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第二章
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秘書課で働く社員は全部で十五人。
陽介くんが副社長に就任してからは、人員の入れ替わりはほぼないらしい。
それも、陽介くんの人柄ゆえだろう。
彼は度々秘書課へ顔を出して訪問先でもらったお菓子をおすそ分けしてくれる。
もちろん、秘書課だけでなく各部門にも同等の差し入れをこまめに行っているらしい。秘書課は女性が多い。こういうきめ細やかな気遣いひとつでモチベーションも格段に上がる。彼は女心をよく分かっている。
朝の挨拶を済ませて、自席へ向かう。
秘書の仕事は多岐に渡る。
副社長である陽介くんが業務を円滑に進められるようにサポートするのはもちろん、社内外からの問い合わせや書類確認依頼なども数多くこなす必要がある。
各部署から持ち込まれる案件すべてに目を通し、精査して処理し、必要があれば書類にまとめて副社長へ報告する。
書類作業を終え、秘書課のホワイトボードに外出のマグネットを貼り席を立つ。
有名洋菓子店で手土産購入し、会社へとんぼ返りする。
ちょうど昼時を迎えたこともあり、お財布を持ったOLたちとすれ違った。
ぐるるっと鳴るお腹を押さえて早足で歩く。
会社の入り口付近には、灰色の派手なファーコートにレオパード柄のミニスカートを履いた派手な女性が立っていた。
女性の横を通り過ぎようとしたとき、「ねぇ」と声を掛けられて立ち止まる。
「あなた、この会社の人?」
「はい」
女性は私の格好を上から下まで舐めるように見つめた。
「スーツ……ってことは、秘書課の人?」
早瀬商事では数年前から年間を通して各社員の判断で服装を自由に選べる制度を導入している。
硬直的な考えを改めて仕事を効率化する狙いだ。けれど、秘書課だけは話が別だ。顧客を接待することも多々あり、急な来客にも対応できるようにスーツの着用が基本だ。
例にもれず私も紺色のスーツを着用している。
「――茜ちゃん!」
すると、会社からスーツ姿の男性が飛び出してきた。
その男性は早瀬商事の専務で社長の弟にあたる人物だった。
会社では何度か見かけたことはあるものの、直接的に関わったことは一度もない。
「も~、おじさまってば遅いわ!あたしを待たせるなんてどういうつもり!?それで、陽介さんは?」
私は弾かれたように女性を見つめた。
「すまない。誘ったんだが、どうしても外せない用事があってこられないらしい」
「え~、今日も?どうしてそんなに忙しいのよ!」
女性は不満を口にして不機嫌さを一切隠さず、腕を組んで唇を尖らせる。
小さく頭を下げて去ろうとした瞬間、「待ってくれ」と専務に呼び止められた。
陽介くんが副社長に就任してからは、人員の入れ替わりはほぼないらしい。
それも、陽介くんの人柄ゆえだろう。
彼は度々秘書課へ顔を出して訪問先でもらったお菓子をおすそ分けしてくれる。
もちろん、秘書課だけでなく各部門にも同等の差し入れをこまめに行っているらしい。秘書課は女性が多い。こういうきめ細やかな気遣いひとつでモチベーションも格段に上がる。彼は女心をよく分かっている。
朝の挨拶を済ませて、自席へ向かう。
秘書の仕事は多岐に渡る。
副社長である陽介くんが業務を円滑に進められるようにサポートするのはもちろん、社内外からの問い合わせや書類確認依頼なども数多くこなす必要がある。
各部署から持ち込まれる案件すべてに目を通し、精査して処理し、必要があれば書類にまとめて副社長へ報告する。
書類作業を終え、秘書課のホワイトボードに外出のマグネットを貼り席を立つ。
有名洋菓子店で手土産購入し、会社へとんぼ返りする。
ちょうど昼時を迎えたこともあり、お財布を持ったOLたちとすれ違った。
ぐるるっと鳴るお腹を押さえて早足で歩く。
会社の入り口付近には、灰色の派手なファーコートにレオパード柄のミニスカートを履いた派手な女性が立っていた。
女性の横を通り過ぎようとしたとき、「ねぇ」と声を掛けられて立ち止まる。
「あなた、この会社の人?」
「はい」
女性は私の格好を上から下まで舐めるように見つめた。
「スーツ……ってことは、秘書課の人?」
早瀬商事では数年前から年間を通して各社員の判断で服装を自由に選べる制度を導入している。
硬直的な考えを改めて仕事を効率化する狙いだ。けれど、秘書課だけは話が別だ。顧客を接待することも多々あり、急な来客にも対応できるようにスーツの着用が基本だ。
例にもれず私も紺色のスーツを着用している。
「――茜ちゃん!」
すると、会社からスーツ姿の男性が飛び出してきた。
その男性は早瀬商事の専務で社長の弟にあたる人物だった。
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「も~、おじさまってば遅いわ!あたしを待たせるなんてどういうつもり!?それで、陽介さんは?」
私は弾かれたように女性を見つめた。
「すまない。誘ったんだが、どうしても外せない用事があってこられないらしい」
「え~、今日も?どうしてそんなに忙しいのよ!」
女性は不満を口にして不機嫌さを一切隠さず、腕を組んで唇を尖らせる。
小さく頭を下げて去ろうとした瞬間、「待ってくれ」と専務に呼び止められた。
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