ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

文字の大きさ
6 / 276
【箱庭探訪編】第1章「星の輝く箱庭」

6話 青髪赤目の兄妹

しおりを挟む
 別の広い道に出たところで立ち止まった。長時間走ってきたせいで脚が痛い。
 はぁ、一時はどうなるかと思った。もうちょっと休んだらメアたちを────

「はー……やらかしたぁ……」

 とある家の壁に寄りかかって俯く。石畳がただひたすら並んでいた。
 あの女の子にバレた原因は、十中八九仮面の男と対峙したときの言葉だ。あの時は無我夢中で、自分でも無意識に叫んでいた記憶がある。幸い、大人たちは信じていないみたいだけど。
 「神は人を助けるもの」────あの言葉は、「永世翔華神物語」の主人公であるカイザーのモットー、みたいなものだ。神でありながら人間を助け、栄華の象徴となる────そんな彼の姿に憧れている。
 小さい頃に読んだ物語に影響された形で、神と人間の共存する世界を夢見ている。たったそれだけなのに、そんなにおかしいものだろうか?
 昔も、似たようなことで何回も悩んだ。それが災いしてひどい目に遭ったこともたくさんある。

「私、やっぱり間違ってるのかなぁ」
「人の家の前でなーに黄昏れてんだよ」
「────え?」

 聞き慣れない少年の声がした。驚いて顔を上げ、真横を向いた。
 いつの間にか、私よりも少し背の高い少年が立っていた。薄めの短い青髪に、赤く鋭い瞳が際立っている。青のシャツを始めとした身なりは少しボロボロだ。

「……私?」
「お前以外に誰がいるんだよ。早くどっか行け。邪魔だ」
「はぁ!?」

 初対面の相手に対してひどい言い草じゃない!? やっぱり、人間の中にも失礼な人っているのね……!
 しかし、私の中から重苦しい悩み事は吹っ飛んでいたのもまた事実だった。

「……お兄ちゃん? どうしたの?」

 少年の背後にあるドアが開かれ、小さな女の子が姿を現した。
 髪色が青、目の色が赤といった部分は似通っていた。しかし少女の方は髪が肩につくほどの長さで、右目が白い眼帯に覆われている。

「アンナ! お前は中にいろって────」
「お兄ちゃんが家の前で立ち止まってるのが見えたから。……お友達?」
「ちげーよ。誰が女友達なんか作るか」
「ちょっと、あんたさっきから失礼ね!?」
「お前も大概だろうが」

 鬱陶しそうに私に視線を戻す少年。彼にアンナと呼ばれた少女の方は、なぜか微笑みを浮かべていた。
 こんな状況が楽しいのだろうか……?
 アンナちゃんは家の中に戻ろうとする。その際、私の方を振り返った。

「よかったら、中に入りますか? お茶なら出せますし……」
「ちょ、アンナ!」
「この人、疲れてるように見えたから。ちょっとだけ休ませてあげようよ」

 ふと、周囲から視線を感じた。複数のものだ。
 見ると、数人の民衆が私たちに目を向けていた。何かひそひそ話をしている者もいる。
 それを見て、少年は深くため息をついた。

「……はぁ。お前、休んだらすぐに帰れよ」

 少年も家の中へ入っていく。
 この空気で断るわけにもいかなさそうだ。大人しくお邪魔することにした。


 彼らが住んでいるらしい家の中は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
 壁にはあちこち修復の跡が残っていた。木の板が取り付けられたままの場所もある。おしゃれな装飾品といったものもない。
 一度床が抜けたらしい場所もあり、そこには近づくなと少年に釘を刺された。
 私が招かれたのは、家の中で最も掃除が行き届いているであろうリビングであった。四角いテーブルと二つの椅子、そしていくつかの棚しかない。
 私はそのうちの椅子の一つに座らせてもらった。

「どうぞ」

 トレーに乗せられたティーカップのうち一つを差し出された。ありがとう、とお礼をする。
 アンナちゃんは私の向かい側の椅子に座り、少年は近くの壁に寄りかかって腕を組んでいる。

「そういえば、自己紹介してませんでした。わたしはアンナリア・ジルヴェスター。アンナで構いません」
「よろしくね、アンナちゃん。私はユキア・アルシェリア」
「ユキアさんですね。よろしくお願いします」

 ぺこりと軽く礼をされた。
 私よりも背が低く、幼いように見える。しかし表情の変化が少なく、とても大人しい子だ。
 そこに寄りかかってるぶっきらぼうとは大違い。

「……何だよ?」
「別に。それより、あんたの名前は?」
「……ティルだ」

 目を合わせようとしてこない。とことん失礼な奴である。
 下手したら、まだシオンの方がマシかも……。

「アンナちゃんはあいつの妹?」
「ええ。十歳差です。わたしが今、八歳なので……」

 ゲッ、年下かい。
 私は今年で生まれて二十年くらいなんだけど……あ、でも神と人間じゃ寿命の概念が違うのか。
 ちなみに、メアたち三人も私と同い年。神の中ではとびっきりの若造だ。

「……お前、街の大通りで何か叫んでた奴だろ。血まみれの親子と一緒にいた……」
「ええぇ!? 待って!? あれ見てたの!?」
「偶然通りかかったときにな。てか、見てなかったらさっきお前に話しかけてねぇよ」

 余計な情報を付け加えないでほしい。どうせならあのまま放っておいてほしかった。
 うわー、なんか恥ずかしくなってきた。本心で叫んだことだから余計に。
 穴があったら入りたいけど、隠れられる場所もない。

「神がどうとか言ってたけど……本当なのか?」
「…………」

 これ以上、人間に正体がバレるわけにはいかない。だんまりを決め込むことにした。
 しかし、沈黙は長くは続かなかった。

「まあ、神なんかいるわけねぇよな。もし存在してたら、こんな目に遭ってねぇし」
「……え?」

 少年──ティルは、壁から身を離して別の部屋へと引っ込んでいった。急に不機嫌になったみたいで、少し気分が悪い。
 神の存在を信じていないことよりも、その後の言葉が気になった。少しだけ冷めたお茶を口にしながら考える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...