ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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「おお、お疲れ。晶もアイス食べるか?」

マスターが労うように声を掛けてくる。

高槻に目をやれば、美味しそうに口を動かしている。

その手元にはマスターがサービスで出したアイスが小さな器に盛られていた。

和らぎ自家製のヨーグルトアイスだ。

カレーを食べた後の口直しにはぴったりの酸味まろやかな爽やかアイス。

確か、ランチのデザートに付いていたはずだけど……

「いやあ、高ちゃんが旨い旨いってあんまりにも言うからな……」

「サービスで出したわけだ……」

あたしの返しにマスターはハハッと笑う。

「旨いよマジで。売ってたら俺、普通に買う」

「晶ちゃんも食べれば?日保ちしないから残したってしょうがないし」

ママもアイスを食べながらそう、すすめてくる。

アイスを入れたタッパーの蓋を開けるとママはスプーンで中身を削りながら高槻の器に追加で盛った。

厨房ではヤカンのお湯がピーピー鳴っている。

「おい、お湯沸いてるぞ」

「あなた止めてきて」

煙草を消しながら言ったマスターにママが速攻で返した。

「お前、そこに居るんだから止めてこいよ」

「あたしアイス持ってるから」

厨房の入り口を塞いで立っていたママはアイスを食べながらそこを離れる。

ん? なんだか雲行きが怪しい。。。

反抗的なママの態度にムッとしたマスターが眉を潜めてママを見る。

ママはそ知らぬ顔でアイスを黙々と口にし続けていた。



マスターは仕方なく厨房にお湯を止めにいく。
戻ってきて直ぐに煙草に火を付けると大きな煙を溜め息と一緒に吐き出した。

「お前は昔と変わったな……」

「うそよ、変わったのはあなたの方よ」

呟いたマスターにママがはっきりと返した。

あれ?
やっぱり雲行きが……

オシドリ夫婦が売りの二人の空気がなんだかやばい。

高槻も何事だと目の前の二人を交互に見比べる。

「いや変わった。昔は俺が何言っても黙って“はい”って小さな声で返事してた……」

懐かしむように遠くを見てマスターは語る。

「うそよ、あたしが何を言ってもうんうん言ってたのはあなたの方よ」

ママは食べる手を止めずに喋ると隣で様子を見守るあたしを肘で小突いた。

「ちょっと晶ちゃん聞いてくれる?」

お、なんだなんだ?

そう構えたあたしに同意を求めるように、ママはマスターを前にして口火を切る。

「この人、昔はこんな上から物を言うような人じゃなかったのよ?」

ママの言い分にマスターは何やら耳が痛そうだ。
苦い表情を微かに覗かせる。

長く夫婦を努めて何やらママも鬱憤が溜まっていたらしい。

昨夜何か揉めたんだろうか?

炸裂するわけでもなく、チクリチクリと皮肉を込めて、ママは今までのマスターの行いに毒を吐きはじめていた。



「ねえ晶ちゃん。この間なんかね、出掛けて帰ってきたと思ったらお前にお土産だ。って、この人ブランドのバッグぶら下げてきたわけ」

「うん、よかったね」

「何がっ!? 良くなんかないわよ」

あれ?同意したつもりなのに噛み付かれちゃった………

安易に返事をしないほうがいいらしい。。。

少しずつ白熱してくるママに、マスターは顔を掻きながら目を游がせる。

「お土産のバッグ買って貰って何がいけなかったの?」

苦笑うあたしの言葉にママは待ってましたとばかりに話し出す。

「あたしの誕生日に何も買ってやらなかったからって買ってきたバッグ。あちゃら産の偽物だったの」

「うん」

「でね、一応あたしも“わあ、ありがとーうれしー!”って言ったわよ。まあ、昔は本物ばかりくれたけどさ、この歳になって誕生日気にかけてくれるだけでも有り難いって思ったの!お小遣い余裕なかったんだなー…結構渡してるつもりだったんだけどなー…って感じながらさ、この人の服を洗濯しようとしたら……」

