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最終章「夢見る偽神の存在証明」
269話 あまねく生命の楽園で
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*
────ボクは戦いが終わるまで、悲しい夢ばかりを見ていた。表面上は笑うことができていても、心の奥底では後悔ばかり繰り返していた。
すべてが終わったあの日から、悪夢はほとんど見なくなった。そもそも、夢自体も見る機会が少なくなったように思う。
「お袋のこと、ようやく吹っ切ることができたんだろ? きっとそのおかげだ」
その声が聞こえたとき、春の風の香りが漂った。気づけば、ボクはワイン色のソファに座っていた。ふかふかして高級感がある。大理石でできた部屋には調度品がいくつも飾られていて、そのすべてに懐かしさを覚えていた。
部屋の窓のそばには、白いマントと黒い装束に身を包んだ青年がいる。金髪と紅玉の瞳、黄金の冠が王たる証。
「カイ! どうしてボクの夢に……」
「おっと、これはただの夢だぜ? もうとっくに俺の魂はなくなってるって。ていうか、お前を助けるために消えたようなもんなんだけど?」
「……ああ、そっか」
カイは呆れたように笑っているけれど、ボクはこれをただの夢だと思いたくなかった。
「よかったな、アスタ。ユキア、お前のことちゃんと受け入れてくれただろ?」
「うん。カイの言った通りだった。カイはすごいね」
「すごいのはユキアの方だ。神も人間も、みんなひっくるめて助けちまった。俺なんて軽々と超えちまったな」
窓辺に背を預け、腕を組みながら笑っている。ボクも彼も、他のみんなも底知れぬ虚無という呪縛から解放されていた。そのおかげで、こうやって気楽に会話ができている。
ただ……今のボクには唯一の心残りがある。
「安心しろ。この夢が終わったら、きっといいことが起こる」
そんな根拠のないことを言いながら、彼はにこりと笑って見せたのだ。金の髪が陽光に反射して生まれた煌めきが、妙に眩しく感じる。
「いいことって何さ?」
「お前にとって、みんなにとって幸せなことだ」
「むぅ、はっきり言ってほしいよ」
「目が覚めたら嫌でもわかるんだから、わざわざ俺が言うことでもないっての」
カイは肩を揺らし、悪戯っぽく笑った。窓から射し込む光が紅玉の瞳を宝石のように輝かせる。
まるで「王」と呼ばれた頃の彼が、そのまま戻ってきたようにすら思えたけれど……。
「……後悔は少しもないんだね」
「当然だ。俺は最後の最後まで、たった一人を守るつもりでいたんだから」
「じゃあ、ボクはまだ生きなくちゃね」
「心からそう言えるなら、もう俺たちがいなくても大丈夫だな」
カイは笑った。どこか誇らしげで、そして少し寂しげに。
彼は窓枠にもたれて外の景色を一瞥した。その背後に広がる青空は、どこまでも澄み切っている。
「カイ」
もう一度だけ、親友の名を呼んだ。
「なんだよ」
「最後にキミに会えてよかった」
「ははっ、そう言うと思ったぜ」
次の瞬間、風が強く吹き込んだ。白い光のような花びらが窓から舞い込んできた。花びらが頬を掠めて、指先に触れた途端に景色が一気に白く染まる。
夢と思いたくなかったけれど、これは確かな夢だった。
「じゃあな、アスタ。幸せになれよ」
白い光の向こうで手を振ってくれた。ボクも目の前が潤むのを承知で手を振り返す。
さようなら。どうか、これからもボクたちを見守っていてね。
────現実に戻ったと知ったとき、目尻から横に涙が伝っていることに気づく。気だるい中で手を動かして、涙を拭って身体を起こす。
「……あれから、もう三年か」
ユキの家のリビング。一人分しか眠れないほど狭いソファの上。壁にかけられた時計を見ると、朝八時くらいだった。いつもより起きるのが遅くなってしまったようだ。
「暑い……」
いつの間にか、随分と気温が上がったような気がする。汗をびっしょりとかいているのは夢のせいではなく、眠っている環境のせいだった。
パジャマから着替えるべく、ソファの背もたれにかけてある普段着をとった。着替えてからブーツを履いて、とりあえず洗面所に向かって顔を洗うことにする。眠気がしゃっきりと覚めて、身体の気だるさが消えていく。
「もしユキが目覚めたときに、恥ずかしくないようにしなくちゃ」
戦いが終わってから、ユキが目覚める気配は一度もない。ボクの気持ちが落ち着くまでかなりの時間を要したけれど、半年経ってようやくいつも通りに過ごせるようになってきた。
それまではずっと一人だったけれど、ユキの家に訪れるひとは毎日誰かしらいたものだから、誰とも話さない日はなかった。
