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1章 出逢いは突然に
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夕刻過ぎ──
普段は静かなマンションの、角にある一室のインターホンが鳴り響いた。
「あれ、おかえり──…ぃ…」
「──…」
ドアを開けた瞬間、お互いに固まっていたのがよくわかる。
「あ、れ……」
疑問顔なあたしは目の前の訪問者を足先から頭の先まで何度も首を往復させて眺めた。
ビンテージジーンズを履き慣らしたやけに長い足──
上は普通にTシャツとチェックのシャツを重ね着して、顔には伊達眼鏡を掛けている。
「あれっ!?」
目の前のそいつは大きく驚くとあたしの顔と部屋番を繰り返し見て戸惑っていた。
そいつはあたしにゆっくり指を指す。
「晶さんって、おんなっ!?」
「ええ…たぶんね」
あたしは腕を組んで言い切った。
「背、高いね…」
「ありがとう。よく言われます」
タッパ、170あるからね…
沈黙が続く中、玄関口で腕を組んで考える。
「取り合えず、中にどうぞ」
入り口で立ったままも何だから、あたしは玄関の中へ彼を招いた。
目の前にいるのはたしか…
本名
柏木夏希(カシワギナツキ)
芸名
藤沢聖夜(フジサワセイヤ)
あたしが居候しているこのマンションの主。叔父の今井健吾が経営する芸能プロダクションの人気若手俳優だ──
・
その彼を家に入れた途端にあたしの携帯電話が鳴りだした。
「はい」
「お、晶。うちの稼ぎ頭はそっち着いたか?」
「稼ぎ頭──…って夏希ちゃんのこと?」
芸名は売れる売れないでよく変えられる。
昔から事務所の個人プロフィールをよく目にしていたあたしは芸名よりも本名の方が馴染み深い。あたしは小声で叔父の健兄に逆に問い掛けていた。
まだ、“家に上がれ”とも言っていないにも関わらず──
自分の家の様にズカズカとうちに上がった彼は図々しい程にリビングのソファに腰掛け長い足を組んでいた。
「勝手にうちに上がってきたけどどういうこと!?」
あたしの小声の問いに健兄は笑いながら口を開く。
「いやあっはは!実はな、ちょっと事務所のタレントを売り出すのにアイツに協力頼んだんだよ…で、今マスコミがアイツのマンション張ってるから、ほとぼりが冷めるまで家に身を隠させるかってな…」
「………」
「なんだ?嫌か?」
無言のあたしに健兄が訊ねた。
「いや、別に…健兄の家な訳だし…あたしも居候の身だから何も言えないけどさ──」
文句はたいしてないけれど、心の準備も無しに他人が急に入り込むってのは少々抵抗があるわけで……
「ほとぼりが冷めるまでだ!ガキの時から事務所(うち)にいて息子みたいなもんだ。ほんの一、二ヶ月ってとこだろうから頼むよ」
「わかった」
「開いてる部屋使わせてやってくれ。マンションの鍵もお前スペア余分に持ってただろ?それ渡してやってくれ」
「はいはい、了解しましたよ」
そう答えるしかない。
うーむ…どうしようかな…
鼻の頭を掻いて考える。
・
芸能関係者ではあるけれど、健兄は仕事とプライベートは完全に切り放した生活をしている。だから今まで事務所のタレントを家に招いたこともなければ芸能人なんてあたし自身会ったためしもない──
まさかこんな展開でトップスターと住むことになろうとは、思ってもみなかった…
「で──…そろそろ俺が泊まる部屋に案内してもらえる?」
夏希ちゃんは足を組んだままこちらに伺いをたてていた。
あんたはアラブの王様か?ってなくらい、数ある愛人宅に入り浸りな叔父の健兄は殆どこの家には帰ってこない──
二人きりなのはほぼ確実。
「あ、もしかして何か勘違いしてるかもしれないけど…俺、あなたに手は出さないから──」
「……」
「そっちは充分間に合ってるし」
「……」
ちとムカつくなコイツ?
