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しおりを挟む「前に一度撮影したストッキングのやつ……今回のは塗るタイプのストッキングで…」
「塗る?…」
塗る……
──…っ…
それはもしや…
「まさかマリオが晶さんに触るとかじゃないよね?…」
俺の尋問に晶さんは目を見開いたまま答えを返さない。
「晶さん?…」
「さ、…っ…」
「さ?…」
「触るっていうかっ…“塗る”……っ」
「───…っ…一緒だってそれはっ」
何言ってんだかほんとにっ…
てか、塗る方が厭らしいっての!
マリオのリアクションの派手さを知ってる分、どんなことをしたか大体の事がわかってしまう──
再び俺の中で小さな嫉妬が渦を巻いた。
怒られて気まずい顔で目を泳がせる晶さんを覗き込む。
「ねえ、晶さん…もしかしてさ…」
「………」
「俺、…これ…全部俺のなんですけど…っ…て世界中に言って回らなきゃイケナくなる?…」
「……っ…」
口にしながら切なくなってくる──
俺は一体何度こんな思いをさせられるのか?
晶さんは真面目に問う俺に困った顔で苦笑いを浮かべ、返していた──。
・
「今度こそは断るからっ」
何気に表情を引き締めると晶さんは俺に誓うように宣言していた。
信じないわけではないけど信じられないわけで……
俺は白い目を晶さんに向けると小さく溜め息を溢す。
「業界の仕事が絶対にだめってわけじゃないよ…」
「………」
「ただ、……やるからには半端じゃ許されない世界だってのは頭に置いて手を出さないと……」
芸の道は何気に厳しい。
できれば晶さんには泣くような思いをしてもらいたくはないから。
俺はそんなことを考えながら晶さんの手に唇を押し付けた。
きらびやかな世界だからこそ、その裏側は暗く残酷でもある。
この世界に夢を持ち、生きる覚悟がないのなら──
わざわざ入り込む必要はないわけで……
「晶さんには早く珈琲ショップを経営してもらわなくちゃ……俺が売れなくなった次の就職先の為に…」
指先に唇を付けて晶さんを見つめる俺を晶さんは笑っている。
「給料出ないのにウチに就職するの?」
「食いっぱぐれはないじゃん」
「なるほど」
売れない芸能人がバイトする所は大抵食うことにありつける職だ。
納得する晶さんを見つめ返して俺も笑うと小さな後頭部を胸に引き寄せて抱き締める。
・
すごく好きだ──
そんな感情だけが今は溢れてる。
そんな晶さんと離れることなんて考えられないから…
できるならやっぱり俺の手の内だけにとどまって居て欲しいと願うばかりだ。
「そろそろお腹空いたね」
「うん、何作ったの?」
「寒ブリの切り身が安かったから煮付けにした」
「煮付け?」
「うん、洋食は夏希ちゃんに敵わないから今度から和食しか作らない…」
「………」
晶さんは少しドヤ顔を向けて笑って見せる。
俺は頬を小さく指先で掻いていた。
言わないべきだろうか──
でも将来、就職するには押しの部分でもあるわけで。。。
「俺…和食ちょー得意。…」
「………」
「鰹、刺身に卸せる」
「うそっ!?」
「ほんと。板前包丁自前で一式あるし…」
「………」
「梅さんの釣りによく付き合うから…」
控え目を装いながら白状する。
そう、子役からこの世界に居る俺は何かと大御所の俳優人にも可愛がられて居るわけで……
元、銀幕の大俳優。釣り好きな梅さんのお供でよく釣りに付き合わされる。
告白した俺を見つめ、ゆっくり頬を膨らませた晶さんの顔を、俺は指で両側から押して空気を抜いた。
プッとなる音を立てて俺は晶さんを笑う。
「晶さんの煮付けの腕前を味見してあげる」
「もうっ…なんかムカつく!」
そう言って軽くタコ殴りしてくる晶さんに俺は唯一勝ち誇れた気がして、暴れる晶さんを気分よく胸に抱き締めていた。
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