ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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「うるさいっ…」

高槻の腕を振り払うと、あたしは残りのカレーを掻き込むように口に流した。

もういい。

夏希ちゃんから離れていったならかえってせいせいするっ!

あたしは食べ終わった皿をカウンターに置いて水を一気に飲み干した。

ただ夏希ちゃんと出逢う前に戻っただけだ。

どうせ独り身に戻ったなら、あたしがやりたいことに没頭する。

一週間経っても何も連絡ないんだからもうあたしの知った事じゃない!

「……お、高ちゃん。晶はどうした?いきなり一人で頷きだして……」

高槻を冷たくあしらったかと思えば急に首を立てに振りだす。そんなあたしを見つめるマスターに、高槻は肩を竦め首を傾げていた。

「なんか吹っ切れたのか?」

次の仕込みで厨房に入ったマスターの背を見送ると、高槻が覗き込むようにして聞いてくる。

ここ最近、あたしはあたしなりにすごく悩んで考えた。

夏希ちゃんとの未来を真剣に考えるからこそ、色んな不安が沸いていたのに。
夏希ちゃんがやめるならそれでいい。

もう夏希ちゃんのことでそんな時間を送るのは勿体ない!

カウンターに置いた手が小さく拳を握り締める。

踏ん切りを付けた表情を見せるあたしのその手を見つめ、高槻はまた無言のまま珈琲を一口啜っていた。


夕刻を過ぎ、店は会社帰りに寛ぐお客で程よく賑わっている。

そしてカウンター席では高槻と入れ代わって春姉が椅子を陣取っていた。
その隣には大御所の常連。生駒さんが新聞を広げて座っている。

「……はあ…食後の珈琲タイム……こんな時間を過ごせるって贅沢よね~…」

春姉は珈琲の香りに酔いながらそう口にすると、通りすがったあたしのエプロンの裾を掴み引き止めた。


「こういうのってなんだったっけ?夕食後だとアフター……」

「アフターディナーティータイム!」


「そそ。それ!」

「この間、珈琲の専門書見せながら話たばっかりじゃん!」

「はは。最近忘れっぽくなったんじゃないの?春子ちゃんもそろそろこっちだな~」

読み終わった新聞をたたみながら、ツヤツヤな頭部を光らせて生駒さんは春姉を手招きして笑っていた。

そろそろ米寿を迎えようっていう生駒さんは、この辺りでは有名な大地主。この、和らぎの大家さんでもあった。

さすがの春姉も大黒様のような笑みの生駒さんには何も言い返せないらしい。

口を尖らせて拗ねる振りをする春姉を皆で笑っていると店の扉がカランと鳴っていた。



「おお、お疲れ!」

来店した客を見て、マスターはいらっしゃいませの代わりにそんな言葉を掛ける。

何時もの時間よりちょっと遅めに来店した高田さんは普段座る指定席の隣に腰掛けた。

「ああっ…いいよ生駒さん。気使わなくていいから座って」

高田さんは春姉の隣を譲ろうと腰を上げた生駒さんの肩を押さえる。

「ちょっと距離を開けた方が身を守れるから」

「あら言ってくれちゃったわね」

すかさず春姉が打ち返す。
生駒さんの後光の影に隠れるように高田さんは春姉の睨みを遮りながら珈琲を注文していた。

二人の間に挟まれた生駒さんは苦笑いながらもやっぱり腰を椅子から上げる。

「もうちょっと居たいけどなあ…年寄りはもう床に入る時間だからそろそろ戻るよ。マスター、チェック頼む」


時計の針は、夜の八時前を差している。
マスターは店にキープしてある生駒さんの珈琲チケットをチェックしていた。

毎年、和らぎの珈琲チケットをまとめ買いしてくれる生駒さんは店の売上げにかなり貢献してくれている。

一人で飲むよりも遥かに多い計算のチケット枚数は、生駒さんの所へきた業者さんや知人の為の珈琲代代わりでもあった。


店を出て行く生駒さんの丸い背中を見送ると、高田さんは譲って貰った席に移動する。

「来週だっけ?もうパスポートは取れた?」

高田さんは静かになったカウンター席で仕切り直すように、あたしに話題を振っていた。

「昨日届いたばっかり!」

あたしは初めて手にしたパスポートを皆に見せる。

「せっかく高いお金払うんだからしっかり勉強してきなよ!」

発破を掛けて笑みを見せた春姉に、あたしは思いきり大きく頷いた。

そう。そんなにしょっちゅう経験出来ることではないから……

どうせならみっっっちりと勉強して自分の夢の役に立てたい!

だからたぶん……

夏希ちゃんとは最初からこうなる運命だったのかもしれない──

お互いそれぞれのことなる道。

俳優としてまた一歩前進した藤沢 聖夜。

ファンや業界の専門家がこれからの藤沢 聖夜という俳優の成長を楽しみにしている。

大物になる可能性。

子役からの本物の息の長い役者へ。

あたしと一緒に居れば、その芽を摘むことになってしまう……

バイトを終えて、マンションに帰ったあたしはテレビに映る夏希ちゃんの……

藤沢 聖夜の姿を見つめた──。



────

「あ、聖夜!……っ…とごめんっ本読み中だった?」

「……いや、大丈夫だよ」

事務所に来るなり俺を見つけた舞花は、大きな声を出した自分の口を手で押さえ、焦ったように小さく謝った。

詫びた舞花を前にして、俺は手にしていた台本をテーブルに置く。

「台詞はもう覚えたから……」

そう言って腰掛けていたソファで伸びをした。

舞花はその隣にちょこんと腰を下ろす。

「なに?最近忙しそうじゃん」

遠慮がちで大人しい舞花にそう話し掛けていた。

去年の暮れに撮ったバラエティ番組。掃除屋のアルバイトを頑張る舞花の姿は視聴者にも好感度だったらしく、女優業よりもバラエティの仕事が増えているらしい。

ただ……女優も枠がせまいけど、バラエティの枠も競争はかなり激しい。

社長いわく。

“やれるとこまでやらせてみる”の考えらしいけど、最近の舞花はどんな仕事が来ても断らない奴に成長していた。

「聖夜が頑張ってるから……あたしも負けないようにって思って……」

照れてるのか長い巻き髪の毛先を指でクルクルねじり、舞花は俺の言葉にはにかんだ笑みを返してくる。

その表情を何気にじっと見つめた。

舞花の仕草、そして俺をみる目はやっぱり今でも俺の事が大好きで……


一生懸命俺に追い付こうとしている。
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