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第8章「神智を超えた回生の夢」
218話 Krim(2)
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腕が軋むように痛み、息切れが激しくなってきた。自分の限界以上に戦い続けている自覚はあっても、私は微塵も止まろうとは思わなかった。
ノーファ一人を相手にするだけでも、私たちだけでは勝ち目がないのは明白だった。
クリスもユーラさんも、ミラージュさんも目覚めないまま。ステラは魔力をアーケンシェンのみんなに送り続けており、下手に動けない。私とアスタ、ヴィータ、クロウリー、アルバトスでステラと気絶しているみんなを守っているけれど、ほとんど疲れ切っている。もうそろそろ限界を迎えてもおかしくない。
「はぁ、はぁ……いつになったら倒れんだよ、あの女!!」
「知らないわよ! こっちが聞きたいわ……!」
クロウリーが黒い鎌を片手に腰をかがめ、息を切らしながらも鬱憤を吐き出した。彼も魔法や星幽術をかなり使ったから、魔力切れを起こしているようだ。
正直、私もこれ以上魔法を使ったら倒れると思う。アルバトスに関しては意識を保っているのがやっとだ。唯一戦い続けていられるのは、観測者であるアスタとヴィータだけである。
「お兄様、早くノーファを潰す隙を作ってください! ユキアたちの体力はもう限界です!」
「わ、わかってるけど大変なんだってばぁ! 『《Meteoron Inanis》』!」
ヴィータが焦りながら促し、それに対してアスタが半分泣きそうになりながら応えた。彼の手に黒い稲妻が走り、星空を塊にしたボールのような何かを三つほど放った。そのエネルギー体は曲がりくねりながらノーファの元へ飛んでいき、彼女に直撃する。
しかし、向こうの身体が少し倒れかかっただけで、大きなダメージは与えられなかった。それでも、純粋なアストラルで攻撃を仕掛けられる彼らが、私たちの中では一番の功労者だけど。
「泣き言を言っている場合ではありませんよ、お兄様! 『《Camellia Peccator》』、『《Clava Ardor》』!!」
長剣を持っていない方の手を天に掲げたヴィータが、二つ連続で星幽術を行使する。光り輝く椿をノーファの頭上に落とした後、彼女の足元から赤く燃え盛るクローバーを蔓延らせる。
椿がノーファの頭に着弾したことで爆裂し、クローバーの延焼により小さな身体が炎であぶられる。普通の人間が食らえば死に至るであろう攻撃に思えたのに、ノーファは倒れる気配を見せない。
「これほどやっても効きませんか……やっぱり、あなたはノーファではありませんね。一つも傷がつかないところを見ると、ヴァニタスの力が生んだ幻影か偽物のどちらかでしょうか」
「うふふ、わたくしの正体なんてどうだっていいじゃないですか。今大切なのは……あなたたちの切り札を、一つでも多く潰すことですわ」
再びノーファが動く前に、私も加勢しようと動き出そうとした。
しかし、足を踏み出した瞬間、自分の身体から急速に力が抜けていくのを感じる。私は前のめりに崩れ落ち、気づいたときには「戦女神化」が強制的に解除され、元の姿に戻ってしまった。
「あぅっ……!? ち、力が」
「テメェっ!? こんなときに何元に戻ってやがる!?」
「わざとじゃないわよ! カイザー、もう少し頑張ってよ!」
クロウリーが怒鳴ってくるのをあしらいつつ、自分の中にいるカイザーに向かって叱咤する。けれど、自分に宿る彼の気配がとても弱々しくなっていた。
(……っ……すまねぇ、ユキア……)
「な、なに!? どうしたの、カイザー!?」
(力を使いすぎたみたいだ……これ以上やったら、俺が消えちまう。何より、お前の身に危険が及ぶ……)
「そんな……カイザー、しっかりして!」
頭の中で響く彼の声は息も絶え絶えになっていて、衰弱しているようにさえ感じられた。彼が消えてしまうと思うと恐ろしくて、それ以上無理をしたくでもできそうになかった。
