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しおりを挟む心地好い夜風が吹いていた──
そこら中にフィルムのケースが散乱している部屋で似たようなポーズを何度も取らされる。
高級ホテルの最上階、スイートルームを貸しきっての撮影。
ゴールドシャンパンカラーのシンプルなマーメイドドレスを着せられてタキシード姿のマリオとベランダに出て夜景を背に向かい合う。
今回受けた高級ウィスキーのポスター取りはそう激しい動きが無くて助かった。
あたしはホッとしながら撮影に挑んでいた。
向かい合うマリオは眉を動かして微笑みかけてくる。タキシードにウィスキーはやっぱり日本人には似合わない。
ビシッと決めてロックグラスを回す仕草はマリオの大人な色気にピッタリだと思った。
「これが終わったら約束のやつ──…行く?」
「約束?」
聞き返したあたしにマリオはふっと笑う
「“肉の塊”──…どう?」
「ああ!」
そういえばそんな話したっけ…
肉の塊か…
この人なら美味しいところに連れていってくれそう──
むくっと食の欲が沸いてくる。
でも夏希ちゃんから昼間電話合ったしな…
もしかしたら家で待ってるかも知れない──
丁度、撮影の打ち合わせ前に夏希ちゃんから掛かってきた電話…
慌てて冷たく切った事が少し気掛かりだった。
・
「なんだか乗り気じゃないね」
向けられるフラッシュにポーズを取りながら悩むあたしにそう声を掛ける。
あたしの中で夏希ちゃんと肉の塊が乗った天秤がグラグラと揺れていた。
「二人、もう少し寄ってみて」
指示を出してくるカメラマンに答えてマリオの腕があたしの腰に回り抱き寄せる──。
近づいた距離でマリオはボソッと耳元で囁く。
「米沢牛…」
「──…!」
「最高級ブランド…」
「……っ…」
「常連しか知らない隠れメニュー…」
「いきますっ──」
「ぷっ……了解」
低い声で言いながら笑いを堪えてる。撮影終了を告げられグラスをスタッフに渡すとあたしは咄嗟にマリオのジャケットの裾を掴んだ。
「でも9時には帰らなきゃ──」
「なぜ?彼氏でも待ってる?」
「はい…」
マリオは顎に手を当てた。
「なるほど、それで返事渋ったわけか…」
あたしは小さく頷いた。マリオは顎をさすりながら、またぷっと思い出したように笑った。
「隠れメニューに負けるなら大したことない彼氏だな…」
「………?」
笑いながら小さく呟かれ、何を言ったかはっきり聞き取れない。マリオは笑みを抑えると
「今から行くならせめて9時30分までは欲しいね──」
「………」
「30分オーバーも無理?」
「30分なら──」
あたしの返事を聞いてマリオは笑顔で控えの部屋に入って行った。
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