ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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踊っていたマウスやアヒル。リスや犬の影は慌ててその場から逃げていく──

「やっ…やだ来ないで…っ」

忍び寄るような不気味な動きでにじり寄る。そんな黒い人影にあたしは思わず後退りしていた。

マリオは未だ捕らわれたままだ。

この状況をあたし一人でどうしていいかわからない。

これは撮影?──
だとしたら演技なんてあたしには無理っ…
台詞だって教えてもらっていないしっ…

何処かに隠れてるかもしれないスタッフを探して目が泳ぐ。

そんなあたしの身体が急にふわりと宙に浮いていた──

「や…っ…」

ロープにぶら下がり、飛んできた人影にしっかり抱き上げられて、一瞬で二階のデッキに連れて行かれる。

「大丈夫?…っ…」

そう声を掛けられて顔を上げれば……

「──なつ…っ…」

「シッ──」

床に下ろされたと同時に座り込んだあたしの前に現れたのは、ここには居ないはずの彼だった。

夏希ちゃんは唇に指を当て、驚くあたしに小さくウインクする。

「あとは任せて。僕が守ってあげるから」

「──……」

すごく近くで、そう囁かれる。

展開に着いていけず呆気に取られていたあたしに一度背を向けると、夏希ちゃんはまた振り返った。


「あいつを懲らしめて来るから!」

「………」

まるでミュージカルばりの言い回し。。。

ただ頷くしか出来ないあたしを置いて夏希ちゃんは襲いくる影の敵に立ち向かう。
夏希ちゃんは腰のナイフを抜き取ると軽やかに立ち回っていた。


羽根つきの緑のバンダナキャップを頭に巻いた夏希ちゃんは、実態のない影を相手にしながら、それは見事な剣さばきを魅せてくれる。


これは一体、何なのだろう──

ハネムーンツアーのPRイベント?

夏希ちゃんの葛藤ぶりを応援するように、また現れたマウスのキャラクター達も悪者退治に加勢する。

「すごい……」

その豪華なショーに魅せられて、あたしは夢中で夏希ちゃんの姿を追っていた。

目を見張る程の立ち回り。前にスパイの役をやったなんて言ってたけど、それもこんなにすごいアクションだったんだろうか。

生で繰り広げられる目を見張るようなシーン。知らずの内にあたしの胸が弾んでいく──

まるで初めて遊園地に行った気分だ。

とてもワクワクして、そしてドキドキしながら園内を歩く。

そんな子供の頃の純粋な感情が勝手に溢れてくる。

夏希ちゃんは影の敵を次々に倒し、三階の手すりに掛けられていた縄ばしごを身軽に上っていった。



マリオを捕らえていた髭の男が夏希ちゃんと対峙する。

じりじりと間合いを詰めると、二人は一気に剣を交えた。

素早い動きで見ているこっちがハラハラする。

そんな思いで必死に見守りながらふと気付いた。

「あれ…もしかして…」


緑の衣装の夏希ちゃん。
そして義手のフッ…ク…。。。

……て、ことは…

呟きながら、あたしは自分のシンプルな青いドレスに目を移す。

「もしかしてこれ……ウェン…デ…ィ?……」

導き出した答えにあたしは首を傾げながら思わず苦笑う。

どうしよう。。。
配役が決まってるってことは、あたしにもやっぱり台詞があるはずだ……

たぶん今、カメラはしっかり回っているはずで、でも何も知らされていないあたしは一体、どんなリアクションをとっていいのかも解らず仕舞い……

思いきり狼狽えて不安を浮かべるあたしの前で、夏希ちゃんの振るった短剣が義手の男を貫いていた。

「──…っ…」

あたしは思わず息を飲んで口を塞いだ。

義手の男。恐らくはフック船長であろう男は叫び声を挙げながら、派手なリアクションで海へと真っ逆さまに落ちていく。

大きな波しぶきの音。
それを耳にして、慌てて見に行こうとしたあたしに照明の光りが一気に降り注がれていた。

「……っ…」

あまりの眩しさに思わず目を細めて手で庇う。

スポットライトで眩(くら)んでいた視界が徐々に馴れ、瞼を開けたら暗闇の向こうから綺麗な指先が伸びていた……。



照明の光りに包まれたあたしの元へ腕を差し出した夏希ちゃんが歩み寄る。


とても穏やかでゆっくりとした足取り。

そしてすっと伸ばした指先であたしの手をとった夏希ちゃんの頭には小さな王冠が乗っていた。

あたしはまた驚いて夏希ちゃんを見つめる。

さっきまでの少年のような衣装とは変わり、白い正装の軍服に早変わりしている。

いつの間に着替えたんだろう。周りが真っ暗闇で全く見えなかった。

それはまるで、ヨーロッパ王室の王子様みたいで。

色っぽい光の君や、TVでひょうきんなトークをたまに披露する。
そして家ではとてもエッチで妬きもちやきで泣き虫な。。。

多才な夏希ちゃんのまた、新たな一面を前にしてあたしはただ立ち尽くしていた。

気品溢れる出で立ちで、夏希ちゃんは優雅に微笑んだ。

何も言わず夏希ちゃんはあたしの髪に触れ、まとめてあった付け毛を緩める。そして手を取ると、夏希ちゃんはまるで踊るようにゆっくりとあたしにターンをさせた。

夏希ちゃんはあたしの腰にあったスカートのリボンをほどく。その裾はふわりと大きく広がっていく。

シンプルだと思っていた衣装。

それは魔法にでもかけられたように素敵なフレアの青いドレスに一瞬で姿を変えていた。

ゆれる長い髪の付け毛と、ふわりと風に舞う柔らかな生地。

ゴワゴワと膨らんでいたのはこの仕掛けのせいだったのか。
そう思いながらドレスの裾を眺めていると、夏希ちゃんはゆっくりと床に片膝を付いていた。。。


しゃがんだ夏希ちゃんはあたしを真っ直ぐに見上げる。

見つめてくる黒い瞳には照明が映り込み、とてもきらきらと輝いている。

そんな夏希ちゃんはポケットから取り出した、とても小さな硝子の靴をあたしに差し出していた。

「……これがぴったりな女性をずっと探してた…」


「……ぷっ…」

夏希ちゃんの言葉に思わず、吹き出してしまった。

手のひら半分もないサイズ。そんな小さな靴、小人じゃなきゃ履ける訳もない。

そう思いつつもこれ以上笑ってはいけないと緩む顔を我慢する。

夏希ちゃんはそんなあたしをやっぱり優しく見つめたままだ。

「……絶対にぴったりだから見てて」

やけに余裕の笑みを浮かべると、夏希ちゃんはゆっくりと腰を上げてあたしの手を取った──。

「──……」

微笑んだ夏希ちゃんを見つめ、ニヤケていたあたしの瞳が少しずつ大きく見開いていく──

立ち上がった夏希ちゃんが手にしていたとても小さな硝子の靴。


その中で、可愛いらしい指輪が銀色に輝いていた……。
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