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秘密
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でも、母親に、宇宙の存在を知られたことで、家は出やすくなった。
「わたしも早く、大学生になって、友達と、土曜日、遊びたい…」
家を出る時には、土曜日も日曜日も予備校に通う、受験生の妹には、暗い声で言われた。
父親は、何も言わず、新聞を読んでいた。
待ち合わせは、宇宙がバイトしているコンビニの前だった。
「学童も休まないで、歌とピアノの練習もできる、いい場所、見付けた!」
昨日、宇宙に大声で言われたけれど、どこなのかは、教えてくれなかった。
笙悧が、マンションのエントランスを出ると、横断歩道の向こう、コンビニの前に、子どもたちが群がっているのが、見えた。
群がられてるのは、リュックを前持ちした宇宙だった。
あの子たち、学童の子どもじゃないのか?連れ出して、ぽぽんたへ行くなんて、だいじょうぶなのか?
笙悧は、心配になる。
休日の、まだ朝早い時間、横断歩道で、信号待ちをする人は、まばらだ。
信号が青に変わり、笙悧は、横断歩道を渡る。足は、自然と速歩きになっていた。
「おはよう」
笙悧があいさつをすると、
「おはようございます」
「おはようございます」
あいさつを返してくれた子が二人、不審人物を見る眼差しの子が多数、宇宙の後ろに隠れる子もいる。
どう見ても、小1、2だった。8人もいる。いや、9人。宇宙の背中に、よじ登っている子が、肩から顔を出した。
「おはよ、痛て。髪、引っ張るなって。」
あいさつの途中で、宇宙は、背中によじ登っている子に、後ろで結んだ伸びた後ろ髪を引っ張られて、声を上げる。
宇宙は、しゃがみ込むと、よじ登っていた子を下ろして、立ち上がった。
「おはよう、笙悧」
「おはよう」
笙悧は、下ろした子に、また足からよじ登られてるよ…と思いながら、あいさつを返した。
「ほら、みんなも、あいさつ。」
「おはようございます?」
宇宙に言われて、子どもたちから、ばらばら、「この人、誰?」という警戒感たっぷりのあいさつが返って来る。
「おはようございます。手塚笙悧です。宇宙さんの友達です」
笙悧は、あいさつして、自己紹介した。
少しも、子どもたちの警戒感は弱まらない…
「かぜ、ひいてるの?かぜ、ひいてたら、がくどう、来ちゃダメなんだよ」
子どもが見上げて、マスクを着けている笙悧に向かって言った。
笙悧は答えた。
「風邪じゃないよ。これは予防。」
αのフェロモンの嫌な臭いを嗅がないための。
「よーし、2列になって。行くよ~」
宇宙が声をかける。
子どもたちは、宇宙を最後尾にして、ちっとも揃っていない2列で並ぶ。
「ぽぽんたに行くの?」
「まさか。児童館だよ。あ、言っちった」
笙悧に聞かれて、宇宙は、行き先を秘密にしていたのに、答えてしまって、悔しい表情をする。
「驚かせようと思ってたのに~」
宇宙は、自分の腰までよじ登っている子を引き剥がして、下ろした。
「出発進行ぉ~」
宇宙は声をかける。子どもたちは歩き出して、宇宙は、その最後尾を歩く。
