ディバイン・レガシィー -箱庭の観測者-

月詠来夏

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【神間陰謀編】第4章「懐かしき故郷と黒い影」

73話 二人の屋敷

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 その翌日、私はアルバトスとステラと一緒に、普段はあまり歩かない道を進んでいた。私が二人のあとについて行っている状態である。
 メアは、今日は来なかった。

「アルバトス、こっちでいいの?」
「はい。ステラ様と私の屋敷は、二人の屋敷の近くなんです」
「だから、建物も見たことあるんだよー!」

 私の住む住宅街エリアから離れ、大きめの屋敷などが連なる郊外の方へ行く。
 薄い紫色の屋敷を見つけたので、私が呼び鈴を鳴らす。まもなく、とたとたと足音が聞こえてきた。

「はい……あ、アルトにユキア。いらっしゃい。……そっちの子は?」
「シュノーおねーちゃん、はじめまして! ルナステラっていいます!」
「ああ、アルトが言ってた子ね。はじめまして、シュノーです。中にどうぞ」

 シュノーに迎えられ、屋敷にお邪魔する。掃除の行き届いた廊下を歩き、客室に招かれた。テーブルにあらかじめ置かれていたティーポットを使い、私たちにお茶を出してくれる。

「そういや、アルトがその子を連れてくるのは初めてだったね」
「ええ。シュノー、いつも忙しそうにしてましたから」
「そうだね。ちょっと待ってて、レノ呼んでくる」

 そう言って一度立ち去るシュノー。私は出されたお茶をいただいた。ミルクティーらしく、甘みが口の中に優しく広がる。お茶を出すのが上手い。
 ステラたちと静かに他愛ない話をしていると、客室の外からドタドタと足音が近づいてきて、まもなく扉を開け放たれた。

「ユキー! 目覚めて何よりなのだ!」
「わーっ!?」

 レノが私の胸に飛び込んできたので、びっくりしながらも抱きしめた。しばらくして、私の隣りに座っているステラの存在に気づき、私から離れる。

「む? この子は誰なのだ?」
「ルナステラ。ユキアたちの妹分なんだって」
「はっ、はじめまして。ルナステラです」

 あまりの元気はつらつ加減に、少したじろいでいるようだった。レノはにこっと笑い、ステラの両手を握った。

「ルナ! レノとトモダチにならないかー?」
「わ、わたしと?」
「ルナステラ。あまり気を遣わなくていいよ。レノは、同年代の友達みたいな感覚で付き合う方がやりやすいみたいだから」

 戸惑うステラに、シュノーがそっとフォローを入れてくれた。
 少し間をおいてから、にっこりと笑顔を返した。

「じゃあ、レノちゃん! これからよろしくね!」
「よろしくなのだ、ルナ!」

 手を握り合い、笑い合っている。これには、私たち三人も思わず笑みをこぼした。

「じゃあ、レノはルナと外で遊んでくるのだ!」
「お待ちください、レノ。ステラ様に何かあるといけませんし、私もご一緒させてください」
「アルもか? なら、鬼ごっこするのだ! アルが鬼なのだー!」
「わーい! アルトー、早く早くー!」
「なっ!? お待ちください二人とも!!」

 三人は客室を飛び出していき、笑い声を響かせた。部屋にはシュノーと私だけが取り残される。

「すっかり元通りだ。レノも元気になって」
「うん。……シュノー。実は私、色々聞きたいことがあって来たの」

 そう切り出すとすぐに、シュノーはテーブルを挟んで向かい側の椅子に座った。一度口つけたミルクティーは既に冷め始めている。
 
「それで、聞きたいことって?」
「アスタがどこに行ったか知ってる? 私、あんまりよく覚えてなくて……」
「……シュノーたちもよくわからない。気づいたときにはキャッセリアにいたし、ここにいる様子もない」