「うふふっ、どうやらチャンスみたいですね?」
「っ、ユキ!!」
ノーファの身体がふらりと揺れて、彼女の翠の瞳が私とかち合った。アスタが私を呼んだ頃には、ノーファの黒く光る腕が私に迫ろうとしていた。
魔力がない。けど、やらなきゃ。最後の力を振り絞って片手剣を召喚し直そうと腕を伸ばした、そのときだ。
「────〈AstroArts:Kreuz〉」
か細く聞こえた少年の声とともに、ノーファの動きが止まった。不思議に思って彼女を見ると、彼女にまとわりついている黒くて歪な光が、少しずつ薄まっていっているのだ。
いや……ただ薄まっているだけじゃない。彼女から黒いモヤが引き剥がされていき、ある一か所に集められていくかのように見えた。
「まさ、か……アーケンシェンの、仕業?」
「そうだよ。ノーファ」
ノーファが自分の背後を振り返ろうとしたとき、誰かが空から舞い降りた。彼が地面に降り立つ頃には、ノーファの首が斬り落とされていたのだ。
黒い血を浴びたガラスの刃は、風の魔力と同じ薄い緑色の光をまとっていた。まとわりついた黒い血でさえも、白い光に変わって分解され、ガラスの刃へと吸い込まれる。
それを見た私は────彼の持つ刃はアストラルを宿して、自分のものとして扱える状態になっているとわかった。
「ごめんね、ユキア。遅くなった」
そう言って差し出された手は、今となっては見慣れた少年の手だ。倒れていた私を起こそうと話しかけてきた彼の右目は、金色に輝いている。心なしか、背中から見える翼がいつもよりも大きく見えた。
「声、聞こえたよ。僕の救いを必要としてくれるひとがいるって」
「……え」
「ずっと前を見続けてきた君のおかげで、僕は過去に囚われずに戻ってこられた。ありがとう、ユキア」
私は彼の──クリムの手を掴もうとした。でも、掴む直前で引っ込める。クリムはきょとんとしていた。
「この────バカああああぁぁぁ!!」
「な!? なになになに!?」
怒鳴りながら拳を振り下ろしたが、とっさに受け止められた。当然、向こうは驚いたわけだが、勢い余って尻餅をついた。
そこに追い打ちをかけるように、ぼこぼこと両手の拳でクリムを叩く。ほとんど感情任せの行動だった。
「どんだけ人を待たせたと思ってんのよ、この生真面目バカ断罪神! あんたたちがいきなり戦闘不能になって、こっちは大変なんてもんじゃなかったわよ!!」
「ち、ちょっとユキア!? 気持ちはわかるけど、いきなり殴りかかってくるのはひどくない!?」
「うるさいうるさい!! あんたならこのくらいなんてことないでしょ!! もうやだ!!」
そのうち、殴るのもバカバカしくなって、叩いていたクリムの胸に縋りついてしまう。自分の身体が、ひどく震えていた。
やっと、アーケンシェンが戻ってきたというのに。自分の中でぐちゃぐちゃになっていく感情の整理をつけられない。誰かを殺せるほど傷つける感覚を知ってしまった。自分の中に灯る希望の光が弱まって、力を失ったような喪失感を覚えてしまった。
「帰ってくるのが遅いのよ……もう戻ってこなかったらどうしようって、必死で……!!」
一度本音を吐露し始めたら、簡単には止まらなかった。目頭が熱くなって、喋る口が痺れそうになって、涙まで溢れてきた。
クリムはただ、私の言葉を受け止めていた。何回も殴られたくせに、怒りもしない。
「……僕が知らない間に、とても怖い思いをしたんだね」
「は、はぁ? 私が? なんで?」
「手が震えてるから。剣も握れなくなりそうなくらいに」
縋りつく手に、私よりも僅かに小さな手が重なったことで、震えが確かなものだと自覚させられる。
言われて初めて気づいた。身体全体よりも、手の震えが一番深刻だった。何より────
「あんただって、震えてるじゃない」
「……はは。君ほどじゃないけどね。当然だよ。いくら不老不死の生き物だろうと、首を断ち切る感覚は人間と変わらないんだ」
力ない苦笑いを見せられた。まるで、過去の行いを悔いるような笑い方だ。
「でも、いくら心が痛もうと戦わなければ終わる。君の判断も行動も間違ってない。ただ、ユキアにはその痛みを忘れてほしくない」
