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第一章 出会い編

3話 ルバール宿舎

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アレンは歩きながらトイレや公衆浴場、食堂の場所、ついでにペーパーの替えの置き場所までもを丁寧に説明してくれた。


アレンの話を聞きながらアルは辺りを注意深く見回す。


‥よし、警備らしい人もいないな… 念のため聞いておくか…


「こんな広いのに、警備の人とかはいないの?」

「いますよ、‥ニコッ!」

‥えぇっいるのっ?──   どこにっ!?

人気のない宿舎内をアルはキョロキョロと見回す

「この宿舎にはいません」

「え?」

…あぁ、なんだ……
てっきりどこかの国の──‥なんだっけ?姿を隠すのが得意な‥ イカとかコウカとか‥硬貨?だっけ…ニンジン?てのもあったな…


(──それを言うなら、伊賀と甲賀と忍者である‥)



「警備なら、大会の賞金や褒美等を納めてある倉庫を重点にしております…

ただでさえ屈強な輩が集まってるのに、何もない宿舎を狙う変わり者はいませんよ…
今ここは警備兵より強い者の巣と化してますから…ニコッ!」


‥そう言われてみれば──
‥じゃ、ティム達も入って来れそうだな…よしっ‥


「あ、そうだ。昼間に騒ぎに巻き込まれたそうで?」

「うん‥ちょっとね」



「ですから、念のためまた騒ぎが起こらないように、あなただけ個室を用意しておきました。
ゆっくりできると思いますよ~ 
他の方々は共同ですから」


「へえ‥それは有り難い」


「ええ、なにぶんルイス殿に──“丁重に”と…‥

浴場も他の方々と
“かちあわない”ように時間をずらしてあります。ただし一番最後になりますけど。その辺は ご了承下さい」


「充分ですっ!ありがとうございますっ」


「いぇいぇ、何分、ルイス殿に “丁重に” と…」     (ニコッ!)


「…わ、かりました」


「お食事の時間と入浴の時間は先程、お渡しした紙に書いてありますので、ほんとに穴~があくほど読んで確認して下さい!  
もし面倒だと怠れば、命取りとなるやもしれません!
お~わ~か~り~で~す~ね~?」


語尾の言葉の方で、アレンはずずぃっ!とアルにアップで寄りきった。
半分、脅しが掛かっている。


「…はぃ、‥必ず、読みます」 


「そうですか。ではこちらがお部屋になります。鍵もお渡ししておきますので‥」



「あと‥もう少ししたら
夕食のお時間になります。バイキングでおかわり自由ですから、 たぁっぷり 頂いてください…(ニコッ!)」


「はい!ありがとうございます」


「え~‥他に何か聞きたいことは?」


「今は、とくに…」


「そうですか?ではまた何かございましたら私、先程の受付室の2階の部屋に寝泊まりしておりますので、お声をかけていただければ…」


「うん、その時はよろしく頼みますっ!」


「では、ここで失礼致します‥」


アレンは深々と頭を下げて去って行った。

…すごいな、至れり尽くせりってこういう事を言うんだろうな‥
まさしく痒い所に手が届くってやつ…?

何処かしらルンルン気分でドアノブに手をかけるとガチャっと、アルが扉を開ける前に隣の部屋から男が出てくる‥



「──…っ…」

「………」



…一瞬お互いの目が合う…

──だが、無言のまま男は立ち去りアルも静かに部屋に入ると近くのベットに腰掛けた。


「──……っ」

・・・・ちょっとまてっ!?

今のは昼間の“奴”じゃなかったか!?   

よりによって隣の部屋かぁ?!!    

くぅ‥っ全然っ 痒いとこに‥届いてないっ!!


これからの二週間が思いやられるっ!と思うとベットで平泳ぎせずには居られないアルだったのだ。


「──…ハッ…」


‥こんなとこで泳いでる場合じゃないっ!  ティム達を迎えに行かなきゃ!


アルは自分達がこれから泊まる部屋をゆっくり見渡した。


…大きめのベットが二つ‥小さいから十分寝れる……‥よしっ細かい事は後で考えるとして、迎えに行ってこようっ! 


