王様と鍵 ~最弱Dom王子、寝取られがちSubに求愛中♡

切羽未依

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最終章 王立図書館最下層

ごあいさつ

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 養父は、第三王子の前にひざまずいた。シャツの肩から、ひとつに三つ編みに編んだ菫色にも見える銀髪が垂れ落ち、漆黒の首輪を嵌めたうなじが露わになる。漆黒の首輪から下がる鎖の先には、古めかしい鍵が付いている。


 王国の第三王子に対する最敬礼であることは、わかっているが、まるでDomオクト命令コマンドに跪くSubのようで、ディセは胸の奥、じりじりと、嫉妬のようなものを感じてしまう。

「ディセさんのパートナーになりましたオクトですっ」
 オクトは頭を下げた。養父は立ち上がると、頭を下げたままのオクトの肩に手を置いた。

 オクトがかき消えた。

「お養父とうさんっ!!」
 ディセは慌てる。養父の空間移動魔術は、世界の果てまでオクトをブッ飛ばすことなど、容易たやすかった。

 いつも、きちんとシャツの第一ボタンまで留めていた養子やしないごが、だらしなく第一ボタンを外して、見せびらかしている白銀の首輪を、キッと養父は、自分自身がシャツの第二ボタンまで外して、漆黒の首輪のみならず、首輪に付いた鎖の先に、最凶の魔導書を封じた王立図書館最下層の鍵をぶら下げて見せていることは、さておいて、色のない水晶のような瞳で睨んだ。
「第一王子ならまだしも、出涸でがらしの第三王子のパートナーにするために、お養父とうさんは、あなたを拾って、育てたんじゃないですよ…」
 よよよと、両手で顔を覆って、ウソ泣きをする養父。
「出涸らし…」

 魔力が強く、優秀な魔術師である兄や姉と比べて、魔力の弱いオクトを茶を煮出した後のかす出涸でがらし」に、たとえるとは、不敬すぎる…

「オクトは」
 言いかけたディセは、ひゅっと息を飲んだ。ディセの前に手が、腕が現れ、体に絡み付く。
「ひどいな!ディセのお養父さん!すっげー真っ暗で何にもない所に飛ばされた!」
 ディセを背中から抱き締めて、オクトが現れる。魔力が弱すぎるせいで、空間移動魔術で、少しずつ、少しずつしか、現れることができないのだ。

 養父は顔を覆っていた両手を下ろし、色のない水晶のような瞳を見開く。
「よく戻って来られましたね……」
「どこに飛ばしたんですかっ?!」
「うちの子から離れなさい」
「離れたら、また俺を、どっかに飛ばすだろ」
「…予想外に頭がいいですね」
「お養父さん、俺の話を聞いて下さい」
「ヤ~ダ~。出涸らしのどこがいいのか、聞かされたって、お養父さん、許しませんっ」

 ぷんっと両頬をふくらませて、そっぽを向いて、養父はかき消えた。

 ディセの背中をオクトは滑り落ちると、ふはーーーーっと、両膝に手をついて、全身がしぼんでしまうような大きな深いため息をついた。膝に手をついたまま、ディセを見上げる。
「一番初めにディセのお養父さんに言うの、順番、まちがってない?一番いっちばん、大変だよ…」
「他から知ったら、ものす~ごいねるから、会ってもくれなくなるよ」
「一番に言っても、ものすんご~~~~~っい!拗ねて、どっか行っちゃったよ」
「俺たちがパートナーになったということは、伝えられたから、良しとしよう」
「そういうもん?」
「そういうことにしておこう…――座んなよ」

 ディセは、疲れ果てているオクトに椅子を引いた。
「ありがと」
 そう言ってオクトは椅子に座り込み、部屋を見回す。ディセの養父の住む官舎かんしゃの部屋は、生活に必要な物しか置かれていなくて、ディセが今、住んでいるアパートの部屋と、雰囲気が同じだった。
 ディセは王都に来て、高等科から寮に入ったので、この官舎には飛び級する前の中等科1年生の時、1年間しか住んでいない。それでも、養父と暮らしていた風景の中に、オクトがいるのは、不思議な感じがした。

 テーブルには、果物を包んだ一口ひとくちパイが盛られたお皿が置かれている。ディセが好きなお菓子を作って、養父は待っていたのだ。
 ディセがお茶を淹れようとすると、ポットにお湯もいていた。

 一口ひとくちパイを食べる時、全部、裏返しにして、包んでいる果物が見えないようにして、当てるのが、養父との遊びだった。当てたら、食べられる。外れたら、相手の物。
 いつも養父は、最初の何個かは当てて、その後は、わざと外した。外す時も、適当に言うのではなく、外した。
「お養父とうさん、わざと外したから、いらない!」
 養父のズルに気付いて、ねる幼いディセの口元に付いたパイのかけらを、さらさらと養父は指先で払う。
「お養父さんには何でも、見えちゃうんだよ~」
「何で?」
「透視魔術でね。ディセも、やってみる?」
「やる!」


 そんなことを思い出しながらディセは、お茶を淹れ、ティーカップをオクトの前に置くと、見上げて聞かれた。
「俺がいない時、お養父さんと、お茶の話してた?」
「え?」
「ん?『出涸でがらし』って、お茶のことじゃなくて?」
 出涸らし王子の灰青色の瞳に、きょとんと見つめられて、ディセは吹き出し、笑いが止まらなかった。


 ディセが思い出話をして、オクトが「俺もやりたい!」と言い出して、一口ひとくちパイを全部、裏返し、中身当てをして食べる。
 当てられないオクトのために、ディセはのに、わざと外した。
「ディセ、外れた~。俺の物!」
 オクトは一口パイを口に放り込んで、笑顔で頬張る。

 お養父さんも、俺を見て、こんなしあわせな気持ちだったのかな…

「りんご!いちご!いちじく!りんご!ぶどう!」
 どこからか戻って来た養父が、残りの一口パイを指差し、中身を当て始めて、思い出も、しあわせな気持ちも、ディセはブチ壊しにされた。

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