重なった手に力を込められ、ゆっくりと身体を離される。立ち上がった彼は、座り込んだままの私の横を通り過ぎる。
「僕も百年前に同じ痛みを知って、忘れられずに生きてきた。それでいいんだ。僕たちは────この世界で一番、人間に近い神だから」
なぜだろう。クリムの言葉が、驚くほど胸にすとんと落ちた。
やがて、彼は私の横を通り過ぎ、私のそばにいる人物へ目を向ける。
「ねぇ、クロウ。次は僕たちが責任を果たす番だよ」
「……はぁ? なんでオレ?」
「アーケンシェンが一気に全員、使い物にならなくなったんでしょ? それなら、今度は僕たちが仕事するべきじゃない?」
「はああぁぁ……あーのーなぁ? オレはもうアーケンシェンじゃねぇって言ってるだろうが!? それにオレは他人の命令で動くようなタチじゃねぇ! そんくらいわかってんだろ!?」
唖然としていたクロウリーだったが、クリムの言葉を聞いて深い深いため息をついた。すごくうんざりとしているように見えるが、クリムは一歩も引く気がなさそうだ。
それから、もう一人。彼らと強い繋がりのある彼女もまた、立ち上がった。
「そうだねぇ。私なんて、今まで好き勝手暴れちゃったりした後でこの有様だもん。もう謝罪だけじゃ許されないよ。ねー、クロウ?」
「……あ、ダメだこれ無理」
クロウリーがうげー、と眉をひそめたが、緑と青のオッドアイの天使──アリアは両手を腰に当てて、クリムやクロウリーの前に歩み出た。
「さーて。新たな最高神をお守りするため────この素晴らしい世界を守るため! アーケンシェン、反撃開始!」
「うん。僕たちの出番だ」
「あぁ……結局こうなんのかよ、クソ……」
意気揚々としているアリアとクリムを横目に、クロウリーはただ一人憂鬱とした顔を浮かべる。
私は内心で呆れつつも安堵する。アーケンシェンは本当に個性的な奴らばっかりだ。でも、そんな彼らがとても頼りになるということもまた、一般神の端くれである私は当然知っているんだ。
息をつくとともに、自分の意識が揺らぐのを感じる。どの道、ちょっと休むしかないみたい。
腕が軋むように痛み、息切れが激しくなってきた。自分の限界以上に戦い続けている自覚はあっても、私は微塵も止まろうとは思わなかった。
ノーファ一人を相手にするだけでも、私たちだけでは勝ち目がないのは明白だった。
クリスもユーラさんも、ミラージュさんも目覚めないまま。ステラは魔力をアーケンシェンのみんなに送り続けており、下手に動けない。私とアスタ、ヴィータ、クロウリー、アルバトスでステラと気絶しているみんなを守っているけれど、ほとんど疲れ切っている。もうそろそろ限界を迎えてもおかしくない。
「はぁ、はぁ……いつになったら倒れんだよ、あの女!!」
「知らないわよ! こっちが聞きたいわ……!」
クロウリーが黒い鎌を片手に腰をかがめ、息を切らしながらも鬱憤を吐き出した。彼も魔法や星幽術をかなり使ったから、魔力切れを起こしているようだ。
正直、私もこれ以上魔法を使ったら倒れると思う。アルバトスに関しては意識を保っているのがやっとだ。唯一戦い続けていられるのは、観測者であるアスタとヴィータだけである。
「お兄様、早くノーファを潰す隙を作ってください! ユキアたちの体力はもう限界です!」
「わ、わかってるけど大変なんだってばぁ! 『《Meteoron Inanis》』!」
ヴィータが焦りながら促し、それに対してアスタが半分泣きそうになりながら応えた。彼の手に黒い稲妻が走り、星空を塊にしたボールのような何かを三つほど放った。そのエネルギー体は曲がりくねりながらノーファの元へ飛んでいき、彼女に直撃する。
しかし、向こうの身体が少し倒れかかっただけで、大きなダメージは与えられなかった。それでも、純粋なアストラルで攻撃を仕掛けられる彼らが、私たちの中では一番の功労者だけど。
「泣き言を言っている場合ではありませんよ、お兄様! 『《Camellia Peccator》』、『《Clava Ardor》』!!」
