魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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古き時の小波

28話

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数日後…

「あーうー!」

リリスが楽しげに笑う。

「ま、待ってくださ~い!」

オリュンが肩で息をしながら、立ち止まる。

「アッハハハハ!オリュンがリリス様に遊ばれてるぞ!」

マリッシャーがオリュンを指をさしてゲラゲラと笑う。

「ケケケッ…人間はほんとに体力が無いな!」

ブレイサもタバコを吸いながら、楽しげに言う。

「ブレイサ、リリス様の前ではタバコは吸うなと何度言えばわかるんですか!リリス様が煙を吸われてしまったら、どうするんです?」

サンドリアがブレイサからタバコを取り上げて、そのままタバコを握り潰して火を消す。

「あ、サンドリア、てめっ!俺様の大事な息抜きを邪魔しやがったな!」

ブレイサが今にも掴みかかりそうな勢いでサンドリアに突っかかる。

「お前がリリス様の前でタバコを吸うのが悪いのです。邪魔されたくないなら、リリス様の居ないところで吸えばいいのです。」

サンドリアも負けじとブレイサに言う。

「あーう!あいあいう!あうあ!」

リリスがまるで「喧嘩しちゃダメ!」って言うかのようにサンドリアとブレイサの間に入って頬を膨らませる。

「…はい。すみませんでした…俺が悪かったです…」

ブレイサがあっさりとリリスに謝る。

「私も強引にやり過ぎました。申し訳ありません。」

サンドリアもリリスに謝る。

「うー、うあ!」

リリスは「わかったなら良いよ!」と言いたげな表情で笑う。

マリッシャーが当然の事のように言う。

「リリス様は王様の娘だけあって、アカンボーなのに俺たちよりもずっと強いんだ。その実力を知ってるのもあるけど、リリス様は誰よりも優しいくて可愛いから逆らおうなんて思わないよ。実力だけなら王様もあるけど、王様よりリリス様は可愛いからな!」

