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第一章 禁じられた森で
第十二話 思い立ったが吉日
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翌日も、その次の日も、さらにその次の日も。みよは物憂げな表情のままだった。
時折、何かを考え込み、明日花と茂が談笑している中でも口を噤んでいる姿が見えた。
明日花はみよが心配で、数日の間、外出を止めた。リビングで夏休みの宿題を進めつつ、みよの様子を観察していた。そろそろ夏休みの宿題を進めなければ、とは考えていたので、ちょうどいいと言えば、ちょうど良かった。
「おばあちゃんはおじいちゃんに任せて、明日花は遊んできてもいいんだぞ」
「ううん……でも、夏休みの宿題も進めないとだし」
「明日花はえらいなあ」
茂は感心したように頷いた。明日花は頬を緩ませるも、キッチンにいるみよが視界に入り、もやもやとした気持ちが募った。
おばあちゃんが暗いと、調子が狂っちゃう。それに、司くんのことも、おばあちゃんに聞きたい。
明日花は下唇を突き出した。ううむ、わたしはどうすべきか。
しばらく頭を悩ませていると、茂が息を漏らして笑う気配がした。孫が悩んでいる姿が面白いのだろうか。微笑ましい、とか思っているのかもしれない。何か、解せない。
気恥ずかしさも感じながら考え続けていると、唐突に閃いた。
そうだ、司くんに会いに行こう。
みよが司を知っているなら、司もみよを知っているかもしれない。みよに訊ねることができないのなら、司に訊いてみればいい。
「やっぱり、由香のところに行ってくるね」
テーブルに広げていた宿題の冊子を閉じると、明日花は椅子から立ち上がった。茂は驚いたように目を見開いた後、優しげに微笑んだ。
「ああ、いってらっしゃい。由香ちゃんによろしくな」
「いってきます!」
明日花は急いで家を出た。後ろめたい気持ちも少しはあったけれど、問題を解決できるかもしれない期待と、司に会いたい気持ちが勝った。
「明日も森にいるか」と聞いておいて、何日も森に行っていなかった。もし、司が待っていてくれたら、申し訳ないことをしてしまった。
「……待ってくれてるよね?」
忘れられていたら、悲しい。
森に向かっている途中、飲み物を持っていないことに気付き、自販機でスポーツドリンクを買った。少ないけれど、お小遣いを持ち歩いていて良かった。
それにしても、と明日花は目の前の自販機を見つめた。田舎町にある数少ない自販機。道の途中にぽつねんと立っている姿は、とても寂しそうに見える。ところどころ錆びているから、余計に。
やっぱり、一人は寂しいよね。
失礼かもしれないけれど、森の中に一人でいる司と重なった。司と話している時、司からは寂しさを感じなかった。でも、心の奥では、寂しいと思っているかもしれない。
明日花はスポーツドリンクをごくりと飲み込むと、駆け足で森に向かった。暑くて、どんどん体力が奪われていくけれど、そんなことよりも、早く司の元へ行きたかった。
汗と息切れが酷い。森に着いたものの、汗だくの状態で司に会いに行くのもどうなのかと考えた。汗臭いと思われないだろうか。司に「汗臭いよ。近寄らないで」と遠ざけられたら、立ち直るのに時間が掛かりそうだ。
森の中に入ると暑さが和らぎ、短く息を吐いた。再びスポーツドリンクを飲み、忙しなく胸を叩いていた鼓動が落ち着くまで待つ。
「よし、行こう」
声を出して、自分を奮い立たせた。今から司に会って、みよが司を知っていることを伝える。それを聞いて司がどんな反応を見せるのかが、少しだけ怖かった。
時折、何かを考え込み、明日花と茂が談笑している中でも口を噤んでいる姿が見えた。
明日花はみよが心配で、数日の間、外出を止めた。リビングで夏休みの宿題を進めつつ、みよの様子を観察していた。そろそろ夏休みの宿題を進めなければ、とは考えていたので、ちょうどいいと言えば、ちょうど良かった。
「おばあちゃんはおじいちゃんに任せて、明日花は遊んできてもいいんだぞ」
「ううん……でも、夏休みの宿題も進めないとだし」
「明日花はえらいなあ」
茂は感心したように頷いた。明日花は頬を緩ませるも、キッチンにいるみよが視界に入り、もやもやとした気持ちが募った。
おばあちゃんが暗いと、調子が狂っちゃう。それに、司くんのことも、おばあちゃんに聞きたい。
明日花は下唇を突き出した。ううむ、わたしはどうすべきか。
しばらく頭を悩ませていると、茂が息を漏らして笑う気配がした。孫が悩んでいる姿が面白いのだろうか。微笑ましい、とか思っているのかもしれない。何か、解せない。
気恥ずかしさも感じながら考え続けていると、唐突に閃いた。
そうだ、司くんに会いに行こう。
みよが司を知っているなら、司もみよを知っているかもしれない。みよに訊ねることができないのなら、司に訊いてみればいい。
「やっぱり、由香のところに行ってくるね」
テーブルに広げていた宿題の冊子を閉じると、明日花は椅子から立ち上がった。茂は驚いたように目を見開いた後、優しげに微笑んだ。
「ああ、いってらっしゃい。由香ちゃんによろしくな」
「いってきます!」
明日花は急いで家を出た。後ろめたい気持ちも少しはあったけれど、問題を解決できるかもしれない期待と、司に会いたい気持ちが勝った。
「明日も森にいるか」と聞いておいて、何日も森に行っていなかった。もし、司が待っていてくれたら、申し訳ないことをしてしまった。
「……待ってくれてるよね?」
忘れられていたら、悲しい。
森に向かっている途中、飲み物を持っていないことに気付き、自販機でスポーツドリンクを買った。少ないけれど、お小遣いを持ち歩いていて良かった。
それにしても、と明日花は目の前の自販機を見つめた。田舎町にある数少ない自販機。道の途中にぽつねんと立っている姿は、とても寂しそうに見える。ところどころ錆びているから、余計に。
やっぱり、一人は寂しいよね。
失礼かもしれないけれど、森の中に一人でいる司と重なった。司と話している時、司からは寂しさを感じなかった。でも、心の奥では、寂しいと思っているかもしれない。
明日花はスポーツドリンクをごくりと飲み込むと、駆け足で森に向かった。暑くて、どんどん体力が奪われていくけれど、そんなことよりも、早く司の元へ行きたかった。
汗と息切れが酷い。森に着いたものの、汗だくの状態で司に会いに行くのもどうなのかと考えた。汗臭いと思われないだろうか。司に「汗臭いよ。近寄らないで」と遠ざけられたら、立ち直るのに時間が掛かりそうだ。
森の中に入ると暑さが和らぎ、短く息を吐いた。再びスポーツドリンクを飲み、忙しなく胸を叩いていた鼓動が落ち着くまで待つ。
「よし、行こう」
声を出して、自分を奮い立たせた。今から司に会って、みよが司を知っていることを伝える。それを聞いて司がどんな反応を見せるのかが、少しだけ怖かった。
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