アルは部屋を後にして外に向かう。 
その後ろ姿を部屋に戻ってきたザドルは静かに見つめていた。












――ガサガサッ



「オイ……  ティム‥ティーム…」

辺りを気にしながら小さく呼び掛けたが返事がない。
‥参ったな…
日暮れ時に役所広場の庭園で落ち会う約束だったのに…遅れまくったもんな… 


日暮れどころか、日は遠の昔に落ちていた。



無事だといいんだけ…


「ワァッ!」

――ビクッ!!?
「ぅわっ…」


「へっへー! ビクッてしたっ?  ねーねー」


見るからに悪戯っ子のような少年が、鼻柱を擦りながら現れた。

「ティム!?」

「ねぇねぇビクッてしたぁ?」


――ねぇねぇ♪
――ねぇねぇ♪



後に続いて子供達がわらわらとじゃれてくる。



その子達の顔を確かめて、アルはホッとため息をついた。

「よかった!…みんな揃ってるね……どこ行ってたの?」


「だって、アル遅いじゃんかっ!?  オレらちゃんと約束通りここで待ってたんだぜッ!!」

――ぜっ!
――ぜっ!
――じぇ!

ティムに続いて3人の子供達が口まねをする

「ごめん!ちょっとトラブル続きで手続きするのに時間が掛かっちゃって……」


「…手続き、うまく行ったのかっ?」



「うん、何とかね‥‥‥


ジョンおいで‥。 」


アルの足元でジタバタと遊んでいる男の子を抱き寄せ頬ずりすると、白いマシュマロのような柔らかな頬っぺたがひんやり冷たい…

アルはその温度に切なさが込み上げた。

冷たい夜風に吹かれ、乾いた唇をきゅっと噛み締める

「ごめんね…みんな、こんなに待たせて……」


‡季節は5月、昼間は汗ばむ陽気なのに乾燥しているせいか、夜になるとめっきり冷え込む‥
 子供達の冷たくなった手を握ると否応なく実感してしまう…

いつもはあんなに暖かいのに!‥

‥ほんとに…ごめん‥!!


アルは心の中で何度も詫びていた……。


  
「よしっ!行こうっ
ここに居ても寒いだけだからっ!」

「行くって どこへさっ?今夜も野宿だろっ?」

アルはニヤっと笑った

「いやっ今夜は違うよ‥
暖かいベットで眠るんだ‥‥暖かい‥ね‥」


アルの言葉にティムはきょとん、として言った

「意味わかんねーよ?…──!っ…まさかアルっ悪に手を染め…」


「…る訳ないでしょっ」

「…ですよねぇ…じゃ、なんで?お金もないのに…ベットで寝れるの?」


「タダ、なんだよ…

ここの宿泊施設が‥」


アルはティムにそっと耳打ちした。

「っタダッ?…ほんとにっ?」

アルはニコリと頷く。

「それだけじゃない、温かいご飯も、お風呂も全部っタダっ!!」 


ティムの表情がぱぁっと明るくなり、瞳がキラキラと輝きはじめた

「すっげぇ…!」

―すっげぇ!
―すっげぇ!


10才のティムの後に7才のユリアと5才のマークが続いて歓喜の声をあげた

3才になるジョンはさすがに待ちくたびれたのか、いつの間にかアルの胸の中ですぅと寝息を立てていた…


「ティム、…マークと手を繋いであげて。ユリアはこっちで繋ぐから‥」


「うんっ!OK!」



「じゃあ、行こう。なるべく静かにするんだよ」


「ラジャッ(了解)」

――ジャッ!
――ジャッ!

三人は額にビシッと手をあてて敬礼ポーズをとった










――ガサッ

――ガササッ




―――ドテッ!?