オリュンはこの場にレーヴァテインが居なくて良かったなと思っていた。

あれから数日経ってはいたが、オリュンもリリスたちと遊んだり、特訓して見違えるほど強くなった。

リリスのおかげか前よりも優しげな性格になっており、以前に比べると顔つきも可愛らしくなったとブレイサが言っていた。

オリュン自身にはそんな自覚は無かったのだが、リリスとつきあっていくうちにどこかで他人との間に作っていた壁が無くなっていたような気がしていた。

「おううん!」

リリスがオリュンを呼ぶ。

「はい!今行きますよ!」

オリュンが駆け足で向かうとリリスもオリュンの方へ飛んで行き、そのままオリュンに抱っこされて眠る。

「うん。リリス様とお前、すっかり仲良しだな!」

マリッシャーが嬉しそうに笑って言う。

ブレイサは少し不満げな顔をしていた。

「マリッシャー、余計な事を言ってはいけませんよ。ブレイサが拗ねてしまいます。」

サンドリアがからかう様にそう言うとブレイサが大声で言う。

「別に拗ねてねぇよ!自分が嫉妬してるからって、変な言いがかりつけんじゃねぇ!」

「ほう?この私が人間風情に嫉妬するとお思いですか…それは大変な不愉快な思い違いでございます。」

今にも目の前で取っ組み合いを初めそうになっていたので、オリュンが仲裁に入る。

「まあまあ…今はリリスさんも寝てますし、あまり喧嘩なさらない方が…」

「「うるせぇ!元はお前のせいだろ!」」

ブレイサとサンドリアが息ピッタリに大声でオリュンに言う。

二人のあまりの勢いにオリュンが少しビクッと身体を震わせるとリリスが起きる。

「うー…あーう!」

まるで「こーら!」と言う様に二人を見る。

「リリス様!誤解です!私たちは喧嘩など…」

「そそそそうだぜ!俺たちは仲良しだぜ!な?な?」

二人が慌てて取り繕うがリリスは怒り爆発といった様子で魔力を使う。

「うー!あー!」

リリスの魔法で二人に雷が落ちる。

「「ギャアアアアアアア!」」

「ぷすぷす」と音を立てて黒焦げになってる二人の側まで魔力を使ってリリスが行く。

「あうあうう」

リリスが「もうしないでね」と言いたげに二人の顔を見る。

「「はい…すみませんでした…」」

二人の息ピッタリな謝罪に満足した様子で再びオリュンに抱っこしてもらいリリスが眠る。

「アハハ!お前ら、リリス様の雷で仲良く黒焦げだな!」

マリッシャーが楽しそうに二人を指さして笑う。

「元はと言えば、こいつのせいだし!俺は悪くねぇ!」

「おやおや?先に喧嘩を売ったのはお前の方ではありませんか?」

また二人が喧嘩しそうになったところでオリュンが諌める。

「あの…お二方さん、喧嘩をするとまたリリスさんに怒られてしまいますよ。」

ブレイサもサンドリアも「うっ…」と言う効果音が出そうな顔をする。

「そ、そうだな…」

「私もリリス様をまた怒らせてしまう事は避けたいですね。」

二人はそのまま別々の方向に行く。

「俺もリリス様を怒らせちゃう事はあるけど、あの二人はよく喧嘩するからしょっちゅう怒られてるな!」

マリッシャーが楽しそうに笑って言う。

「そうなんですね…私もリリスさんの魔法の腕前には凄く驚かされていますし、私も怒られないように気をつけないといけませんね。」

オリュンがそう言うとマリッシャーが楽しそうに笑う。

「アハハ!お前は大丈夫だと思うぞ!だって、お前はリリス様のお気に入りだからな!俺たちは王様とリリス様の下僕だが、お前は違う。リリス様の友達だな!だから、お前は大丈夫だ!」

「それはそれで貴方は悲しくないのですか?」

オリュンは純粋な疑問をぶつける。

「ん?何を悲しむ必要があるのだ?俺たちは悪魔だぜ?お前ら人間と違って、契約が終わればどれだけ背中を合わせようと赤の他人なのさ。まあ、俺はリリス様とは特別な繋がりだから、ちょっとだけ寂しい気持ちはあるけどな。」

マリッシャーはそう言って笑った顔で空を見ていた。

『ほんとはちょっとだけなんかじゃ無いけどな…』

そんな言葉が聞こえた様な気がした。



あれからさらに数ヶ月経過した…

その日もオリュンはリリスや他の三人の悪魔たちと楽しく暮らしていた。

「うー…まーま…」

夜になって、リリスが母親への恋しさの為か空の月を見て悲しそうにぽつりとこぼす。

「そう言えば、王様がこんなにも家を空けたのは初めてだな。」

ブレイサがタバコの代わりに木の枝を加えて言う。

「そうですね。私は少しだけ心配になってきました。王様の強さは知っていますが、万が一のことがあったらあるかもしれないと思うと少し不安になってしまいます。」

サンドリアは本を読みながらではあったが、レーヴァテインの身を案じている様子だった。

「リリス様、王様は必ず帰ってくるぞ。だから、心配するな!」

マリッシャーはリリスにそう言って元気づけようとしていた。

「リリスさん、オリュンもお傍にいますよ。だから、そんなに悲しそうにしないでください…もう少しの辛抱ですよ。」

オリュンがそう言うとリリスはオリュンとマリッシャーの顔を見る。

「あううおう…」

まるで「ありがとう」と言いたげな表情でリリスは微笑んでいた。

そうして、皆でご飯を食べて、リリスがウトウトし始めたので、オリュンとリリスが部屋から出る。

「…行ったか?」

ブレイサがタバコを咥えて火をつけながら言う。

「私の感知からも部屋にお戻りになられたのがわかります。」

サンドリアがメガネをかけながら言う。

「あんな状態のリリス様の前で作戦会議なんて出来ないもんな。」

マリッシャーがどこか悲しげに言う。

そうして、3人が作戦会議をしていると扉が開けられる。

「やっほー!愛しのシルフ君がやってきたぞーい!」

シルフと名乗った妖精族の男性が騒がしく入ってくる。

「…あれ?リリスちゃんは?」

シルフが不思議そうに周りを見ていた。

「なんだ。やかまし妖精か…リリス様は寝てるから静かにしてくれ。」

ブレイサが面倒くさそうに言う。

「やかまし妖精って…ボク、一応妖精王なんだけどなぁ…」

しょんぼりと肩を落としてシルフが言う。

「ところでシルフ様はなんでこんな所に来たんだ?妖精族にとって、この辺は危険地帯だろ?」

マリッシャーがそう言うとシルフがドヤ顔で言う。

「フッフッフ…ボクは妖精王だからね!余程の事でもないと死なないよ~」

「なるほどな!妖精王の名は伊達ではないって事だな!」

マリッシャーが楽しげに言う。

「それは良いのですが、そんな妖精王様が何故ここに来たのです?」

サンドリアが言うとシルフは真剣な表情で言う。

「そうだね。結論から言うとレーちゃんの存在が感知出来なくなった。存在が消されたか、ボクの力ですら弾く何かに封印された可能性がある。」

「なんだと?!」

ブレイサが思わず掴みかかりそうな勢いで言う。

「シルフ様、さすがにそれは冗談だろ?」

マリッシャーも信じられないと言いたげに言う。

「…それなら、私の感じていたにも辻褄が合いますね。」

サンドリアがそういう事で二人が驚いた様な顔をする。

「サンドリア君、詳しい事を聞かせてくれ。君の発言次第では、ボクはブチギレる可能性がある。」

珍しくシルフから殺気が溢れている。

「シルフ様、私は何もしてませんよ。ですが、XXXX年前に封印したはずの邪神の兆候を感じたんです。それ以来、徐々に王様の気配が薄くなってるんです。おそらく、王様は今は力を溜めて傷を癒しているのでは無いかと思われます。あくまで私の予想ではありますが…」

