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九話 屋敷は燃やす
しおりを挟むそれにしてもこのラティア、三十歳と年を重ねている割にはかなり若く見える。
20代前半といっても全然問題ないくらいに若々しい見た目だ。
顔も娘に似てというのもおかしな話であるが街の女の中でもかなり整っていて、スタイルもいい。いい女という言葉が実に似合う女だ。
こんな妻を豚のような屑ががもてただけでも幸せを感じるべきなのに、あの屑は本当に救えないやつだ。死んでまで俺をイラつかせるとは不愉快がすぎる。
「大魔王様、ここが領主邸になります」
「ほー、ここがか」
そんなことを考えている間にようやく領主邸に辿り着いた。
「どうでしょうか? 大魔王様に釣り合うとまではいきませんが、この町では一番立派な造りとなっております」
俺は目の前の大豪邸を目にして思わず目を丸くした。
あんな屑には勿体ない代物だ。ただ、あの屑が住んでいた屋敷に住むのには少し抵抗があるし、何よりラティアにとっては忌々しい記憶ばかりの屋敷にこれからも住むのは苦痛だろう。
「ラティア、この屋敷は俺が貰ってもいいのだな?」
「はい、領主代行の権限を用いて、大魔王様に献上致します」
「そうか、では、好きにさせてもらうぞ。『地獄の業火』」
俺はラティアからの言質を得ると、すぐに屋敷を第八位階魔術で消し炭にする。奇しくも、この屋敷の持ち主であったディスにとどめをさした魔術と同じものであったのは偶然だ。
「······え?」
隣にいるラティアは、当然、屋敷が一瞬の内に燃え滓に豹変したことに驚いていた。
だが、まだ俺のターンは続く。
「『城創造』」
続いて使用したのは、同じく第十位階魔術の一つで、その詠唱文の通り、城を創造する魔術だ。
俺が詠唱を終えると、今しがた更地にした目の前の土地に、先程あった屋敷なんて霞んでしまう程巨大な白い城が出現した。
アテナリスに存在していた大国の王都にあった城にも負けず劣らずの造りに、さすが第十位階魔術だと感嘆する。
ただ、炎龍王を一撃で屠った同位階魔術の『抗いの一撃アヴェストゲェッヒ』よりも魔力消費が圧倒的に悪いので、さすがに連続して使うことはできなさそうだ。
最も、城を創造する魔術なんて連続で使う機会はないだろうがな。
「ラティア、今日からここが俺とお前の住む屋敷······いや、城だ。どうだ? 綺麗だろ」
「は······はい。いえ······え? 一体いつの間にこんなお城を······?」
突然屋敷が燃え滓になっただけでも、驚きだと言うのに、更に次の瞬間には巨大な城が建っているのだから、もはや驚くなんて言葉では現せないほどラティアは驚愕していた。
まあ、第六位階魔術しか扱えていなかった過去の俺がこの光景を見たら、きっとラティアと同じような反応をしただろうから、彼女の反応も当然のことだ。
「俺は全位階全ての魔術を使うことができる。さっきの黒い炎も今いきなり巨大な白が建ったのも、どちらも俺が行使した魔術が生み出した結果だ。これが、大魔王の力の一つというところだな」
「まさか······戦闘だけじゃなくてこのようなことまでできるなんて······それに全ての魔術を扱えるなんて、大魔王様は本当に凄いんですね······」
「フッ、この力はほとんどおまけで貰ったのに過ぎないのだがな······まあいい、せっかくお前のために新しく造ったんだ、早く入ろう」
「え? 私の······ため?」
「お前の負の記憶ばかりつまった屋敷にこれからも住まわせるなんて大魔王である俺がさせるわけないだろう。
配下を労うのも支配者の務め、というものだ。
さあ、いつまでも突っ立っていないで行くぞ」
「大魔王様······」
アテナリスの魔王と同じ道を歩めば、同じ最後を迎える可能性がある。
故に俺は、まったく同じ道を歩まない。
確かに、絶対的な力で支配もする。しかし、それだけで終わらない。圧倒的な器の大きさを見せつけることで、心酔させ忠誠心を底上げすることだって重要だ。
力だけの支配者だと思われるなど大魔王として不甲斐なすぎるからな。
女一人の気持ちも汲み取れずして支配者になるなど到底無理なことだ。
こんなことを考えている裏で、第十位階魔術で創造した城の中はどうなっているのか早く見てみたいとワクワクしていたのは秘密だ。
大魔王でも、時には少年時代の探究心を思い出す。なぜなら俺は大魔王である前に一人の人間だからな。
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