考え込むあたしを余所に、下手に出ながら微妙に上から目線じゃないすか?
そう思いながら家の案内を済ませると夏希ちゃんは手を差し出した。
「取り合えず、これからよろしく──」
「……」
出された手を握り返すと夏希ちゃんはジッとあたしの胸元を見る。
「短い間だからあまり言うことはないけど──家に居る時でもブラくらいは着けてもらえる?」
「……──」
あたしは自分の胸元に目をやった。
「小さいから必要なくない?」
「……でも、乳首は気になるから」
「…言いながら顔赤いけど、手…出さないっしょ?」
「……」
ありゃ、余計に赤くなったけどダイジョウブかなこりゃ…?
そんなこんなで始まった新たな居候生活──
あたしは部屋まで案内するとマンションのスペアキーを彼に手渡した。
「……リボンついてる…」
鍵に付いていたキーホルダーを眺めて呟く。
「ん?…気に入らない?」
「流石に男がリボン付きのマウスはないでしょ?」
「じゃ、あたしのと交換する?」
あたしは自分のキーを差し出した。
・
「ほら、これ実はペア!二つの手を繋ぐとハートになっちゃうってやつ」
ちょっと得意気に見せてやると夏希ちゃんは何気に喜んでる顔を見せる。
「…でも…二つ持ってないと繋げないじゃん」
「……けっこう我が儘だね?」
確かにそうだと思ったあたしは、仕方なしに自分のキーホルダーも外して夏希ちゃんのキーに二つ付けてあげた。
「ラッキ!」
さっき男が何とかって言ってなかったっけか?
ハートを作ったペアマウス手にして無邪気に喜んでる君は一体なに?
そう心で投げ掛けながらも許してやることにした。
人の物を欲しがる姿になんだか四つ下の弟を思い出した。
年下なくせに「間に合ってる──」なんて気取ったこと口にするから生意気かと思ったけど何気に“さん”付けで呼んでるし……
鼻歌唄いながら荷物整理する夏希ちゃんを眺め
「うん、問題ない」
この生活──
何とかやっていけそう。
あたしは自分をそう納得させることにした。
普段は静かなマンションの、角にある一室のインターホンが鳴り響いた。
「あれ、おかえり──…ぃ…」
「──…」
ドアを開けた瞬間、お互いに固まっていたのがよくわかる。
「あ、れ……」
疑問顔なあたしは目の前の訪問者を足先から頭の先まで何度も首を往復させて眺めた。
ビンテージジーンズを履き慣らしたやけに長い足──
上は普通にTシャツとチェックのシャツを重ね着して、顔には伊達眼鏡を掛けている。
「あれっ!?」
目の前のそいつは大きく驚くとあたしの顔と部屋番を繰り返し見て戸惑っていた。
そいつはあたしにゆっくり指を指す。
「晶さんって、おんなっ!?」
「ええ…たぶんね」
あたしは腕を組んで言い切った。
「背、高いね…」
「ありがとう。よく言われます」
タッパ、170あるからね…
沈黙が続く中、玄関口で腕を組んで考える。
「取り合えず、中にどうぞ」
入り口で立ったままも何だから、あたしは玄関の中へ彼を招いた。
目の前にいるのはたしか…
本名
柏木夏希(カシワギナツキ)
芸名
藤沢聖夜(フジサワセイヤ)
あたしが居候しているこのマンションの主。叔父の今井健吾が経営する芸能プロダクションの人気若手俳優だ──
・
その彼を家に入れた途端にあたしの携帯電話が鳴りだした。
「はい」
「お、晶。うちの稼ぎ頭はそっち着いたか?」
「稼ぎ頭──…って夏希ちゃんのこと?」
芸名は売れる売れないでよく変えられる。
昔から事務所の個人プロフィールをよく目にしていたあたしは芸名よりも本名の方が馴染み深い。あたしは小声で叔父の健兄に逆に問い掛けていた。
まだ、“家に上がれ”とも言っていないにも関わらず──
自分の家の様にズカズカとうちに上がった彼は図々しい程にリビングのソファに腰掛け長い足を組んでいた。
「勝手にうちに上がってきたけどどういうこと!?」
あたしの小声の問いに健兄は笑いながら口を開く。
