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しおりを挟む「魔性……」
あたしは言われた言葉を呟いた。
なぜ?
食い逃げしようとしたからかな…
そう思いながらマンションの上を見上げた。家の明かりが微かに漏れている。健兄の可能性は限りなく低い。
試しに電話を。なんて携帯を開いた…
時間は9時半前、計算通りだ──
これで変に電話すると返って怪しいかも…?
そう考えてマンションのエレベーターに乗った。満足した胃袋のせいでつい鍵を振り回しながら鼻歌を奏でてしまう。
軽快に焼き肉ヨーデルを口ずさみあたしは玄関を開けた──
「ただいま~」
「お帰り」
待ち構えたように夏希ちゃんが目の前に立ち塞がる。
「喫茶店忙しかった?」
「……うん…」
なんだろう──ちょっと威圧が漂う…
ちょっと遅くなったことに腹を立ててるのかな…
そう思いながら子芝居を打った。
「遅掛けに来た客が中々帰んなくてさ~…」
「へえ…そう…」
いや~、参った!そう連呼するあたしに夏希ちゃんは短い返事を返していた。
・
“参ったっ参った!”
目の前の彼女は大して参った顔もせず、そう繰り返す……
演技力ゼロだな……
顔を見せて初っぱなから大嘘をついてくれる晶さんに腹の底から沸沸と何かが沸いてくるようだ。
意外に冷静に晶さんの演技を見ながら俺は聞いた。
「忙しかったならランチも売りきれたんじゃない?」
「ランチ? ああ~そうだねギリギリだったかな?」
「へえ…ギリギリ?」
「うん、ギリギリ」
「なんだったの、今日のランチは……」
「──……」
「二種類あるよね?AセットBセット…」
「……あ~…、…ポークカレーとアジフライ!」
少し考えて一週間のメニューを思い出せたのか、やけに力んで言っていた。
ソファに座った晶さんの背もたれに両肘を預け、俺は後ろから晶さんを覗き込む。
「おしいけど残念でした」
「……?」
「ポークピカタとアジ南蛮!…そして俺が今日、食べたのは和らぎ洋食セットです」
「──…っ!…今日!?」
晶さんはニコニコ答えた俺に思いきり動揺した顔を見せていた。
「見当たらなかったけど今日、働いてたんだよね?“喫茶店”でっ」
「………」
「マスターに晶さんを訊ねたら休みだって言われた──」
「……っ…」
「嘘つかれたな~“マスターにっ”…だって、晶さんは俺に嘘なんてつかないもんね?」
言った後に、ねっ!…なんて強調して二度も付け加えて顔を覗き込んだ。
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