宇宙が、先頭を歩くべきじゃない?と、笙悧は思いながら、宇宙の少し後ろを歩き出す。
宇宙は、リュックを前持ちしていて、よく見えていなかったが、今日のジャージのカラーは、赤だ。
「土曜日やってる学童は、北部の児童館しかないからさ、南部の低学年の子たち、まとめて連れてくんだ」
宇宙は言っている途中で、たたたっと、駆け出し、子どもたちの先頭に立ち、大きく両手を広げた。
「はい、ストップ」
横断歩道の前、子どもたちを停める。
「青しんごうになった~」
「青だよ」
「青~」
子どもたちが言う通り、信号は青だった。
宇宙は振り返って信号を見ると、向き直る。
「俺が見た時は、赤だったんだよっ」
子どもたちに本気で言い返すと、2列の真ん中に入って行って、回れ右して、前を向く。
「はい、右、左、右、」
言いながら首を振る宇宙といっしょに、子どもたちも首を振って、安全確認。
「渡るよ~」
横断歩道を、宇宙は、子どもといっしょに手を上げて、渡る。笙悧も、小さく手を上げざるを得ない。
停まってる車のおじさんが、にこにこ、見守っている。
横断歩道を渡り終わると、宇宙は、また最後尾に下がる。
これだけの子どもの動きを見守るのは、最後尾にいた方がいいんだな、と笙悧は、理解した。
子どもが何かやらかそうとしても、宇宙の運動神経なら、すぐに反応できる。
「宇宙」
小声で、笙悧は話しかけた。
「うん?」
宇宙は、決して子どもから目を離さず、返事をする。
「ぼく、行っていいの?学童なんて。」
「だいじょうぶ。店長さんに、話、通してもらってる」
子どもの見守りに忙しい宇宙の集中を邪魔するのはよくないと思って、笙悧は、それ以上、聞かずに、黙って付いて行った。
レンガのような外壁の児童館に着いた。笙悧は、自分が住んでいるマンションの、こんな近くに、児童館があることを知らなかった。
児童館へ入ると、子どもたちは、入口の5台あるタッチパネルに、ポケットやバッグやリュックから出したパスケースをかざして、次々に、入館手続きをして、弾けるように駆け出した。
駆け出した先を笙悧が目で追うと、グランドピアノがあった。
グランドピアノを呆然と見つめている笙悧に、宇宙は、にこにこ、見つめる。
児童館に連れて行くことは、うっかり言っちゃったけど、ちゃんと笙悧を、びっくりさせられたことに、宇宙は大満足だった。
「すっげえ税金のムダづかいだよね。あのピアノ、児童館に置かれてるのに、子どもがいたずらしないようにって、カギ、掛けられてるんだよ」
「わたしも早く、大学生になって、友達と、土曜日、遊びたい…」
家を出る時には、土曜日も日曜日も予備校に通う、受験生の妹には、暗い声で言われた。
父親は、何も言わず、新聞を読んでいた。
待ち合わせは、宇宙がバイトしているコンビニの前だった。
「学童も休まないで、歌とピアノの練習もできる、いい場所、見付けた!」
昨日、宇宙に大声で言われたけれど、どこなのかは、教えてくれなかった。
笙悧が、マンションのエントランスを出ると、横断歩道の向こう、コンビニの前に、子どもたちが群がっているのが、見えた。
群がられてるのは、リュックを前持ちした宇宙だった。
あの子たち、学童の子どもじゃないのか?連れ出して、ぽぽんたへ行くなんて、だいじょうぶなのか?