二階に上がろうとしたとき、チリンチリーン、と玄関の呼び鈴が鳴らされる音がした。
「うぇー。まだ起きたばかりなんだけどなー」
仕方なく玄関に向かった。今日は誰が来たのかな? と思いながら、玄関のドアを開ける。見えたのはすみれ色の長髪だ。
「おはよう、アスタ」
「メア、おはよ」
夏らしく、紫色の七分袖のワンピースという涼しい服装をしたメアだった。毎日欠かさずユキの家に来てくれるから、なんとなく予想はしていた。
彼女の首筋や額にも汗が伝っていて、今日の外の天気は快晴なんだろうと予想する。
「今日は特に暑いな。水分とか栄養補給は大丈夫なのか?」
「んー、ボクは別に平気だけど」
「お前じゃなくてユキアの方を心配しているんだが」
「だ、大丈夫に決まってるでしょ!? 付きっきりで様子見てるんだから!」
「まあいい。とりあえず、上がらせてもらうぞ」
メアは小さく息をつき、肩にかかるすみれ色の髪を指先で払った。彼女の背後には、夏の訪れを思わせる強い日差しが差し込んでいて、玄関先の石畳を白く照らしていた。
彼女を迎え入れて、一旦リビングに招いて冷たい飲み物を振る舞うことにした。えーと、とりあえず作り立てのリンゴジュースにしとこうっと。
「昨夜のユキアの様子はどうだった?」
グラスにリンゴジュースを注いでいるボクに、リビングの椅子に座ったメアが問いかけてくる。これも日課みたいなものだ。
「呼吸も穏やかだったし、顔色も変わらず。普段の睡眠と全然同じ」
「変わらず、か」
グラスをメアに差し出しながら答えた。メアは短く呟いてから、リンゴジュースを口にした。
ユキは自分の部屋で眠り続けている。戦いが終わってからずっと目を覚まさない。けれど、その寝顔には苦しさや痛みの影はなく、ただ穏やかな夢を見ているかのように安らかだった。
「私もこうして変わらずに、ユキアが目覚めるのを待つことになるのかな」
「……メア」
「なあ、アスタ」
遠い目でぼやく彼女の様子が、いつもとはほんの少し違うように感じた。暑さで気が滅入っているのかもしれない。
「お前、いつからユキアのことを好きになったんだ?」
「ぶっ────!?」
まさかの斜め上からの質問で噴き出してしまった。遠い目でぼやいて聞くような質問じゃないよ、それは!
「な、な、なんでそういうこと聞くの!? というかええ!? なんで知ってるの!?」
「前々からユキアの様子も変だったし、気づかない方がおかしい。こっちも聞けるような心境ではなかったからな。落ち着いてしばらくして、ふと気になったから」
メアはこうして毎日ユキの家にやってくるくらいには、ユキのことを想っていた。三年前から一切変わっていない。
そんな彼女のことだから、ボクの心境の変化にもとっくに気づいていたのかもしれない。まさかこういう恋愛話を吹っかけてくるとは思わなかったけど。
「明確な時期はわからないけど、気づいた頃には惹かれてた。ちゃんと自覚できたのは、ユキを傷つけられそうになった時かな。傷つけようとした奴に対してものすごい殺意が湧いて、『奪われたくない』って気持ちが膨らんで……自分でもどうしようもないくらいだった」
「……お前はある意味、私と似ているのかもな」
不機嫌そうな言い草だが、顔を見ると案外そうでもない。いつも通りの凛とした態度はそのままで、立ったままのボクを透き通った目で見上げてくる。
「誰かに愛されたいと願っていた。けれど、素直に話せないから拗れてしまって……関係が壊れるのを恐れるあまり、自分に嘘を吐いてしまうんだ」
「えっと……メアも、ユキのこと好きなんだよね?」
「そうだな。私はユキアへの執着を永遠に手放せない。私にとって、友情ゆえか愛情ゆえなのかは些細な問題だ。ただ……今のお前を見ていてわかったんだ。こうなってしまうのが怖かったから、過去の私は過ちを犯したんだな」
過去。メアが魔物に取り憑かれ、正気を失ってしまった事件のこと。ボクとユキはあの時、メアの本当の気持ちに踏み込んだ。
本当はメアも今のボクと同じくらい、ユキのことが好きなんだ。けれど、ユキはメアと親友であることを望んだから、彼女はボクと違う選択をとった。
「ボクのこと、恨んでる?」
「親友の好きな相手を恨むわけがないだろう。少しも、というわけではないが。全部私の問題だ」
「別に殺したって構わないけどね?」
「それは死ねない身体だから叩ける軽口だ。あまり墓穴を掘るようなことは言わない方がいいぞ?」
メアは指で銃の形を作って、銃口を向けるようにしてボクを嘲笑っていた。ボクを殺せないことを知っていながら言うものだから、思わず苦笑いしてしまう。
ただ、その次の言葉は至極真剣なもので。
「アスタ。必ずユキアを幸せにしろ。でなければ、私がお前を殺す」
過去に命を奪った罪人同士。殺した数の差はあれど、重いはずの命は時に軽く感じられると知っている。
