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しおりを挟む手のひらサイズのガジュマルの樹とミニサボテン。飾ってみれば中々本格的な自然界がそこに広がっている──
夏希ちゃんもその絵に満足した笑みを浮かべていた。
「晶さん…」
「ん?」
「アフリカ行ったことある?」
夏希ちゃんは後ろから抱き締めながら聞いてきた。
「ないよ? てか海外なんて一度も…夏希ちゃんは……あるよねロケとかで?」
「うん、でもアフリカのロケは中々ない…13の時一度だけ行った──…すごいよ星空が…」
「………」
「あれはもう一回プライベートで観たいって思う」
「………」
夏希ちゃんは思いを語りながら抱き締める腕にきゅっと力を込めて囁いた。
「次は晶さんと行く……」
「………」
夏希ちゃんは後ろから覗き込むようにあたしを見ると、ね!。そう言って屈託ない笑顔を見せていた。
夏希ちゃんのこれから先の夢には必ずあたしがいる──
常に一緒だと言うことを一生懸命語る夏希ちゃんを見上げてあたしも頷いて見せた。
アフリカの景色──
テレビでは何度も視たことがある。
それでも生で見る大自然の世界は圧倒的迫力と美しさを秘めてるんだろう…
なんて想像だけは膨らむわけで…
「二人で行けるといいね!」
「行けるんじゃなくて行くんだよ? 何言ってんの?」
夏希ちゃんは当然のように威張ってそう口にしていた。
・
洗面具や食器類。新しい生活の為の品を広げて所定の位置に並べるとこの部屋はいつの間にか二人の色に染まっていた──
光の君の撮影も残す所あと数回。最近は晶さんが喫茶店のバイトが休み前にはこっちのマンションに泊まり込むようになっていた。
その為に購入した自転車。
和らぎまではそれに乗って15分。今までの通勤時間と変わらない。
仕事が落ち着いたら免許を取ることも俺は計画に組んでいた。
晶さんとこれからを。って考えたら必要ないと思っていたことが必要になっていく。
ただ、一緒に居れればいいなんてのは無責任な男の身勝手でもあるから。
その辺は俺なりに真面目に考えているわけで。
「なんか夏希ちゃん楽しそう」
「楽しいに決まってるじゃん」
間接照明だけを灯した部屋で二人、ベッドに入って向かい合っていると晶さんが俺を見てふふっと笑った。
楽しくない筈がない──
自分の部屋のベッドで隣に好きなひとがいる。
ただ、これに慣れて来ると晶さんが泊まりに来ない日は異様に寂しくなって、結果…
どんなに遅くても晶さんの部屋に通う破目になってしまっている。
・
俺はもう重症だ──
とてもとても重い病に掛かってしまった。
これはきっとどんな名医に掛かっても絶対に治せないんだろうって自分でも自覚しているわけで──
俺を見て笑う晶さんの頬を薄明かりの中で手探りしながら優しくなぞる。
晶さんは少し擽ったそうに首を竦めて笑いを溢していた。
「もうすぐだね、撮影終わるの」
「うん…」
囁く晶さんに答えながらその身体を抱き寄せる。
自分と同じシャンプーの香りを感じる晶さんのつむじに鼻先を押し宛て、俺は晶さんの頭を包み込んだ。
俺の背中に回った晶さんの手がぎゅっとしがみついてくる。
それが嬉しくてしょうがない。そんな幸せを噛み締めながら好きな人を思いきり腕に抱き締める。
もうこんな幸せを知らなかった日々には戻れない。
ずっと……、芝居だけに打ち込み人が求める役を演じて自分でもそれに満足してた──
こんな幸せを、どうして知らずに今までやってこれたんだろうか──
そう思いながら、腕の中でいつの間にかぐっすり眠る晶さんの寝顔を見つめる。
晶さんの小さなベッドより、はるかに広いせいかゆとりを持って身体を休められる。
それでもぴったりと身を寄せて俺は晶さんを抱き締めた。
くっついて眠るとベッドにはかなり余りができる。大きい意味がないと自分で思いながらも晶さんからは離れられない。
寝返りを打っては離れて行く晶さんを度々自分の方へと引き寄せながら、俺もゆっくりと目を閉じていた。
・
◇◇◇
「はい、カーット!」
セットの向こう側で声がする。橘さん率いる「光の君」ドラマ撮影陣も今日はやけに熱が入っていた。
今週からドラマ撮影も終盤に取り掛かっている。クランクアップを間近に控え、意気込むのはもちろんキャスト達だけではなかった。
「いいね~藤沢君! 終盤迎えて益々ノッてきてる感じがするな!」
一休みして隅に設置された長テーブルの椅子で寛ぐ俺の肩に手を掛けながら橘さんが覗き込む。
「ノッてるように見えますか?」
態とらしく聞き返す。
ノッてるなんて当たり前、このドラマ収録が終われば晶さんと一緒に過す日が待っているわけだから。
「ああ、ノッてるノッてる! 言うこと一つもない! 今まで待った甲斐があったよホントに」
べた褒めの橘さんに満更でもない笑みが勝手に漏れる。
そんな顔を浮かべる俺を向かいに座ってた風間さんがニヤニヤしながら笑っていた。
「その笑い方! ほんと社長にそっくりでイヤになるっ、何が言いたいわけ?」
「そっくりなのはしょうがないだろ、実の兄弟なんだから」
配られたミネラルウォーターを口に含んで喉を潤すと風間さんは肩を竦めて茶化すように口にして返した。
「お前は見掛けに依らず一途だったんだな?」
「……?…なにそれ?」
聞き返した俺に答えずに風間さんはただ意味深な笑みを浮かべるだけだった…。
・
光の君最終話は二時間拡大の特番放送だ。物語りは秘密の逢瀬を繰り返す光の君と藤壺の別れのシーンとなっている。
義理の息子に迫られ拒みながらの背徳の関係。
想いを寄せ合っているにも関わらず、出逢った御互いの立場を悔やみながら別れを決意する藤壺。
そしてそれを拒否し続けて迫る光の君──
実の父を裏切ってでも手元に置きたい我が儘を危うい男の色気で押し通す。
この物語り一番の官能のシーンだ。
狂い咲きの夜桜の下で逢瀬た光の君に別れを告げ、それを拒んだ光の君に桜木の根元で押し倒されて一つになる──
もっとも官能的な濡れ場。
それこそ監督もギリギリの肌の露出を狙ってる。
「次のシーンいきます!」
そんなスタッフの声に俺は静かに気合いを入れて椅子から腰を挙げていた。
「アクション!」
そんな号令がスタジオに大きく響く──
*~~*~~*
[春の嵐──狂い咲いて散り逝く花の名は…終焉の章]
ぬるくしっとりとした風が花の香りを強く嗅ぐわせていた──
見上げれば黒漆に塗り込められた夜空に色鮮やかな桜が狂い咲いている。
薄紅に差した濃淡の花弁が宙を舞う──
まるでそれは一つの反物を流したように空を漂うて、今宵の終焉を彩っているようにも思えた。
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