【完結】ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました

第六章

３

「うん、すっかりよくなったよ」
「よかった。うどん作ったんだけど、食べられる？」
「ありがとう」
「じゃあ、座ってて。すぐ用意するから」
「私もなにか手伝うよ」
「ダメ。結乃はここ」

陽介くんは黙って私の手を取り、ダイニングテーブルに座らせてキッチンへ戻っていく。
私はリビング内をぐるりと見回した。
片付け途中で逆に散らかってしまっていた部屋の中は、陽介くんが掃除してくれたのか見違えるほどに綺麗だった。

「いただきます」

そっと手を合わせて、甘辛く味付けされた豚肉と玉ねぎがたっぷり乗った肉うどんを口に運ぶ。

「……美味しい。体が温まるよ、ありがとう」

なんでもそつなくこなす陽介くんは、料理も抜群に上手い。
中でも、彼の作る和食料理は絶品だ。母子家庭で育った陽介くんは、日々忙しい母親を助けるために、率先して食事を作るようになったらしい。それが、今の彼をつくりだしている。

「部屋の片づけまでさせちゃって、ごめんね」
「気にしなくていいよ。前にも言ったと思うけど、家事に完璧を求めるのはやめよう」

結婚後、家事分担の話になったとき彼は「きっちり決めると大変だし、緩くやろう」と提案してきた。
とはいえ、彼は早瀬商事の副社長でとにかく忙しい。陽介くんの気持ちは嬉しいけれど、家事全般は私がすべて引き受けようと心に決めた。

「最近よく聞く名もなき家事までは無理だけど、大まかな家事は時短家電を使えば何とかなるし。毎日自炊するのも大変だから、そういうときは外食したり、出前を取ろう。俺と結乃は対等な関係だし、俺も協力するから一人で背負いこまなくていいよ」
「でも……陽介くんに申し訳なくて……」

彼の家には乾燥機付き洗濯機もお掃除ロボットも食洗機も全て揃っている。
それでも申し訳なくなってしまうのは、私の心の問題だろう。私は結婚した今も、生きているか死んでいるかも分からない父の影に怯えているのだ。

「そんな風に思う必要はないよ。時間が空いたら夫婦でゆっくり過ごせるし。多少家が汚れてたとしても、俺は結乃と過ごす時間を大切にしたい」
「陽介くん……ありがとう」

彼の気遣いと温かな言葉に胸の中がじんわりと熱くなり、私は彼と結婚できた喜びを強く噛みしめた。