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【神間陰謀編】第4章「懐かしき故郷と黒い影」
83話 鏡の屋敷
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屋敷が立ち並ぶ高級住宅街に、足を踏み入れる。元々は五人で行くはずだったのに、ヴィータはアスタを連れてデウスプリズンへと行ってしまった。
アスタは私と一緒がいいってうるさかったけど、強制連行されて行ってしまった。ヴィータもなんで帰ったのやら。
「……シオン。後ろ」
「え? あー……」
ソルがシオンの肩を叩き促すも、私には何のことだかさっぱりわからない。二人に倣って同じく後ろを向いたところで、どういうことか理解した。
道端の街灯のうち、私たちより数本ほど離れたとある一本の後ろに、水色の小さい人影が見えていた。寝ぐせがつきっぱなしの髪が風に吹かれ、隠れている意味がなくなってしまっている。
「やるならもっと徹底的にやれ、ストーカー駄女神」
「駄女神じゃなーい! 離せーっ!!」
ストーカーは否定しないのか……。
シオンに首根っこを掴まれじたばたしているのは、博物館のロリコンだった。引きこもりなくせに慣れない外に出て、しかもストーキングしているのは大好きなロリじゃなくて、私たちだった。
……どういうこと?
「おい姉貴! 何見つかってんだバカ!」
「あ、アルバトスもいる」
「うっ……」
道を挟んで向こう側の街灯には、アルバトスも潜んでいた。向こうは髪や格好も黒だから、街灯に隠れていてもそこまで目立たなかった。小声とともに身を乗り出したからもうアウトだが。
しゅんとしたノインと呆れたアルバトスは、隠れるのをやめる。
「で、二人とも。なんで私たちを尾行したわけ?」
「アルバトスが急に引きずり出してきたんだよ! あたしはゴロゴロ寝てようと思ってたのに!」
「お前らが心配だったんだよ。何か下手なことをしでかされたら困るしな」
心配だからという理由だけなら、わざわざノインまで引っ張り出す必要性はなさそうなのだが……。
ステラはどうしたのかと聞いたら、一時的にグレイスガーデンに預けたらしい。そこには頼りになる先生がいて、短期間なら保護してくれるそうだ。
「メアの世話神とお前たちを接触させたくないんだよ。だから今まで隠してたのに……」
「でも、メアがそこにいるかもしれないじゃん。もしかしたら、今は世話神さんいないかもしれないし」
「そう言って聞かないから、こうやってついてきたんだ。……本当に真実を知る覚悟があるのか?」
黙って頷いた。私たちの気持ちは変わらないことを悟ったのか、大きくため息をついた。
「……お人好しに育ってくれたもんだな、ったく。ほら、行くぞ姉貴」
「やーだー!! あたしまで巻き込むなー!!」
アルバトスはノインを引きずりながら、私たちについてくるように促す。
屋敷が立ち並ぶ住宅街の端まで歩いてきた。「あれだ」とアルバトスに指し示されるまで、そこが目的の屋敷だとわからなかった。
誰かが住めるような建物とは思えなかったのだ。ここまで見てきた小綺麗な屋敷とは違いボロボロで、蜘蛛の巣や小さなガラクタが放置されている。
「本当にここがメアのいた屋敷なの?」
「そだよ。自分らで確かめてみればわかる」
引きずられていたノインがしっかりと立ち上がり、私たちに促した。急に雰囲気が変わって妙に思いつつ、私を先頭に屋敷の前に立つ。呼び鈴を鳴らすも、反応は返ってこない。
軽く扉を押してみると、鍵がかかっていないのかすんなりと開いた。ギィ、と古めかしい音を立てた扉の向こうはかび臭く、顔をしかめた。
