【完】瓶底メガネの聖女様

らんか

文字の大きさ
3 / 42

3

しおりを挟む

 リーネが部屋を出たのを見届けた後、私は頭の中を整理しようと思った。

 まず、私は転生者となるらしい。
 前世の事は今となってはあまり思い出せないが、社会人のアラサー。
 一人暮らしだったか、家族と共に暮らしていたのかも思い出せないけど、仕事が終わって自分の部屋でお酒を飲みながら、コタツでゴロゴロしているうちに亡くなったと考えるのが妥当だろう。

「いや、そんなシュチエーションでなんで死んだんだ?」

 疑問に思うが、現状では分からない事なので一旦置いておく。
 そして今の私は、オリビア・ルードグラセフ。ルードグラセフ伯爵家の長女13歳。
 そして、今思い出したけど、ルードグラセフ伯爵である父は、婿養子だ。
 本当の伯爵はオリビアの母であり、父はオリビアが成人するまでの代理伯爵でしかない。
 なので義母はもちろん、父もオリビアを疎んでいるのは当たり前であった。

「父も喜んでいるわね。私がこんな事になって……。
 重篤な熱傷なんて先が見えているもの。私が死んだら正式な伯爵となれる。
 やはりこの家を一旦出ないと、このままろくな治療も受けられずに殺されそうだわ」

 そして、さっきの魔力……。

 私はさっきの感覚を思い出しながら、ゆっくりと身体の深部から熱傷を治していき、組織が壊死しないようにしながら表面上の創傷のみを残した。
 
 やはり、思い通りに治癒魔法が使える。
 右腕は広範囲の熱傷なので、出来るだけ早く綺麗に治したいが、今はダメだ。
 適当な治療しか出来ない医者が見ても、気付かない程度には残しておかないと……。

 これ以上、創部が侵食されないように、表面の創部と、皮下組織を魔力で遮断しておく。
 こうしておけば、表面上だけ血が通わなくなり壊死し始めるので、誰も疑わないだろう。
 そして、1日も早くこの家を出る為にはどうすればいいかを考えなければ……。

 
 そうは考えるが、なかなかいい案が思い浮かばず、ずるずると日は過ぎていった。
 私は火傷のせいで両手が使えず、幸いと言っていいのか分からないけど、取り敢えず家の仕事はしなくてよくなった。
 その代わり、傷物の穀潰しと義母や義妹からは悪し様に罵られ、父はそんな私を見もしようとせず、居ないものとして扱われる。
 もちろん医者も最初の1回だけで、あとは全く呼んでもらえない。
 予想通りにも程がある。

 しかもそれだけではなかった。
 あの時私を庇って、ルイーゼが私を押したせいだと主張してくれたリーネにも両親や義妹からの矛先がむいていた。

 ある日の朝、いつも同じ時間に洗面準備と朝食を持ってきてくれるリーネが来ない事に不安に思った私は、何とか身体を起こし、部屋を出て近くにいたメイドに話しかけた。

「あの、リーネを見かけませんでしたか?」

「え? あぁ……あなた。
 リーネなら居ないわよ。昨日付でクビになったから。
 誰かさんのせいでね」

「えっ!?」
 
 私の問いに、嫌そうな表情でそう答えたメイドは、普段から義母や義妹に媚びを売っている最近入った若手のメイドだ。
 この人は多分、私がここの娘である事さえ知らないかも知れない。

「あ、あの! リーネの行き先は知りませんか?」

 ダメ元で聞いてみたけど、予想通りの返事が来た。

「知るわけないでしょ? 実家にでも帰ったんじゃないの? どこだか知ったこっちゃないけどね」

 そう言ってそのメイドは、すぐに背を向けて立ち去った。
 残された私は愕然とした。

 そうだ。私は自分の事ばかりで、あの時庇ってくれたリーネが、あの人たちからどういう扱いを受けているかなんて、考えも及んでなかった。
 クビにされる可能性なんて大いにあったはずなのに!
 あの日から数日経ったのにリーネがいつも通りだったから、ついその可能性を忘れてしまっていた!

 そしてあの人たちのやりそうな事だ。
 私の味方を少しでも減らしたかったけど、理由なしの不当な解雇は出来なかったあの人たちにとって、今回の件は渡りに船。
 伯爵家の娘にあらぬ疑いをかけたとして、リーネを体良くクビにしたのだろう。
 しかも、あの日以降リーネは甲斐甲斐しく私の世話をしてくれていた。
 あの日にすぐにクビにしなかったのは、私への嫌がらせだ。
 こんな体になって、拠り所がリーネだけという環境を整えてから、私から奪っていく。

「何処までも最低な人達……」

 悲観になってる場合ではない。
 リーネを探さないと。
 リーネは両親を失って、親戚の紹介で、11歳の頃からこの家で勤めてくれている。
 弟がいたはずで、その弟は親戚に引き取られたから、そこに仕送りをしていると言っていた。
 だから、仕送りをするために、また働き先を見つけないといけないはず。
 だけどクビになったから、紹介状も貰えなかったに違いない。
 きっと仕事探しに難航しているはずだ。

 こうなったのは私の責任。
 リーネが安定した生活が送れるように、私が何とかしないと。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸
恋愛
 難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。  部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。  しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。  だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。  けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。  彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

処理中です...