天使のトリセツ

切羽未依

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テレビという物

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 お皿を洗うと、マグカップにカルピスをレンチンで、あっためて、天使様に持って行った。
 天使様は、受け取って、一口、飲んだ。もう一口、飲んだ。よしよし。

 俺は残りのカルピスをペットボトルで持って来る。

 あ。大河ドラマの時間になる。俺はテレビをつける。
 いつもなら、ニュース見ながら、メシ食って、動物番組の間に、オフロ入って、大河ドラマ、見るんだけど、今日は、天使様に、天気予報を見せたくなくて、テレビを消してた。
 ふっと、天使様の方を見たら、テレビを振り返って見てた。

「天使様、テレビ、見たこと、ない?」
「『テレビ』という物は知っている」
 テレビという物を知ってても、テレビを見たことはないっぽい答えだな。なので、俺は説明してア・ゲ・ル。

「これはね、大河ドラマといって、江戸時代の、――江戸時代って、わかる?」
 俺が聞くと、天使様の瞳が悲しみに沈んだ、ように見えた。

「その前の戦争には、夢中だったな」
「あ~、戦国時代ね。それは来年、やるよ」
 言いながら俺は、疑問に思う。「戦国時代に夢中だった」って、悲しい瞳をして、言うこと?

 でも、とにかく俺は、天使様の瞳を空じゃなく、こっちに向けたくて、説明を続ける。
「今年は、その後の江戸時代の、本を出してる人の話。花魁おいらんの、この子が、すっごい演技、上手くて、」
「あのままでいる人間もいるのだな」
「あのまま?え?うん?あ。ううん。これ、ドラマ。」
 そうか!『ドラマ』から説明しなきゃだった。

 俺が一生懸命、『ドラマという物』について説明してると、いつの間にか、天使様は、顔だけじゃなく、体も、こっち向いてた。

 カルピス飲みながら、大河ドラマをいっしょに見た。ニュースが始まると、慌てて俺は、チャンネルを変えた。
 天気予報を見せて、天使様を悲しませたくなかった。
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