サンドリアはシルフからの殺気に怖気付く事もなく淡々と言う。

「邪神だと?!そんなバカな話があるか!ボクもレーちゃんも勇者も全力で封印したはずだぞ!勇者なんて自分の身体を使ってまでして封印したはずなのに…」

そこまで言うとシルフは「そうか…」と呟きながら頭を抱える。

「あの時、邪神に着いた奴らが生き残ってたとしたら…!」

「リリス様が危ないのか!?」

マリッシャーが何かを察した様子で焦っている様子で言う。

こう言う時のマリッシャーの勘の良さは誰もが信頼を置く凄まじい精度だ。

「今はまだ可能性は低いが、リリスちゃんが成長して力が強くなれば話は変わるだろうね。依り代として身体を乗っ取られでもしたら、ボクもレーちゃんも干渉不可能となる。邪神は神だから神の力に影響されないし、レーちゃんとボクの子であるリリスちゃんは悪魔と妖精の力を持つから、それも無効化されてしまう事になる。その結果、ボクらの大半が洗脳されてしまうだろうね。仮に洗脳されなかったとしてもボクらは干渉せずに全てに平等に裁きを下せる特別な力を持つ人間…に全てを託すしかないよ。」

シルフは淡々と言う。

「おい。やかまし妖精、オメーの力で邪神を止めれねぇのか?」

ブレイサはイライラした様子でタバコを握り潰しながら言う。

「残念だけど、力が落ちる前であってもボクの力だけではやつを止めることは出来ないよ。命がけでかかっても封印する程度のことしか出来ない。それほど、やつは強力な力を持っているんだ。もちろん、レーちゃんも例外じゃない。今のボクで換算するとボクが20人くらい居れば、もしかすると止められるかもしれないけど、現実的に考えて今のボクであっても、ボクと同等の力を持つ者を20人も用意するのは不可能だ。」

シルフは淡々と言い切って続ける。

「最もリリスちゃんが覚醒してくれれば、あいつを倒せるかもしれないけど、今の状態ではどんなに強くなっても本来のボクとレーちゃんよりちょっと強いくらいにしかならない。それでも十分に強いが、あいつを止めるには及ばないだろう。」

そこにガチャりと扉を開けて血まみれの女性が現れる。

「レーちゃん?!」

シルフが女性の治療をしようとする。

「シルフか…悪ぃがお前の癒しでも足りないわよ。邪神のやつ、封印の中から攻撃してきやがったからな…封印の補修だけでもこのザマよ…悪魔の王が情けないわ…」

レーヴァテインは懐から自分の力を込めた特殊な石を取り出す。

「マリッシャー、貴方にはこれを渡しておくわ…リリスが覚醒した時、この力を与えなさい…」

「王様…」

マリッシャーはレーヴァテインから石を受け取る。

レーヴァテインは血を吐きながらも言う。

「私は最後の仕事をしてくるわ…シルフ、貴方はここにいなさい…」

「レーちゃん、無茶はしないでくれよ?」

シルフはどこか悲しげな表情をしながら言う。

「貴方がしくじらなければ…ね…」

レーヴァテインはそう言うとリリスとオリュンのいる部屋へと向かう。

「…俺は王様を信じる。お前たち二人はどうするんだ?」

マリッシャーは全てを悟った様子で言う。

こう言った時のマリッシャーは誰よりも頭の回転が早かった。

「わかんねぇよ…」

ブレイサは下を向いたまま、考えていた。

「王様の事は信頼しております…」

サンドリアはその先はあえては言わない選択をした様子で言う。

「そうか…」

マリッシャーはどこか悲しげに言う。

「王様も帰って来たし、とりあえず今後についてはこれから話し合うとしよう。」

マリッシャーがそう言うとブレイサも「そうだな」と頷く。

サンドリアは特には何も言わなかった。

シルフはいつものように道化の様な愉快な声で言う。

「ボクは一度国に帰るよ。そんでボクも皆と話し合うよ。またここに来るから、その時はよろしく!」

「わかった。」

マリッシャーがそう言うとシルフは転移魔法で国まで帰る。

「今宵の月は綺麗だな…」

誰のものとも分からない声が小さく響いた。
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