どうすれば、世界を砕いた罪を償えるか。その答えを長い間見つけられずにいたけれど、ボクはいつも以上の真面目な微笑みをメアに返す。
「キミに殺される前に証明するよ。愛に飢えた化け物でも、たった一人を幸せにできるって」
砕けた世界での価値観に絶望したユキは、物語にあった神と人間の共存する世界に傾倒した。幼かった彼女にそうさせてしまったのは、元はと言えばボクの過ちが原因だ。
ならば────ボクはこの不滅の生を、ユキ一人に捧げる。彼女に精いっぱい贖い、一生でも足らない幸福を贈ることが、ボクの最大の罪滅ぼし。
自己満足かもしれないけれど、ボクは罵られたって構いやしない。自分の罪は自分で清算する、その中身に正解など存在しないのだから。
「ボクが道を違えそうになったら、メアがボクを殺してね。これでもボク、キミのことは結構信用してるんだよ?」
「ふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。そこまで言うのなら、友人として見守ってやらんでもない。お前を殺すような結末は願い下げだがな」
「当たり前だよ」
リンゴジュースを飲み終わったタイミングを見計らい、二人で二階に続く階段を上がる。ユキの部屋に続く扉を開けて、彼女の寝顔を見るのがボクの日課になっていた。
だが────ベッドに彼女の姿はなかった。
「────え?」
ボクとメアは凍り付いて、しばらくその場から動けなかった。ベッドの布団がめくられて、上に衣服が大量に放置されている。
他に変化はなかったけれど、ユキの部屋は確かにもぬけの殻になっていたのだ。
「ユキア!! どこに行った!?」
ボクよりもメアが正気を取り戻して、ボクを押しのける勢いで部屋中を探し回る。ボクもはっとして、何があったのかを探ることにした。
荒らされた形跡はない。あるとしても、ベッドの上に積み上げられた衣服だけ。見覚えのある普段着もあれば、見たこともない服もある。さすがにクローゼットの中をじろじろと見ることはなかったから、中身なんてよくわからない。
「メア、ここに積まれてるユキの服、どういうことなんだろう?」
「知るか! 誰かが持ち去ったなどであれば、即刻頭をぶち抜いて────」
「そうじゃなくて! ユキの普段着がここにあるのはおかしくない!? ほら、これなんて眠る前に着てた奴! ユキが最高神生誕祭のときにもらった服じゃん!」
焦りと怒りを露わにするメアを落ち着かせるべく、ベッドの上を指さして注目させる。メアもベッドの上を確認すると、だんだんと態度が落ち着いていくのがわかった。
「確かに変だな。とすれば、別の服を着て出ていったのか?」
「……でも、どうして急に」
「こうしてはいられん。アスタ、今すぐ外に行くぞ!」
「ま、待ってよメアー!」
メアがものすごい勢いで階段を駆け下りていく。ボクも後を追って家を出る。
石畳の上で陽炎が揺らめいている。三年前の春に眠りに堕ちたはずの彼女が、今年の夏になって姿を消した────その意味を確かめずにはいられない。
朝だというのに、キャッセリアはどこに行っても暑くて仕方がない。メアと手分けをして、ひとまず中央都市の方からユキの姿を探すことにした。
戦いを終えて数年経った街はほぼ完全に復興していた。以前よりも建物の数が減ったように思うが、元々放置されていた建物もあったので取り壊したりしたそうだ。
「あら。朝から何を慌てているんですか、お兄様?」
繁華街を走っていると、すれ違った少女が声をかけてきた。戦いが終わってからというもの、ボクの妹は随分とのんびりした女の子になったなと思う。
「呑気にしてる場合じゃないよ、ヴィー! ユキがいなくなっちゃったの!」
「声が大きいですよお兄様。一回落ち着いて状況を説明してください」
相変わらず淡々とした態度で諭されたが、その中でボクは乱れた呼吸を止めることができなかった。
「昨夜は変わらずだったのですよね? だったら、まだそんなに遠くには行ってないと思います」
「そ、そうなのかな」
「そもそも、お兄様が寝坊するからいけないのです。それが本当ならとっても晴れやかな記念日ですのに。こんなことならもっと真面目に練習しておくべきでした」
何の話かわからず、首を傾げる。
そういえば、ボクは最近のヴィーが何をやっているのか知らない。あれから、クーと一緒に白の宮殿に移り住んで、彼の仕事を手伝っていると聞いたことはあるけれど……。
「最近、レーニエと一緒にお菓子作りをしているんです。近日中にケーキを作ろうと約束していまして」
「ヴィーが? お菓子作り? すっごく意外」
「なんですかその言い方は……別に、付き合わされているだけです。あのひとも、なんだかんだ言ってトルテのお菓子が大好きでしたから」
今はもういないひとの名前が出たことで、ほんの少し心に影が落ちる。ただ、これが最善の結末だったのだと思うことで精いっぱいだった。
「ヴィーにもやりたいことができたみたいで、ボクは安心したよ」
「……いざ落ち着いてみたら、たまたま見つけただけですよ。ユキアを探すのでしょう? わたしも目を光らせておきます」
「ありがと!」
手作りのケーキを食べさせてもらえる機会が来るといいな、と思いながら妹と別れる。
ヴィーと話している間も周りを見たりしたけれど、ユキの姿はなかった。繁華街にはいないのかもしれない。となれば、次に向かうべきは白の宮殿方面だろう。
宮殿に向かい、エントランスホールへやってくる。二階へ続く螺旋階段を上れば、現在の最高神であるルナステラがいる玉座の間や彼女の部屋、そしてアーケンシェンやヴィーの部屋がある。
元々アイリスが使っていた場所をルナステラが使っており、アルバトスの補佐を受けながら最高神の役割を担っている。
何か情報が入っていないか、まずは玉座の間に向かい確かめることにした。
「あっ、アスタくんおはよう! そんなに慌ててどうしたの?」
三年前より背も髪も伸びて、ほんの少し大人っぽくなったルナステラは、玉座に座って何か本を読んでいた。今、玉座の間にアルバトスの姿はない。
ボクが走ってきたことに気づくと、笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはようルナステラ! あのね、ユキがいなくなっちゃって……」
「えぇっ!? ユキアお姉ちゃんが!? 家で眠ってたんじゃなかったの!?」
昔よりも話し方が僅かに大人びているものの、大げさに驚く様は変わりない。最高神の証である金色の杖を手にして、慌てた様子で玉座から飛び降りた。
「ま、待って? さすがにルナステラはここにいた方がいいんじゃない?」
「いなくなったなら探しに行かなくちゃ! アルトは診療所の方に行ってるから、少なくともわたしが直接魔特隊の方へお願いしに行かないと」
最近、アルバトスは診療所に通う頻度が増えているそうだ。カルデルトが主に行っている、アストラルや黒幽病の研究を手伝っているらしい。
朝からルナステラを一人にしているみたいだし、彼の性格を考えればすぐ戻ってくるだろう。とはいえ、ここに来る神の数は毎日多いと聞くし、玉座の間を空にするのはよくない。
「魔特隊へお願いしに行けばいいんだよね? ボクが言ってくるから大丈夫だよ」
「いいの? そういうことなら、お願いします!」
承ってすぐに玉座の間を後にした。そのまま廊下に戻って、白を基調とした金の魔法陣を模した紋章が描かれた旗が飾られたままの大きな部屋へ向かう。
そこは、魔特隊の本部。今の時間帯なら、クーが宮殿で仕事をしているはずだ。
「おはよっ、クー! ユキ見なかった!?」
「あ、アスタおはよう……って、え?」
かつて魔特隊の総指揮官が使っていたテーブルと椅子を、現在はクーが使用している。ちょうど書類の仕事をしていたようで、ガラスペンを手にした状態で金と緑の目をぱちくりさせている。
「もしかして、ユキアが目覚めたのかい? いつ?」
「今朝から姿が見えなくて、今探してるところなの! クー、何か聞いてない?」
「いや、僕は何も。それなら仕事している場合じゃないな……あとでアリアに任せてもいいか聞いてみるかな」
現在のクーは、ティアルとトゥリヤの役目も兼任している状態にある。今はもう魔物がほとんど存在していないので、魔特隊の新たな役割を探していたり、人間の箱庭の経過観察もしているらしい。
アリアとヴィーも仕事の半分以上を手伝っているらしいけど、今日は朝から何の仕事をしているのだろう?
「最近、『虚無空間』に変化が起きているみたいなんだよ。最近ジュリオが調子良さそうだったからね、一緒にその調査をしていたんだ。その経過をまとめていた」
「虚無空間って、キャッセリアとか人間の箱庭の間を満たしてる星の海のこと? 前にニールと戦った……」
「そう。あの戦いの前後で、虚無空間に僅かな変化があったらしくてね。当初は、僕たちから見るとほとんど何も変わりないように見えていた。でも、最近になって改めて星の海を観察すると、以前よりも箱庭と箱庭の間が狭まっていることがわかったんだ」
それは、普通の生命であれば目に見えないはずの兆候。三百年の間で起きるはずのなかった変化が、現在進行形で起きている。
ボクが遥か昔に砕いてしまった、デウスガルテンという世界。ボクがやったのは「砕いたこと」だけで、それを繋いで縫い合わせるようなことは誰にもできなかった。
できるとすれば────心当たりはただ一つ。
(ユキが最後に使った星幽術の効果が……現れ始めている?)
どういう原理なのかはボクにもわからない。それこそ、アストラルに精通しているボクかヴィーが調べるべき案件かもしれない。
「ここに来るまで、ユキアには会ってないんだよね?」
「うん」
「となると、キャッセリアにはいないんじゃないかな。彼女のことだ、きっと星の海を渡ったに違いない」
あ、と自分の口から小さく声が漏れた。自分の中で何かが繋がり、確信したような気がする。
「この後セルジュも来るだろうから、伝えておくよ。今の魔特隊って、もっぱらそういう役割を担ってるところがあるし」
「ありがとね! 行ってくる!」
手を振りながら本部の部屋を後にして、階段を駆け下りて宮殿から飛び出す。
メアのことだ、きっとユキがキャッセリアにいないことに気づいているに違いない。
────ボクは戦いが終わるまで、悲しい夢ばかりを見ていた。表面上は笑うことができていても、心の奥底では後悔ばかり繰り返していた。
すべてが終わったあの日から、悪夢はほとんど見なくなった。そもそも、夢自体も見る機会が少なくなったように思う。
「お袋のこと、ようやく吹っ切ることができたんだろ? きっとそのおかげだ」
その声が聞こえたとき、春の風の香りが漂った。気づけば、ボクはワイン色のソファに座っていた。ふかふかして高級感がある。大理石でできた部屋には調度品がいくつも飾られていて、そのすべてに懐かしさを覚えていた。
部屋の窓のそばには、白いマントと黒い装束に身を包んだ青年がいる。金髪と紅玉の瞳、黄金の冠が王たる証。
「カイ! どうしてボクの夢に……」
「おっと、これはただの夢だぜ? もうとっくに俺の魂はなくなってるって。ていうか、お前を助けるために消えたようなもんなんだけど?」
「……ああ、そっか」
カイは呆れたように笑っているけれど、ボクはこれをただの夢だと思いたくなかった。
「よかったな、アスタ。ユキア、お前のことちゃんと受け入れてくれただろ?」
「うん。カイの言った通りだった。カイはすごいね」
「すごいのはユキアの方だ。神も人間も、みんなひっくるめて助けちまった。俺なんて軽々と超えちまったな」
窓辺に背を預け、腕を組みながら笑っている。ボクも彼も、他のみんなも底知れぬ虚無という呪縛から解放されていた。そのおかげで、こうやって気楽に会話ができている。
ただ……今のボクには唯一の心残りがある。
「安心しろ。この夢が終わったら、きっといいことが起こる」
そんな根拠のないことを言いながら、彼はにこりと笑って見せたのだ。金の髪が陽光に反射して生まれた煌めきが、妙に眩しく感じる。
「いいことって何さ?」
「お前にとって、みんなにとって幸せなことだ」
「むぅ、はっきり言ってほしいよ」
「目が覚めたら嫌でもわかるんだから、わざわざ俺が言うことでもないっての」
カイは肩を揺らし、悪戯っぽく笑った。窓から射し込む光が紅玉の瞳を宝石のように輝かせる。
まるで「王」と呼ばれた頃の彼が、そのまま戻ってきたようにすら思えたけれど……。
「……後悔は少しもないんだね」
「当然だ。俺は最後の最後まで、たった一人を守るつもりでいたんだから」
「じゃあ、ボクはまだ生きなくちゃね」
「心からそう言えるなら、もう俺たちがいなくても大丈夫だな」
カイは笑った。どこか誇らしげで、そして少し寂しげに。
彼は窓枠にもたれて外の景色を一瞥した。その背後に広がる青空は、どこまでも澄み切っている。
「カイ」
もう一度だけ、親友の名を呼んだ。
「なんだよ」
「最後にキミに会えてよかった」
「ははっ、そう言うと思ったぜ」
次の瞬間、風が強く吹き込んだ。白い光のような花びらが窓から舞い込んできた。花びらが頬を掠めて、指先に触れた途端に景色が一気に白く染まる。
夢と思いたくなかったけれど、これは確かな夢だった。
「じゃあな、アスタ。幸せになれよ」
白い光の向こうで手を振ってくれた。ボクも目の前が潤むのを承知で手を振り返す。
さようなら。どうか、これからもボクたちを見守っていてね。
────現実に戻ったと知ったとき、目尻から横に涙が伝っていることに気づく。気だるい中で手を動かして、涙を拭って身体を起こす。
「……あれから、もう三年か」
ユキの家のリビング。一人分しか眠れないほど狭いソファの上。壁にかけられた時計を見ると、朝八時くらいだった。いつもより起きるのが遅くなってしまったようだ。
「暑い……」
いつの間にか、随分と気温が上がったような気がする。汗をびっしょりとかいているのは夢のせいではなく、眠っている環境のせいだった。
パジャマから着替えるべく、ソファの背もたれにかけてある普段着をとった。着替えてからブーツを履いて、とりあえず洗面所に向かって顔を洗うことにする。眠気がしゃっきりと覚めて、身体の気だるさが消えていく。
「もしユキが目覚めたときに、恥ずかしくないようにしなくちゃ」
戦いが終わってから、ユキが目覚める気配は一度もない。ボクの気持ちが落ち着くまでかなりの時間を要したけれど、半年経ってようやくいつも通りに過ごせるようになってきた。
それまではずっと一人だったけれど、ユキの家に訪れるひとは毎日誰かしらいたものだから、誰とも話さない日はなかった。
二階に上がろうとしたとき、チリンチリーン、と玄関の呼び鈴が鳴らされる音がした。
「うぇー。まだ起きたばかりなんだけどなー」
仕方なく玄関に向かった。今日は誰が来たのかな? と思いながら、玄関のドアを開ける。見えたのはすみれ色の長髪だ。
「おはよう、アスタ」
「メア、おはよ」
夏らしく、紫色の七分袖のワンピースという涼しい服装をしたメアだった。毎日欠かさずユキの家に来てくれるから、なんとなく予想はしていた。
彼女の首筋や額にも汗が伝っていて、今日の外の天気は快晴なんだろうと予想する。
「今日は特に暑いな。水分とか栄養補給は大丈夫なのか?」
「んー、ボクは別に平気だけど」
「お前じゃなくてユキアの方を心配しているんだが」
「だ、大丈夫に決まってるでしょ!? 付きっきりで様子見てるんだから!」
「まあいい。とりあえず、上がらせてもらうぞ」
メアは小さく息をつき、肩にかかるすみれ色の髪を指先で払った。彼女の背後には、夏の訪れを思わせる強い日差しが差し込んでいて、玄関先の石畳を白く照らしていた。
彼女を迎え入れて、一旦リビングに招いて冷たい飲み物を振る舞うことにした。えーと、とりあえず作り立てのリンゴジュースにしとこうっと。
「昨夜のユキアの様子はどうだった?」
グラスにリンゴジュースを注いでいるボクに、リビングの椅子に座ったメアが問いかけてくる。これも日課みたいなものだ。
「呼吸も穏やかだったし、顔色も変わらず。普段の睡眠と全然同じ」
「変わらず、か」
グラスをメアに差し出しながら答えた。メアは短く呟いてから、リンゴジュースを口にした。
ユキは自分の部屋で眠り続けている。戦いが終わってからずっと目を覚まさない。けれど、その寝顔には苦しさや痛みの影はなく、ただ穏やかな夢を見ているかのように安らかだった。
「私もこうして変わらずに、ユキアが目覚めるのを待つことになるのかな」
「……メア」
「なあ、アスタ」
遠い目でぼやく彼女の様子が、いつもとはほんの少し違うように感じた。暑さで気が滅入っているのかもしれない。
「お前、いつからユキアのことを好きになったんだ?」
「ぶっ────!?」
まさかの斜め上からの質問で噴き出してしまった。遠い目でぼやいて聞くような質問じゃないよ、それは!
「な、な、なんでそういうこと聞くの!? というかええ!? なんで知ってるの!?」
「前々からユキアの様子も変だったし、気づかない方がおかしい。こっちも聞けるような心境ではなかったからな。落ち着いてしばらくして、ふと気になったから」
メアはこうして毎日ユキの家にやってくるくらいには、ユキのことを想っていた。三年前から一切変わっていない。
そんな彼女のことだから、ボクの心境の変化にもとっくに気づいていたのかもしれない。まさかこういう恋愛話を吹っかけてくるとは思わなかったけど。
「明確な時期はわからないけど、気づいた頃には惹かれてた。ちゃんと自覚できたのは、ユキを傷つけられそうになった時かな。傷つけようとした奴に対してものすごい殺意が湧いて、『奪われたくない』って気持ちが膨らんで……自分でもどうしようもないくらいだった」
「……お前はある意味、私と似ているのかもな」
不機嫌そうな言い草だが、顔を見ると案外そうでもない。いつも通りの凛とした態度はそのままで、立ったままのボクを透き通った目で見上げてくる。
「誰かに愛されたいと願っていた。けれど、素直に話せないから拗れてしまって……関係が壊れるのを恐れるあまり、自分に嘘を吐いてしまうんだ」
「えっと……メアも、ユキのこと好きなんだよね?」
「そうだな。私はユキアへの執着を永遠に手放せない。私にとって、友情ゆえか愛情ゆえなのかは些細な問題だ。ただ……今のお前を見ていてわかったんだ。こうなってしまうのが怖かったから、過去の私は過ちを犯したんだな」
過去。メアが魔物に取り憑かれ、正気を失ってしまった事件のこと。ボクとユキはあの時、メアの本当の気持ちに踏み込んだ。
本当はメアも今のボクと同じくらい、ユキのことが好きなんだ。けれど、ユキはメアと親友であることを望んだから、彼女はボクと違う選択をとった。
「ボクのこと、恨んでる?」
「親友の好きな相手を恨むわけがないだろう。少しも、というわけではないが。全部私の問題だ」
「別に殺したって構わないけどね?」
「それは死ねない身体だから叩ける軽口だ。あまり墓穴を掘るようなことは言わない方がいいぞ?」
メアは指で銃の形を作って、銃口を向けるようにしてボクを嘲笑っていた。ボクを殺せないことを知っていながら言うものだから、思わず苦笑いしてしまう。
ただ、その次の言葉は至極真剣なもので。
「アスタ。必ずユキアを幸せにしろ。でなければ、私がお前を殺す」
過去に命を奪った罪人同士。殺した数の差はあれど、重いはずの命は時に軽く感じられると知っている。
どうすれば、世界を砕いた罪を償えるか。その答えを長い間見つけられずにいたけれど、ボクはいつも以上の真面目な微笑みをメアに返す。
「キミに殺される前に証明するよ。愛に飢えた化け物でも、たった一人を幸せにできるって」
砕けた世界での価値観に絶望したユキは、物語にあった神と人間の共存する世界に傾倒した。幼かった彼女にそうさせてしまったのは、元はと言えばボクの過ちが原因だ。
ならば────ボクはこの不滅の生を、ユキ一人に捧げる。彼女に精いっぱい贖い、一生でも足らない幸福を贈ることが、ボクの最大の罪滅ぼし。
自己満足かもしれないけれど、ボクは罵られたって構いやしない。自分の罪は自分で清算する、その中身に正解など存在しないのだから。
「ボクが道を違えそうになったら、メアがボクを殺してね。これでもボク、キミのことは結構信用してるんだよ?」
「ふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。そこまで言うのなら、友人として見守ってやらんでもない。お前を殺すような結末は願い下げだがな」
「当たり前だよ」
リンゴジュースを飲み終わったタイミングを見計らい、二人で二階に続く階段を上がる。ユキの部屋に続く扉を開けて、彼女の寝顔を見るのがボクの日課になっていた。
だが────ベッドに彼女の姿はなかった。
「────え?」
ボクとメアは凍り付いて、しばらくその場から動けなかった。ベッドの布団がめくられて、上に衣服が大量に放置されている。
他に変化はなかったけれど、ユキの部屋は確かにもぬけの殻になっていたのだ。
「ユキア!! どこに行った!?」
ボクよりもメアが正気を取り戻して、ボクを押しのける勢いで部屋中を探し回る。ボクもはっとして、何があったのかを探ることにした。
荒らされた形跡はない。あるとしても、ベッドの上に積み上げられた衣服だけ。見覚えのある普段着もあれば、見たこともない服もある。さすがにクローゼットの中をじろじろと見ることはなかったから、中身なんてよくわからない。
「メア、ここに積まれてるユキの服、どういうことなんだろう?」
「知るか! 誰かが持ち去ったなどであれば、即刻頭をぶち抜いて────」
「そうじゃなくて! ユキの普段着がここにあるのはおかしくない!? ほら、これなんて眠る前に着てた奴! ユキが最高神生誕祭のときにもらった服じゃん!」
焦りと怒りを露わにするメアを落ち着かせるべく、ベッドの上を指さして注目させる。メアもベッドの上を確認すると、だんだんと態度が落ち着いていくのがわかった。
「確かに変だな。とすれば、別の服を着て出ていったのか?」
「……でも、どうして急に」
「こうしてはいられん。アスタ、今すぐ外に行くぞ!」
「ま、待ってよメアー!」
メアがものすごい勢いで階段を駆け下りていく。ボクも後を追って家を出る。
石畳の上で陽炎が揺らめいている。三年前の春に眠りに堕ちたはずの彼女が、今年の夏になって姿を消した────その意味を確かめずにはいられない。
朝だというのに、キャッセリアはどこに行っても暑くて仕方がない。メアと手分けをして、ひとまず中央都市の方からユキの姿を探すことにした。
戦いを終えて数年経った街はほぼ完全に復興していた。以前よりも建物の数が減ったように思うが、元々放置されていた建物もあったので取り壊したりしたそうだ。
「あら。朝から何を慌てているんですか、お兄様?」
繁華街を走っていると、すれ違った少女が声をかけてきた。戦いが終わってからというもの、ボクの妹は随分とのんびりした女の子になったなと思う。
「呑気にしてる場合じゃないよ、ヴィー! ユキがいなくなっちゃったの!」
「声が大きいですよお兄様。一回落ち着いて状況を説明してください」
相変わらず淡々とした態度で諭されたが、その中でボクは乱れた呼吸を止めることができなかった。
「昨夜は変わらずだったのですよね? だったら、まだそんなに遠くには行ってないと思います」
「そ、そうなのかな」
「そもそも、お兄様が寝坊するからいけないのです。それが本当ならとっても晴れやかな記念日ですのに。こんなことならもっと真面目に練習しておくべきでした」
何の話かわからず、首を傾げる。
そういえば、ボクは最近のヴィーが何をやっているのか知らない。あれから、クーと一緒に白の宮殿に移り住んで、彼の仕事を手伝っていると聞いたことはあるけれど……。
「最近、レーニエと一緒にお菓子作りをしているんです。近日中にケーキを作ろうと約束していまして」
「ヴィーが? お菓子作り? すっごく意外」
「なんですかその言い方は……別に、付き合わされているだけです。あのひとも、なんだかんだ言ってトルテのお菓子が大好きでしたから」
今はもういないひとの名前が出たことで、ほんの少し心に影が落ちる。ただ、これが最善の結末だったのだと思うことで精いっぱいだった。
「ヴィーにもやりたいことができたみたいで、ボクは安心したよ」
「……いざ落ち着いてみたら、たまたま見つけただけですよ。ユキアを探すのでしょう? わたしも目を光らせておきます」
「ありがと!」
手作りのケーキを食べさせてもらえる機会が来るといいな、と思いながら妹と別れる。