腰を屈めて、こんなの朝飯前!。くらいに軽快な足取りで歩いていたティムが突然、豪快な前転を披露した。

「シーッ! 何やってんのよ!  ティム ったら!!」 


7才のユリアにいさめられるティム……ティムは普段からユリアに叱られる事が多かった。


「だって、ツタが足にっ‥」

「調子に乗ってアルの前を小走りするからでしょっ!? とにっ…10才になっても、まだまだ青いんだからっ!!」


「ごめん…」

ティムは しゅん と大人しくなった。  
親を早くに亡くしてどうなるかと思ったけど…なかなかしっかり者のお嬢さんに成りそうだ……



‥しっかりしすぎかな…



アルは二人のやりとりを見て苦笑いした


「ユリア、そのくらいにしてあげて‥
転びたくて転んだ訳じゃないんだから‥」

アルはティムをかばうと少し先の部屋を指差した。



「ほら、あそこが部屋だよ‥

今日から二週間だけど、あの中なら自由にできる‥
ただし、騒いじゃ駄目だ…

わかったね、ティム‥」



「っなんで、オイラ!?」


「ティムが一番危ないでしょ!!」

アルに念を押され、ぷぅっと膨れっ面のティムにユリアが留めを刺した。

「‥みんなも、いいね?ほんとは大会参加者しか泊まれないから、見つかったら追い出されるかもしれない‥
部屋に出入りする時は‥」

「‥時は?」

4人で小さな輪を作ってアルは提案した


「…………隠れんぼ、だ」



「──…!」

囁いたアルのその言葉にみんなの瞳が生き生きとした。

それと同時にワクワクと興奮さえもしているようだ


‥やっぱりまだ子供だな…


無邪気に喜ぶ子供達をアルはとても愛しく思った……

『この笑顔を守りたい!
 

 …絶対に、守るっ!!』



この想いに揺らぎはない。
アルは今日一日で自分がすごく強くなれた気がした…

――ペタペタペタ


石造りの廊下を走る音がする。
ティムは部屋の前にくると誰も来ないか確認し、ドアの鍵を開け後方で壁に隠れ見守ってるみんなに‘コイコイ’と手招きで合図を送った。


その合図を確認してアル ユリア マークが目を合わせニヤリッとする…  
ジョンはぐっすり熟睡中だ。



「―ヨシッ! ハシレッ!!!」


小さな声で号令を掛けると、みんなで一斉にダッシュして部屋に走り込んだ !


「――ハァっ…」

うまくいったっ…

荒い息をこらえながら4人で目を合わせると、なんだか笑いが込み上げてきた 

―クッ!
―ぷっ!
―フフ!
―ププッ!


楽しい……なんだか、すごく楽しい!

「…ダイセイコウ ダネ!!」

「ウンッ!」

「コレカラモ、ゼッテーミツカンネーゾ!」


部屋に入ってからもなおしゃがみ込み小声で話す…


「ボク…マタ、ヤリタイナッ♪」 

「……これからとうぶんはこの生活だぞっ」


マークのボケにティムがすかさずツっ込んだ…。



  ∫ 時を同じくして


   王に呼ばれた二人は

 謁見室に向かっていた ∫





「……フフッ」


「…遅れてきたわりに、えらいご機嫌だな、ルイス!?」


「えっ?」


「国王も呆れてたぞ?“相変わらず”だ。って…そんなんでよく精鋭の隊長が務まるな?」


先に謁見室で待っていたロイドは、なかなか来ないルイスを後戻りして迎えにきていた。


「“えっ?”じゃ、ないだろ?含み笑いしてたじゃないか、今」


謁見室へと向かいながら歩く二人の長い足は、不思議なほど自然に足並みが揃っている。

「ああ…悪い。ちょっと、ね…新しいおもちゃ見つけてね♪ フフ‥」


「なんだ‥電動か?」

「そっ!電動で今日から俺は疲れ知らず!‥って

コラーッ!読書の皆さんの前で変なこと言わすんじゃないっ!!

