ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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38章 二人の道標

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「お冷っ」

「ポットあるじゃんそこにっ!」

回転率のいい昼時を過ぎた頃だった。混雑を避けて遅めの昼食を取りにきた高槻が、カウンター席でポットを嫌味たらしく振って見せる。
中では揺れた氷の音がカラカラと鳴っていた。

今日のランチはAセットのカツカレーが沢山出た。
その為にポットの水も完売に至ったのだろう。

目まぐるしい忙しさだった為に、水を補充する間もなくテーブルの後片付けに追われていたあたしは、あからさまにイラッとした目線を高槻に投げ掛ける。

「はいはい……。水くらい自分で注ぎますよ……」

睨まれた高槻は肩を竦め、カウンターの中に周り浄水器から水を直接ポットに注ぎ込む。

「できれば氷も入れといてください」

「……はいはい」

“にわか常連”だった高槻も大抵の物はどこにあるのかわかる程度になったらしい。

慣れた手付きで製氷機から氷を掬い、ガラガラとポットに入れると高槻はその場で立ちながら自分のグラスに水を入れて飲んでいた。

「客使いの荒い店だな……」

「おいおい。そりゃ聞き捨てならねえな高ちゃん。せめて、そこは“店”じゃなくて“晶”限定にしてくれよ」

テーブルを拭きながらなにっ!?と、振り向いたあたしを他所に二人は楽しそうに相槌打ち合い笑っていた。

厨房の片付けを粗方済ませたマスターは休憩しながら禁煙パイポを口に加える。

完全に禁煙する気ではなく、ちょっとした本数減らしと周りへの気配りのパイポ生活は案外順調だ。

以前、完全禁煙に挑戦したマスターは、吸えない反動からか隠れて中毒のように煙草を吸うようになったとかで、逆に健康を害したらしい……。

「パイポでヘビースモーカー脱。出来そう?」

「なんでも程ほどが一番だな……」

高槻に問われ、遠い目をしながらマスターは美味しそうにレモン味のパイポを吹かした。

「高ちゃん、ポテトサラダ沢山あるから持っていきなよ」

厨房から顔を覗かせたママがそう口にする。
常連と言うよりもすっかり“うちの子”状態だ。

「いいね、ポテサラ~。ビールのツマミに夜食べるわ」

嬉しそうに答える高槻は子供の居ないマスター達に、何気に可愛がられている。

ホールを全て片付けて店のドアプレートを準備中の文字に裏返すと、あたしも遅めの昼食を取るためにカウンター席に腰掛けた。

高槻はその隣で食後の珈琲を飲んでいる。



「いつから行くんだ?」

「明明後日(しあさって)」

ママがよそってくれたカレーを無心で頬張りながら、急な高槻の質問に答える。

「言ってあるのか?……あいつに……」

「………」

探るような問い掛けにあたしはスプーンを一旦置いて、横の高槻を振り向いた。
口に入っていたカレーを流し込むように水を飲む。詰め込んだカレーがゴクリと大きな音を立てて胃に落ちるとあたしはまたカレーをスプーンに掬った。

「無言かよ……」

言いたそうな素振りを見せて、何も言わないあたしに高槻は呆れながらつっこむ。

あたしは歯茎の奥に挟まったご飯粒を舌で掃除しながらちらりと高槻を見た。

「オヤジ臭い食い方するやつだな?」

「ほっといて」

「まあ、言いたくなきゃ別にいいけど……」

「嘘つけっ…ほんとは聞きたい癖に……」

やせ我慢する高槻に発破をかけながらまたカレーを食べだす。

高槻は軽くため息吐くと笑いながら珈琲を口に含んだ。

高槻と叔父さんと三人で食事をしたあの日の夜。

あたしと夏希ちゃんがどんな話をしたのかが気になるんだろう。

ずっと遠慮していたのか。それとも機会を窺っていたのか。
あれから何度かここで顔を会わせても、高槻はあの日の事には今まで一切触れてこなかった。


「話たのか……」

「何を?」

諦めたように見せ掛けてやっぱり間を置いて聞いてくる。

シラをきって黙々と食事をするあたしの隣で、高槻は頬杖を付くと今度は鼻から溜め息を吐いていた。

言葉にしづらいのか高槻の口が飴玉を舐めているようにモゴモゴと動いている。
何を聞きたいかはわかりきっていながら答えないあたしって意地悪だろうか?──

そう思いながらも、まだ夏希ちゃんとの事を話す気にはなかなかなれなかった。

あの日──

背中を向けたっきり。

夏希ちゃんからの連絡は一つも入らない。


メールにも、留守電にも、マンションにさえも、夏希ちゃんの影は見当たらなかった。

カレーを食べる手を止めて、あたしは目の前の器を見つめる。


“晶さんを好きで居ると……俺壊れる……”

「………」

話すも何も、それさえもさせず背を向けた夏希ちゃんのあの言葉はあたしとの別れを意味していたのだろうか……

あれは“さよなら”の意味だったんだろうか……


「……っ…」


「おい、皿割る気か…っ…」


スプーンで乱暴にカレーを食べ始めたあたしの様子に高槻が慌ててあたしの手を掴む。

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