「いやあっはは!実はな、ちょっと事務所のタレントを売り出すのにアイツに協力頼んだんだよ…で、今マスコミがアイツのマンション張ってるから、ほとぼりが冷めるまで家に身を隠させるかってな…」
「………」
「なんだ?嫌か?」
無言のあたしに健兄が訊ねた。
「いや、別に…健兄の家な訳だし…あたしも居候の身だから何も言えないけどさ──」
文句はたいしてないけれど、心の準備も無しに他人が急に入り込むってのは少々抵抗があるわけで……
「ほとぼりが冷めるまでだ!ガキの時から事務所(うち)にいて息子みたいなもんだ。ほんの一、二ヶ月ってとこだろうから頼むよ」
「わかった」
「開いてる部屋使わせてやってくれ。マンションの鍵もお前スペア余分に持ってただろ?それ渡してやってくれ」
「はいはい、了解しましたよ」
そう答えるしかない。
うーむ…どうしようかな…
鼻の頭を掻いて考える。
・
芸能関係者ではあるけれど、健兄は仕事とプライベートは完全に切り放した生活をしている。だから今まで事務所のタレントを家に招いたこともなければ芸能人なんてあたし自身会ったためしもない──
まさかこんな展開でトップスターと住むことになろうとは、思ってもみなかった…
「で──…そろそろ俺が泊まる部屋に案内してもらえる?」
夏希ちゃんは足を組んだままこちらに伺いをたてていた。
あんたはアラブの王様か?ってなくらい、数ある愛人宅に入り浸りな叔父の健兄は殆どこの家には帰ってこない──
二人きりなのはほぼ確実。
「あ、もしかして何か勘違いしてるかもしれないけど…俺、あなたに手は出さないから──」
「……」
「そっちは充分間に合ってるし」
「……」
ちとムカつくなコイツ?
考え込むあたしを余所に、下手に出ながら微妙に上から目線じゃないすか?
そう思いながら家の案内を済ませると夏希ちゃんは手を差し出した。
「取り合えず、これからよろしく──」
「……」
出された手を握り返すと夏希ちゃんはジッとあたしの胸元を見る。
「短い間だからあまり言うことはないけど──家に居る時でもブラくらいは着けてもらえる?」
「……──」
あたしは自分の胸元に目をやった。
「小さいから必要なくない?」
「……でも、乳首は気になるから」
「…言いながら顔赤いけど、手…出さないっしょ?」
「……」
ありゃ、余計に赤くなったけどダイジョウブかなこりゃ…?
そんなこんなで始まった新たな居候生活──
あたしは部屋まで案内するとマンションのスペアキーを彼に手渡した。
「……リボンついてる…」
鍵に付いていたキーホルダーを眺めて呟く。
「ん?…気に入らない?」
「流石に男がリボン付きのマウスはないでしょ?」
「じゃ、あたしのと交換する?」
あたしは自分のキーを差し出した。
・
「ほら、これ実はペア!二つの手を繋ぐとハートになっちゃうってやつ」
ちょっと得意気に見せてやると夏希ちゃんは何気に喜んでる顔を見せる。
「…でも…二つ持ってないと繋げないじゃん」
「……けっこう我が儘だね?」
確かにそうだと思ったあたしは、仕方なしに自分のキーホルダーも外して夏希ちゃんのキーに二つ付けてあげた。
「ラッキ!」
さっき男が何とかって言ってなかったっけか?
ハートを作ったペアマウス手にして無邪気に喜んでる君は一体なに?
そう心で投げ掛けながらも許してやることにした。
人の物を欲しがる姿になんだか四つ下の弟を思い出した。
年下なくせに「間に合ってる──」なんて気取ったこと口にするから生意気かと思ったけど何気に“さん”付けで呼んでるし……
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何とかやっていけそう。
あたしは自分をそう納得させることにした。
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