長剣を持っていない方の手を天に掲げたヴィータが、二つ連続で星幽術を行使する。光り輝く椿をノーファの頭上に落とした後、彼女の足元から赤く燃え盛るクローバーを蔓延らせる。
椿がノーファの頭に着弾したことで爆裂し、クローバーの延焼により小さな身体が炎であぶられる。普通の人間が食らえば死に至るであろう攻撃に思えたのに、ノーファは倒れる気配を見せない。
「これほどやっても効きませんか……やっぱり、あなたはノーファではありませんね。一つも傷がつかないところを見ると、ヴァニタスの力が生んだ幻影か偽物のどちらかでしょうか」
「うふふ、わたくしの正体なんてどうだっていいじゃないですか。今大切なのは……あなたたちの切り札を、一つでも多く潰すことですわ」
再びノーファが動く前に、私も加勢しようと動き出そうとした。
しかし、足を踏み出した瞬間、自分の身体から急速に力が抜けていくのを感じる。私は前のめりに崩れ落ち、気づいたときには「戦女神化」が強制的に解除され、元の姿に戻ってしまった。
「あぅっ……!? ち、力が」
「テメェっ!? こんなときに何元に戻ってやがる!?」
「わざとじゃないわよ! カイザー、もう少し頑張ってよ!」
クロウリーが怒鳴ってくるのをあしらいつつ、自分の中にいるカイザーに向かって叱咤する。けれど、自分に宿る彼の気配がとても弱々しくなっていた。
(……っ……すまねぇ、ユキア……)
「な、なに!? どうしたの、カイザー!?」
(力を使いすぎたみたいだ……これ以上やったら、俺が消えちまう。何より、お前の身に危険が及ぶ……)
「そんな……カイザー、しっかりして!」
頭の中で響く彼の声は息も絶え絶えになっていて、衰弱しているようにさえ感じられた。彼が消えてしまうと思うと恐ろしくて、それ以上無理をしたくでもできそうになかった。
「うふふっ、どうやらチャンスみたいですね?」
「っ、ユキ!!」
ノーファの身体がふらりと揺れて、彼女の翠の瞳が私とかち合った。アスタが私を呼んだ頃には、ノーファの黒く光る腕が私に迫ろうとしていた。
魔力がない。けど、やらなきゃ。最後の力を振り絞って片手剣を召喚し直そうと腕を伸ばした、そのときだ。
「────〈AstroArts:Kreuz〉」
か細く聞こえた少年の声とともに、ノーファの動きが止まった。不思議に思って彼女を見ると、彼女にまとわりついている黒くて歪な光が、少しずつ薄まっていっているのだ。
いや……ただ薄まっているだけじゃない。彼女から黒いモヤが引き剥がされていき、ある一か所に集められていくかのように見えた。
「まさ、か……アーケンシェンの、仕業?」
「そうだよ。ノーファ」
ノーファが自分の背後を振り返ろうとしたとき、誰かが空から舞い降りた。彼が地面に降り立つ頃には、ノーファの首が斬り落とされていたのだ。
黒い血を浴びたガラスの刃は、風の魔力と同じ薄い緑色の光をまとっていた。まとわりついた黒い血でさえも、白い光に変わって分解され、ガラスの刃へと吸い込まれる。
それを見た私は────彼の持つ刃はアストラルを宿して、自分のものとして扱える状態になっているとわかった。
「ごめんね、ユキア。遅くなった」
そう言って差し出された手は、今となっては見慣れた少年の手だ。倒れていた私を起こそうと話しかけてきた彼の右目は、金色に輝いている。心なしか、背中から見える翼がいつもよりも大きく見えた。
「声、聞こえたよ。僕の救いを必要としてくれるひとがいるって」
「……え」
「ずっと前を見続けてきた君のおかげで、僕は過去に囚われずに戻ってこられた。ありがとう、ユキア」
私は彼の──クリムの手を掴もうとした。でも、掴む直前で引っ込める。クリムはきょとんとしていた。
「この────バカああああぁぁぁ!!」
「な!? なになになに!?」
怒鳴りながら拳を振り下ろしたが、とっさに受け止められた。当然、向こうは驚いたわけだが、勢い余って尻餅をついた。
そこに追い打ちをかけるように、ぼこぼこと両手の拳でクリムを叩く。ほとんど感情任せの行動だった。
