天使のトリセツ

切羽未依

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目覚めのキス

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「寝顔は天使」って、よく言うけど、マジリアル天使の寝顔を見ながら、俺は洗濯物をたたんだ。起こしちゃわないように、NHKのサッカー中継は消した。
 パジャマと下着だけをカゴに戻して、あとはクローゼットに、しまう。

 戻って、座って、つっても、極狭ごくせまアパートなんで、クローゼットから3歩の距離です。

 天使様の寝顔を見つめて、ふと、俺は思った。


――これ、ちゅーしないと、目覚めないアレか?!


 いや、でも、「王子様のキスは、不同意わいせつ罪」って解説されちゃうような、時は今、令和時代。
 保健体育の先生になるために勉強している大学生が、性的同意をガン無視するわけにはいかねえ。

 と思って、そっとしておいて、テレビを、音を小さくして、チャンネル、あちこち、変える。お。Bリーグ中継、始まったばっか。見る。

「わ。あの角度から、スリー、はいんの?すっげー」
(K)カッケースリーポイントシュートに、思わず声が出てしまった。


「何者だ?」
 思ったより、声、低いな。と思いながら、俺は、「それ、俺のセリフ!!」と、心の中でツッコミして、ベッドの方を振り返った。

 寝たままで天使様が、悪魔を見るような瞳で、俺を見てた。


 こーゆー時に、万能なワードを、俺は思い出した。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。あなた、空から、落ちて来たんです」
「何だと?!」
 天使様は起き上がり、ベッドの横の壁に背中、つーか、羽を押し当てて、明らかに俺から逃げようとしてます。
 反射的に俺は、両手を上げて、何にもしませんポーズ。


 天使様は、怯えた瞳で、きょろきょろして、窓の外、空を見上げる。


 帰っちゃうのか。帰るよね。


 俺が立ち上がると、天使様が、びくっと、ちいさな体を震わせた。そんなに俺、恐ろしい外見そとみじゃないと思うけど。ちょっと傷付く。

 俺は窓を開けると、ベッドとテーブルの間じゃなく、テレビとテーブルの間を通って、部屋の隅まで離れた。


 天使様はベッドから下りて、裸足で、窓からベランダに出た。


 真っ白な羽が、大きく開いた。マジで!めっちゃ!!キレイ!!
 窓ふたつ分を覆い尽くすほどの大きさ。光を放ってるみたいな真っ白。

 その羽が、真っ白な花がしぼんじゃったみたいに、閉じた。
 天使様が振り返った。今にも泣き出しそうに、きらきら潤んだ瞳で、俺を見る。

「帰れない……」
「えっ?!どっか、ケガしてる?!」
 俺は部屋の隅から、窓まで駆け寄った。

「どこにも…雲がない……」
 天使様が潤んだ瞳で見上げる空は、いつの間にか、雲ひとつなくなって、青く晴れていた。

「やっぱ天国って、雲の上にあるんだ…」
 俺も空を見上げて、思わず言ってた。

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