23 / 34
最終章 王立図書館最下層
ごあいさつ
しおりを挟む
養父は、第三王子の前に跪いた。シャツの肩から、ひとつに三つ編みに編んだ菫色にも見える銀髪が垂れ落ち、漆黒の首輪を嵌めたうなじが露わになる。漆黒の首輪から下がる鎖の先には、古めかしい鍵が付いている。
王国の第三王子に対する最敬礼であることは、わかっているが、まるでDomの命令に跪くSubのようで、ディセは胸の奥、じりじりと、嫉妬のようなものを感じてしまう。
「ディセさんのパートナーになりましたオクトですっ」
オクトは頭を下げた。養父は立ち上がると、頭を下げたままのオクトの肩に手を置いた。
オクトがかき消えた。
「お養父さんっ!!」
ディセは慌てる。養父の空間移動魔術は、世界の果てまでオクトをブッ飛ばすことなど、容易かった。
いつも、きちんとシャツの第一ボタンまで留めていた養子が、だらしなく第一ボタンを外して、見せびらかしている白銀の首輪を、キッと養父は、自分自身がシャツの第二ボタンまで外して、漆黒の首輪のみならず、首輪に付いた鎖の先に、最凶の魔導書を封じた王立図書館最下層の鍵をぶら下げて見せていることは、さておいて、色のない水晶のような瞳で睨んだ。
「第一王子ならまだしも、出涸らしの第三王子のパートナーにするために、お養父さんは、あなたを拾って、育てたんじゃないですよ…」
よよよと、両手で顔を覆って、ウソ泣きをする養父。
「出涸らし…」
魔力が強く、優秀な魔術師である兄や姉と比べて、魔力の弱いオクトを茶を煮出した後の滓「出涸らし」に、たとえるとは、不敬すぎる…
「オクトは」
言いかけたディセは、ひゅっと息を飲んだ。ディセの前に手が、腕が現れ、体に絡み付く。
「ひどいな!ディセのお養父さん!すっげー真っ暗で何にもない所に飛ばされた!」
ディセを背中から抱き締めて、オクトが現れる。魔力が弱すぎるせいで、空間移動魔術で、少しずつ、少しずつしか、現れることができないのだ。
養父は顔を覆っていた両手を下ろし、色のない水晶のような瞳を見開く。
「よく戻って来られましたね……」
「どこに飛ばしたんですかっ?!」
「うちの子から離れなさい」
「離れたら、また俺を、どっかに飛ばすだろ」
「…予想外に頭がいいですね」
「お養父さん、俺の話を聞いて下さい」
「ヤ~ダ~。出涸らしのどこがいいのか、聞かされたって、お養父さん、許しませんっ」
ぷんっと両頬をふくらませて、そっぽを向いて、養父はかき消えた。
ディセの背中をオクトは滑り落ちると、ふはーーーーっと、両膝に手をついて、全身がしぼんでしまうような大きな深いため息をついた。膝に手をついたまま、ディセを見上げる。
「一番初めにディセのお養父さんに言うの、順番、まちがってない?一番、大変だよ…」
「他から知ったら、ものす~ごい拗ねるから、会ってもくれなくなるよ」
「一番に言っても、ものすんご~~~~~っい!拗ねて、どっか行っちゃったよ」
「俺たちがパートナーになったということは、伝えられたから、良しとしよう」
「そういうもん?」
「そういうことにしておこう…――座んなよ」
ディセは、疲れ果てているオクトに椅子を引いた。
「ありがと」
そう言ってオクトは椅子に座り込み、部屋を見回す。ディセの養父の住む官舎の部屋は、生活に必要な物しか置かれていなくて、ディセが今、住んでいるアパートの部屋と、雰囲気が同じだった。
ディセは王都に来て、高等科から寮に入ったので、この官舎には飛び級する前の中等科1年生の時、1年間しか住んでいない。それでも、養父と暮らしていた風景の中に、オクトがいるのは、不思議な感じがした。
テーブルには、果物を包んだ一口パイが盛られたお皿が置かれている。ディセが好きなお菓子を作って、養父は待っていたのだ。
ディセがお茶を淹れようとすると、ポットにお湯も沸いていた。
一口パイを食べる時、全部、裏返しにして、包んでいる果物が見えないようにして、当てるのが、養父との遊びだった。当てたら、食べられる。外れたら、相手の物。
いつも養父は、最初の何個かは当てて、その後は、わざと外した。外す時も、適当に言うのではなく、確実に外した。
「お養父さん、わざと外したから、いらない!」
養父のズルに気付いて、拗ねる幼いディセの口元に付いたパイのかけらを、さらさらと養父は指先で払う。
「お養父さんには何でも、見えちゃうんだよ~」
「何で?」
「透視魔術でね。ディセも、やってみる?」
「やる!」
そんなことを思い出しながらディセは、お茶を淹れ、ティーカップをオクトの前に置くと、見上げて聞かれた。
「俺がいない時、お養父さんと、お茶の話してた?」
「え?」
「ん?『出涸らし』って、お茶のことじゃなくて?」
出涸らし王子の灰青色の瞳に、きょとんと見つめられて、ディセは吹き出し、笑いが止まらなかった。
ディセが思い出話をして、オクトが「俺もやりたい!」と言い出して、一口パイを全部、裏返し、中身当てをして食べる。
当てられないオクトのために、ディセは視えているのに、わざと外した。
「ディセ、外れた~。俺の物!」
オクトは一口パイを口に放り込んで、笑顔で頬張る。
お養父さんも、俺を見て、こんなしあわせな気持ちだったのかな…
「りんご!いちご!いちじく!りんご!ぶどう!」
どこからか戻って来た養父が、残りの一口パイを指差し、中身を当て始めて、思い出も、しあわせな気持ちも、ディセはブチ壊しにされた。
