【完】瓶底メガネの聖女様

らんか

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 リーネが部屋を出たのを見届けた後、私は頭の中を整理しようと思った。

 まず、私は転生者となるらしい。
 前世の事は今となってはあまり思い出せないが、社会人のアラサー。
 一人暮らしだったか、家族と共に暮らしていたのかも思い出せないけど、仕事が終わって自分の部屋でお酒を飲みながら、コタツでゴロゴロしているうちに亡くなったと考えるのが妥当だろう。

「いや、そんなシュチエーションでなんで死んだんだ?」

 疑問に思うが、現状では分からない事なので一旦置いておく。
 そして今の私は、オリビア・ルードグラセフ。ルードグラセフ伯爵家の長女13歳。
 そして、今思い出したけど、ルードグラセフ伯爵である父は、婿養子だ。
 本当の伯爵はオリビアの母であり、父はオリビアが成人するまでの代理伯爵でしかない。
 なので義母はもちろん、父もオリビアを疎んでいるのは当たり前であった。

「父も喜んでいるわね。私がこんな事になって……。
 重篤な熱傷なんて先が見えているもの。私が死んだら正式な伯爵となれる。
 やはりこの家を一旦出ないと、このままろくな治療も受けられずに殺されそうだわ」

 そして、さっきの魔力……。

 私はさっきの感覚を思い出しながら、ゆっくりと身体の深部から熱傷を治していき、組織が壊死しないようにしながら表面上の創傷のみを残した。
 
 やはり、思い通りに治癒魔法が使える。
 右腕は広範囲の熱傷なので、出来るだけ早く綺麗に治したいが、今はダメだ。
 適当な治療しか出来ない医者が見ても、気付かない程度には残しておかないと……。

 これ以上、創部が侵食されないように、表面の創部と、皮下組織を魔力で遮断しておく。
 こうしておけば、表面上だけ血が通わなくなり壊死し始めるので、誰も疑わないだろう。
 そして、1日も早くこの家を出る為にはどうすればいいかを考えなければ……。

 
 そうは考えるが、なかなかいい案が思い浮かばず、ずるずると日は過ぎていった。
 私は火傷のせいで両手が使えず、幸いと言っていいのか分からないけど、取り敢えず家の仕事はしなくてよくなった。
 その代わり、傷物の穀潰しと義母や義妹からは悪し様に罵られ、父はそんな私を見もしようとせず、居ないものとして扱われる。
 もちろん医者も最初の1回だけで、あとは全く呼んでもらえない。
 予想通りにも程がある。

 しかもそれだけではなかった。
 あの時私を庇って、ルイーゼが私を押したせいだと主張してくれたリーネにも両親や義妹からの矛先がむいていた。

 ある日の朝、いつも同じ時間に洗面準備と朝食を持ってきてくれるリーネが来ない事に不安に思った私は、何とか身体を起こし、部屋を出て近くにいたメイドに話しかけた。

「あの、リーネを見かけませんでしたか?」

「え? あぁ……あなた。
 リーネなら居ないわよ。昨日付でクビになったから。
 誰かさんのせいでね」

「えっ!?」
 
 私の問いに、嫌そうな表情でそう答えたメイドは、普段から義母や義妹に媚びを売っている最近入った若手のメイドだ。
 この人は多分、私がここの娘である事さえ知らないかも知れない。

「あ、あの! リーネの行き先は知りませんか?」

 ダメ元で聞いてみたけど、予想通りの返事が来た。

「知るわけないでしょ? 実家にでも帰ったんじゃないの? どこだか知ったこっちゃないけどね」

 そう言ってそのメイドは、すぐに背を向けて立ち去った。
 残された私は愕然とした。

 そうだ。私は自分の事ばかりで、あの時庇ってくれたリーネが、あの人たちからどういう扱いを受けているかなんて、考えも及んでなかった。
 クビにされる可能性なんて大いにあったはずなのに!
 あの日から数日経ったのにリーネがいつも通りだったから、ついその可能性を忘れてしまっていた!

 そしてあの人たちのやりそうな事だ。
 私の味方を少しでも減らしたかったけど、理由なしの不当な解雇は出来なかったあの人たちにとって、今回の件は渡りに船。
 伯爵家の娘にあらぬ疑いをかけたとして、リーネを体良くクビにしたのだろう。
 しかも、あの日以降リーネは甲斐甲斐しく私の世話をしてくれていた。
 あの日にすぐにクビにしなかったのは、私への嫌がらせだ。
 こんな体になって、拠り所がリーネだけという環境を整えてから、私から奪っていく。

「何処までも最低な人達……」

 悲観になってる場合ではない。
 リーネを探さないと。
 リーネは両親を失って、親戚の紹介で、11歳の頃からこの家で勤めてくれている。
 弟がいたはずで、その弟は親戚に引き取られたから、そこに仕送りをしていると言っていた。
 だから、仕送りをするために、また働き先を見つけないといけないはず。
 だけどクビになったから、紹介状も貰えなかったに違いない。
 きっと仕事探しに難航しているはずだ。

 こうなったのは私の責任。
 リーネが安定した生活が送れるように、私が何とかしないと。
 
 
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