こんなところにメアが住んでいたなんて、信じられない。
「お、おい……なんかお化けでも出るんじゃねぇのか……」
「ここまで来て引き下がれないでしょ。ほらいくよ」
「うあああぁぁ!! オレを置いていくなぁ~!!」
ソルにしがみつきながら叫ぶシオンを放って、私は屋敷の中へ足を踏み入れる。
中は外以上にひどい有様だった。部屋の隅や隙間には必ずと言っていいほど蜘蛛の巣が張っている。照明も消されており、窓から射しこむ西日だけが頼りだ。
「……やけに静かだな。誰もいないのか?」
「マジ? あたし帰っていい?」
「ダメに決まってんだろ」
屋敷のあちこちに、あらゆる形の鏡が置かれていた。姿見、壁に立てかける鏡、果てには鏡の人形。中には壊れた鏡と、その破片が散乱している場所もあった。
幽霊屋敷とでも呼んでやろうかと思っていたが、「鏡の屋敷」と呼ぶ方がふさわしいだろう。
「なんでこんなに鏡があるの?」
「世話神……ミラージュが鏡を使う奴だからだ。それに加え、あいつは自分の美貌にやけに執着するからな」
────ミラージュ? その名前、どこかで……。
「ねぇ、私、ミラージュさんに宮殿で会ったんだけど……」
「ええええええ!? なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」
「いや、だって今日初めて会ったし!?」
「よりにもよって仕事している時間帯と被ったのかよ」
ノインが私にしがみついて身体を揺すってくるし、アルバトスも片手で頭を押さえている。色々と想定外だったらしい。
どうも、ミラージュさんは仕事をするとき、ほとんど宮殿の一室に籠りっぱなしであるそうだ。なので、宮殿で私と会う確率はさほど高くないだろうと考えていたようだ。
「何もされなかったなら、それでいいんだが。あの女も何を考えているかわかんねぇからな……警戒するに越したことないぞ」
ミラージュさんについて話すとき、アルバトスはたいてい機嫌悪そうに喋る。私から離れたノインは、忌々しいものを見るかのような目で周囲を見回していた。
「……ノインも、ミラージュさんと知り合いなの?」
「知り合いっていうか、色々と因縁があるんだよ。あたしとアルバトスはね」
そんな話は初耳だ。恐らく、私たちが生まれるよりも前からの知り合いなのだろう。そうでなければ、もうとっくの昔に出会っているはずだ。
「それにしても、この荒れ具合は異常だよ。メアはこんなところで育てられていたの?」
「ああ。育てられていたというより、ほとんど放置されていたらしい」
それからアルバトスは、メアとミラージュさんについて話をしてくれた。
世話神による育児放棄は、昔から問題視されていた。その中でもミラージュさんは何度も育児放棄を繰り返す神であったらしい。世話神制度のことがあるから、生まれたばかりの神を命令に従い引き取るが、それからはろくに育てようともしなかったとか。
神は人間に比べて生命力が高いから、育てられないくらいで死に至るケースは少ない。しかし、その分苦しむ時間は長い。
「オレと姉貴も、訳があってあいつの世話になったことがあるんだけどな。結局最後まで育てられることはなかった」
「そんな話、初めて聞いたぞ」
「好き好んでする話でもないしね。あたしたち、あいつのこと嫌いだもん」
二人の因縁とは、そういう意味だったようだ。意外と私たちに縁のある人物ということはわかった。
だが、どうして育児放棄を繰り返すのだろう。世話神制度にはよほどの理由がない限り従わなければいけないが、なぜ神を育てようとしないのか。私にはそれがわからない。
ただ……メアがこんな劣悪な環境で育ってきたということが、ショックだった。