王国の第三王子に対する最敬礼であることは、わかっているが、まるでDomの命令に跪くSubのようで、ディセは胸の奥、じりじりと、嫉妬のようなものを感じてしまう。
「ディセさんのパートナーになりましたオクトですっ」
オクトは頭を下げた。養父は立ち上がると、頭を下げたままのオクトの肩に手を置いた。
オクトがかき消えた。
「お養父さんっ!!」
ディセは慌てる。養父の空間移動魔術は、世界の果てまでオクトをブッ飛ばすことなど、容易かった。
いつも、きちんとシャツの第一ボタンまで留めていた養子が、だらしなく第一ボタンを外して、見せびらかしている白銀の首輪を、キッと養父は、自分自身がシャツの第二ボタンまで外して、漆黒の首輪のみならず、首輪に付いた鎖の先に、最凶の魔導書を封じた王立図書館最下層の鍵をぶら下げて見せていることは、さておいて、色のない水晶のような瞳で睨んだ。
「第一王子ならまだしも、出涸らしの第三王子のパートナーにするために、お養父さんは、あなたを拾って、育てたんじゃないですよ…」
よよよと、両手で顔を覆って、ウソ泣きをする養父。
「出涸らし…」
魔力が強く、優秀な魔術師である兄や姉と比べて、魔力の弱いオクトを茶を煮出した後の滓「出涸らし」に、たとえるとは、不敬すぎる…
「オクトは」
言いかけたディセは、ひゅっと息を飲んだ。ディセの前に手が、腕が現れ、体に絡み付く。
「ひどいな!ディセのお養父さん!すっげー真っ暗で何にもない所に飛ばされた!」
ディセを背中から抱き締めて、オクトが現れる。魔力が弱すぎるせいで、空間移動魔術で、少しずつ、少しずつしか、現れることができないのだ。
養父は顔を覆っていた両手を下ろし、色のない水晶のような瞳を見開く。
「よく戻って来られましたね……」
「どこに飛ばしたんですかっ?!」
「うちの子から離れなさい」
「離れたら、また俺を、どっかに飛ばすだろ」
「…予想外に頭がいいですね」
「お養父さん、俺の話を聞いて下さい」
「ヤ~ダ~。出涸らしのどこがいいのか、聞かされたって、お養父さん、許しませんっ」
ぷんっと両頬をふくらませて、そっぽを向いて、養父はかき消えた。
ディセの背中をオクトは滑り落ちると、ふはーーーーっと、両膝に手をついて、全身がしぼんでしまうような大きな深いため息をついた。膝に手をついたまま、ディセを見上げる。
「一番初めにディセのお養父さんに言うの、順番、まちがってない?一番、大変だよ…」
「他から知ったら、ものす~ごい拗ねるから、会ってもくれなくなるよ」
「一番に言っても、ものすんご~~~~~っい!拗ねて、どっか行っちゃったよ」
「俺たちがパートナーになったということは、伝えられたから、良しとしよう」
「そういうもん?」
「そういうことにしておこう…――座んなよ」
ディセは、疲れ果てているオクトに椅子を引いた。
「ありがと」
そう言ってオクトは椅子に座り込み、部屋を見回す。ディセの養父の住む官舎の部屋は、生活に必要な物しか置かれていなくて、ディセが今、住んでいるアパートの部屋と、雰囲気が同じだった。
ディセは王都に来て、高等科から寮に入ったので、この官舎には飛び級する前の中等科1年生の時、1年間しか住んでいない。それでも、養父と暮らしていた風景の中に、オクトがいるのは、不思議な感じがした。
テーブルには、果物を包んだ一口パイが盛られたお皿が置かれている。ディセが好きなお菓子を作って、養父は待っていたのだ。
ディセがお茶を淹れようとすると、ポットにお湯も沸いていた。
一口パイを食べる時、全部、裏返しにして、包んでいる果物が見えないようにして、当てるのが、養父との遊びだった。当てたら、食べられる。外れたら、相手の物。
いつも養父は、最初の何個かは当てて、その後は、わざと外した。外す時も、適当に言うのではなく、確実に外した。
「お養父さん、わざと外したから、いらない!」
養父のズルに気付いて、拗ねる幼いディセの口元に付いたパイのかけらを、さらさらと養父は指先で払う。
「お養父さんには何でも、見えちゃうんだよ~」
「何で?」
「透視魔術でね。ディセも、やってみる?」
「やる!」
そんなことを思い出しながらディセは、お茶を淹れ、ティーカップをオクトの前に置くと、見上げて聞かれた。
「俺がいない時、お養父さんと、お茶の話してた?」
「え?」
「ん?『出涸らし』って、お茶のことじゃなくて?」
出涸らし王子の灰青色の瞳に、きょとんと見つめられて、ディセは吹き出し、笑いが止まらなかった。
ディセが思い出話をして、オクトが「俺もやりたい!」と言い出して、一口パイを全部、裏返し、中身当てをして食べる。
当てられないオクトのために、ディセは視えているのに、わざと外した。
「ディセ、外れた~。俺の物!」
オクトは一口パイを口に放り込んで、笑顔で頬張る。
お養父さんも、俺を見て、こんなしあわせな気持ちだったのかな…
「りんご!いちご!いちじく!りんご!ぶどう!」
どこからか戻って来た養父が、残りの一口パイを指差し、中身を当て始めて、思い出も、しあわせな気持ちも、ディセはブチ壊しにされた。
0
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。
猫宮乾
BL
【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる