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最終章 愛され妻

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「いつもありがとう」
「えっ……」

唐突な彼の言葉に目をしばたく。

「急にどうしたんですか?」
「いや、こういうときじゃないとなかなか……な」

口下手な北斗さんが一生懸命私へ感謝の気持ちを伝えてくれているんだと気付き、胸が熱くなる。

「こちらこそいつもありがとうございます。お仕事で忙しいのに一花の面倒も見てくれるし、家のことだって……。私、北斗さんには感謝してもしきれません。それに、今日だってこうやってデートまで」
「今日だけじゃなく、これからも時々ふたりで出かけよう」
「いいんですか?」
「当たり前だ。息抜きは大切だからな」
「……はい」

にっこりと微笑む私に彼の表情がわずかに緩む。

「本当はこの後夜景を見に行こうと思っていたんだが、食べたら帰ろう。やっぱり俺も一花のことが気になる」

なにをしていても、やっぱり頭の片隅には一花がいる。
すっかり父親の顔になった北斗さん。同じ気持ちを共有できる幸せが胸の中に満ちていった。


北斗さんとともに家に帰りマンションの鍵を開けると、義母さんと秋穂ちゃんが揃って私達を出迎えてくれた。

「あのっ、一花は?」

リビングに入り、帰る準備を進める義母さんに尋ねる。

「ちょうど今寝たところなの。お風呂も済ませてあるから、安心してね」
「ありがとうございます。あとこれ、よかったら皆さんで食べてください」

御礼を言って、事前に買っておいた有名店の和菓子を差し出すと、義母さんはキラキラと目を輝かせた。

「あらっ!これ、大好きなの。良く知ってたわね?」
「北斗さんに聞きました」
「あらっ、とっても嬉しいわ。ありがとう。でも、これからは気を使わないで。気軽にいっちゃんを預けてもらいたいから」

お茶でも飲んでいってくださいと言っても、「気にしないで」と荷物を手にさっさと玄関に向かう義母さんと秋穂ちゃんを追いかける。

「今日は悪かったな」
「全然!萌音さんとふたりっきりで過ごしたいっていうお兄ちゃんのお願いだもん。聞かないわけにはいかないよ」

秋穂ちゃんの言葉に私は目を丸くする。

「えっ、北斗さんが……?」

夫婦水入らずでと提案してくれたのって義母さんじゃなかったの?
不思議になって隣にいる北斗さんに視線を向ける。

「――秋穂、余計なことは言うな」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる彼は「下に迎えが待ってる。気をつけて帰れよ」とふたりを追い出した。

「今日はありがとうございました……!」
「またね、萌音さん!」

慌ただしく扉が閉められる。
振り返ると、北斗さんは決まりが悪そうな顔をして足早にリビングに向かう。
そんな彼を私は追いかける。
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