260 / 312
第四章 伝説編
5
しおりを挟む今朝ティムを迎えに行くと、入れ違いでルイスに呼び出されアル達と三人で遺跡に向かったとユリアから知らされた。
自分も行って見ようかと一瞬思いもしたが、ティムの言う通り“馬は生き物”
朝一番の水汲みと餌は例え這ってでも行かねばならぬほど、大事な仕事でもある。
「…んっ…ほうだったっ! 兄ちゃんにも報告しなきゃなっ」
口から零れ落ちそうなパイを手で押さえながらティムは言う。
「昨日、勇者が見付かったんだっ」
「……―――なにっ!?」
「しかも二人っ」
「マジにか!?」
目を見開くロイドを見ながら頷くとティムはあーん、とまたパイにかぶりついた。
「誰だったんだそれは!?」
追求するロイドにちらっと目をやると、ティムはいっぱいに頬張った口をもぐもぐと動かしてぐっと飲み込む。
「…っんぐ…っしかも! その勇者がルイ兄ちゃんと狼の兄ちゃんなんだって!!」
「ルイス!? と狼のって…レオのことか!?」
うんと頷いてロイドが用意してくれたお茶をティムは美味しそうに飲む。
・
ルイスとレオが勇者…
ロイドは考えながら無意識に口に手を当てた。
どうやってわかったんだ?
「石に選ばれたんだって」
「――石に?」
ロイドの考えを先読みしたようにティムが口にした。今日のことをロイドに全て伝えるとティムはぽつりと口を開く。
「ねえ兄ちゃん…
オイラ、アルの代わりになってやりたい…」
「ティム…」
「だってっ…アルは女なんだ…これから冒険とか戦いとかっ…女なのにしなくちゃいけないなんて…」
ティム…
「…ティム…だからこそお前達が側に付いててやるんだ…その為に俺だって命を賭けてアイツを守る。だろ?」
ロイドはうつ向いたティムの頭を優しく包み込むと肩を叩いた。
まだ小さな背中。
あと五、六年もすればあっという間に大人の男と変わらぬ姿に成長する。
この歳からこれだけ頼もしいんだ…
いずれ俺は敵わなくなるんだろうな…
大事な人を思う気持ち
心は十分に大人顔負けだ。
ティムはふいにぐっと顔を上げロイドを見た。
「オイラ…今度から剣も習うことにするっ」
「お! いい心意気だ!! だったら俺が指導してやる」
二人は互いに笑い合うと拳をぐっと交差させた。
・
「じゃあ早めに仕事にかかるか。また何かあったらルイスから声が掛かるかもしれないからな」
「おう!」
ティムの気持ちに突き動かされる。
食べたケーキの後片付けを済ませると二人は気合いを入れて馬小屋の作業に戻った。
「じゃあ、こいつを棄ててくるから後を頼む」
取り替えた藁を荷車に乗せるとロイドはそれを城の裏手の焼却炉へと牽いて行った。
兵士達の出払った城内。
何処の国よりも比較的、安全なこの国の城。
普段は城門に立っている門番二人の兵士も遠征で借り出され、今は精鋭隊一人のみに任されている。
アルは人気の少ない城を見て回ると、あの大樹の元へと足を向けた。
「ほんと、大きな樹…」
小雨の中、大樹を見上げ改めてため息をつく。
地に根付くどっしりとした太い幹。
ルイスが掘り当てた入り口付近には、注意を促す立て看板が立てられている。
大樹の周りをぐるりと一周すると、アルは幹の中にめり込んだ扉を眺めた。
あの時は鍵穴だけだった…
鍵が開いた手応えを感じた瞬間に光りに包まれて吸い込まれるように隊長さんと地下に落ちていった。
・
光と共に温かい風が体を包んで…
そして体が浮いたような感覚を覚えてる…
落ちた衝撃は何ひとつ感じなくて…
辺りを見回してあんな高い位置から落ちたことを知って、違う意味で驚いた…
あの時は鍵穴しかなかったのに、今は存在を示すようにはっきりと姿を現した扉…
まるで、いつでも自分達を歓迎するかのように周りの土もすっかり取り払われ、地下へと続く扉はそこに在る。
この国が建国される前からあった…
“名も無き村に通じる道
鍵を手にした認められる者だけが通る道”
古の地図と書物には確かこの大樹の箇所にそう書き印してあったよね…
名も無き村に通じる…か…
アルは黙りこくったまま腕を組みその場に佇むと意を決したように表情を引き締める。
そして扉に手を掛けた。
「あーっ!!…っとちょっと待ったーーっ!!」
…!?
血相変えた叫び声にアルはびくりと動きを止めた。
離れた所から慌てふためきながら走ってきた精鋭の若手隊員はアルの側まできてはあっと息を整えると看板を指差す。
「ここに書いてあるでしょ!? 関係者以外、立ち入り禁止って!!」
「え、でも…僕……」
思いっきり関係者なんですけど?…
・
アルと変わらぬ背丈。年のころもアルと同じくらいだろうか。
若い隊員はアルの前に仁王立ちになって扉に近付くことを必死で拒む。
アルはその勢いに思わず身を引いていた。
「とにっ…宝探しだなんだって冒険しにくるガキが多くて困るよっ…」
…冒険?
「あ、でも僕、この関係者だから大丈夫だと…」
「また何を言って…君みたいな子供が関係者な訳ないだろ?」
自分の立場を説明しようとしたアルに、若い隊員はシッシッと虫でも追うような動作を繰り返す。
…あ、あれ!?
この人もしかしてあたしのこと知らない?
「あのー…」
参ったな…
従者の事を話していいのかな…
アルは戸惑いながら、自分は城直属の警備兵だと口にしてみた。その途端に隊員は目を剥き出す。
「城直属ぅ!?」
驚いた隊員のその声は焼却炉へ向かう途中のロイドの耳にまで届いていた。
ロイドは足を止めて聞こえてくる会話に耳を傾ける。
―――!?
あれはアルの声か?
誰かに責められて、しどろもどろに応対している声がアルのものだと分かるとロイドは荷車をその場に置いた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる