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しおりを挟む「また買わされたの?」
四角い底の紙袋を見つめてあたしは問い掛ける。
「そーよ、毎回。毎回。辞めて欲しいわよほんとに!」
会社絡みの付き合いで毎回この時期に課せられる社員へのノルマ。
送られてくるのはX'masケーキのパンフレットのようで、お義理立てもあってか毎年春子姉は沢山のケーキを買わされるのが恒例になっていた。
「今から親戚巡りしなきゃなんないわ」
溜め息をついて春子姉は目の前に置かれた珈琲を一口啜っていた。
「でも、姪っ子さん達喜ぶでしょ? いつもこんなにケーキあって」
「まあねー、可愛いって言えば可愛いけどねー…早く高田ちゃん来ないかしら…」
半分は高田さんに買わせようと狙う魂胆が丸見えだ。そう企んでいる背中に勘づいたのか、ドアをゆっくり開けた高田さんが隙間から店内の様子を視察していた。
「あ~!! なにそのコソコソとした態度はっ」
直ぐに見つかり指を指される。
高田さんは観念したように苦笑いしながら中に入ってきた。
「駐車場に車があったからもしやって思ったんだよ」
諦めて高田さんはカウンターに腰を下ろして珈琲を注文していた。
駐車場に止められた春子姉の車の後部席にケーキの袋を見つけ、多少は覚悟したようでもあった。
・
毎年恒例。
高田さんも間接的に、この春子姉の会社の義理立てに参加させられる羽目になる。
高田さんは一個四千円のケーキを三つ買わされて二個はあたしに毎回くれるわけで──
一つはアイスケーキともう一つはスポンジケーキ。
何気にあたしもこの恒例に春子姉の姪っ子同様、有り難く授かっている一人だったりするわけだ。
今夜は早くの店じまい。
貰ったケーキを自転車のカゴにギリギリ詰め込んで、あたしは家路を目指した。
夏希ちゃんのマンションへの道に慣れたこの頃。
マスターが作ってくれたローストチキンも手土産にしてあたしは自転車を走らせる。
部屋に帰れば夏希ちゃんが腕を奮って御馳走を用意してくれていた。
「お帰り」
嬉しそうな顔で振り返る。
「何作ったの?」
「簡単な物だよ、チキン貰ったって聞いたし二人だから沢山ありすぎても食べきれない」
そう言った夏希ちゃんの手元をあたしは覗いた。
「簡単そうには見えない…」
「炊飯器で炊いたパエリアとサラダ…あとオニオンスープ。簡単じゃん」
「………」
盛り付けのせいなのだろうか──
あとはチーズとクラッカーのオードブルがテーブルに並んでいる。それもよく見れば、自分で色々具材を乗せて楽しめるようにしてあった。
確かに手は込んではいない。
「料理センスか…」
あたしはフーンと鼻を鳴らしながらテーブルに座った。
・
部屋の隅に飾ったツリー。
二人で食事を楽しみながら夏希ちゃんは甲斐甲斐しくあたしのお皿に料理をとって乗せてくれる。
尽くしてもらう気持ちよさ。あたしは存分にそれを味わっている。
夏希ちゃんはどうなんだろう──
そう思うあたしの前で、夏希ちゃんも楽しそうにちょこまかと動いてはニコニコ笑っている。
たらふく食べて二人でお風呂に浸かり仲良くベッドに入る。
夏希ちゃんは終始楽しそうな笑みを絶やさずにあたしに向けていた。
「晶さん……」
横になって向かい合うと夏希ちゃんはあたしの手に唇を押し付けながら囁いた。
「俺、こんなX'masって初めて過ごした……」
「楽しかった?」
「楽しいってかすごい幸せな感じ」
「女性経験、沢山あるっていってたのに…初めてなんだ?」
「………」
夏希ちゃんはごろんと天井を向いて考えていた。
「うん…沢山ありすぎても何も残ってないね……」
今までの付き合った彼女を振り返ったのか、夏希ちゃんは小さく口にした。
そしてまたあたしの方を向き直ると頬を撫でた。
・
「俺、なんで晶さんに惚れちゃったかな…」
「…ぷっ…なにそれ」
今更な疑問を投げ掛けた夏希ちゃんに思わず笑った。
「じゃあ、惚れるのやめる?」
「無理。」
「………」
「やめかたわからないから…」
夏希ちゃんはそう言ったとたんにあたしを抱き締めた。
「そういう話しはダメだってっ…」
「自分からしたじゃん先に…」
「してないよ、なんで惚れたかちょっと考えただけだよ」
「……で、答えはでたの?」
「………」
「どうして惚れたの?」
「………一目惚れだった…」
「………」
「初めて逢った時に惹き込まれた……」
夏希ちゃんはそう言いながらあたしの顔を手のひらで包み込む。
指で瞼に触れながら、夏希ちゃんはそっと親指で唇をなぞった。
「晶さんの瞳に惹かれて…ノーブラでチンコ鷲掴みにされた…」
「ぶっ…なにそれっ」
夏希ちゃんは吹き出したあたしを笑っていた。
「急所を掴まれたってこと!」
夏希ちゃんは言い切りながらゆっくりと覆い被さってくる。
「晶さんに全部一気に持っていかれた……だからなんで惚れたかわからないまま夢中になった…」
唇を開きながら近付くと夏希ちゃんはそう言って甘く吸い付いてきた…
・
熱い吐息の合間に掠れた声が時折漏れる。
ゆっくりと背中に回った手がまさぐりながら回遊していた。
「晶さん…」
「なに…」
夏希ちゃんはあたしの首筋に潜り囁く。
「離れたらだめだよ…」
「………」
「こういう時は離れないよって言わなきゃ…」
「離れないよ」
「………なんで俺の言ったあとに言うかな?」
「だって今、言わなきゃって…」
「無理矢理は意味ないからっ…もうっほんと思うようになんないんだからっ!」
夏希ちゃんはそういって悔しそうにまた首筋に顔を埋めた。
あたしは仕方なしにそんな夏希ちゃんを抱き締める。
二人でギュッと力を込め合いながら笑っていると夏希ちゃんは急にあたしのオデコに自分の額をコツンと預けていた。
「晶さん…」
「うん」
「好き……」
「………」
「晶さんは?」
「好き…」
「ほんとに?」
「好き」
「誰よりも?」
「好き」
不安を消すための確認作業。夏希ちゃんは催促を何度も繰り返す。
聞かれて答え続けたあたしを夏希ちゃんはふっと笑うと思いきり胸に抱き締めていた。
・
胸元に顔を埋めた晶さんが甘えるように鼻を擦り寄せる。
常に二人。
これからはこんな日が続いていく──
芸能界という世界で演じ続けた藤沢 聖夜──
そして、初めて見つけた柏木夏希の居場所。
そうあり得ない展開で始まった二人のありきたりなラブライフ。
こんな終わりのこないドラマがあってもいいはず。。。
俺はそんなことを思いながら……
基──、願いながら腕の中にある晶さんの温もりを存分に噛み締めていた──。
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