「どんだけ人を待たせたと思ってんのよ、この生真面目バカ断罪神! あんたたちがいきなり戦闘不能になって、こっちは大変なんてもんじゃなかったわよ!!」
「ち、ちょっとユキア!? 気持ちはわかるけど、いきなり殴りかかってくるのはひどくない!?」
「うるさいうるさい!! あんたならこのくらいなんてことないでしょ!! もうやだ!!」
そのうち、殴るのもバカバカしくなって、叩いていたクリムの胸に縋りついてしまう。自分の身体が、ひどく震えていた。
やっと、アーケンシェンが戻ってきたというのに。自分の中でぐちゃぐちゃになっていく感情の整理をつけられない。誰かを殺せるほど傷つける感覚を知ってしまった。自分の中に灯る希望の光が弱まって、力を失ったような喪失感を覚えてしまった。
「帰ってくるのが遅いのよ……もう戻ってこなかったらどうしようって、必死で……!!」
一度本音を吐露し始めたら、簡単には止まらなかった。目頭が熱くなって、喋る口が痺れそうになって、涙まで溢れてきた。
クリムはただ、私の言葉を受け止めていた。何回も殴られたくせに、怒りもしない。
「……僕が知らない間に、とても怖い思いをしたんだね」
「は、はぁ? 私が? なんで?」
「手が震えてるから。剣も握れなくなりそうなくらいに」
縋りつく手に、私よりも僅かに小さな手が重なったことで、震えが確かなものだと自覚させられる。
言われて初めて気づいた。身体全体よりも、手の震えが一番深刻だった。何より────
「あんただって、震えてるじゃない」
「……はは。君ほどじゃないけどね。当然だよ。いくら不老不死の生き物だろうと、首を断ち切る感覚は人間と変わらないんだ」
力ない苦笑いを見せられた。まるで、過去の行いを悔いるような笑い方だ。
「でも、いくら心が痛もうと戦わなければ終わる。君の判断も行動も間違ってない。ただ、ユキアにはその痛みを忘れてほしくない」
重なった手に力を込められ、ゆっくりと身体を離される。立ち上がった彼は、座り込んだままの私の横を通り過ぎる。
「僕も百年前に同じ痛みを知って、忘れられずに生きてきた。それでいいんだ。僕たちは────この世界で一番、人間に近い神だから」
なぜだろう。クリムの言葉が、驚くほど胸にすとんと落ちた。
やがて、彼は私の横を通り過ぎ、私のそばにいる人物へ目を向ける。
「ねぇ、クロウ。次は僕たちが責任を果たす番だよ」
「……はぁ? なんでオレ?」
「アーケンシェンが一気に全員、使い物にならなくなったんでしょ? それなら、今度は僕たちが仕事するべきじゃない?」
「はああぁぁ……あーのーなぁ? オレはもうアーケンシェンじゃねぇって言ってるだろうが!? それにオレは他人の命令で動くようなタチじゃねぇ! そんくらいわかってんだろ!?」
唖然としていたクロウリーだったが、クリムの言葉を聞いて深い深いため息をついた。すごくうんざりとしているように見えるが、クリムは一歩も引く気がなさそうだ。
それから、もう一人。彼らと強い繋がりのある彼女もまた、立ち上がった。
「そうだねぇ。私なんて、今まで好き勝手暴れちゃったりした後でこの有様だもん。もう謝罪だけじゃ許されないよ。ねー、クロウ?」
「……あ、ダメだこれ無理」
クロウリーがうげー、と眉をひそめたが、緑と青のオッドアイの天使──アリアは両手を腰に当てて、クリムやクロウリーの前に歩み出た。
「さーて。新たな最高神をお守りするため────この素晴らしい世界を守るため! アーケンシェン、反撃開始!」
「うん。僕たちの出番だ」
「あぁ……結局こうなんのかよ、クソ……」
意気揚々としているアリアとクリムを横目に、クロウリーはただ一人憂鬱とした顔を浮かべる。
私は内心で呆れつつも安堵する。アーケンシェンは本当に個性的な奴らばっかりだ。でも、そんな彼らがとても頼りになるということもまた、一般神の端くれである私は当然知っているんだ。
息をつくとともに、自分の意識が揺らぐのを感じる。どの道、ちょっと休むしかないみたい。
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