 シュノー曰く、グラウンクラックの様子をみはからっていたとき、急に辺りが真っ白になったらしい。そこから何が起きたのか覚えておらず、気づいたらここに戻ってきていたと。誰かに言伝して姿を消したわけでもないらしい。
 一応、アスタの妹であるヴィータはキャッセリアにいるらしい。ただ、戻ってきて以降姿を見た者はおらず、すぐに話を聞くのは難しそうだ。

「シュノー、あのとき何が起きたのか全然わかんなかった。不思議なことが連続しすぎて……」

 懐から何かを取り出したので、覗き込む。手のひらサイズの小瓶で、中身は空っぽだ。元々何か入っていたのか、深い紺色のような液体が付着している。

「それ何?」
「気がついたら持ってた。……そうだ、ユキア。クリムにこれ渡してほしいんだけど、いい?」
「別にいいよ」
「ありがとう。あまりレノのそばを離れたくないから」

 シュノーから小瓶を受け取り、ポケットにしまう。クリムに持っていくということは、事件の証拠になり得るものかもしれない。あまり下手に触りすぎない方がいいだろう。

「そうだ。シュノー、どうしてレノは今まで神幻術を発現してなかったの? あのとき急に発現したのが、なんだか信じられなくって……」
「……無理もない。普通に生きてたら、こんな風になることはありえないから」

 シュノーは一度席を立ち、客室の窓際に歩いていった。いつの間にか、外から賑やかしい声が聞こえてくるようになっていた。今頃は三人仲良く鬼ごっこをしているのだろう。
 窓の外の様子を見る彼女の顔は、憂いの色に染まっていた。

「……レノは、神隠し事件が起きるまでの三十年間、ずっと眠り続けていた。神幻術を発現する前に眠ってしまったから、あの子の成長が阻害されていたの」
「三十年!? どうして────」
「病気だったんだ。三十年前に魔物に襲われたのが、きっかけだった」

 神が、病気を患う……? 私には信じられなかった。ほとんど病に冒されることはないはずなのに。

「そんなことって、あり得るの……?」
「シュノーも最初は半信半疑だった。でも信じざるを得なかった」

 刀の柄を撫でているシュノーの顔に、影が落ちていた。ためらうような様子を見せながらも、おずおずと口を開く。

「……実を言うとね。シュノー、しばらく戦えそうにないの」
「えっ!? どうして!?」
「帰ってきてから受けた検査結果、あんまりよくなかった。カルデに、魔物討伐から離れて妹と遊んでろって言われちゃった。別に、それはそれでいいけどね」

 何の検査をしたかまでは言わなかったが、魔特隊で義務づけられているものらしい。シオンとソルも受けているかもしれない。
 また、どうやらシュノーが魔物討伐を休むということは、まだ一部の者しか知らないそうだ。それをわざわざ私に話してくれたことに、ちょっと複雑な気持ちになった。
 シュノーは窓から私へと視線を移した。物憂げな雰囲気は消え、優しい微笑みを浮かべている。

「ノインやアルトは、レノが眠る前からの友達なの。長らく眠っていたあの子には、二人だけじゃなくてたくさん友達ができた。目覚めたらどうしようかなって思ってたけど、そういう意味では、神隠し事件は思わぬきっかけだったかな」
「……そうだね。私も、あの事件があったからこそ、人間の世界を知ることができた。アスタに会ったのも、人間の箱庭だったし……」

 そこで、私ははっとした。人間の箱庭……そこに、すべての意識が向いた。
 急に私が言葉を切ったせいか、シュノーは心配そうにこちらへ近づいた。

「どうしたの、ユキア」
「もしかしたら……もう一度人間の箱庭に行ったら、アスタに会えるかもしれない」
「でも、ユキアだけじゃ箱庭の端を通り抜けられない。無茶だよ」
「いや……まだ望みはある」

 彼と同じ力を持つ者が、もう一人いる。
 あの子に協力してもらえれば……アスタはきっと見つけられるはずだ。
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