…コホッ///」

ルイスは赤い顔で咳払いをして気を静める。


「…ちょっとね。
とうぶんは退屈しないかな~なんて……ザドルにもいい影響になればと思ったんだが‥」


「…今度は何を企んでる?」


 
  *

「人聞きの悪い事言うなよ…それじゃあ、毎回俺が何か企んでるみたいじゃないか…」


「違うのか?」


「──…っ…う~ん……

作戦を練ってると…‥」

「同じだ!バカッ…」

ルイスの答えにロイドは呆れた。
それでもルイスと居るのは心地いい。身分は違えど二人は幼い頃からの“信友”

大人になってからも程よい距離感で自然に振る舞える唯一、無二の真友。なのだ

くだらない会話を交わしながら二人は謁見室に向かって歩いた――


「…しかし、兄貴も急に何なんだろうな?俺とロイを一緒に呼び出すなんて…」

「お前も知らされていないのか?」


「あぁ…今度の闘技会だってそうだ。見たか?
あの膨大な金品の量!?
4、5年は遊んで暮らせる…

しかも今回、褒美を貰えるのは優勝者だけじゃない。上位20位までが対称だ…
優勝はできなくても20位までなら何とかイケるだろうって奴らが、わんさか受付にきてやがる。

はっきり言って“来るもの拒まず”って感じだ…
兄貴に理由を聞いても
『出来るだけ集めてくれ!』の一点張り…
仕方がないから 参加権利の規準を甘くしたら、あんな子供までくる始末だ」


ルイスは方をすくめた



「闘技会の怖さを知らないんだろ………」

ロイドは表情を変えず話す

「あぁ‥多分ね。
よそ者だと思う…たまたま募集のビラを見た感じだった、ちょっと脅しをかけたけど‥
逆効果だったよ。かえってイキイキしちゃって…

何とか手を打たないと…」

「参加規準が甘くなったってことは、あの“三兄弟”もきてるかもな…‥

“悪魔の従者リッパー”
“殺戮の申し子ジゼル”
“鮮血の騎士シド”」


「たぶんな‥まだ参加名簿が仕上がってないから、なんとも言えないが…
闘技会を出入り禁止になった奴らも今回は、参加してると思う… 
血に飢えた奴らだ…願わくば、参加名簿に載っててほしくないね……」

そう言いながら、ルイスはブロンドの髪をくしゃ、とかきあげた


「あぁ、そうだな……」

そしてロイドも小さくため息をこぼす――


謁見室の前まで来ると警備をしていた二人の騎士が敬礼をして重厚な扉を開いた。

それに敬意を示すようにロイドとルイスも軽く敬礼をして扉をくぐる

謁見の間へと通された二人は、広い部屋の中央奥にある王の玉座へと敷かれた紅い絨毯の上を導かれるように歩き進んだ――



玉座の前まで来ると二人は軽く握った拳を胸にあて、深々と頭をさげ敬礼の意を召す。


「うむ、…二人とも頭を上げよ……」


威厳ある声に導かれ顔を上げると、目の前の台座には神々しい面持ちの主がいた。



§ブランデール・エドモント国王§

    19世


このルバール大国の頂点に立つ者である



口元から顎先まで伸ばした髭は綺麗に整えられており 肩下まである艶やかなブロンドは上品なウェーブでまとまり、様々な宝石をあしらえた王冠をより一層‥際立たせていた――

そして、何をも恐れないその威厳ある眼差しは、己に対しての厳しさ‥ 周りの者に対しての優しさで光り輝いている。
…少し誰かを思わせるような……

そう、彼は今、目の前にいる精鋭部隊隊長。
ルイス・エドモント ‥彼の長兄にあたる。

ルイスはエドモント王家の第五子。三男坊であった



「待ち兼ねたぞっ。
我が弟ルイスよ……
相変わらず、ロイドの手をこまねいているようだな…」



「申し訳ありません、国王。少々、トラブルがございまして‥その処理に追われておりました」


ルイスは軽く頭を下げた


「‥うむ、ならば至仕方ないが……
また昔のように城で迷子になったのかと心配しておったところだぞ……もう少し遅ければ捜索隊をだそうかと‥」


「‥ぷっ」

‥っ!?

二人のやりとりを聞いていたロイドが吹き出したのをルイスは聞き逃さなかった!

