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王立学園編~後編
35.魔法大会①
しおりを挟む今日は毎年恒例の王立学園の魔法大会だ。
毎年、腕に自信のある者がエントリーして優勝を競う。
優勝者は毎年違っていたが、ここ3年程は第1王子を始め、側近のマイクやレスター、オリバーなどが上位を占めていた。
アリアも大会に参加し、聖属性と火属性の合わせ技を披露することで、殊勲賞を貰っていた。
私やグレイは、いつも婚約者のマイクを応援するセリーヌに付き合って一緒に見学をするだけだった。
しかし、今年は違う。
グレイと話し合い、力を見せつける手始めとして、もうすぐ始まる魔法大会に参加しようということに決めた。
いくら魔力が高く、多くの属性魔法が使えても、いきなりの戦いは不利だという事で、その日に向けて急遽、グレイに指導してもらいながら、戦闘訓練を行なった。
付け焼き刃だが、そこは何とか魔力の高さでカバー出来るだろうとの判断で、魔法大会の募集がかかった時点ですぐにエントリーした。
セリーヌには驚かれたが、婚約者候補を逃れるための作戦の1つだと説明した。
ごめんね、セリーヌ。
まだ本当の事を話せなくて。
あとでちゃんと説明するから、出来れば友達のままでいてね。
そう心の中でセリーヌに謝り、そして本日を迎える。
魔法大会は、基本、魔法だけで戦い、武器の使用は不可だった。
しかし、実践では剣にそれぞれの魔法を纏わせて使う方法もあり、近年では魔法と武器との合わせ技が定番化され始めた為、今年から武器の持ち込みがOKとなった。
これによって、騎士を目指している者の参加率が増した。
何時にない参加者の多さに、学園側は対応に追われ、急遽シールドを増設して、闘技場も増やしたそうだ。
AからEまでの闘技場に別れ、それぞれトーナメント式で競い合う。各闘技場で上位2名が残ったら、合わせて上位10名のトーナメント戦を特設闘技場で行なうと説明された。
私はEの闘技場に振り分けられていた。
「エマ! 怪我しないで下さいね! エマなら怪我も自分で治せるでしょうが、それでも不安ですもの」
「頑張れよ。お前の力を見せてやれ」
「まぁ、グレイ様! エマはか弱い令嬢なのですよ? あまり焚き付けないで下さいまし!」
グレイとセリーヌが私の応援に来てくれているが、セリーヌは心配のあまり、グレイに当たっている。
その様子に緊張が解け、クスッと笑ってしまった。
「ありがとう、セリーヌ、グレイ。怪我しない程度に頑張るわ」
そう言って、開会式に向かう。
会場では、既に多くの参加者が集まっていた。
「おいおい、場違いな選手がいるぞ」
「あの令嬢、聖属性だろ? 戦いには不向きなんじゃないのか?」
「第1王子の外れのほうの婚約者候補だろ? 王子に相手にされなくて、とうとうおかしくなったか?」
「いや、逆に目立って王子に振り向いてもらう作戦かもよ」
「神聖な戦いの場を穢すような目的で参加して欲しくないな」
「どうせ、すぐに泣いて逃げ帰るのがオチさ」
私を見て、参加者の生徒たちが好き勝手にコソコソと言っている。
少数だが女性の参加者もいる。
そういった女性は、常日頃から攻撃魔法に特化した訓練を受けている人達か、騎士科で女性騎士を目指す人達だ。
ただでさえこの大会は女性に不利であり、普段から女性騎士などは軽視されているため、その女性参加者も私のような、普段から戦いに身を置いていない普通の令嬢が参加している事に不満に思っているのだろう。
その証拠に、さっきからこちらを見て睨んでいるのが嫌でも目に入る。
聖属性は戦いに不向きであり、まして騎士科でもない、ただの何の取り柄もない令嬢が、こんな大会に参加するだなんて、遊び感覚の酔狂だと思われても仕方ない。
私は、何を言われても知らん顔で前を向いていた。
開会式にて、学園長や大会の審査員などの激励の挨拶を終えた後、参加者の代表として第1王子が壇上に上がり、挨拶をする。
「今年は何時にない多くの参加者が集う事となった。
中には、冷やかしにしか思えない参加者もいるようで残念だ。
しかし、この伝統ある魔法大会の名を穢す事のないよう、我々はこの王立学園の生徒としての誇りを持って、正々堂々と戦いに臨むことをここに宣言する」
第1王子は“冷やかしにしか思えない参加者”の所で、私を見て睨んでいたが、全くの無視を決め込んだ。
冷やかしかどうかは、今後の戦いの進み具合で分かるだろう。
開会式が終わると、それぞれ振り分けられた闘技場に案内される。
大会の見学者は、それぞれ見たい闘技場への移動が自由だ。
当然、人気のある上位者のところに見学者は集まっており、このE闘技場には、上位者である王子や、その側近達は振り分けられていない為、見学者は少なかった。
E闘技場でのトーナメントで、私が出るのは二戦目だ。
まずは第一戦目の戦いを見学する。
一戦目の選手は、騎士科で火属性の2年生と、魔法科で風属性の3年生との戦いだ。
この大会は学年別ではなく、一律に戦いが振り分けられているから、どうしても下級生は不利になってしまう。
その中で3年前より上位者を占めている第1王子やその側近達は、流石と言えるのだろう。
騎士科の選手が持ち込んだ剣に火属性の魔法を纏わせ、戦いに挑む。
それを風属性が上手く風を利用しながら避け、かまいたち現象のような、ウィンドカッターの魔法で対抗する。
しかし、騎士科の生徒は風を追い風のように上手く利用して、炎の勢いを上げながら剣で攻撃した。
これにより、騎士科の生徒がまず第一戦を勝利したようだ。
やはり日頃から戦いの訓練をしているもの達はレベルが高い。
次は私の番だ。
名前が呼ばれると、私は大きく深呼吸をしてから闘技場の中に入る。
私の対戦相手は、最上級生の土属性魔法を使う男子生徒だ。
戦いの合図である笛がなる。
すぐさま対戦相手の男子生徒が魔法を使った。
「ゴーレム!」
その叫びと共に、予め作ってあった泥人形を場内に放ち、詠唱にて巨大なゴーレムが出来上がった。
その大きさは3メートルはあるだろうか。
この大きさのゴーレムを瞬時に作れるこの男子生徒は、なかなか凄い魔法の使い手である事が分かる。
「ゴーレム! 踏み潰せ!」
その男子生徒の号令で、ゴーレムは私を踏みつけようと大きな足を持ち上げる。
令嬢を踏み潰せですって?
これは最初から遠慮なく戦わないといけないわね。
私はアイテムボックスから槍を取り出し、光魔法を纏わせてゴーレムの足を貫いた。
ゴーレムが傾いた隙に、更にゴーレムの額に刻まれている“emeth”の文字の“e”の文字を槍で貫いて消す。
“meth”の文字は“死”を表す。
“meth”の文字だけになったゴーレムは、すぐに崩れだし、砂に戻った。
「なっ!?」
驚いている男子生徒にも隙を与えず、今度は聖属性魔法で、縦横に黄金に輝く線を放ち、十字架に縛りつけるように、男子生徒を線上に張り付けた。
一瞬の出来事に、見学者や審判は、声一つ挙げずに呆然と見ている。
私が審判に向けて咳払いをすると、審判はハッとして、現状を確認する。
男子生徒は戦闘不可と見なされ、私に勝利宣言が上がった。
「勝者、エマ・ベルイヤ!」
私の勝利宣言を聞いた見学者達の歓声が、会場中を轟かせた。
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