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しおりを挟む「お父様、お母様!」
ルイーゼはタウンハウスに着いた途端、大声で両親を呼んだ。
「まぁ! ルイーゼ、何故こんな時間に戻ってきているの?
聖女の目の色が分かったの?」
ルイーゼの声にビックリしながら、玄関フロアに来た母ナタリーがそう尋ねる。
「聖女の目の色なんか今はどうでもいいのよ!
お母様! このバックと髪飾り、模倣品だって学園でみんなに言われたわ!
あの商人に偽物を掴まされたのよ!」
付けていた髪飾りを自分でむしり取り、掛けていたショルダーバッグを床に叩きつけて、そう大声でルイーゼは叫ぶ。
「模倣品ですって? まさかそんな……。
だって、お父様は正規の値段をお支払いしたと仰っていましたよ?」
ナタリーは、すぐに近くにいた使用人に執事を呼ぶよう伝えた。
ルードグラセフ伯爵にこの事を伝えてもらい、買い付けに行った商人を呼んでもらうためだ。
知らせを受けた執事が到着し、すぐに伯爵にこの事を伝えると共に、買い付けを依頼した商人に連絡を取る。
執事より報告を受けた伯爵が玄関フロアまでやって来た時、買い付けの商人に連絡を取ろうとしていた執事が青い顔で戻ってきた。
「何かあったのか?」
ルードグラセフ伯爵の問い掛けに、執事は青い顔のまま返答する。
「旦那様、お嬢様の髪飾りと鞄を買い付けしてもらった商人と全く連絡が付きません。
……実は、品物代金を支払った後に一度連絡したのですが、その時も連絡が取れなくなっておりました……」
伯爵は改めてルイーゼから学園で言われた事を聞き、執事を責める。
「何故、あの商人と連絡が付かなくなった事を言わなかったんだ!」
「申し訳ごさいません! ちょうど旦那様方が揃って王都に行かれる時期でして、王都に着いたら、取り引き商人も王都で新たにするつもりだと旦那様から伺っておりましたので……」
伯爵は執事に王都に着いたら、もっと王都に詳しい商人と取り引きするつもりであることを伝えていたのを思い出す。
ルイーゼの品物が届いた時期と、王都に向かった時期はほぼ一緒。
執事が前の商人に連絡する事もほぼなかった時期だ。
一度連絡が付かなかったとしても、さして気にしなかったのだろう。
「まさかあの商人が模倣品を持ってくるとは……。王都に行く事を知っていたから、我々が準備などで慌ただしい時を狙っての犯行なのだろう。
憲兵にこの事を知らせて、秘密裏にあの商人を指名手配させろ。
貴族を騙した罪はキチンと償って貰わなければならないからな」
ルードグラセフ伯爵にそう命じられ、慌てて執事は手配しに行く。
その様子を見ていたルイーゼは、父に叫んだ。
「お父様! 私が学園でバカにされたのよ! こんな模倣品を野放しにしているあの商会にも文句を言って、正規の品物を受け取らないと気が収まらないわ!」
そんなルイーゼの叫びに、伯爵は頭が痛いという風に眉間を揉み始めた。
「ルイーゼ、あの商会の店の中でそんな事を言うと、我々が騙されたと世間に公表するようなものだ。
あの商会に直接非はない。言うだけ無駄だ」
「もう学園のクラスメイトはみんな気付いているから、同じ事よ!
いいわ! だったら今から本物を買って!
でないと恥ずかしくて、もう学園に行けないわ!」
ルイーゼは悔しくて泣きながら父にそう訴える。
「あなた……。ルイーゼが可哀想ですわ。学園でイジメにでもあったらと思うと、わたくしも心配ですもの。
もともと入園祝いにと購入を決めたものですし、ちゃんと正規の物を買ってあげては?
類似品については、あの商人を見つければ支払ったお金も取り戻せるかも知れませんし……」
娘の泣き続ける姿を見ながら、ナタリーは伯爵にそう告げる。
伯爵もそんな二人を見て、ため息を零すと、別の執事に聞いた。
「あの通販雑誌の商会は、何処の商会だった?」
「シークレット商会でございます」
「秘密の商会か……。
今からその商会に行く。
店にも普通に商品が取り扱っているのだろう?」
「そのようでございます。特別な物は通販雑誌なる物を見て、予約してからでしか手に入らない物もあるそうですが」
「ならいい。
ナタリー、ルイーゼ。その店に行くぞ。
ルードグラセフ伯爵家の娘がバカにされたままとあっては、伯爵家の沽券に関わるからな」
父の言葉を聞いて、泣き続けていたルイーゼが、嬉しそうに顔を上げる。
「ホント!? お父様、大好き!」
「ルイーゼ、良かったわね。
あなた、わたくしも何か見繕ってもよろしいかしら?」
娘に声をかけたナタリーが、伯爵にそう問うた。
「ああ。ルードグラセフ伯爵家は魔鉱石で名を馳せている由緒ある家だ。
お前もその伯爵夫人なのだから、社交界で馬鹿にされないよう、何点か持っておいた方が良さそうだからな」
「お母様! 良かったわね!
さぁ、早くその秘密の商会に向かいましょう!」
ルイーゼはさっきまで泣いていたのが嘘だったかのように、溌剌として元気にそう叫んだ。
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