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しおりを挟む時間は7時を回っている──
今日は金曜日。喫茶店の仕事なら8時30分までの勤務だから30分程度のオーバーなら誤魔化しも利くだろうし──
なんて計算しながらあたしはホテルのロビーを出た。
玄関前にはあの派手な赤い外車が止まっている。
「今日は僕の行き着けに案内するから」
相変わらずのレディファーストで助手席を進められる。宣言した通りマリオは行き着けのステーキハウスへ向かい奥のカウンター席へと案内された。
「焼き方は?」
「生で──」
「こらこら、ビールじゃないんだから……」
そうツッコンできた後にプッと笑っている。
「じゃあ、レアとウェルダンで──」
マリオはそう注文しておもむろに聞いてきた。
「ウェルダンはなんていう?」
「よく焼き」
「ミディアムは?」
「半生で」
「なるほど……通じるか今度使ってみる」
マリオは納得しながらあたしのグラスに赤ワインを注いだ。
「けっこう飲めるね──」
冷静な目であたしを観察している。注がれてしまうとつい飲んでしまうのはあたしの悪い癖だ──
目の前の鉄板で焼かれる最高級の牛肉をみたらどうしてもワインがすすんでしまう。
マリオはあたし好みを考えて気取らずこれるお店を選らんだのだろか?
隠れ家的こじんまりとしたつくりの店内はカウンター席のみでたった八つしか椅子がない。
その席は全て埋まっていた──
「“あれ”できる?」
「できるよ」
マリオはそんな言葉でオーナーシェフに訊ねていた。
隅の方で準備したまな板の上に活きのいい鰻が現れる。
「鰻!?」
「そ、鰻の刺身が隠れメニュー」
「へえ、珍しい…」
感動しながらあたしはその腕捌きを眺める。もとは鰻の卸業者だったらしいオーナーはその伝(つて)で天然鰻が手に入るようだった。
先に出された鰻の刺身に舌鼓を打ち、あたしは皿に次々に乗る肉を箸で食べながら店を眺めた。
「今日の店のチョイスはどうだった?」
帰りの車に乗りエンジンをかけながらマリオはさりげなくそう聞いてきた。
「合格だったかな?」
「はい!」
満足した顔であたしは答えた。
・
「そ。それは良かった──なら次に誘う権利も貰えそう?」
「次?…」
マリオは笑いながらハンドルを動かす。時刻は丁度9時を少し過ぎた所だ。
「次はもう少し長めに時間を貰えると有り難いけどね──」
何気に予定を詰めてくる。
「どう?」
「………」
「今日は飲めなかったけど次は是非とも一緒に楽しみたいしね…酒を」
マリオは体ごと助手席側を向く。車は丁度マンションの一つ手前で停められていた。
あたしは考える──
「次は……ちょっと」
これで逃げると食い逃げみたいだけど、これ以上の食事は……
てか、付き合いはあまりないって楠木さん言ってなかったっけ?・・・
「彼氏に悪い?」
「はい…」
マリオは率直に質問してくる。
「結構ウマイね?」
「……?」
「男の焦らし方」
「…え……」
「意識せずやってるなら魔性だな──…」
思わず言われた言葉にこっちが面食らう。そのあたしの顔をみてまたマリオは笑っていた……。
助手席のドアを外から開けて降車を促す。
「じゃあまた策を考えてみるよ──…こっちからオファー入れた以上、君は仕事のパートナーだからね。また頼むよ」
そう言ってマリオは運転席のドアを開きながらウィンクするとアクセルを踏んだ──
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