「おかしくなっちまったんだろうな、きっと。昔はもっと────」
「あいつの話は、やめてくれないか」
私たち五人以外の他に、もう一人少女の声。屋敷の奥から、鏡の破片を踏み割って出てきた。
乱れた髪を垂らし、少しゴミだらけになってしまったメアが、私たちに虚ろな目を向けている。静かに感激していた私は、彼女に駆け寄ろうとした。
「ここにいたのね、メア! 探したんだから」
「……アスタたちは、排除したのか?」
あまりにも冷たく、落ち着きすぎていた。駆け寄ろうとした足は自ずと止まり、空気を凍らせる。
まだ、あの二人を目の敵にしているというのか……。
「おい、まだそんなこと言ってんのかよ。いい加減正気に戻れよ、なぁ?」
「……そうか。まだのうのうと生きているんだな、あいつは」
語気を強めたシオンに諭されても、メアの態度は変わらない。俯いたことによって目元が前髪で見えなくなり、一気に表情が見えなくなった。
「いいよ、別に。私のすべてを受け入れてくれるものなんて、この世にはなかったんだから」
傾き続ける西日が、ついに窓から姿を消した。外への扉がひとりでに閉じられ、部屋中が夕闇に染まる。身が震えあがるほどおぞましい「何か」が充満し始める。
「〈AstroArts〉」
詠唱が聞こえてすぐの出来事だった。
メアの周囲から闇が噴き出す。暗がりの中ではそれ以上のことは把握できない。しかし、自分の周囲を凄まじいエネルギーが駆け巡り、止めるどころか触れられない。ノインやシオンたちの叫びが耳に入ってくる。
エネルギーの波が止んだ頃には、私以外みんな倒れていた。
「メア……何、その魔法……」
「お前を守るための新しい力だ。これなら、あいつらも殺せる」
その言葉の矢先、私はメアの背後に「何か」がしがみついているのに気づく。
黒い、黒い人のようなモノだった。影をまとっているのかよくわからないが、とにかく真っ黒な生き物だ。それがメアの背中にしがみつき、落ちくぼんだ目でこちらを見つめてくる。
「待って……殺すって、アスタたちを!? やめてよ、メア!!」
「私を罪人にしたくないのか? 本当に優しいな、ユキアは。でも、もう遅いよ」
ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら、おもむろに私の手を掴み、闇に引きずり込もうとした。
逆らわなければ飲み込まれる。本能で抵抗しても、向こうの力には敵わない。ついには私を引き寄せ、周囲に漂う闇ごと身体を抱きしめた。
「私はとうの昔に罪を犯している。今更、何の罪悪感も湧かないよ」
屋敷が立ち並ぶ高級住宅街に、足を踏み入れる。元々は五人で行くはずだったのに、ヴィータはアスタを連れてデウスプリズンへと行ってしまった。
アスタは私と一緒がいいってうるさかったけど、強制連行されて行ってしまった。ヴィータもなんで帰ったのやら。
「……シオン。後ろ」
「え? あー……」
ソルがシオンの肩を叩き促すも、私には何のことだかさっぱりわからない。二人に倣って同じく後ろを向いたところで、どういうことか理解した。
道端の街灯のうち、私たちより数本ほど離れたとある一本の後ろに、水色の小さい人影が見えていた。寝ぐせがつきっぱなしの髪が風に吹かれ、隠れている意味がなくなってしまっている。
「やるならもっと徹底的にやれ、ストーカー駄女神」
「駄女神じゃなーい! 離せーっ!!」
ストーカーは否定しないのか……。
シオンに首根っこを掴まれじたばたしているのは、博物館のロリコンだった。引きこもりなくせに慣れない外に出て、しかもストーキングしているのは大好きなロリじゃなくて、私たちだった。
……どういうこと?