笙悧は、心配になる。
休日の、まだ朝早い時間、横断歩道で、信号待ちをする人は、まばらだ。
信号が青に変わり、笙悧は、横断歩道を渡る。足は、自然と速歩きになっていた。
「おはよう」
笙悧があいさつをすると、
「おはようございます」
「おはようございます」
あいさつを返してくれた子が二人、不審人物を見る眼差しの子が多数、宇宙の後ろに隠れる子もいる。
どう見ても、小1、2だった。8人もいる。いや、9人。宇宙の背中に、よじ登っている子が、肩から顔を出した。
「おはよ、痛て。髪、引っ張るなって。」
あいさつの途中で、宇宙は、背中によじ登っている子に、後ろで結んだ伸びた後ろ髪を引っ張られて、声を上げる。
宇宙は、しゃがみ込むと、よじ登っていた子を下ろして、立ち上がった。
「おはよう、笙悧」
「おはよう」
笙悧は、下ろした子に、また足からよじ登られてるよ…と思いながら、あいさつを返した。
「ほら、みんなも、あいさつ。」
「おはようございます?」
宇宙に言われて、子どもたちから、ばらばら、「この人、誰?」という警戒感たっぷりのあいさつが返って来る。
「おはようございます。手塚笙悧です。宇宙さんの友達です」
笙悧は、あいさつして、自己紹介した。
少しも、子どもたちの警戒感は弱まらない…
「かぜ、ひいてるの?かぜ、ひいてたら、がくどう、来ちゃダメなんだよ」
子どもが見上げて、マスクを着けている笙悧に向かって言った。
笙悧は答えた。
「風邪じゃないよ。これは予防。」
αのフェロモンの嫌な臭いを嗅がないための。
「よーし、2列になって。行くよ~」
宇宙が声をかける。
子どもたちは、宇宙を最後尾にして、ちっとも揃っていない2列で並ぶ。
「ぽぽんたに行くの?」
「まさか。児童館だよ。あ、言っちった」
笙悧に聞かれて、宇宙は、行き先を秘密にしていたのに、答えてしまって、悔しい表情をする。
「驚かせようと思ってたのに~」
宇宙は、自分の腰までよじ登っている子を引き剥がして、下ろした。
「出発進行ぉ~」
宇宙は声をかける。子どもたちは歩き出して、宇宙は、その最後尾を歩く。
宇宙が、先頭を歩くべきじゃない?と、笙悧は思いながら、宇宙の少し後ろを歩き出す。
宇宙は、リュックを前持ちしていて、よく見えていなかったが、今日のジャージのカラーは、赤だ。
「土曜日やってる学童は、北部の児童館しかないからさ、南部の低学年の子たち、まとめて連れてくんだ」
宇宙は言っている途中で、たたたっと、駆け出し、子どもたちの先頭に立ち、大きく両手を広げた。
「はい、ストップ」
横断歩道の前、子どもたちを停める。
「青しんごうになった~」
「青だよ」
「青~」
子どもたちが言う通り、信号は青だった。
宇宙は振り返って信号を見ると、向き直る。
「俺が見た時は、赤だったんだよっ」
子どもたちに本気で言い返すと、2列の真ん中に入って行って、回れ右して、前を向く。
「はい、右、左、右、」
言いながら首を振る宇宙といっしょに、子どもたちも首を振って、安全確認。
「渡るよ~」
横断歩道を、宇宙は、子どもといっしょに手を上げて、渡る。笙悧も、小さく手を上げざるを得ない。
停まってる車のおじさんが、にこにこ、見守っている。
横断歩道を渡り終わると、宇宙は、また最後尾に下がる。
これだけの子どもの動きを見守るのは、最後尾にいた方がいいんだな、と笙悧は、理解した。
子どもが何かやらかそうとしても、宇宙の運動神経なら、すぐに反応できる。
「宇宙」
小声で、笙悧は話しかけた。
「うん?」
宇宙は、決して子どもから目を離さず、返事をする。
「ぼく、行っていいの?学童なんて。」
「だいじょうぶ。店長さんに、話、通してもらってる」
子どもの見守りに忙しい宇宙の集中を邪魔するのはよくないと思って、笙悧は、それ以上、聞かずに、黙って付いて行った。
レンガのような外壁の児童館に着いた。笙悧は、自分が住んでいるマンションの、こんな近くに、児童館があることを知らなかった。
児童館へ入ると、子どもたちは、入口の5台あるタッチパネルに、ポケットやバッグやリュックから出したパスケースをかざして、次々に、入館手続きをして、弾けるように駆け出した。
駆け出した先を笙悧が目で追うと、グランドピアノがあった。
グランドピアノを呆然と見つめている笙悧に、宇宙は、にこにこ、見つめる。
児童館に連れて行くことは、うっかり言っちゃったけど、ちゃんと笙悧を、びっくりさせられたことに、宇宙は大満足だった。
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