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第四章 伝説編
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しおりを挟むロイドに貰ったチョーカーの上から重ね付けされたそれを手にすると、アルはまじまじと見つめる。
つるりとした手触りの木を丁寧に削り、表面にはヤスリをかけてある。アルの手にすっぽりと収まるそれは手作りの木笛のようだった。
笛を眺めてとりあえず礼を言うとアルはレオを見上げた。
アルに見つめられてちょっと照れ臭そうに笑うと、しっとりとしたアルの頬にレオは手を伸ばす。
「まだちゃんと言ってなかったからな…」
「……?」
そう言ってはにかんだ顔を引き締めると真剣な眼差しをアルに向ける。
レオは目を細め、アルの頬を両手で包んだ。
「事が片付いたら山で一緒に暮らそう…」
「―――…」
驚く程に穏やかな微笑みをアルに向ける。
「一人が嫌だってんならチビ達も連れて行けばいい…」
レオの静かな囁きが、アルの心に優しく揺さぶりをかける…
「山は楽しいぜ…
酒呑んで踊って歌って…
毎日お前が笑って居れるようにしてやるから…
アル……俺と結婚してくれ」
――――!…レ、オ…
初めて聞いたような柔らかな声。レオは放心しているアルを厚い胸に抱きしめて、瞳を伏せた。
・
今更なのに胸が高鳴る。
何度となく嫁さんにすると言われてきている筈なのに、真面目な顔でプロポーズの言葉を口にするレオに、アルはときめきを感じずには居られなかった…
何だかレオと一緒に笑い合ってる自分の姿が思い浮かぶ。
ティムやユリアやマークにジョン…
みんなで山の生活を謳歌して…
きっと…楽しいんだろうな…
アルはふと、そんな事を考えていた…
「なるべく早く迎えに来る…それまでは…」
「………」
レオは抱きしめたアルを見つめるとゆっくりと瞳を閉じた。
そっと触れ合う唇が小さな水音を奏でる。
余りにもあっさりと離れていくレオの口付け。笑みを浮かべるとじゃあな、と背を向けたレオに、アルは思わず手を伸ばしてしまっていた…
レオはアルの行動に目を見開く―――
「あ、…あれ、…何かつい…へへ…」
慌てて手を戻し、アルは気まずそうに笑って見せると
「な、何だかレオがいつもと違うからもう会えないような気がして…」
そう言ってへへ…と焦った。
その途端、レオはアルを胸の中に捕らえていた。
くそ…
今直ぐにでも連れていきてえ!
レオは悔し気に顔を歪める。
・
「アルっ…ちょっとの我慢だ…」
これ以上一緒に居ると本当にアルを拐ってしまう!
レオは抱きしめたアルを手放すと、想いを抑えて窓から出て行った。
っ…マジでやべえ…
民家を越えながらレオは息苦しさに胸を掴む。
可愛い嫁さんにあんな顔されちゃ…くそ…
なんか無性に疼いちまうじゃねかよっ!…
暫くはまた逢えない…
つい今来た道を戻りたくなる。
レオはそんな思いに唇を噛み締めていた…
こうなったら何が何でも早急に事を片付けないと。
レオは前を見据え伸びやかなバネを持つ足を早め街を抜けると、街外れの草原を見張る人影を目に捕えた。
「―――ん!?…」
ああ、あれか…精鋭の奴らが何かしてるってのは…
ちょっと行ってみるか?
山に行く方向とは逆に、草原へと身を返す。
しかし、これが見張りたあ笑わせてくれるぜ…
雨を含み、湿りきった土を踏みしめ草影に身を潜めると、簡単に入り込めた精鋭の警戒心の無さにレオは苦笑を浮かべていた。
よどんだ夜空は月明かりもなく周りは真っ暗だ。普段は目を奪わんばかりの輝きを放つ発光色の花も、弱々しくぼんやりと光っている。
レオは辺りを見渡すと湖に目をやった。
・
「あれか…」
湖の真ん中にそびえる遺跡を確かめるとレオはゆっくり立ち上がった…
§……者よ…§
―――!?…なんだ……
さわさわと吹く風の音に紛れ、何かが耳元で囁く…
獣なみの聴覚を持つ耳を澄ませると、レオは遺跡へと続く石橋に足を伸ばした。
§…勇者よ………§
―――…!
まただ…
レオはピクリと耳を立てる。
§…試練を受けるのです………………§
……試練?…
§…青の使者に相応しき者よ……………§
青の使者に相応しき……
…って俺様に言ってんのか?
レオは眉間に皺を寄せ、少しずつ遠のいていく声を探っていた。
§勇者よ…試練を…越え…
守護神の……加護を…
……使者とな……さい…§
「…っああ!? 一体何が言いてえんだ!?」
聞き取り難さに苛立ちが募る。霞れいく声にレオは思わず声を荒げていた。
「おい!」
聞こえなくなった声に呼びかけるとチッと舌を打った。
…妙なとこで足止めくっちまったぜ!
バシャバシャと水が撥ねる。渡りかけの石橋を豪快に渡るとレオは中途半端に開いた台座を目にした。
・
なんだこりゃ?……階段?
真っ暗な中を覗き込み、獣なみの視覚で階段を見つけると、レオは台座の蓋をふんっ!…と気合いを入れて持ち上げた。
ゴリゴリと重い石の擦れる音が鈍く響く。
重量感のある蓋がズシリと脇に落ちると、ガタイのいいレオには狭過ぎた入り口がすっきりと晒されていた。
湿った空気が風通しの良くなった入り口へと吹き抜ける。湿気を含んだ苔で滑り易くなった階段を、レオは一歩ずつ踏みしめながら下に降りて行った。
下まで辿りつくと、レオは遺跡の中全体を見渡した。
…急に浮かんだ遺跡…か…
今度の騒ぎに関わりがあるかも知れねえな…
眉根を寄せて考え込むレオの目に青い光が差し込む。
…なんだありゃ…
ゆっくりと近寄ると、壁際に埋まった金貨くらいの大きさの石が鮮やかな輝きを放っていた。
「こいつは…」
青い光に照らされぼんやりと浮かび上がる…
レオは埋め込まれた青い石の下に描かれている獣の絵を眺めた。
「こっちにも描いてありやがる…」
視線を動かすとその隣にも二体の獣の絵が描かれ、その上には青い石と同じ様に二つ石ころが埋まっている。
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