ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

文字の大きさ
371 / 403

36章 想い違い

しおりを挟む



「……あー…無理だあー…もうだめだぁ…っ」


泣きたいっ…


「ははっ! なんの嘆きだそれは」

休憩用に準備されたパイプ椅子に身体を預け、虚脱感ありありにぐったりとして喚く。

そんな俺を笑いながら、強面顔の葛西さんが煙草に火を付けた。

「新しい役作りか?」

「…こんなに嘆くってどんな役ですか…」

目尻に溜めた涙目で隣に腰掛けた葛西さんをジロッと睨んだ。

葛西さんは還暦を過ぎたベテラン俳優だ。

Vシネマの名脇役として活躍していたこの人も、最近は表舞台によく顔を出すようになったと思う。

「引きこもりか鬱の役とか?」

「病んでる系の人しか嘆かないって決め付けじゃないですか、それ」

「はは、」

俺の質問に対して丁寧に考えた答えがこれだった。

ただ、今の俺は確かに考え過ぎて鬱に入りそうだ。

昨日の騒ぎから夜が明けた今日──

よりによって、遥々遠方で三日間泊まり込みのロケ。
俺は思う──

この世に神は存在しない。

すがるものさえ見つけられず、休憩の度にメールを送っては晶さんの返信無しを確認して俺は溜め息をついていた。



“行ってくる…”

まだ眠ってた晶さんに撮影で三日留守にすることを伝えてそう声を掛け、無言のままの背中を振り返りながら部屋を出た…


実際ほんとに眠っていたのか、もしかしたら眠ったフリをしていたのか……

怪しんだらキリがない。



そんな晶さんを残して今日はさっそくの地方ロケ。なんてタイミングの悪さだと思いながら恨みをぶつける相手が居ない……


“水曜日に帰るから、お土産楽しみにしてて(*^_^*)”

ご機嫌でも窺うように、当たり障りのないメールを晶さんに送ってみたけど返事はなしのつぶてだ…

思い悩む目の前では役者同士が次のシーンの打ち合わせをしている。

今回は俺も脇役、主役じゃない。

役者やロケスタッフを眺め、黙り込んだ俺に葛西さんは煙草を一吹かしして語り掛けてきた。

「藤沢くん…」

渋い声で“くん”付けだとなんだか哀愁漂う。

「仕事、あったら紹介してくれんかな…」

「………」

口にした内容もこれまた渋すぎる…

前を見たままの葛西さんの横顔を見つめて俺は崩れた姿勢を直した。


「葛西さん、仕事あるじゃないですか?」

「ああ、でも単発ばかりだからな…また次に呼ばれるって確証もない」

「………」

なるほど。最近表に出始めたのはそれが理由か……

葛西さんが全盛期の頃は映画、ドラマ、その一本の値段もすこぶる良かった。でも時代が時代だ──

役者も増えればそれだけ仕事も競争率が上がる。


今は芝居が上手い下手に限らず視聴率の為だけに配役を選ぶことが多くなった。

役が獲れなければ役者は死活問題だ──

「社長と楠木さんにお願いしてみます……葛西さんのキャラならうちのタレントと被ることもないし…」

「ああ、頼むよ。どんな役でもやるから」

「………」

安心した顔を向けて礼を言うと、葛西さんはゆっくりそこから腰を上げた。

“どんな役でもやる”

そう言った葛西さんに対して少し“しまった”と口を接ぐんだ。

長いこと同じような役ばかりだ。だからこそ仕事も決まった役しか回ってこない。

どうせ役者なら──
役者だからこそ、幅広く役を演じたい。そう思う筈だ。

葛西さんのことにしても、晶さんのことにしても俺は墓穴を掘ったかもしれない。

「……っ…はあ」

小さな苛立ちに短い溜め息を吐く俺を、撮影に戻った葛西さんは横目にちらりと見て手を振っていた……。


───

「……はぁ…」


午後を回った喫茶店。

和らぎでナプキンの補充を一通り済ませ、カウンターに戻ったあたしの口から小さな溜め息が漏れた……。
午後の休憩時間。テーブルに顔を伏せたら並んで座っていたマスターが新聞を読みながら声を掛けてきた。

「どうした? 今日は来たときからそんな調子だな?」

「………」

返事をせずにカウンターに頭を付けたままマスターの方を向く。

「声も出せんか」

あたしは首を縦に二回振って頷いた。

鼻で呆れ気味に笑ってまた新聞に目を向ける。そんなマスターをぼんやり眺めながらポケットから携帯電話を取り出した。

画面には着信マークが記されている。
その送り主は誰だか想像できるわけで……

カパッと開き、そして静かに閉じて目を伏せた。

憂鬱だ──

夏希ちゃんが送ってくれた沢山のメールを読んで、そんな感情が湧いてくる。

鬱陶しいとかそんなんじゃなく……

少しだけ…

ううん、たぶん…

あたしの中で、かなり大きな不信感が募り始めている。

撮影後の控え室での一件はあたしにとって、結構大きな出来事になっていた。


あたしのことが大好きな夏希ちゃん

あたしのことが大好きだった筈の夏希ちゃん……


何を言っても離れない別れないの一点張りでしつこいくらいに可愛いストーカーな夏希ちゃんは……

あの日、
あたしよりも舞花を優先した──
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...