ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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取り合えず押し込めるだけ押し込む

何をどこに片付けるなんてことまで気が回らない。

晶さんがここを出て行こうとしていたことがただただ恐怖で、そのことをなかった事にしてしまおうという思いで胸が一杯だった──


「片付けても無駄だから」

誰かが背後で何か言っている

「荷物なんかなくたって出て行けるから好きにすれば」

「──……」

「……ふ…いいよ、片付ければ。服なんて買えばいいだけだし」

荷物をクローゼットに詰め込む手を止めた俺に、晶さんはたたみかけるように嫌な笑いを浮かべて言った。

「……そんなに…」

「………」

「そんなに水掛けられた事が気に入らなかった?…」

「………」

「晶さんを落ち着かせるためにっ…て、思ってやったことだけどそんなに気に入らなかった?」

「……っ…」

真っ直ぐに顔を向けて問い掛けたら晶さんは少しだけ唇を噛んでいた。

「言いたいことあったら言って? 気に入らないことあったら謝るから…」

「…っ……」

「言ってっ…」

「気に入らないことだらけに決まってるでしょっ…っ」

「だったらっ…」

「………」

「もう……っ…気のすむこと何してもいいからっ……っ…お願いだから出ていくのだけはやめて…っ…」

「………」

「……やくそく…したじゃんっ…」

晶さんに詰め寄りながら口にする。それでも唇を強く結んで抵抗を見せる晶さんを思いきり抱き締めた。



「いいよ…俺が晶さんにしたことやっていいから」

「──…っ…ちょっ…」 
抱き締めた晶さんの手を引いて、キッチンの流しで水を思いきり出していた。

水を貯めたコップを晶さんに握らせて、目の前につむじを向ける。

「いいよ、遠慮いらないから」

「………」

「あ、コップじゃ足りない?そうだよね、仕返しって倍返しが相場だもんね、はは」

軽い笑みを向けて鍋に水を入れながら、俺は晶さんが先に手にしていたコップを無理やり自分の頭にひっくり返していた。

水の滴る顔を上げて尚も笑ってみせる俺を晶さんは冷めた表情で見つめる。

「水…掛けるだけじゃ治まらないって顔だね…」

「………」

今回の晶さんは驚くほどに頑固だ…

「晶さ…」

「夏希ちゃん…」

「………」

「とにかく今日は…」

「………」

「向こうの家に戻るか…」

「だめだよ」

「………」

「だめだって!…」

癇癪を起こしたように大声で怒鳴った。
そんな俺に晶さんは諦めたような溜め息を吐いて背を向けた。

黙ったまま玄関に向かおうとした晶さんの先を行ってドアにチェーンを掛けて前に立ち塞がる。


「出て行く以外なら何やってもいいって言ってるじゃんっ…」

「何やっても今は治まらないから出るって言ってるの!こんなっ…水掛けるだけで治まるわけないでしょっ…」


「──……」


空のコップを握り締めた手を振り上げる。そんな晶さんに思わず息を止めた。
投げ付ける手前で晶さんは怒りを堪えた表情見せる。
明らかに何かを言いたくてしょうがない表情。

ただ、コップを投げられるよりも怖いのは、晶さんが俺から離れていくという現実だった──

「投げれば──…」

「……っ…」


頼むからそれで許して欲しい──


晶さんはわかってない。

この先独りになった俺がどれだけ苦しい思いをするのか──

晶さんに見捨てられた俺がどんなに脆く崩れてしまうか……

必死ですがる姿をこれだけ見せても晶さんはわからない。

これじゃ、出ていかないなんて約束しても何も安心なんてできやしない──


「投げていいよ…それでここを出ていかないなら……っ…俺、いくらでも的になるし…っ…その方が出て行かれるよりよっぽどいいよっ…」

「……っ…」

強気の発言にも関わらず言ってる内容は切なすぎる。

「いいよ…そこにあるもの好きに投げれば…っ」

そう口にした途端に色の付いた粉が目の前で飛び散った──

黄色い色はターメリックだ。

晶さんはキッチンにあった調味料をご丁寧にも蓋を外してぶっかけてくる。

「……ぶ…わっ…ちょっ…」

晶さんの過激な性格上──
硬くて攻撃力の高い瓶類が跳んでくると思い込んだ俺に、思わぬ不意打ちを晶さんは喰らわしてくれていた。


「ちょ…わ、ぷ…っ…」

立て続けに色んな物が舞い上がる。

小麦粉、胡椒、マヨネーズ

棚の調味料だけでは間に合わず、晶さんは冷蔵庫の調味料にまで手を伸ばした。

連続の攻撃に怯み、玄関でヘタリ込んだ俺に向けられた、晶さんの握り締めるケチャップが最後に恥ずかしい音をぶりゅっ…と出しきる。


「……は…はは…」

もしかして終った?

正直、目も開けられない状態だ──

自分が今、どれだけ悲惨な姿をしているか容易に想像できる…

もうこれはコントだ。。。

大きな溜め息を吐いて肩が動く。
精神的にくたびれた俺と、無言で大暴れした晶さんの疲れた息遣いが聞こえてくる。

「なに…もう気が済んだ…?」

「……っ…この程度で済むわけないっ…」

怒りに満ちた答えが震えながら返ってくる。

そうか…
まだ気が済まないんだ…


「……いいよ…気が済むまでやんなよ…好きなだけ…」

「……っ…」

「……やればいいよ…」

もう身を庇うのも疲れた……

ベタつく瞼を拭って片目を開ければ小さな小瓶を握り締める晶さんが見える…

歪んだ表情は今にも泣き崩れそうで

そしてその顔はほんの少し、俺の心を満たしていた……。

俺がいつの日か願ったことがある──

一度でもいい

泣きじゃくりながらも必死になった晶さんを。ボロボロになった晶さんを──

見てみたかった俺の願い。

好きなだけ仕返しすればいい

好きなだけその感情をぶつければいい──


「晶さん…」

「……っ…」

「……晶さんっ…」

「…っ…ひっ…」


小瓶を思いきり振り上げた晶さんを下から見つめた──


「もう…いいよ…」

「…っ……」

「もう…晶さんの方が辛そうだからやめて…」

「……っ…ふっ…」

傍まで来た晶さんの顔が大きく歪んだ──

力尽きてしゃがみ込んだ晶さんをベタベタの身体で抱き締める──


仕返しさせて気を紛らわせれば済むなんて考えた俺のせいで、結局、晶さんに辛い思いをさせてしまった。

どんなに腹が立っても硬い物を投げなかったのは俺のことを考えたわけで…

そして…

こうやって俺の腕の中で静かに泣く晶さんが本気で色々考えていたのは事実で…

今回は真面目に危なかったんだと身に染みた。。。

調味料漬けになった俺の胸に踞る。そんな晶さんの顔を覗くとつい笑みが浮かんだ。

二人してコント顔だ。

涙で溶けた可愛い顔は赤、白、黄色に染まってる。

ただ…騒ぎはこれで一件落着したのだろうか?

顔を泣き崩しながらも微かに俺から目を背ける晶さんに不信を抱き、その手からコロンと転がる瓶に俺は目を剥いた。

「──…っ…ちょ、それも掛ける気だったの!?…」

被ったら大変なことになっていたかもしれない──

オレンジ色したハバネロの瓶を見つめ、これを投げることを躊躇った晶さんに俺は小さく祈っていた。。。
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