1 / 4
起
しおりを挟む
「暑いなぁ。」
と俺は外を見る。今年は、まだ6月の半ばだというのに梅雨明けだというから信じられない。蝉の声もちらほら聞こえてくる。高校三年生になった俺は部活の引退試合も終わり、いよいよ受験シーズンを迎えるわけだ。
「おい、田中。今日空いてる?」
後ろから声がする。声の方を振り返ると幼なじみの城田がいる。彼もついこの間部活を引退したばかりだ。
「空いてると何も、部活終わってからなんもねーだろ。」
「だよな。なんか親父が手伝って欲しいことあるらしんだ。バイト代出すから頼むだってよ。どう?やってくれるか?」
彼の父親はこの地元で釣具屋を経営している。この時期は何かと忙しいらしく毎年手伝わされている気がする。別に断る理由もない。俺はあっさりと引き受けた。
校門を出て道を真っ直ぐ進むと港に出る。港まで行かずに途中の角を左に曲がると城田の店がある。最近は釣り客も少ないらしいが先祖代々の店らしくそう簡単に畳むわけにはいかないらしい。
「親父。田中来たぞ。」
「あー、田中君、いつもすまないね。早速なんだがそこにある箱の中の品の整理を頼むよ。敦は沖アミを冷凍庫に移してくれ。」
「分かりました。」
箱の中には釣り針や、ルアーなどどれも定番の釣り道具ばかりだ。この商品整理も慣れたものだなと思った。
俺には親父がいない。俺が8歳の頃交通事故で死んだ。だから、母が女でひとつでここまで育ててくれた。俺は大学など行かずに早く就職して母のために働こうと思っているのだが、母が大学に行かせようとするので困ったものだ。母には今までお世話になっているから文句も言えず、結局大学を目指すことになったわけだ。大学の学費や生活費などは自分で稼がないといけないと思うと、城田の店でのバイトも悪くないなと思った。
「一休みしようか。」
1時間程仕事をしたので休憩することになった。さすがにこの梅雨明けというムシムシした環境の中での作業は体力的にもきつい。
「田中君は進路どうするの?大学?就職
?」
「一応大学に進もうと思ってます。僕はそこまでこだわってないですけど母親が行って欲しいと言うので。」
「そうかい、そうかい。うちの敦にはこの店を継いでくれと言っているのだがね。あいつもなかなか決めきらんで大学に行きたいって言ってるのよ。親としては無理矢理継がせるわけにもいかないから大学に行かしてやりたいんだけど、そしたらあいつは帰ってこないような気がしてねぇ。」
分からなくもない。城田は一つのことに熱中するととことんそれに思い入れし過ぎてしまうことがある。もし彼が大学に行ったならば、大学という新しい気風にもまれて、二度とこの街に帰ってこないかもしれない。親父さんもそれは避けたいのだろう。
「親父なに休憩してんだよ。」
「あー、すまんすまん。お前も休憩しなさい。あ、ここまで終わったんだね田中君。今日はこれでしまいにしよう。」
と親父さんは家の方に入っていった。
平日の午後ということもあり店の中は閑散としている。俺もこの街を離れるのかと思うと少しもどかしさを感じる。なに不自由なく生きてきたからだ。このままでいいのかな、とふと思うことがある。
「田中、お前県外出るの?」
城田が不思議そうに見つめる。
「いや、母さんのこともあるしここに残ろうと思ってるよ。まぁ行ける大学があればな。」
そんな話をしていると、城田の親父さんが帰ってきた。
「今日のお礼だよ。少しだけど小遣いの足しにでもしてな。」
と封筒に入ったお金をくれた。母からは小遣いなど貰ったことはない。だから、俺にとってこの少しのお金がどれだけ嬉しいことか。
「ありがとうございます。また何かあったら言ってください。じゃあ失礼します。」
「気をつけろよ。」
城田がぶっきらぼうに言う。
「おう。」
店を出ると何やら雲行きが怪しくなっていた。あれだけ太陽がまぶしく照りつけていた昼間と違い雨が降りそうだ。洗濯物を入れないとと思い、慌てて自転車を走らせる。母はパートで夜が遅いため、洗濯などの家事は俺がやっている。親父が死んでから少し狭いアパートに引っ越した。城田の店からは1キロ程の所だ。ポツリポツリと雨が降り始めた。
「これは結構降るやつだなぁ。」
と独り言を呟きながら急いで帰る。帰り着くまでに本降りにならないことを祈りながら…。
と俺は外を見る。今年は、まだ6月の半ばだというのに梅雨明けだというから信じられない。蝉の声もちらほら聞こえてくる。高校三年生になった俺は部活の引退試合も終わり、いよいよ受験シーズンを迎えるわけだ。
「おい、田中。今日空いてる?」