「あの…お言葉を返すようですが、王‥あれは迷子になったのではなく‥隠れんぼをして遊んでいただけです…」

「うむ、そうであったか」

五人兄弟の末っ子で上に兄二人、姉二人を持つルイスは歳も離れているせいか兄弟からとても可愛がられていた…
 とくに王とは15近く離れており、王にとっては目に入れても痛くないほど愛しい存在である


小さなルイスは城の中でよく、隠れんぼをした。
もちろん前国王にも兄弟にも城の兵士にも乳母にも見つけだすのは困難なほど。

隠れんぼのプロフェッショナルだった…
しかし…
ただ一人、王妃をのぞいては別だった。
城の者達全員を借り出しても見つけられないルイスを、王妃はいとも簡単に捜し当てた。




前国王は、それだけは不思議がっていたが、その王妃もルイスが6才の時に他界した……

見つけてくれる人がいなくなってからルイスはパタリと隠れんぼをやめた

…そして前国王も今の王が25才の時に他界し若くしてブランデールは王の座に就いたのだ――
髭を伸ばし始めたのも実は可愛いルイスのためである

幼くして両親を亡くしたルイスを不憫に思い、何とか前国王に自分を似せようと努力した結果…、
細面の顔に不釣り合いな揃いきらないチョビ髭をはやし、周囲からはブーイングの嵐だったが王はそのスタイルを崩さなかった?…

ここまでくればもう、立派なブラコンである…?

その王も今は立派に王としての風格を漂わせ、チョビ髭も生えそろい 今や存在感と威厳を醸し出す、
なくてはならないものになっていた……



「うむっ…他愛のない雑談もよいものだが、今は時間が惜しい…そろそろ本題にはいるとしよう……。 

貴殿達も気になっているだろうが、今年の闘技会…ちと、いつもと趣向が違う…」

「‥えぇ、おかげで参加希望者が押し寄せ受付場はてんやわんやです、…アレン達も処理に追われているでしょう……」

ルイスは肩をすくめた。



  
「うむ、…致し方あるまい状況が状況なのでな‥  」

「…状況、とは?」

「うむ、クラディウス。頼んだぞ‥ 」

ロイドが質問するやいなや、王は後ろに控えていた杖を持つ老師を呼んだ…

細身の体に腰下までの銀髪、頭髪と同じ色の長い顎髭をたくわえ、すべてを見通すような鋭い眼光も目尻の下がった深いシワが柔らかい印象に変える…
 見るからにして豊富な知識を兼ね備えた賢者‥そのものだった。


クラディウスは王に代わって事の真相を語り始めた‥







§§§§§§§§§§§§


西の空 紅に染まりし時

闇の王の復活を讃え

東の空 暁に輝きし時

神の従者目覚め

神の光り 黄金の輝き

闇を葬る 力与えん



§§§§§§§§§§§§




「…伝承の地に遺された古い言い伝え……もう二千年も昔の伝説話‥このルバール大国が建国される前の話しでございます…

神は天と地を創造し 天と地はそこからあらゆる生命を生みだしました‥

天は風(空気)を地は(水)を、そして様々なモノに生命の息吹を吹き込んだのです…

我々人間もその一つでございます──



我々生命を持つ者は神に創られ、そして生かされているのです

我々はそのことを忘れ、思うままに創成と破壊を繰り返し時代を紡いで来てしまいました‥

 そのことに嘆き悲しみ神は全てを創り直そうとし、動植物や海の生き物はその運命を受け入れ――‥…

そして我々人間だけが逆らい神に戦争を仕掛けたのでございます‥

 もちろん我々の惨敗でございます…ですが人間の情念とは末恐ろしいもの、屍となってもなお…
己の欲にかられ神にとり憑いたのです

神はもがき苦しみ己の魂をその感情に支配されてしまったので………んっ!?





っ寝るなっ!そこッ!!」

ドスッ──

「ガハッ…っ…」

老師は立ったまま器用に居眠りこいてるルイスの喉元に杖を打ち込んだ。

「痛っ……てぇ~」

ルイスは首に手を当てがいもがいている

その隣でロイドも老師の一撃にびびっていた。

‥よかった‥
気付かれなくてっ…

(ロイドよお前もか‥?)


