彼と俺と彼女

西藤秀字

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「城田君だよ。」
藤崎がもう一度その名を口にした。馬鹿な、城田が藤崎を殺すはずがない。こいつらは付き合っていたじゃないか。
「驚いてる?だって私たち付き合ってたことになってたもんね。驚くよね。」
藤崎が悲しそうに笑う。
「なってた??現に付き合ってたんじゃないか。」
「田中君、それ誰から聞いたの?」
そう言われると誰から聞いたのだろう。必死に思い出す。嫌な予感がした。城田から聞いたのだった。
「城田君じゃない?」
背筋がゾッとした。
「あぁ。」
「私は何とも言ってないよね?」
確かに藤崎と俺は仲が良かったが、藤崎とはそのような話をしたことが無かった。
「なら、なんで俺に直接話さなかったんだよ。」
藤崎は何か訴えかけるような目で言った。
「それは城田くんのせいなの。」
「……!?」
俺は言葉を飲んだ。なぜ城田が?
「どういうことだ?」
藤崎が深呼吸するのが分かった。
「城田君、私の事が好きだったみたいなの。だから、ショックだったんじゃないかな?もう、分かるでしょ?言いたい事。」
「だからお前を殺したってことか?」
城田が殺したなんて信じたくない。絶対に藤崎の勘違いだ。と思いたかったが、藤崎の言葉がその思いを打ち砕いた。
「そうだよ。その通り。」
「でもよ藤崎、お前が倒れてすぐに俺が駆けつけたじゃないか。しかもお前、道路に血を流して倒れてて…」
「田中君、私が車に轢かれて死んじゃったと思ってるでしょ?」
藤崎が言葉を遮る。
「え…?」
背筋がゾッとする。無性に心中を掻き毟りたいような衝動に駆られた。
「まさか……。」
「そう、そのまさかの展開なの。」
城田だ。あいつが藤崎を殺したのだ。いや、決めつけるのはまだ早い。物理的に無理だ。俺と藤崎は一緒に帰っていたし、俺が藤崎を見失ってから5分も経っていない。
「いや、藤崎。どう考えても無理じゃないか?城田がお前を殺すなんて、誰かと共謀するならまだしも。」
「その誰かが私だったら?」
俺は耳を疑った。
「いま、なんて…?」
「城田君の共犯者が私だったら、短時間で私が死ぬこと可能だよね。」
藤崎の言葉が俺の心の中に得体の知れない恐怖心を植え付けた。
「お前、何言ってんだ……。」
さっきまで悲しそうだった藤崎の顔が、みるみるうちに不気味なものになっていくのを俺は感じた。
「田中君ってさ、ほんとにバカだよね。私が田中君のこと好きってことも気付かないしさ。あなたって生きてる価値あるの?」
「お前、藤崎なのか?」
目の前の女に、俺の体のすべてが怯えているのを感じた。殺される。そう思った時だった。
「田中!!大丈夫か!!」
城田だ。でもなんでここに。
「田中君、私のやり残したことって分かった?あなたをことなの。さぁ早くして。」
藤崎が手を伸ばしてくる。
「田中、そいつに触れちゃだめだ!そいつから離れろ!!」
城田が叫ぶ。俺はあとすんでのところで藤崎の手を避けた。
「田中、どけ!」
城田が思いっきり藤崎に突っ込んでいく。これだと城田が死んでしまうじゃないか!
「よせ、城田!お前まで死んでしまうじゃないか!」
俺の声など届かず、城田は藤崎にもう突っ込んでいた。ラグビー部のタックルのような形だ。
「え…?」
俺は息を飲んだ。城田ではなく、藤崎が消えていく…。
 「聞きたいことがたくさんあるって顔してんな(笑)まぁお互い無事だったんだし、とりあえずホッとしなよ(笑)。」
俺たちは近くの公園に来ていた。あの後藤崎は消え、城田も別に異常はない感じだった。
「あれは藤崎だったのか?」
「まぁ待て、俺が全部話す。」
城田がなにか寂しげに話し始めた。
「俺の母さんはさ霊能者だったんだ。まぁお雇い霊能者って感じでそんなに仕事は無かったんだけどな。それである日霊能者として呼ばれたのに帰ってこなかった。分かるだろ?これが母さんの死因だ。除霊失敗ってこと。ただ、世間的にあまりそんな理由は広めることができない。だからお前を始めみんなには病気で亡くなったって伝えたんだ。」
俺が驚いたのは、城田の母さんが霊能者ってことだった。
「つーことは、お前も霊能者ってことなのか?」
「そーいうこと。だからさ、実は藤崎を殺したんじゃなくてあれは除霊だったんだ。だけど、あいつはなにか強い思いがあってまた現れたってことだ。だけどかなり弱い姿でな。」
なんかSFも通り越してありえない話をしてるみたいで気味が悪かった。
「でもなんでお前が突っ込んだらあいつ消えたんだ?」
「ああいう弱った霊はさ、目的が果たせなかったらすぐ抹消されるんだ。つまり、お前に触れられず違う人に触れたらもう終わりなんだ。ただ、お前に一度でも触れたらお前は即死だっただろうな。」
恐ろしいことをサラッと言われた。だとしたら藤崎は単純なバカだったのか。城田が邪魔をしないうちに俺に触れればよかったのに。
「たださ、あの藤崎って霊はさ、お前が好きだったんだよ。だからお前に触れるチャンスがあったのに最後まで触れなかった。お前に好きってことを気付いて欲しかったんだろう。最後までお前は疑ったままで気付かない鈍感野郎だったけどな(笑)しかもあいつ、俺が除霊する前に殺してほしいって言ったんだ。」
城田の言葉で何かが心の中ではじけた。「共謀者」ってのはこういうことだったのか。
「つまりあいつは俺が霊能者ってことも知ってたわけだ。あいつはただ純粋に人間になりたかったんだろうな。人間になってお前とをしたい。それだけがあいつの望みだったんだと思う。だからすまなかった。あいつを除霊したのが間違いだったんだ。あいつはお前に気持ちを伝えたら自然と成仏したのかもしれないと今になって思うんだ。」城田の言葉に何も言い返せない。藤崎を苦しめていたのは俺だったんだ。俺が藤崎を。城田は最後にこう言った。藤崎はお前をとして愛していた、と。
 藤崎と城田が恋仲になったというのは嘘で、俺を藤崎に近寄らせないための城田の計らいだった。案の定俺は藤崎と城田から距離を置いた。そして城田が藤崎を除霊した。いかにも単純だった。城田が藤崎を霊だと感じ始めたのが中学生で、霊能者としての能力がついたのが中3の頃だったらしい。だから、小学生の頃は誰も藤崎が霊だとは知るはずもなかった。
 俺はこれから先も藤崎を忘れることはないだろう。同時に、俺が藤崎を殺してしまったという気持ちが深く俺の心を苦しめていくだろう。完
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