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33章 ラブライフ
しおりを挟む「晶さん、これ見て!」
「………」
商品棚を隔てた向こうからそんな声が聞こえていた。二人してだて眼鏡を掛けて街中を歩く──
途中、インテリショップに立ち寄ると夏希ちゃんは心なしか女子の様に盛り上がっていた。
歯ブラシのペアのセットを指差して夏希ちゃんはやたらに無邪気な笑顔を向ける。
アニマル柄のそれを見て、買うかどうか真剣に悩んでいるようにも見えていた。
「これ買うの? なんか使い勝手悪そう」
「………」
あたしは現実主義だ。キリンの模様をしたコップの握り手には小さなコアラが乗っている。
見ただけで邪魔だ……
そう思うあたしを見ると夏希ちゃんはそのコップを棚に戻した。
「別に買いたいワケじゃないよ……ちょっと可愛かったから晶さんに見せようと思っただけだから…」
言いながら何気にムクれて背を向けた。
「………」
あたしはそう言った夏希ちゃんの後ろ姿を見つめ、夏希ちゃんが手にしていたカゴに目を止めた。
そこにはホルスタイン柄のコップが一個、中で無造作に転がっている。
「うし…好き?」
「──…っ…これは」
「好きなんだ? うしが…」
尋ねられて何気に恥ずかしそうに顔が赤くなっていく──
なんだか夏希ちゃんの新たな一面を見た気がして、あたしはつい真顔で戸惑う夏希ちゃんを見つめた。
・
「これは虎太郎にあげようと思っただけだから!」
何故か夏希ちゃんはムキになって背を向けた。
どうしようか?
こんな時って、一緒にうわぁ、カワイイッ!
なんて言って楽しむべきだったんだろうか……
背を向けたままの夏希ちゃんの耳が微かに赤い。
あたしは仕方なく苦笑いして棚に手を伸ばした。
「使いにくそうだけどインテリには良さそう! 何個か買ってく?」
「───…」
夏希ちゃんは目を見開いてそう言ったあたしを振り向くと、うつ向きながら頷いた。
なんとなく、今の夏希ちゃんの気持ちがわからないでもない──
小さな頃から大人の中で仕事をしているという責任感を背負いながら育ってきている筈だから──
夏希ちゃんの部屋を見て驚いたのは、キッチン用品が充実しているにも関わらず、そこはまるで料理番組のセットのようで、生活感を微塵も感じなかったからだ。
夏希ちゃんの部屋はシンプルを通り越して余りにも殺風景だった。
・
今までずっと、芸能界という仕事に打ち込んできた証しなのだと思う。色んな役を演じる為なのか、あの部屋には夏希ちゃんのカラーというものが見当たらない。
夏希ちゃんはたぶん、昔に経験することのなかった感情。今、初めて素のままの子供の気持ちに戻っているのかも知れない。
その姿は今まで誰にも見せたことがない、あたしだけが知ることのできる夏希ちゃんの一部だったりするのだろうって…
思うわけで。。。
二人の距離はホントに少しずつ…
縮まっているんだろうな…
二人で一緒に住む為の準備。今日は夏希ちゃんと街の中で手を繋いで初めてデートする。
すれ違い、時おり振り返る人々なんて夏希ちゃんは一切気になんてすることもなく、あたしの手を強く握っては嬉しそうに笑い掛けてきていた。
あたしを見つめる度に夏希ちゃんの瞳に“好き”が込められている──
こんなに想われてなんだか少しこそばゆい。
夏希ちゃんの愛情全部があたしに向けられている。
それは余りにも穏やかで、そして消えることのない、ましてや消すことなんて到底無理な愛情だと…
この時のあたしにはまだそこまで知りえることは出来なかった──。
・
マンションに戻ってインテリア用に買ったアニマル柄のコップを二人で棚に飾る。
これが中々…飾るつもりで手にすると、あたし自身もあれやこれやと欲しくなっちゃったわけで……
棚にはゼブラにキリン、もちろんホルスタイン柄に豹やトラ。
飾りきるとそこは小さなアフリカ大陸になっていた。
夏希ちゃんが気に入ったホルスタインのコップには、握り手を型どった尻尾の根元。言わばお尻の所にハエがついている……
夏希ちゃんいわく、このハエに思わず惚れたんだそうな。
虎太郎君にもあげるつもりで一個はラッピング。夏希ちゃんからすると虎太郎君は昔の自分を思い出させるらしい──
「トラの側にシマウマなんて置いちゃ食われるよね」
楽しそうに鼻歌を奏で、夏希ちゃんはアニマル柄のコップの向きを悩みながら考えている。
「すごいっ、ミニサバンナが出来上がった! あ~、…でもなんかもう一つ足りない気が…」
顎に手を沿える夏希ちゃんを見てピンとくる。
あたしは百均で購入した小さな観葉植物をそこに飾った。
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