ラブプレイ~Hな二人の純愛ライフ~

中村 心響

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「──…こ…れ…」

喉につまり、短い言葉だけしか口に出なかった。

左の薬指にそっと指輪をはめられる。
リングには三連のとても小さなハートが飾られていた。

微笑んだ夏希ちゃんがあたしのこめかみに優しくキスをする。



どうしよう……

どうしたらいい


台詞をなんにも知らない

どう言っていいのかもわからない


おでこに口付けると夏希ちゃんはそんなあたしを覗き込む。

「泣けるほど嬉しい?」

「……っ…うんっ…」

撮影中の筈なのに、こんな普通の台詞でいいんだろうか。

でも…それ以上の言葉が見つからなかった──。



「喜んでくれて俺もすごい嬉しい…っ…」

「……っ…」

零れそうな涙を手のひらで拭こうとしたら、その瞬間に夏希ちゃんに思いきり抱き締められていた──


首筋に顔を埋めた夏希ちゃんの声に熱いため息が混じる。

「これはなに…撮影違うの?……リアル?…どっきり?…」

抱き締められたまま、涙声で小さく尋ねたあたしに夏希ちゃんは答える。

「撮影と、どっきりとリアル……全部」

「全部……」

「そ。……まだ終わってないから」

「──あ、……え?うそっまだ続くの!?」

「当たり前!まだまだこれからだから!──」

そう言って笑いながら、俺は思いっきり驚いた可愛い晶さんの腕を引っ張っていた。



そう──

二人の物語りはまだまだこれからだから。


「あれに乗るよ!」

「え!?……うそっ」

船の上を駆け回る俺の指差した先を見上げ、晶さんはまた驚いた。

客船の側面に横付けされた小舟のボート。
クレーンに吊り上げられたそれはお洒落な絨毯の形に改造されている。

二人の物語りはまだまだこれからだけど……

「……これに乗ったらラストだから頑張って!」

俺に手を引かれ、長いドレスの裾を抱えて焦りながらも一生懸命付いてきてくれる晶さんを振り返ってそう言葉を送る。



晶さんと俺と二人の夢のラブストーリー。

残念だけど、みんなにお披露目するのはこれでもうそろそろ終りの時間── 

だからこそ最後にとっておきの場面をみんなに贈ってあげるから。


小舟に飛び乗る瞬間に、俺は今着ている王子様の服を脱ぎ去った。

一番下に仕込んでいたのはアラビアパンツと素肌に軽いベストを羽織ったラフな衣装。

そして客船と小舟の離れた隙間を怖がる晶さんに俺は手を差し伸べる──



「Trust me!(トラスト ミー!)」
   僕を信じて!


「───…」


夜の風に煽られて宙に浮いた小舟がゆらりと揺れていた。

そこから手を伸ばす俺を、晶さんは見開いた大きな瞳で見つめる。

「大丈夫…絶対離さないから…」

微笑んで返した俺の言葉にゆっくり頷くと、晶さんは思いっきり笑顔を浮かべて俺の手をしっかり握っていた。



「あっ…」

小舟に足を掛けた晶さんの青いドレスがふわりとほどけ、下に落ちる。

12時を回り魔法がとけたシンデレラは、自由を掴んだお姫様。ジャスミンに早変わりしていた。


衣装さんが、徹夜で作ってくれた仕掛けだらけの衣装。。。

簡単にほどけ落ちたドレスから俺は薄い一枚の生地を手に取ると、それを晶さんの頭に被せる。

「ほら、向こうを見て」

「向こう?」

晶さんは聞き返しながら俺の指差す方向を見た。

その先には夜の静寂に佇む白いお城──

蒼く揺れる海にまるでぽっかりと浮かぶように、小さなお城が佇んでいる。

その上空を一筋の光が上へ上へと昇っていった。

「あ……」

晶さんは小さく呟いて瞳を輝かせた。

夜空に開く大輪の花。
大きな打ち上げ花火を先頭に、次々と仕掛けられた花火が上がり咲きほこる──


彩られた華やかな空。

名残り惜しいけど、ほんとにそろそろ終演みたい。

「すごい……」

ポツリと一言だけ呟いた夢見心地な晶さんの表情を、カメラがしっかりと収めていた──。 




「はいカットー! お疲れ様でしたー」

撮影終了の声が飛ぶ。

我に返った晶さんはハッとした顔を俺に向けた。


「……これで終わり。晶さんお疲れ様」

「もう終わり?……」

「そ、……終わり」

少しだけがっかりした様子の晶さんを覗きこむ。

「撮影はこれで終了。あとは……」

「あとは?……」

まるで幼い少女みたいに期待感を膨らませる。
そんな表情を見せた晶さんに俺は人目もはばからずキスをした。

「あとはもちろん二人だけの時間!」

「──…え!?」

後片付けをするスタッフをよそに、俺は腕を挙げて合図を送る。

ガタンと小舟を吊ったクレーンが動き、晶さんは小さな悲鳴を上げて俺に抱き付いていた。

「いってらっしゃーい!」

「頑張ってー!」

クラッカーを手にして打ち鳴らすスタッフ達の姿が見える。

ゆっくりと海に降ろされ揺れる小舟から見上げると、声援を送るスタッフの間に紛れ、マリオが白い目で見下ろしていた。


やっと俺に軍配が挙がったかな?

やっと…なんて言葉自体に自分で腹が立ってしまうけど。。。

それでもよし。

マリオの物言いたげな表情を見れただけで今は満足だ。

俺はそう思いながらマリオに敬礼を向けた。



「マリオさん。御協力、有り難うございました!」

一応、仕事だからね。挨拶は当然当たり前ってやつ。

そう思いながらニヤリと思いっきり笑みを浮かべる。

マリオは縛られていた手首を庇いながら、ふんっと踵を反しその場から消えた。

「マリオも知ってたの?この撮影のこと……」

隣にいた晶さんがそう尋ねてきた。

「いや、マリオも船長に捕まるまで知らされてなかった……」

「………」

「……たぶん、マリオもかなり真に迫った映像が撮れたと思うよ」

笑みがこぼれそうなのを我慢して、無表情でそう返す。

晶さんは少し気の毒そうな顔を覗かせていた。
俺は仕切る様に声を張り上げる。

「じゃあ、気を取り直して行きますか! 晶さん、危ないから座って」

言いながら小舟のオールを握る。

「どこに行くの?」

驚いて聞き返す晶さんに俺は舟を漕ぎながら言った。
「さっきのお城。皆が撮影済んだらそのまま行っていいって」

にっこり笑ってそう答える。

晶さんにきたブライダル式場とハネムーン旅行の撮影の仕事。

それに便乗するように、ジュエリー会社へ俺から打ち出した今回のCM撮影。


晶さんのために手に入れた指輪は若者向けに企業が一番売り出したい商品だった。
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