ママはそこで一呼吸つく。そしてあたしの肩を叩いた。

「あったじゃない」

「なにがあったの?」

「諭吉を七枚折り畳んで煙草のケースに隠してたのこの人!」

「………」

「パチスロで勝ったお金を隠し持ってあたしの誕生日プレゼント値切ったのよコイツ!」

あなたからこの人
この人からコイツへと、マスターの呼び方が段々雑になっていくのはママの怒りが深い証拠だ。



「でね、何に使うんだこのお金はって聞いたわけ」

ママは止まらない。
もう誰にも止められない。

「そしたらなんて言ったと思う?」

続きを催促しろと言わんばかりにママはそう口にする。

「な、なんて言ったの……」

「そしたらね、次のパチスロの軍資金だって!コイツ悪びれもせずに言うのよ?偽物のバッグ渡しとけばあたしが黙って引き下がるって思ったのかしら?でも引き下がったわ」

「そうなの?」

「そうよ!晶ちゃん、こんな時我慢するのって必ず女の方なんだからっ!男なんてホント! 調子いいのは最初だけっ!」

言い切ったママの言葉にあたしも、ピンとアンテナが立った気がした。

「それっ、あたしもそう思う!」

「でしょっ!?」

あたしの思わぬ参戦にマスターはおっ、と目を見開いた。

「都合のいいことばっかりいってころっと変わる!」

「でしょでしょっ!?」

ママは大きく頷いた。
一緒になって言い始めたあたしに高槻も身に覚えがあるらしく、気まずい表情を覗かせる。

「いやあ、女の変わりようだってまるで詐欺と変わらんと思うぞ」

マスターがやっとの思いで口を挟んで来ていた。



準備中の看板を出した店の中で、賑やかな論争を繰り広げる。

「じゃあなんだ!本物あげときゃ良かったのかっ?」

「そうじゃないのよっ!そうなんだけどそこじゃないのよ問題はっ!」

男には知り得ない女の複雑な感情論だ。


マスターは必死で応戦するも、時代を遡って昔の事を口にするママに辟易していた。

女の記憶力の成せる技だ。
責められてタジタジになったマスターは店の玄関をチラリと見るなり希望でも持ったように、瞳を輝かせた。

「いいとこ来た!」

入り口で準備中のプレートを見て入ろうか戸惑う高田さんをマスターは必死で手招きする。

「外回りの帰りなんだけど、ランチまだできる?」

カランと鐘が鳴り、開けたドアから顔を出した高田さんが窺いながら尋ねていた。

「いいよ、ランチでもなんでも作るからちょっと来て!」

女二人の攻防戦に圧され気味のマスターは強い味方がきたとばかりに喜んでいる。

高田さんはカウンターに腰掛けるなり、楽しみな表情を浮かべた。

「なに?なんか盛り上がってたみたいだね?」

賑やかだったのは間違いない。

高槻はママに噛み付かれないようにと黙って行く末を見守っている。



身を乗り出した高田さんに、マスターよりもママが先に切り出していた。

「ねえ高田ちゃん!男って年月経つと付き合い始めの頃より気を使わなくなるわよねっ?」

「………」

唐突な質問に高田さんは眼を見開く。

「そうでしょっ?」

重ねて追及したママを前にして、高田さんは口に手を持っていった。

明らかに困惑している様子が見て取れる。

「そんなことないよな?、な?」

「………」

控え目に尋ねたマスターにチラリと目を向けると、高田さんは迷いながら口にした……。

「俺は……変わったつもりはないけど……」

「ないけど?」

「別れた妻には“貴方って変わったわ……”って言われた……」

小さな声になっていく高田さんにマスターも目を見開いた。

「ほらあっ!ほらほらほらほらっ!!やっぱり言う通りじゃないっ」

勝ち誇ったママが大騒ぎする。

頼みの綱であった高田さんまでもがママに畳み込まれていく。

巻き返しの出来ない情況にマスターは苦虫を噛み潰したような顔を見せていた。

口ではどうも女に勝てない。

そんな中、またドアがカランと鳴る──

「準備中の札あったけど……もちろんやるよね?あたしが来たんだから?」

こちらが返事をする前にずかずかと店に入ってくる。
強敵が現れたと覚悟するマスター。
そして強い味方の参上にママは尚更勝ち誇る。

当然のようにママは高田さんにした同じ質問をカウンターに座った春子姉に繰り出した。

「ねえ春ちゃん!男って長年付き合うと最初の頃より気を使わなくなるわよね」

「ママ……長年連れの居たことのないあたしにその質問は酷だと思わない?」

「………」

尋ねたママの口から「あ……」と、戸惑う声が漏れていた……。

ヒートアップしていた熱気が瞬く間に冷えていく──

最強の味方である筈の春子姉のこの言葉に、現場はとても静かになっていた……。
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