった。
「…ううん、いい。いつでも」
「ほんとにごめんな? 旅行もダメだったのに、明日もダメなんて」
「いいよ、仕方ないでしょ」
こういうところがきっと可愛げがない。
ワガママも言えなくていつも聞き分けのいいふりをして、もっと素直に、たまにはワガママを言って困らせたりすればいいのに。
そのせいで今まで何度も恋に失敗してきたのに、結局こうしてまた大人ぶって見せる。
「また今度、ね」
そう言いながらも、先約の友達って誰だろう、と考えてしまう。
もしかしたらそれは紅音で、琉生は自分よりも彼女を優先したのかもしれない。
そう疑ってしまう自分が奥底にいて、またモヤモヤが広がった。
***
「はー…」
その翌日、一人で暇を持て余していた紗奈は口からため息を溢した。
今日をすごく楽しみにしていたというわけじゃない、ただ羽琉のほうへ心が傾きかけているのを自覚して、琉生への気持ちをなんとか持とうとしていただけで。
一緒にいる意味、暮らしてる意味があるように。
もうわからなくなってきた。
琉生がなにを考えてるのかも、彼の気持ちがどこにあるのかも。
ただ抱いてくれないだけだったらまだしも心までも離れていってるとしたら、一緒にいる意味なんてもうとっくになくなっているのかもしれない。
ただ今までの時間を無駄にしたくなくて、無意味に関係を続けようとしてるだけで。
「…なにしてるんだろ、私」
悩んでるくらいなら聞けばいい。
彼女と会ってるの、私のことまだ好きでいてくれてるの、って。
そう聞けば、この曖昧で中途半端な関係からも抜け出すことができるかもしれないのに。
その時、スマートフォンがメッセージの受信を伝えて、誰かと思ったら友達からだった。
『紗奈、誕生日おめでとー』
そのメッセージと一緒にスタンプも送られてきて嬉しくなった。
ただ覚えてくれてたんだというだけで、口元が自然と緩む。
日付が変わってから送られてくる何人もの友達からのお祝いメッセージは、紗奈の心に優しく響いた。
琉生が忘れてしまってもこうしてお祝いしてくれる人がいるだけで、慰めになった。
『今日は彼氏とデートかな? せっかくの誕生日だから、楽しんできてね!』
デートの予定、だった。
ドタキャンされたと言って友達と会って気を紛らわせばいいのに、素直じゃない自分はそうできない。
誕生日を覚えてなかったことを話すのも嫌で、可哀想だと思われるのは我慢できなかった。
結局、ありがと、と当たり障りのない返事を送るだけだった。
琉生がそう謝ってきたのはデートの前日、金曜日の夜のことだった。
仕事から帰ってきて紗奈が作った料理を食べた後、彼はそう言った。
申し訳なさそうに眉尻を下げて、何度も。
「友達と先に約束してたの忘れてて、だから、その、また今度――」
誘ってきたのは琉生のほうで、時間を作ってくれることが嬉しかった。
明日がなんの日か覚えてくれていたから誘ってくれたんだと思っていたのに、そうじゃなかった。
たまたま誘った日がその日だった、というだけ。
それこそ、ただの気まぐれで誘っただけだったのかもしれない。
「でも、明日は…っ」
私の誕生日なんだよ、と言おうとして、口をつぐんだ。
そのことすら覚えてない琉生に無理強いして一緒にいてもらっても、意味なんてない。
なにかしてほしいわけじゃない、ただお祝いしてほしいだけなのに。
「…? 明日じゃないとダメなの?」
琉生は本当に覚えてない。
去年も一昨年もちゃんとお祝いしてくれていたのに、今年は。
もっと他に気に掛ける人ができたから、ないがしろにされてる?
琉生と過ごした2年半が色褪せていくようで、なにも考えられなくなった。
「…ううん、いい。いつでも」
「ほんとにごめんな? 旅行もダメだったのに、明日もダメなんて」
「いいよ、仕方ないでしょ」
こういうところがきっと可愛げがない。
ワガママも言えなくていつも聞き分けのいいふりをして、もっと素直に、たまにはワガママを言って困らせたりすればいいのに。
そのせいで今まで何度も恋に失敗してきたのに、結局こうしてまた大人ぶって見せる。
「また今度、ね」
そう言いながらも、先約の友達って誰だろう、と考えてしまう。
もしかしたらそれは紅音で、琉生は自分よりも彼女を優先したのかもしれない。
そう疑ってしまう自分が奥底にいて、またモヤモヤが広がった。
***
「はー…」
その翌日、一人で暇を持て余していた紗奈は口からため息を溢した。
今日をすごく楽しみにしていたというわけじゃない、ただ羽琉のほうへ心が傾きかけているのを自覚して、琉生への気持ちをなんとか持とうとしていただけで。
一緒にいる意味、暮らしてる意味があるように。
もうわからなくなってきた。
琉生がなにを考えてるのかも、彼の気持ちがどこにあるのかも。
ただ抱いてくれないだけだったらまだしも心までも離れていってるとしたら、一緒にいる意味なんてもうとっくになくなっているのかもしれない。
ただ今までの時間を無駄にしたくなくて、無意味に関係を続けようとしてるだけで。
「…なにしてるんだろ、私」
悩んでるくらいなら聞けばいい。
彼女と会ってるの、私のことまだ好きでいてくれてるの、って。
そう聞けば、この曖昧で中途半端な関係からも抜け出すことができるかもしれないのに。
その時、スマートフォンがメッセージの受信を伝えて、誰かと思ったら友達からだった。
『紗奈、誕生日おめでとー』
そのメッセージと一緒にスタンプも送られてきて嬉しくなった。
ただ覚えてくれてたんだというだけで、口元が自然と緩む。
日付が変わってから送られてくる何人もの友達からのお祝いメッセージは、紗奈の心に優しく響いた。
琉生が忘れてしまってもこうしてお祝いしてくれる人がいるだけで、慰めになった。
『今日は彼氏とデートかな? せっかくの誕生日だから、楽しんできてね!』
デートの予定、だった。
ドタキャンされたと言って友達と会って気を紛らわせばいいのに、素直じゃない自分はそうできない。
誕生日を覚えてなかったことを話すのも嫌で、可哀想だと思われるのは我慢できなかった。
結局、ありがと、と当たり障りのない返事を送るだけだった。
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