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34章 きっかけ
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「いらしゃいませ──っ…」
テーブルを拭いていると、ドアがカランと音を立てた。客を迎えるために思いきり笑みを浮かべて振り向いたあたしは思わず息を飲む。
ヤケにデカイ。ドアの枠スレスレを潜り、店内に入ってきた男はあたしに向かって手を挙げる。
「よっ! 真面目に働いてるな」
「……お金貰ってんだから当たり前。てか何しにきたの?」
カウンターに座り、前にぶつかる長い脚を大きく横に開く。
「マンション探しに行くってメールしただろ?」
あたしは聞いてハッとした。確かにそんなメールが届いてた。大学の休みに入った高槻はこっちの会社に就職するために春から住むマンションを探しに来たようだ。
「で、もう決まったわけ?」
「ああ、決まった」
「早っ」
「直ぐそこ」
「え!? この近く!?」
驚くあたしに高槻はニヤリと返すと鍵を差し出した。
「なにこれ?」
「来月から引っ越すから掃除でもしといて」
「なんであたしがっ」
相変わらずふてぶてしい俺様な奴だ。
「未来の旦那の住む場所だろ? 清潔に保つのは妻の務め。ここも今度から通うから」
呆気に取られるあたしに構わず高槻は珈琲を注文した。
・
相変わらずな行動力だ。そう思いながらあたしは珈琲を渋々入れる。
高槻は普通に客としてカウンターに居座りを決め込んでいた。
「あいつと一緒に住み始めたんだって?」
「そうだけど」
たぶん多恵ちゃんからの情報なんだろう──
高槻は探りながら聞いてくる。
「持つのか? 一緒になんて住んで……」
「何が言いたいわけ? てか、今までも一緒に住んでるようなもんだったから…」
ぼぼ毎日一緒。どっちの家に居るか、それが違うだけで正直今更な感じだ。
「そうか? 全く一緒に住むのと通い婚とは違うと思うけどな」
「なにそれ、経験した口振りだね?」
聞いたあたしに高槻はハッとしたようだった。
「ふーん…なに、同棲して失敗したんだ?」
追求したあたしに高槻は少々バツが悪そうな顔を見せている。
「別に失敗はしてないけどな……あんまり四六時中一緒に居ればぶつかることも出てくる…」
「ぶつかって別れたわけだ」
「………」
高槻は黙ったまま珈琲を口に運んだ。
ぶつかるなんて今更だ。夏希ちゃんとケンカなんてそれこそしょっちゅうしているわけで。
別にお互いの良いところだけを見せあってるわけでもない──
正直なところ、ダメダメなところを今までもガッツリ見せあってる。
・
「うまくいってるから心配しないで次を探しなよ」
あたしは高槻に冷たい一言を返していた。
珈琲を飲み終えた高槻は小さな溜め息を吐くと椅子から腰をあげる。
「あいつは根っからの芸能人だからお前には合わないって思うけどな俺は」
「そう思う根拠はなに?」
「お前ヤキモチ妬きじゃん。あいつのラブシーンとか平気でいられないだろ?」
「───…」
「この間の役も濡れ場だらけじゃん…お前がそんな男と付き合っていけるか?…」
「……っ…」
高槻の見透かしたような言い方につい動きが止まった。
ヤキモチ妬きなのは事実だ──
高槻と付き合う前から何かとあたしは高槻に群がる女子に妬いてきた。
スポーツする男って、さして顔は良くなくても何かとキャーキャー騒がれる。
特にそれが部のエースとかってなると尚更後光で目が眩んで現実がねじ曲げられる。
あたしの気持ちを知っていた高槻は何かとそれを利用してヤキモチ妬くあたしを楽しんでいたわけで。
・
「彼の場合は仕事だって割りきってるからっ!」
そう言いつつも高槻の言葉が頭から離れなかった。
そんなに激しい濡れ場なんだろうか…
正直なところ録画はしていれどまだ一度も見た試しがない。
別に視てくれって夏希ちゃんに言われたわけでもないし……
「まあ、何かあったら電話しろよ…」
高槻は一言残して店を出る。
その姿を目で追うと高槻は車に乗って去っていった。
車なんていつの間にってやつだ。
高校卒業して免許を取りにいったのは知っている。高槻のあの口振りからしてやっぱり彼女との同棲が上手くはいかなかったんだと確信できる。
なんだろう──
その彼女と上手くいかなかったからあたしなんだろうか?
なんで今更……
あたしは溜め息を吐きながらテーブルに目を剥けた。
「───…!?っ、やだっあいつ鍵を置いたままじゃんっ…」
意図的なのかなんなのか、突然現れた元カレシ。
高槻はあたしの心を荒立てたまま、マンションの鍵を置いて立ち去っていた。
その結果──
あたしは見たくもないものを見る羽目になるわけで……
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