387 / 403
7
しおりを挟む何だか久し振りに言い合った気がする。。。
距離を置いたお陰か今こうして逢ってみて、妙な不安は湧いてこない。
元気そうで良かった……。
静かになった病室内。
あたしは安心したため息を微かに漏らしていた。
今だ向こう側を向いたままの夏希ちゃんを見つめる。整った横顔。
ぱらつく髪の間から覗く形のいい耳が見える。
すごく久し振りな景色だ。そう感じながらじっと眺めていると、その夏希ちゃんの管に繋がれた腕が少しずつベあたしの方へと寄ってきている……。
手だけをもそもそと動かし、そっと近付いてきたその指先はあたしの手を探り当てると、摘まむように指に触れていた……。
夏希ちゃんは何も言わずゆっくりと指先だけを絡めていく。
控え目なその動きを見つめ、視線を移せば腕に刺さった点滴の針に目が止まった。
見ただけでちょっと痛々しい。
離れたら寂しくて死んじゃうなんて、真顔で本気とも冗談ともとれるようなことを言ってた夏希ちゃんは……
あたしと離れ、本当に命の危険に曝された。
あたしが居ないと夏希ちゃんはダメになっちゃうんだ……
あんなに何でも出来て仕事も順調でパーフェクトなのに
こんなにすごい夏希ちゃんはあたしが居ないだけで
ダメになっちゃう人なんだ……
そう思い直すとまた特別な感情があたしの中に芽生えてくる──
顔を背けたままの夏希ちゃんの横顔を見つめ、自然とくすぐったい想いが湧いてくる。
・
あたしの指を握ったまま、向こう側を向く夏希ちゃんの横顔が微かに赤い。
ああ……
あたしはこの顔を知っている──
好きだって真っ直ぐに想いを告げながらも
一人で勝手に照れまくる。
あの時の
とても可愛い
愛しい表情(かお)だ──
あたしは腰を屈め、指を絡めたまま点滴の針が刺された夏希ちゃんの腕にそっと唇を押し当てていた──
その感触に驚いたのかびくりと夏希ちゃんの腕が動く。
夏希ちゃんはゆっくりとあたしの方へ顔を向けた……。
驚いた表情の夏希ちゃんの唇が何かを言いたそうに微かに開く。
目は口ほどに物をいう──
その言葉の通り
しだいに夏希ちゃんの瞳が熱を持って揺れていた。
あたしの影が上から重なる。
夏希ちゃんはそんなあたしを見つめるとゆっくりと瞼を閉じていく。
軽く開く薄くて柔らかい夏希ちゃんの綺麗な唇。
あたしはそっと食むように久し振りにその柔らかさを味わっていた。
「……っ…」
濡れた水音の後に甘いため息が夏希ちゃんの唇から零れる──
附せた瞳を開くと夏希ちゃんは切ない表情を浮かべ目を細めた。
・
今までに何回しただろう──
夏希ちゃんと交わしたキスはやっぱり特別ですごく気持ちいい。
薄くて上品な上唇。
少し厚みがあってふっくらとした下唇──
重ねただけで身体の芯から熱くなってとけていく
空気を含みながら押し付けては何度も軽く吸い合うと、夏希ちゃんはうっとりとした瞳であたしを見つめていた……。
「このキスはなに……」
コクりと小さく唾を飲むと夏希ちゃんは訪ねてくる。
「どんな意味があるの……」
夏希ちゃんの早い鼓動が微かに聞こえる。小さな声で戸惑いを含みながら、夏希ちゃんは濡れた瞳であたしを見つめた。
「夏希ちゃんが死なないようにおまじない……」
「こんなことしたって……また離れたら死ぬよ……」
絡めていた指を外したかと思うと、夏希ちゃんはあたしの手を掴まえるようにぎゅっと強く握った。
・
「そうだね……」
「………」
「夏希ちゃん……あたしが居なきゃ死んじゃうね……」
「……っ…」
あたしの言葉に夏希ちゃんは悔しげに頷いた顔を切なく歪ませる。
ほんの少し距離を置くだけのつもりだった。
ほんとは嫉妬深いあたしだから──
本気になるとのめり込んじゃうあたしだから──
そうなると
簡単には終わりたくないあたしだから──
お互いのことがどれだけ大事なのか──
ずっと一緒にいるためにどう向き合うか──
冷静になって考える時間が欲しかっただけだった……。
キスをした夏希ちゃんの唇が濡れている。
今度は熱を含んだ視線を真っ直ぐに向けてくる。
血色のあまり良くなかった顔色は、今は上気して熱く染まっている。
夏希ちゃんは高揚したため息をゆっくりと吐いて口を開いた。
「……ねえ晶さん……どうしたらいいかな…」
「……?」
疑問符を浮かべたあたしに夏希ちゃんは赤い顔を向けて言った。。。
“俺…勃ってきちゃった……”
白状した夏希ちゃんはすがるような上目使いでとても困った表情をあたしに見せていた……。
・
───
「お、旨いか?」
「普通に美味しいよ」
丁度、昼食を食っている時だった──
様子を見に病院へ来た社長はベッドに腰掛けて食事を摂る俺の前に、数冊の週刊誌を無造作に置いた。
「なにこれ?」
スプーンでデザートの林檎ゼリーを食べながらそれに目を向ける。
荒れた胃はだいぶ回復した。点滴からおもゆ、おもゆから消化のいい柔らかい食事。
徐々に形のある食事に変更されて、数日前から普通食になったところだ。
ゼリーを飲むように口に掻き込み、週刊誌の表紙に書かれたタイトルを読む。
そこには救急搬送された俺の事が記事に挙げられていた。
“藤沢 聖夜──ストイックのなせる業か!?逃亡犯の役作りで体重マイナス12キロ減”
“聖夜 拒食症の疑い!?”
“事務所との軋轢──人気俳優業の裏に精神的苦痛あり”
“藤沢 聖夜 ストレス過多で意識不明の重体──原因は新恋人との不仲か!?”
「…おいおい。12キロも痩せてないし……てか、すげー…二つだけ超ビンゴじゃん…」
「二つてのはどれだ」
「事務所の軋轢と新恋人のネタ」
笑いながら言った俺に社長は片眉を吊り上げて上から睨む。
だけど一体どうやって調べたんだ?
数冊ある週刊誌の中で、事実に一番近い記事は一冊だけだ。
俺はその一冊を手にとって頁を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる