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第2章「月下に煌めく箱庭」
36話 凍てついた白刃
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「……ちょっと。こんなの、聞いてないんだけど」
その場で言葉を放ったのはソルだけであったくらい、あまりにもショッキングな出来事だった。
刺されたはずなのに、なぜか傷はない。血も出ていない。しかし顔から血の気が失せており、見ただけでは生きているかどうかすらわからなかった。
元凶であるルルカさんは何も言わなかった。それどころか、こちらを振り返ることさえしない。
「……ルルカ。これが封印の解除に関係あるというのか」
「心配いりません。お嬢様は一時的に仮死状態になられました。これで封印とのリンクは断ち切られ、侵食の進行も抑えられるはずです」
「仮死状態って……刺したよね!?」
「魔力でできた刃です。大事には至っていません」
メアと私の声は震えているのに、ルルカさんがやけに落ち着いているのが恐ろしかった。覚悟の強さが比じゃない。
元からこうするつもりだったのだろう。そしてシュノーもそれを知っていた。
シュノーの言葉の意味がわかってしまった。確かに、いきなりこんな光景を見せられたら混乱する。いくら必要なこととはいえ、混乱で済んでいるのが幸いだった。
「皆様、下がっていてくださいませ」
地面にナイフを捨てて、封印の魔法陣に近づいていく。
厳しい面持ちで魔法陣の前に立ち、ルルカさんは目を閉じて何かを唱え始める。
「『彼方より至りし禍の封、我らが先代の名において、今こそ解き放たん』」
その瞬間、庭園全体が大きく揺さぶられる。轟音が響き渡り、砕かれた魔法陣からは白い結晶の欠片のようなものが溢れ出す。
「ルルカ、離れろ!」
いち早く気配に気づいたシオンが、ルルカさんの前に飛び込み、斧を召喚する。
斧を縦に振りかぶる頃には、ルルカさんは後退していた。
「さっさと出てこいや、化け物ッ!!」
魔法陣から溢れ出す密集した欠片へ、斧を大きく振りかざす。敵意を察したのか、欠片はさらに数を増やして噴き出し、やがて巨大な怪物の形をとる。
怪物が姿を現していくのと同時に、周辺の花や草木から生気が失われていく。色あせた花が朽ち、緑が死の色へと移り変わっていく。
「は、花が……!」
「これがこの庭園の本当の姿だったんだよ。……構えて」
シュノーは息を殺しながら、刀を構え鞘から引き抜こうとしていた。
私たちも各々の武器を召喚し、構える。
「寒くなるよ。『グレイシア・リージョン』」
シュノーが腰の鞘から抜刀し、同時に魔法を唱える。
薄い水色がかった刀身と鞘から、魔力でできた冷気が溢れ出す。標高が高く涼しい空気が、身震いを催すほど冷たくなっていく。
周囲の気温が下がったのは魔法のおかげだろうが、刀そのものも不思議だった。
「────後ろっ!」
シュノーの鋭い声と同時に、背後に立った「怪物」の影が私たちに重なった。
異形というよりは、館よりも大きい背丈の巨人という印象だった。乳白色の結晶をまとっており、見るからに硬そうな見た目をしている。
剛腕、そして剛脚の巨人だ。館に突っ込まれでもしたら、庭園がめちゃくちゃにされてしまう。
「シュノー、オマエは許さないっ!」
「おい待てよチビ女!!」
シオンの制止も聞かず、シュノーは刀を構えながら単身巨人へ突っ込んでいった。
何だかんだいって、シュノーの戦う場面は初めて見る。目の前の敵を何がなんでも始末する、そんな強い殺意を感じていた。
「私はお嬢様をお守りします。皆様には『怪物』の討伐をお願いします」
「っ、あなたは本当に冷静すぎるぞ……!?」
「すべて想定内ですので。それに……私にはもう、お嬢様以外に失うものはありませんから」
覚悟のレベルが段違いだということは、もう嫌というほどわかった。
ルルカさんは「バリエール」という魔法を唱え、フローリアさんと自分、そして館を白いドーム型の防壁で囲んだ。彼女にはフローリアさんの守護に徹してもらうとして、私たちはできるだけ広い場所に散り、巨人と相対する。
いつの間にか、シュノーは巨人の身体を足で駆け上がり、顔の部分へ辿り着き飛び上がっていた。元々あんなに荒れた動き方をするのだろうか?
「凍れ、〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を振り上げ、冷気をまとった刀身を巨人へ叩きつけた。巨人側が勢いよく横へと動いてしまったが、頭の一部を大きく砕いた。欠けた頭からは、黒々とした体液が滝のように溢れ出す。
一番近くにいたシュノーだけでなく、私たちも若干体液を浴びてしまった。これ、浴びて大丈夫なの……?
結晶まみれの怪物の一部が落下し、体液で黒く染まっていき、どんどん庭園が荒れていく。何も知らない者が見たら卒倒するくらいに。
「〈ヴェントゥス・チェインバインド〉!」
魔導書を開いたソルが唱え、風の魔力でできた鎖を放つ。巨人の身体が館へ倒れないようにと伸びていく鎖だったが、絡みついてもなお巨人の身体の動きは止められない。
私も〈ルクス・チェインバインド〉を放ち、光の魔力の鎖を放つ。メアも〈ノクス・チェインバインド〉で闇の鎖を放ってくれたので、三人で巨人の身体が倒れないようにする。
シオンは魔法を唱えることなく、地面に降り立ったシュノーの元へ駆けていく。
「先行しすぎだ、チビ女! 館がぶっ潰れたらどうすんだよ!?」
「わかってる! 〈スティーリア・チェインバインド〉!」
「さっぶ!?」
シュノーはシオンの言葉を振り払い、薄水色の鎖を十本以上放つ。すべて巨人に絡みつき、館が潰されること自体は免れた。
何本もの鎖を一気に放って、しかも正確にコントロールできるなんて。戦闘慣れしていることは明白だった。
「ったく、オレらも頼れよな! 〈トニトルス・ブラストブレイク〉!」
距離を置いて魔力を収束させ、巨人に向かって電撃を炸裂させる。電気が通るのか、若干相手の動きが麻痺した。
しかし、すぐに元通りの動きになってしまう。一瞬だけ動きを止められるということはわかった。
「電撃得意なんだ……じゃあこうする。〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉」
シュノーは何を思ったのか、巨人に向かって大量の水を放った。そして、体液が溢れ出していた部分を凍らせて防ぐ。
巨人の身体全体というかなり広範囲に放出したため、術者であるシュノー自身、そして私たちも思いっきり水を浴びた。
ずぶ濡れで寒い……でも、おかげでさっきの変な体液は洗い流された。
「うぎゃああぁぁ!? 寒い!! 水被せんなぁぁ!!」
「文句言うな寝ぐせ男。ほら行け」
「くっそ、覚えとけよ! 〈トニトルス・ランスクラッド〉!!」
ずぶ濡れにされてヤケになったシオンが駆け出していく。電撃の魔力をまとった斧を振りかぶり、高く飛び上がって巨人の胴体めがけて刃をぶつけた。しかし、少し深めの傷を残すだけに留まった。
「嘘だろ!? こいつ硬すぎね!?」
「そもそもの耐久度が普通の魔物より高いんだ。それに相手が大きすぎる。正攻法じゃ勝ち目がない」
ソルによる冷静な分析、助かる。
今度は、巨人からの攻撃。結晶まみれの剛腕を振りかざし、私たちを薙ぎ払おうとした。
「全員防御して! 〈ヴェントゥス・ガードサークル〉!」
ソル、私、メア、シオン、シュノーの五人それぞれの得意属性で、自らを防御壁で守った。身体が潰されそうな衝撃が襲いかかるも、なんとかバリアは破壊されずに済んだ。
ここに、私とメアで追撃を仕掛けることにした。私は〈ルクス・ランスクラッド〉を唱え、剣に光の魔力をまとわせた。
「行くよ、メア!」
「ああ! 〈ノクス・ブラストレイズ〉!!」
巨人を挟み、二方向から攻撃をぶつける。光の斬撃と闇の射撃により、巨人は咆哮を上げ空気を揺らす。
私たちの攻撃によって、ダメージは確実に蓄積している。そもそもの耐久度がありすぎるから、回数をぶつけるか威力の大きい技を浴びせる必要があるのだろう。
このまま攻撃をぶつけ続ければ倒せるかもしれないが、連撃をぶつけるには五人全員で攻撃し続けた方がいい。それに、「怪物」を破壊するには火力がいまいち足りないようだ。
もしかすると、普段使っている魔法──「系統魔法」ではだめなのかもしれない。
「系統魔法じゃ火力不足っぽいよ。どうする?」
「となると、『あれ』を使うしかないが……」
「……『神幻術』かー……」
私たち神には、基本となる「系統魔法」や持つ者の限られる「固有魔法」の他に、もう一つ奥義に等しい大魔法がある。神々の間では「神幻術」と呼ばれるものであった。
一つとして同じものはなく、奥義なだけあって威力は段違いだ。しかし詠唱に時間がかかる挙句、一度使うとほとんどの魔力を使い果たしてしまう。
個人的には終盤の方でとっておきたい。メアたちも同じ考え方のようだ。
「やっぱり、シュノーがやらないと……! 〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を構え直し、再び巨人へと斬りかかる。最初にぶつけた攻撃と同じだったが、今度はどこも欠けたりしなかった。
こうしているうちにも庭園はボロボロになっていく。館に攻撃が通っていないのがせめてもの救いだった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉!」
魔力で大量の水を放ち、巨人を全体的に濡らした後、氷の刃を大量に放つ。当たった部分から波紋を広げるように凍り付いていき、やがて巨人全体が氷に覆われていく。
シュノーの度重なる攻撃により、巨人の動きはかなり鈍くなっている。しかし、魔法を使う回数が随分と多く感じられた。
「君、ちょっと魔法使いすぎ。魔力切れ起こすよ」
「うるさいっ! シュノーに構うなっ!」
何度も刀を構え直しては、魔法を使いつつ斬りつける。次第に威力が落ちていっているのは、私にもわかった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア────っ!!」
立て続けに水、氷の魔法を放っていたシュノーだが、呪文を唱えきれずその場に膝をつく。
「シュノー、大丈夫!?」
「無茶すんなチビ女!」
私とシオンが駆け寄り、メアとソルが巨人への攻撃に徹する。
シュノーの息が激しく荒れており、大量の汗が伝い落ちている。魔力切れの症状だった。最初に発動していた固有魔法「グレイシア・リージョン」の効果が切れているのか、近づいてもまったく寒くない。
動けなくなっているのに、刀を地面に突き刺して立とうとしている。これ以上は戦わせるわけにはいかなかった。
「まだだ……まだやれる。ユキアたちだけに任せておけない」
「大丈夫だよ! 私たちだって魔物は何回も倒してきてるし、シュノーは休んでて!」
「魔物は全部、シュノーが倒す……倒さなきゃ、だめ……!!」
私もシオンも絶句してしまうくらい、闘志が燃えている。
魔物を好む者はいないに等しいが、これほどにまで魔物に対し憎悪を向ける者もそこまで多くない。
一体、何が彼女をここまで突き動かしているのか────
その場で言葉を放ったのはソルだけであったくらい、あまりにもショッキングな出来事だった。
刺されたはずなのに、なぜか傷はない。血も出ていない。しかし顔から血の気が失せており、見ただけでは生きているかどうかすらわからなかった。
元凶であるルルカさんは何も言わなかった。それどころか、こちらを振り返ることさえしない。
「……ルルカ。これが封印の解除に関係あるというのか」
「心配いりません。お嬢様は一時的に仮死状態になられました。これで封印とのリンクは断ち切られ、侵食の進行も抑えられるはずです」
「仮死状態って……刺したよね!?」
「魔力でできた刃です。大事には至っていません」
メアと私の声は震えているのに、ルルカさんがやけに落ち着いているのが恐ろしかった。覚悟の強さが比じゃない。
元からこうするつもりだったのだろう。そしてシュノーもそれを知っていた。
シュノーの言葉の意味がわかってしまった。確かに、いきなりこんな光景を見せられたら混乱する。いくら必要なこととはいえ、混乱で済んでいるのが幸いだった。
「皆様、下がっていてくださいませ」
地面にナイフを捨てて、封印の魔法陣に近づいていく。
厳しい面持ちで魔法陣の前に立ち、ルルカさんは目を閉じて何かを唱え始める。
「『彼方より至りし禍の封、我らが先代の名において、今こそ解き放たん』」
その瞬間、庭園全体が大きく揺さぶられる。轟音が響き渡り、砕かれた魔法陣からは白い結晶の欠片のようなものが溢れ出す。
「ルルカ、離れろ!」
いち早く気配に気づいたシオンが、ルルカさんの前に飛び込み、斧を召喚する。
斧を縦に振りかぶる頃には、ルルカさんは後退していた。
「さっさと出てこいや、化け物ッ!!」
魔法陣から溢れ出す密集した欠片へ、斧を大きく振りかざす。敵意を察したのか、欠片はさらに数を増やして噴き出し、やがて巨大な怪物の形をとる。
怪物が姿を現していくのと同時に、周辺の花や草木から生気が失われていく。色あせた花が朽ち、緑が死の色へと移り変わっていく。
「は、花が……!」
「これがこの庭園の本当の姿だったんだよ。……構えて」
シュノーは息を殺しながら、刀を構え鞘から引き抜こうとしていた。
私たちも各々の武器を召喚し、構える。
「寒くなるよ。『グレイシア・リージョン』」
シュノーが腰の鞘から抜刀し、同時に魔法を唱える。
薄い水色がかった刀身と鞘から、魔力でできた冷気が溢れ出す。標高が高く涼しい空気が、身震いを催すほど冷たくなっていく。
周囲の気温が下がったのは魔法のおかげだろうが、刀そのものも不思議だった。
「────後ろっ!」
シュノーの鋭い声と同時に、背後に立った「怪物」の影が私たちに重なった。
異形というよりは、館よりも大きい背丈の巨人という印象だった。乳白色の結晶をまとっており、見るからに硬そうな見た目をしている。
剛腕、そして剛脚の巨人だ。館に突っ込まれでもしたら、庭園がめちゃくちゃにされてしまう。
「シュノー、オマエは許さないっ!」
「おい待てよチビ女!!」
シオンの制止も聞かず、シュノーは刀を構えながら単身巨人へ突っ込んでいった。
何だかんだいって、シュノーの戦う場面は初めて見る。目の前の敵を何がなんでも始末する、そんな強い殺意を感じていた。
「私はお嬢様をお守りします。皆様には『怪物』の討伐をお願いします」
「っ、あなたは本当に冷静すぎるぞ……!?」
「すべて想定内ですので。それに……私にはもう、お嬢様以外に失うものはありませんから」
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ルルカさんは「バリエール」という魔法を唱え、フローリアさんと自分、そして館を白いドーム型の防壁で囲んだ。彼女にはフローリアさんの守護に徹してもらうとして、私たちはできるだけ広い場所に散り、巨人と相対する。
いつの間にか、シュノーは巨人の身体を足で駆け上がり、顔の部分へ辿り着き飛び上がっていた。元々あんなに荒れた動き方をするのだろうか?
「凍れ、〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を振り上げ、冷気をまとった刀身を巨人へ叩きつけた。巨人側が勢いよく横へと動いてしまったが、頭の一部を大きく砕いた。欠けた頭からは、黒々とした体液が滝のように溢れ出す。
一番近くにいたシュノーだけでなく、私たちも若干体液を浴びてしまった。これ、浴びて大丈夫なの……?
結晶まみれの怪物の一部が落下し、体液で黒く染まっていき、どんどん庭園が荒れていく。何も知らない者が見たら卒倒するくらいに。
「〈ヴェントゥス・チェインバインド〉!」
魔導書を開いたソルが唱え、風の魔力でできた鎖を放つ。巨人の身体が館へ倒れないようにと伸びていく鎖だったが、絡みついてもなお巨人の身体の動きは止められない。
私も〈ルクス・チェインバインド〉を放ち、光の魔力の鎖を放つ。メアも〈ノクス・チェインバインド〉で闇の鎖を放ってくれたので、三人で巨人の身体が倒れないようにする。
シオンは魔法を唱えることなく、地面に降り立ったシュノーの元へ駆けていく。
「先行しすぎだ、チビ女! 館がぶっ潰れたらどうすんだよ!?」
「わかってる! 〈スティーリア・チェインバインド〉!」
「さっぶ!?」
シュノーはシオンの言葉を振り払い、薄水色の鎖を十本以上放つ。すべて巨人に絡みつき、館が潰されること自体は免れた。
何本もの鎖を一気に放って、しかも正確にコントロールできるなんて。戦闘慣れしていることは明白だった。
「ったく、オレらも頼れよな! 〈トニトルス・ブラストブレイク〉!」
距離を置いて魔力を収束させ、巨人に向かって電撃を炸裂させる。電気が通るのか、若干相手の動きが麻痺した。
しかし、すぐに元通りの動きになってしまう。一瞬だけ動きを止められるということはわかった。
「電撃得意なんだ……じゃあこうする。〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉」
シュノーは何を思ったのか、巨人に向かって大量の水を放った。そして、体液が溢れ出していた部分を凍らせて防ぐ。
巨人の身体全体というかなり広範囲に放出したため、術者であるシュノー自身、そして私たちも思いっきり水を浴びた。
ずぶ濡れで寒い……でも、おかげでさっきの変な体液は洗い流された。
「うぎゃああぁぁ!? 寒い!! 水被せんなぁぁ!!」
「文句言うな寝ぐせ男。ほら行け」
「くっそ、覚えとけよ! 〈トニトルス・ランスクラッド〉!!」
ずぶ濡れにされてヤケになったシオンが駆け出していく。電撃の魔力をまとった斧を振りかぶり、高く飛び上がって巨人の胴体めがけて刃をぶつけた。しかし、少し深めの傷を残すだけに留まった。
「嘘だろ!? こいつ硬すぎね!?」
「そもそもの耐久度が普通の魔物より高いんだ。それに相手が大きすぎる。正攻法じゃ勝ち目がない」
ソルによる冷静な分析、助かる。
今度は、巨人からの攻撃。結晶まみれの剛腕を振りかざし、私たちを薙ぎ払おうとした。
「全員防御して! 〈ヴェントゥス・ガードサークル〉!」
ソル、私、メア、シオン、シュノーの五人それぞれの得意属性で、自らを防御壁で守った。身体が潰されそうな衝撃が襲いかかるも、なんとかバリアは破壊されずに済んだ。
ここに、私とメアで追撃を仕掛けることにした。私は〈ルクス・ランスクラッド〉を唱え、剣に光の魔力をまとわせた。
「行くよ、メア!」
「ああ! 〈ノクス・ブラストレイズ〉!!」
巨人を挟み、二方向から攻撃をぶつける。光の斬撃と闇の射撃により、巨人は咆哮を上げ空気を揺らす。
私たちの攻撃によって、ダメージは確実に蓄積している。そもそもの耐久度がありすぎるから、回数をぶつけるか威力の大きい技を浴びせる必要があるのだろう。
このまま攻撃をぶつけ続ければ倒せるかもしれないが、連撃をぶつけるには五人全員で攻撃し続けた方がいい。それに、「怪物」を破壊するには火力がいまいち足りないようだ。
もしかすると、普段使っている魔法──「系統魔法」ではだめなのかもしれない。
「系統魔法じゃ火力不足っぽいよ。どうする?」
「となると、『あれ』を使うしかないが……」
「……『神幻術』かー……」
私たち神には、基本となる「系統魔法」や持つ者の限られる「固有魔法」の他に、もう一つ奥義に等しい大魔法がある。神々の間では「神幻術」と呼ばれるものであった。
一つとして同じものはなく、奥義なだけあって威力は段違いだ。しかし詠唱に時間がかかる挙句、一度使うとほとんどの魔力を使い果たしてしまう。
個人的には終盤の方でとっておきたい。メアたちも同じ考え方のようだ。
「やっぱり、シュノーがやらないと……! 〈スティーリア・アサルトブレイク〉!」
刀を構え直し、再び巨人へと斬りかかる。最初にぶつけた攻撃と同じだったが、今度はどこも欠けたりしなかった。
こうしているうちにも庭園はボロボロになっていく。館に攻撃が通っていないのがせめてもの救いだった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア・エアーカッター〉!」
魔力で大量の水を放ち、巨人を全体的に濡らした後、氷の刃を大量に放つ。当たった部分から波紋を広げるように凍り付いていき、やがて巨人全体が氷に覆われていく。
シュノーの度重なる攻撃により、巨人の動きはかなり鈍くなっている。しかし、魔法を使う回数が随分と多く感じられた。
「君、ちょっと魔法使いすぎ。魔力切れ起こすよ」
「うるさいっ! シュノーに構うなっ!」
何度も刀を構え直しては、魔法を使いつつ斬りつける。次第に威力が落ちていっているのは、私にもわかった。
「〈アクア・イラプション〉、〈スティーリア────っ!!」
立て続けに水、氷の魔法を放っていたシュノーだが、呪文を唱えきれずその場に膝をつく。
「シュノー、大丈夫!?」
「無茶すんなチビ女!」
私とシオンが駆け寄り、メアとソルが巨人への攻撃に徹する。
シュノーの息が激しく荒れており、大量の汗が伝い落ちている。魔力切れの症状だった。最初に発動していた固有魔法「グレイシア・リージョン」の効果が切れているのか、近づいてもまったく寒くない。
動けなくなっているのに、刀を地面に突き刺して立とうとしている。これ以上は戦わせるわけにはいかなかった。
「まだだ……まだやれる。ユキアたちだけに任せておけない」
「大丈夫だよ! 私たちだって魔物は何回も倒してきてるし、シュノーは休んでて!」
「魔物は全部、シュノーが倒す……倒さなきゃ、だめ……!!」
私もシオンも絶句してしまうくらい、闘志が燃えている。
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