ヴィーと話している間も周りを見たりしたけれど、ユキの姿はなかった。繁華街にはいないのかもしれない。となれば、次に向かうべきは白の宮殿方面だろう。
宮殿に向かい、エントランスホールへやってくる。二階へ続く螺旋階段を上れば、現在の最高神であるルナステラがいる玉座の間や彼女の部屋、そしてアーケンシェンやヴィーの部屋がある。
元々アイリスが使っていた場所をルナステラが使っており、アルバトスの補佐を受けながら最高神の役割を担っている。
何か情報が入っていないか、まずは玉座の間に向かい確かめることにした。
「あっ、アスタくんおはよう! そんなに慌ててどうしたの?」
三年前より背も髪も伸びて、ほんの少し大人っぽくなったルナステラは、玉座に座って何か本を読んでいた。今、玉座の間にアルバトスの姿はない。
ボクが走ってきたことに気づくと、笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはようルナステラ! あのね、ユキがいなくなっちゃって……」
「えぇっ!? ユキアお姉ちゃんが!? 家で眠ってたんじゃなかったの!?」
昔よりも話し方が僅かに大人びているものの、大げさに驚く様は変わりない。最高神の証である金色の杖を手にして、慌てた様子で玉座から飛び降りた。
「ま、待って? さすがにルナステラはここにいた方がいいんじゃない?」
「いなくなったなら探しに行かなくちゃ! アルトは診療所の方に行ってるから、少なくともわたしが直接魔特隊の方へお願いしに行かないと」
最近、アルバトスは診療所に通う頻度が増えているそうだ。カルデルトが主に行っている、アストラルや黒幽病の研究を手伝っているらしい。
朝からルナステラを一人にしているみたいだし、彼の性格を考えればすぐ戻ってくるだろう。とはいえ、ここに来る神の数は毎日多いと聞くし、玉座の間を空にするのはよくない。
「魔特隊へお願いしに行けばいいんだよね? ボクが言ってくるから大丈夫だよ」
「いいの? そういうことなら、お願いします!」
承ってすぐに玉座の間を後にした。そのまま廊下に戻って、白を基調とした金の魔法陣を模した紋章が描かれた旗が飾られたままの大きな部屋へ向かう。
そこは、魔特隊の本部。今の時間帯なら、クーが宮殿で仕事をしているはずだ。
「おはよっ、クー! ユキ見なかった!?」
「あ、アスタおはよう……って、え?」
かつて魔特隊の総指揮官が使っていたテーブルと椅子を、現在はクーが使用している。ちょうど書類の仕事をしていたようで、ガラスペンを手にした状態で金と緑の目をぱちくりさせている。
「もしかして、ユキアが目覚めたのかい? いつ?」
「今朝から姿が見えなくて、今探してるところなの! クー、何か聞いてない?」
「いや、僕は何も。それなら仕事している場合じゃないな……あとでアリアに任せてもいいか聞いてみるかな」
現在のクーは、ティアルとトゥリヤの役目も兼任している状態にある。今はもう魔物がほとんど存在していないので、魔特隊の新たな役割を探していたり、人間の箱庭の経過観察もしているらしい。
アリアとヴィーも仕事の半分以上を手伝っているらしいけど、今日は朝から何の仕事をしているのだろう?
「最近、『虚無空間』に変化が起きているみたいなんだよ。最近ジュリオが調子良さそうだったからね、一緒にその調査をしていたんだ。その経過をまとめていた」
「虚無空間って、キャッセリアとか人間の箱庭の間を満たしてる星の海のこと? 前にニールと戦った……」
「そう。あの戦いの前後で、虚無空間に僅かな変化があったらしくてね。当初は、僕たちから見るとほとんど何も変わりないように見えていた。でも、最近になって改めて星の海を観察すると、以前よりも箱庭と箱庭の間が狭まっていることがわかったんだ」
それは、普通の生命であれば目に見えないはずの兆候。三百年の間で起きるはずのなかった変化が、現在進行形で起きている。
ボクが遥か昔に砕いてしまった、デウスガルテンという世界。ボクがやったのは「砕いたこと」だけで、それを繋いで縫い合わせるようなことは誰にもできなかった。
できるとすれば────心当たりはただ一つ。
(ユキが最後に使った星幽術の効果が……現れ始めている?)
どういう原理なのかはボクにもわからない。それこそ、アストラルに精通しているボクかヴィーが調べるべき案件かもしれない。
「ここに来るまで、ユキアには会ってないんだよね?」
「うん」
「となると、キャッセリアにはいないんじゃないかな。彼女のことだ、きっと星の海を渡ったに違いない」
あ、と自分の口から小さく声が漏れた。自分の中で何かが繋がり、確信したような気がする。
「この後セルジュも来るだろうから、伝えておくよ。今の魔特隊って、もっぱらそういう役割を担ってるところがあるし」
「ありがとね! 行ってくる!」
手を振りながら本部の部屋を後にして、階段を駆け下りて宮殿から飛び出す。
メアのことだ、きっとユキがキャッセリアにいないことに気づいているに違いない。
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