「おい姉貴! 何見つかってんだバカ!」
「あ、アルバトスもいる」
「うっ……」
道を挟んで向こう側の街灯には、アルバトスも潜んでいた。向こうは髪や格好も黒だから、街灯に隠れていてもそこまで目立たなかった。小声とともに身を乗り出したからもうアウトだが。
しゅんとしたノインと呆れたアルバトスは、隠れるのをやめる。
「で、二人とも。なんで私たちを尾行したわけ?」
「アルバトスが急に引きずり出してきたんだよ! あたしはゴロゴロ寝てようと思ってたのに!」
「お前らが心配だったんだよ。何か下手なことをしでかされたら困るしな」
心配だからという理由だけなら、わざわざノインまで引っ張り出す必要性はなさそうなのだが……。
ステラはどうしたのかと聞いたら、一時的にグレイスガーデンに預けたらしい。そこには頼りになる先生がいて、短期間なら保護してくれるそうだ。
「メアの世話神とお前たちを接触させたくないんだよ。だから今まで隠してたのに……」
「でも、メアがそこにいるかもしれないじゃん。もしかしたら、今は世話神さんいないかもしれないし」
「そう言って聞かないから、こうやってついてきたんだ。……本当に真実を知る覚悟があるのか?」
黙って頷いた。私たちの気持ちは変わらないことを悟ったのか、大きくため息をついた。
「……お人好しに育ってくれたもんだな、ったく。ほら、行くぞ姉貴」
「やーだー!! あたしまで巻き込むなー!!」
アルバトスはノインを引きずりながら、私たちについてくるように促す。
屋敷が立ち並ぶ住宅街の端まで歩いてきた。「あれだ」とアルバトスに指し示されるまで、そこが目的の屋敷だとわからなかった。
誰かが住めるような建物とは思えなかったのだ。ここまで見てきた小綺麗な屋敷とは違いボロボロで、蜘蛛の巣や小さなガラクタが放置されている。
「本当にここがメアのいた屋敷なの?」
「そだよ。自分らで確かめてみればわかる」
引きずられていたノインがしっかりと立ち上がり、私たちに促した。急に雰囲気が変わって妙に思いつつ、私を先頭に屋敷の前に立つ。呼び鈴を鳴らすも、反応は返ってこない。
軽く扉を押してみると、鍵がかかっていないのかすんなりと開いた。ギィ、と古めかしい音を立てた扉の向こうはかび臭く、顔をしかめた。
こんなところにメアが住んでいたなんて、信じられない。
「お、おい……なんかお化けでも出るんじゃねぇのか……」
「ここまで来て引き下がれないでしょ。ほらいくよ」
「うあああぁぁ!! オレを置いていくなぁ~!!」
ソルにしがみつきながら叫ぶシオンを放って、私は屋敷の中へ足を踏み入れる。
中は外以上にひどい有様だった。部屋の隅や隙間には必ずと言っていいほど蜘蛛の巣が張っている。照明も消されており、窓から射しこむ西日だけが頼りだ。
「……やけに静かだな。誰もいないのか?」
「マジ? あたし帰っていい?」
「ダメに決まってんだろ」
屋敷のあちこちに、あらゆる形の鏡が置かれていた。姿見、壁に立てかける鏡、果てには鏡の人形。中には壊れた鏡と、その破片が散乱している場所もあった。
幽霊屋敷とでも呼んでやろうかと思っていたが、「鏡の屋敷」と呼ぶ方がふさわしいだろう。
「なんでこんなに鏡があるの?」
「世話神……ミラージュが鏡を使う奴だからだ。それに加え、あいつは自分の美貌にやけに執着するからな」
────ミラージュ? その名前、どこかで……。
「ねぇ、私、ミラージュさんに宮殿で会ったんだけど……」
「ええええええ!? なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」
「いや、だって今日初めて会ったし!?」
「よりにもよって仕事している時間帯と被ったのかよ」
ノインが私にしがみついて身体を揺すってくるし、アルバトスも片手で頭を押さえている。色々と想定外だったらしい。
どうも、ミラージュさんは仕事をするとき、ほとんど宮殿の一室に籠りっぱなしであるそうだ。なので、宮殿で私と会う確率はさほど高くないだろうと考えていたようだ。
「何もされなかったなら、それでいいんだが。あの女も何を考えているかわかんねぇからな……警戒するに越したことないぞ」
ミラージュさんについて話すとき、アルバトスはたいてい機嫌悪そうに喋る。私から離れたノインは、忌々しいものを見るかのような目で周囲を見回していた。
「……ノインも、ミラージュさんと知り合いなの?」
「知り合いっていうか、色々と因縁があるんだよ。あたしとアルバトスはね」
そんな話は初耳だ。恐らく、私たちが生まれるよりも前からの知り合いなのだろう。そうでなければ、もうとっくの昔に出会っているはずだ。
「それにしても、この荒れ具合は異常だよ。メアはこんなところで育てられていたの?」
「ああ。育てられていたというより、ほとんど放置されていたらしい」
それからアルバトスは、メアとミラージュさんについて話をしてくれた。
世話神による育児放棄は、昔から問題視されていた。その中でもミラージュさんは何度も育児放棄を繰り返す神であったらしい。世話神制度のことがあるから、生まれたばかりの神を命令に従い引き取るが、それからはろくに育てようともしなかったとか。
神は人間に比べて生命力が高いから、育てられないくらいで死に至るケースは少ない。しかし、その分苦しむ時間は長い。
「オレと姉貴も、訳があってあいつの世話になったことがあるんだけどな。結局最後まで育てられることはなかった」
「そんな話、初めて聞いたぞ」
「好き好んでする話でもないしね。あたしたち、あいつのこと嫌いだもん」
二人の因縁とは、そういう意味だったようだ。意外と私たちに縁のある人物ということはわかった。
だが、どうして育児放棄を繰り返すのだろう。世話神制度にはよほどの理由がない限り従わなければいけないが、なぜ神を育てようとしないのか。私にはそれがわからない。
ただ……メアがこんな劣悪な環境で育ってきたということが、ショックだった。
「おかしくなっちまったんだろうな、きっと。昔はもっと────」
「あいつの話は、やめてくれないか」
私たち五人以外の他に、もう一人少女の声。屋敷の奥から、鏡の破片を踏み割って出てきた。
乱れた髪を垂らし、少しゴミだらけになってしまったメアが、私たちに虚ろな目を向けている。静かに感激していた私は、彼女に駆け寄ろうとした。
「ここにいたのね、メア! 探したんだから」
「……アスタたちは、排除したのか?」
あまりにも冷たく、落ち着きすぎていた。駆け寄ろうとした足は自ずと止まり、空気を凍らせる。
まだ、あの二人を目の敵にしているというのか……。
「おい、まだそんなこと言ってんのかよ。いい加減正気に戻れよ、なぁ?」
「……そうか。まだのうのうと生きているんだな、あいつは」
語気を強めたシオンに諭されても、メアの態度は変わらない。俯いたことによって目元が前髪で見えなくなり、一気に表情が見えなくなった。
「いいよ、別に。私のすべてを受け入れてくれるものなんて、この世にはなかったんだから」
傾き続ける西日が、ついに窓から姿を消した。外への扉がひとりでに閉じられ、部屋中が夕闇に染まる。身が震えあがるほどおぞましい「何か」が充満し始める。
「〈AstroArts〉」
詠唱が聞こえてすぐの出来事だった。
メアの周囲から闇が噴き出す。暗がりの中ではそれ以上のことは把握できない。しかし、自分の周囲を凄まじいエネルギーが駆け巡り、止めるどころか触れられない。ノインやシオンたちの叫びが耳に入ってくる。
エネルギーの波が止んだ頃には、私以外みんな倒れていた。
「メア……何、その魔法……」
「お前を守るための新しい力だ。これなら、あいつらも殺せる」
その言葉の矢先、私はメアの背後に「何か」がしがみついているのに気づく。
黒い、黒い人のようなモノだった。影をまとっているのかよくわからないが、とにかく真っ黒な生き物だ。それがメアの背中にしがみつき、落ちくぼんだ目でこちらを見つめてくる。
「待って……殺すって、アスタたちを!? やめてよ、メア!!」
「私を罪人にしたくないのか? 本当に優しいな、ユキアは。でも、もう遅いよ」
ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら、おもむろに私の手を掴み、闇に引きずり込もうとした。
逆らわなければ飲み込まれる。本能で抵抗しても、向こうの力には敵わない。ついには私を引き寄せ、周囲に漂う闇ごと身体を抱きしめた。
「私はとうの昔に罪を犯している。今更、何の罪悪感も湧かないよ」
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