ロイドは小さくホッと胸を撫で下ろす。

「人の話はしっかり聞くもんじゃっ!・・・っとに最近の若者んはっ‥」

クラディウスが呆れながら若者二人を叱責すると別の場所から‥

「んがッ…」

そんな激しい寝息が聞こえた。

「──っ?……なにっ?お前もかぁっ!?何故なんじゃブランデールっ!」


老師は王座で熟睡こいてる王の衿を掴みガクガクと揺すぶり起こした。


「…んぁ?…ああ、クラディウス……話は済んだのか?」


「……っ…王ーっ!」

眼半分しか開ききらないままの顔で尋ねる王に、クラディウスは目まいを起こしかけた。

「ク、クラディウス様っどうぞ気をお鎮め下さい!」

側にいた王の家臣ミラルドが、倒れかけたクラディウスに走りよると部屋の隅に待機していた兵に腰掛けとハーブティーを持ってくるよう指示する。

ふらりとした足取りでクラディウスは用意された椅子に腰掛けハーブティーを一口啜った…









「はぁ~~  やっぱり興奮したときはカモミールティーに限るのっ♪…」

「クラディウス様、そろそろ続きを……」


「…っやかましぃ!
少しは、老体をいたわらんか!!このぱかたれがっ」


同時に急かす若者二人に老師はキレた。



「ふぅ……では続きを‥

§己の魂を人間の情念に支配された神は、とてつもない欲望の固まりを心に宿し黒い神と恐れられ 
地の世界を支配しただけでなく天界をも己の手に掛けようと…… 
 これを神々は阻止すべく黒い神を迎え撃ったのです


‥だが…
天界での神殺しは、いかなる場合でも大罪‥
掟破りとなり、侵してしまえば自らが反逆者として天界から追放されてしまうでしょう…
例え相手が黒い神でも……

そこで神々は考えた──自ら手を下すことは出来ない…ならば我らの代わりに黒い神を葬る者を創れ…
と‥

そして創られたのが神の従者と呼ばれる者です…神は従者に神々の力を込めた剣を授け黒い神を葬るよう命じました……

黒い神は神の従者と激戦のすえ敗れ去り、暗黒の闇に落ち、己の使命をまっとうした神の従者もまた、深い眠りについたのです

これが《神々の大戦争》と神話で伝えられております………§


…と神話説ではそこで一件落着となっておるが‥
…‥実は、この話には続きがあると…

何千年かに一度、闇に落ちた黒い神が闇の王として復活し、すべてを恐怖で包み込むと……

神々はそれを恐れ、闇の王が復活する時が近づくと同時に神の従者の覚醒を導いた……



……と今、わかっているのはここまでじゃ……

近年、世界が少しづつ確実に変貌しつつある…
陸・海・空、すべてが唸り声をあげ世界を飲み込むと……




…各国では延々と止まない戦が起き、獣達は荒れ狂い人々の領地を侵し…人の手に負えない病が流行り、薬師も手をこまねいておる…


 まさしく闇の王の復活が近づいているのではないか?

……と思考せずにはおれん


今、神の従者が眠りについてると云われる
《伝承の地》について調べておるが──
なんせ、歴史が古すぎての……

資料がほとんど遺っておらんのじゃ……

わかっておるのは、伝承の地とこの、ルバール大国が何らかの繋がりがある、ということだけじゃて……、
‘藁をもすがる’思いなんじゃ……

この国の闘技会は有名じゃから各国から人が集まる。もし神のお導きがあれば…と、……そなた達にこの老いぼれの頼みを聞いてほしい‥
捜してはもらえぬか?
ただの伝説で終わってくれるなら、こんな喜ばしいことはない……が、どうも胸騒ぎがしてならん‥

わしも、もっとよく調べてみるが
もし、ほんとうに神の従者がいるのなら闇の王はほんとに復活を遂げ…そして、それを制す事ができるのも《神の従者》だけとゆーことじゃ………………頼む……」


クラディウスは若者二人に深々と頭を下げた――。


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