後ろから声がする。声の方を振り返ると幼なじみの城田がいる。彼もついこの間部活を引退したばかりだ。
「空いてると何も、部活終わってからなんもねーだろ。」
「だよな。なんか親父が手伝って欲しいことあるらしんだ。バイト代出すから頼むだってよ。どう?やってくれるか?」
彼の父親はこの地元で釣具屋を経営している。この時期は何かと忙しいらしく毎年手伝わされている気がする。別に断る理由もない。俺はあっさりと引き受けた。
校門を出て道を真っ直ぐ進むと港に出る。港まで行かずに途中の角を左に曲がると城田の店がある。最近は釣り客も少ないらしいが先祖代々の店らしくそう簡単に畳むわけにはいかないらしい。
「親父。田中来たぞ。」
「あー、田中君、いつもすまないね。早速なんだがそこにある箱の中の品の整理を頼むよ。敦は沖アミを冷凍庫に移してくれ。」
「分かりました。」
箱の中には釣り針や、ルアーなどどれも定番の釣り道具ばかりだ。この商品整理も慣れたものだなと思った。
俺には親父がいない。俺が8歳の頃交通事故で死んだ。だから、母が女でひとつでここまで育ててくれた。俺は大学など行かずに早く就職して母のために働こうと思っているのだが、母が大学に行かせようとするので困ったものだ。母には今までお世話になっているから文句も言えず、結局大学を目指すことになったわけだ。大学の学費や生活費などは自分で稼がないといけないと思うと、城田の店でのバイトも悪くないなと思った。
「一休みしようか。」
1時間程仕事をしたので休憩することになった。さすがにこの梅雨明けというムシムシした環境の中での作業は体力的にもきつい。
「田中君は進路どうするの?大学?就職
?」
「一応大学に進もうと思ってます。僕はそこまでこだわってないですけど母親が行って欲しいと言うので。」
「そうかい、そうかい。うちの敦にはこの店を継いでくれと言っているのだがね。あいつもなかなか決めきらんで大学に行きたいって言ってるのよ。親としては無理矢理継がせるわけにもいかないから大学に行かしてやりたいんだけど、そしたらあいつは帰ってこないような気がしてねぇ。」
分からなくもない。城田は一つのことに熱中するととことんそれに思い入れし過ぎてしまうことがある。もし彼が大学に行ったならば、大学という新しい気風にもまれて、二度とこの街に帰ってこないかもしれない。親父さんもそれは避けたいのだろう。
「親父なに休憩してんだよ。」
「あー、すまんすまん。お前も休憩しなさい。あ、ここまで終わったんだね田中君。今日はこれでしまいにしよう。」
と親父さんは家の方に入っていった。
平日の午後ということもあり店の中は閑散としている。俺もこの街を離れるのかと思うと少しもどかしさを感じる。なに不自由なく生きてきたからだ。このままでいいのかな、とふと思うことがある。
「田中、お前県外出るの?」
城田が不思議そうに見つめる。
「いや、母さんのこともあるしここに残ろうと思ってるよ。まぁ行ける大学があればな。」
そんな話をしていると、城田の親父さんが帰ってきた。
「今日のお礼だよ。少しだけど小遣いの足しにでもしてな。」
と封筒に入ったお金をくれた。母からは小遣いなど貰ったことはない。だから、俺にとってこの少しのお金がどれだけ嬉しいことか。
「ありがとうございます。また何かあったら言ってください。じゃあ失礼します。」
「気をつけろよ。」
城田がぶっきらぼうに言う。
「おう。」
店を出ると何やら雲行きが怪しくなっていた。あれだけ太陽がまぶしく照りつけていた昼間と違い雨が降りそうだ。洗濯物を入れないとと思い、慌てて自転車を走らせる。母はパートで夜が遅いため、洗濯などの家事は俺がやっている。親父が死んでから少し狭いアパートに引っ越した。城田の店からは1キロ程の所だ。ポツリポツリと雨が降り始めた。
「これは結構降るやつだなぁ。」
と独り言を呟きながら急いで帰る。帰り着くまでに本降りにならないことを祈りながら…。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
筆下ろし
wawabubu
青春
私は京町家(きょうまちや)で書道塾の師範をしております。小学生から高校生までの塾生がいますが、たいてい男の子は大学受験を控えて塾を辞めていきます。そんなとき、男の子には私から、記念の作品を仕上げることと、筆下ろしの儀式をしてあげて、思い出を作って差し上げるのよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる