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古き時の小波
27話
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私は目の前の光景を見てとても驚いていた。
手下たちと戯れていたら、どこからともなく手下たちを蹴散らしながら、とんでもない速度で人間がやってきたのだ。
「大丈夫ですか?」
その人間は私を庇うように立つと手下達と私の間に立ち塞がる。
短くボサボサの銀髪は手入れが行き届いてない事を感じさせるようなイメージを感じさせていた。
私の娘と髪色は同じだけど正反対な髪質ね…
私はそんな事を考えながら、目の前に立つ人間に言う。
「大丈夫だけど…貴方は何者なのよ?」
私の手下たちは驚きの表情をしながら、人間を見ていた。
「すみませんが、お話は後です。今はあの悪魔たちを何とかしないと…」
手下たちが困った様に私を見る。
私はニヤリと笑って合図をする。
手下たちは私が何を思ったのかをしっかりと理解した様子で人間に向き直って言う。
「ケケケッ…俺たち悪魔に手を出そうなんて無謀な人間が居たとはなぁ!」
赤い2本の角に燃えるような長く赤い髪の男性の悪魔が嘲笑うように言う。
こいつはブレイサ、私の手下の中で一番属性魔法に特化している悪魔で見かけによらず、水属性の魔法の使い手だが、本人的には炎属性のイメージを持たれたいらしい。
「そこの美しいお嬢さん、命が惜しいなら、この場をさってくださいな。」
黄色い曲がった2本の角に黄金に輝く短い髪の男性の悪魔がニヤリと笑いながら言う。
こいつはサンドリア、私の手下の中で一番付属魔法が得意で特に敵に対する弱体魔法をかけることに特化しているが、だが彼は曲がった事が嫌いな性格なので、あまり弱体魔法を使わないのが欠点だ。
「ヒャッハー!久々に女を食えるな!知ってるか?女の肉は柔らかくて美味いんだぜぇ!それに魂も上質なんだぜぇ!」
バチバチと青い雷を纏った黒色の2本の角に藍色の長い髪の少女の悪魔が舌なめずりをして言う。
こいつはマリッシャー、私の手下の中で一番の脳筋バーサーカーで彼女に接近戦をさせれば敵は無いと言っても過言ではないが、少々脳筋過ぎるのが玉に傷だ。
手下たちは各々が悪魔らしい振る舞いをしながら、人間を見る。
私の手下であった歴が長いとは言え、その悪魔らしさは健在だったようだ。
人間は堂々と武器を構えながら言う。
「私は冒険者だ!モンスターの相手は慣れっこなんだよ!火球!」
そう言うと、人間が一番手前に居たマリッシャーに火球を飛ばす。
マリッシャーはそれを軽く突き出した拳の風圧だけで無力化する。
「あん?てめぇ、この俺とやろうってんのか?大人しくしてりゃ、優しく食ってやったのによぉ!」
マリッシャーは一瞬で人間の目の前まで接近する。
「マリッシャー殿、我の魔法をお忘れになられてますよ!」
遅れてマリッシャーに攻撃力増加をサンドリアがかける。
ブレイサは何やら詠唱をしていた。
「効くかよっ!」
人間はマリッシャーの瞬間移動からの全力の拳を魔障壁で受け止めていた。
「アッハハハ!そう来なくちゃ面白くねぇぜ!女ァ!」
マリッシャーの魔力がこもってなかったとは言え、魔障壁を壊すこと無く、耐えきった人間の実力には私も驚いたものだ。
何せ、マリッシャーはその辺の魔王種ですら、一撃で粉砕する馬鹿力を持っているんだ。
魔王種と言うからにはその強さもそこらの竜種如きでは相手にならないほど強いのだが、彼女にとっては一撃殴れば息の根が止まる獲物の様なものだ。
マリッシャーがサンドリアとブレイサに言う。
「おい、サンドリア、ブレイサ!テメェらは手出しすんなよ?手出ししやがったらぶっ殺してやるからな!」
サンドリアとブレイサはやれやれと首を振る。
「ケケケッ…俺たちの力が無いからって追い詰められんじゃねぇぞ?」
ブレイサはそう言うと詠唱をやめて、その場にドカッと座り込む。
「ならば、貴女に任せましょう。もし万が一、人間ごときに敗北するような事があれば笑ってさしあげますよ。」
サンドリアは直立不動で悪魔らしく嫌らしい笑い方をする。
「女!名は何という?」
マリッシャーが言うと人間が答える。
「人に名を聞く時は自分から名乗れって習わなかったか?」
「ハハッ!人間風情が生意気な口を聞きやがる!」
マリッシャーは人間の目を見る。
「俺の名はマリッシャーだ!冥土の土産に覚えておくんだな!」
「私はオリュンよ。あんたら悪魔にも勝る最強の冒険者の名を覚えとくといいわよ。」
人間…もとい、オリュンがそう言うとマリッシャーはニヤリとわらっていう。
「オリュン…俺ほどじゃねぇが、いい名じゃねぇか!」
マリッシャーは拳に魔力を纏わせて構える。
オリュンもそれを見て腰に差していた剣をゆっくりと抜いて構える。
「オリュン!てめぇの全力、見せやがれ!」
マリッシャーは一瞬で距離を詰めてオリュンの腹に右の拳を入れようとする。
「言われなくても!魔法剣!」
オリュンはそれを魔障壁で軽く防いで、そのまま魔法で燃える剣でマリッシャーの右腕を斬る。
「ギャン!」とまるで固いもの同士がぶつかるかのような音を立ててマリッシャーの右腕が弾かれる。
「おもしれぇ!」
マリッシャーが素早く後ろに後退して距離を取るとオリュンが魔力を練る。
「光よ…集え!光の矢!」
オリュンの突き出した剣の先から、無数の光の矢が出てきてマリッシャーを射抜こうとする。
「そんなもんで倒れるかよ!おらぁ!」
矢が当たる前にマリッシャーが突き出した右ストレートの風圧で全ての矢を巻き込みながら破壊する。
「その想定は出来ていますとも!深淵より来たれし者よ…我が眼前の敵を打ち砕け!影の巨人!」
オリュンの影から影の王を模した巨人が現れる。
簡易的とは言え、かなり高度な魔法である召喚魔法を瞬時に扱えるその能力の高さはまさに「最強の冒険者」に相応しいものだろう。
「ヒャッハー!俺の力、見せてヤルヨ!本気デ行クカラ覚悟シロヨ!」
マリッシャーが魔力を解放して、禍々しい藍色の巨大な二本の角、髪色は変わらずだが、背中には大きな黒い翼が生えており、肉体もかなり大人な体になった第二形態の姿に移行する。
「アハハハハハッ!オリュン、オ前ノ力ヲ見セテミロ!」
マリッシャーは一瞬で影の巨人を粉砕する。
「そんなっ!?影の巨人を一撃で破壊するなんて…!」
オリュンはとても驚いた様子でその様子を見ていた。
「アハハハハハッ!弱イ!弱スギルゾ!モット力ヲ出セ!」
マリッシャーはオリュンに対峙してオリュンが力を出すのを待つ。
「アンタがここまで強いのは正直、私にとっては予想外だったわ…同時にこのままでは勝てない事も思い知った。だから…」
オリュンの目の色が変わる。
「全力以上の力を出して見せるから、後悔しないでよね!」
オリュンを中心に魔力が集まる。
その様はさながら、我々悪魔の形態変化の様な雰囲気を感じる。
「限界突破!光よ、集え!魔法剣!」
先程よりもかなり戦闘力が上がった様な感覚を感じる。
それでもマリッシャーの足元にもおよばないレベルの力だが…
「先手必勝!セイクリッドレイ!」
オリュンの振り払った剣の軌跡から9本の光属性のレーザーが発射される。
「イイゼェ!受ケテヤルゼ!」
マリッシャーは避ける事も弾き返す素振りも見せずにそのままレーザーに焼かれる。
凄まじい爆炎と共にマリッシャーの姿が見えなくなる。
「はぁ…はぁ…バカね…私の…限界突破を使った…魔法を受けるなんて…自殺するも…同然よ…」
オリュンの体にかなりの負担がかかるのか、肩で息をしていた。
ブレイサは退屈そうにタバコに火をつけて「ふぅ…」と一服して言う。
「お前、あのバカを舐め過ぎだぜ。」
「何…?」
マリッシャーが「アハハハハハッ!」と高笑いすると元気でピンピンしている姿を見せつける。
「そんな…」
オリュンが絶望の表情をする。
「弱イ…弱イゾ…ニンゲン…俺ハ今トテモ悲シンデイル…ニンゲン、オ前ガ弱スギルカラダ。限界突破ヲシテ、ソレデコノ弱サ…ニンゲン、オ前ハ弱イ。俺ガ今マデ戦ッタ誰ヨリモ弱イ。」
マリッシャーが魔力の球を生成する。
「ニンゲン、オ前ハココデ死ヌ。ジャアナ。」
マリッシャーがそのまま魔力の球を発射する。
オリュンはそれを避ける事も出来ずにまともに受けて吹き飛ばされる。
「王様、アイツ死ンダノカ?」
オリュンは力無く地面に突っ伏していた。
マリッシャーは退屈そうに言う。
「いえ、死んではないわ。でも、もう立てないでしょうね。私から見ても虫の息よ…」
マリッシャーは元の少女の姿に戻る。
「なんだ…もう終わりなのか…呆気ないな。」
「ぅぁ…」
マリッシャーがオリュンの頭を掴んで持ち上げる。
「あの状態で死ななかった事は褒めてやる。だが、例え俺が悪魔じゃなくてもお前は俺には勝てない。何故だかわかるか?」
オリュンは睨むようにマリッシャーを見る。
「なら、教えてやろう。お前は何故弱いか、何故勝てないと言いきれるのか…」
マリッシャーはオリュンの顔に自分の顔を近づけて言う。
「オリュン、お前は弱いやつばっか相手にしすぎて強くなった気でいただけだ。その結果、自分一人の力でも倒せると思い込んで慢心してしまった。お前の強さはお前の弱点を補う相手がいてこその強さだ。さらにそこに体力の無さが加われば弱くない理由が無いな!お前自身の魔力は人間にしては高い方だとは思うが、詠唱なしで魔法を使うには弱過ぎる。それなら、接近戦を仕掛ける方がお前の良さを生かせるだろうし、魔法剣を使えるなら、適切な属性を使って武器を使った近接の属性攻撃を仕掛ける方が強いぞ。」
オリュンは何が言いたいのかわかってなさそうな表情をしていた。
敵であるはずの自分にアドバイスをする悪魔を完全に頭がイカれたやつの目で見ていた。
マリッシャーがそのままオリュンの頭を離した事で、オリュンは再び地面に叩きつけられる。
「がはっ…」
オリュンは体全体で息をしながら、立ち上がろうとする。
「辞めときな。それ以上無理をすれば、お前の体は崩壊するぞ。お前の体は壊れる寸前だ。お前が助けようとした相手は俺たちの王様だが、王様がお前の体を回復すれば冒険者は辞めなくても済むと思うぞ。」
マリッシャーはそのままどこかへと行ってしまう。
オリュンは信じられないと言いたげに私を見る。
「マリッシャーの言う通りよ。私は彼女たちの王…あー…親玉って言う方が良いかしら?その親玉の悪魔王レーヴァテインよ。この子は私たちの力を受け継ぐ私の可愛い可愛い一人娘ね。とある妖精の力も受け継いでいるから、最強の力を持っていると言いきれるわよ。」
その腕にいる獣人種の女の子は可愛らしい笑みでオリュンを見ていた。
「うー?あー!」
女の子が手を伸ばすとそこから精霊魔法の力が放たれる。
その力はオリュンの体を包んで癒しの効果を与え、オリュンの体の奥底から力が溢れてくる。
「おやおや…この子は貴方に興味があるみたいねぇ…貴方はもっともっと強くなるかもしれないわね!」
オリュンは女の子を見る。
「あうあう、うー!」
女の子が魔力を使い、私の腕から浮いて、オリュンに近づくとまるで「大丈夫だよ!」と言いたげにニコッと微笑む。
「あらあら…リリスちゃんったら、あの人が見たら嫉妬しそうな可愛らしい顔をしてるわ~♪」
配下の男2人もニヤニヤと嬉しそうに見ていた。
「リリスさん…ありがとうございます…」
「あうあおー!」
オリュンの言葉を理解しているのかはわからないが、リリスは口の動きを真似して楽しそうに笑っていた。
それがオリュンとリリスの最初の出会いだった。
手下たちと戯れていたら、どこからともなく手下たちを蹴散らしながら、とんでもない速度で人間がやってきたのだ。
「大丈夫ですか?」
その人間は私を庇うように立つと手下達と私の間に立ち塞がる。
短くボサボサの銀髪は手入れが行き届いてない事を感じさせるようなイメージを感じさせていた。
私の娘と髪色は同じだけど正反対な髪質ね…
私はそんな事を考えながら、目の前に立つ人間に言う。
「大丈夫だけど…貴方は何者なのよ?」
私の手下たちは驚きの表情をしながら、人間を見ていた。
「すみませんが、お話は後です。今はあの悪魔たちを何とかしないと…」
手下たちが困った様に私を見る。
私はニヤリと笑って合図をする。
手下たちは私が何を思ったのかをしっかりと理解した様子で人間に向き直って言う。
「ケケケッ…俺たち悪魔に手を出そうなんて無謀な人間が居たとはなぁ!」
赤い2本の角に燃えるような長く赤い髪の男性の悪魔が嘲笑うように言う。
こいつはブレイサ、私の手下の中で一番属性魔法に特化している悪魔で見かけによらず、水属性の魔法の使い手だが、本人的には炎属性のイメージを持たれたいらしい。
「そこの美しいお嬢さん、命が惜しいなら、この場をさってくださいな。」
黄色い曲がった2本の角に黄金に輝く短い髪の男性の悪魔がニヤリと笑いながら言う。
こいつはサンドリア、私の手下の中で一番付属魔法が得意で特に敵に対する弱体魔法をかけることに特化しているが、だが彼は曲がった事が嫌いな性格なので、あまり弱体魔法を使わないのが欠点だ。
「ヒャッハー!久々に女を食えるな!知ってるか?女の肉は柔らかくて美味いんだぜぇ!それに魂も上質なんだぜぇ!」
バチバチと青い雷を纏った黒色の2本の角に藍色の長い髪の少女の悪魔が舌なめずりをして言う。
こいつはマリッシャー、私の手下の中で一番の脳筋バーサーカーで彼女に接近戦をさせれば敵は無いと言っても過言ではないが、少々脳筋過ぎるのが玉に傷だ。
手下たちは各々が悪魔らしい振る舞いをしながら、人間を見る。
私の手下であった歴が長いとは言え、その悪魔らしさは健在だったようだ。
人間は堂々と武器を構えながら言う。
「私は冒険者だ!モンスターの相手は慣れっこなんだよ!火球!」
そう言うと、人間が一番手前に居たマリッシャーに火球を飛ばす。
マリッシャーはそれを軽く突き出した拳の風圧だけで無力化する。
「あん?てめぇ、この俺とやろうってんのか?大人しくしてりゃ、優しく食ってやったのによぉ!」
マリッシャーは一瞬で人間の目の前まで接近する。
「マリッシャー殿、我の魔法をお忘れになられてますよ!」
遅れてマリッシャーに攻撃力増加をサンドリアがかける。
ブレイサは何やら詠唱をしていた。
「効くかよっ!」
人間はマリッシャーの瞬間移動からの全力の拳を魔障壁で受け止めていた。
「アッハハハ!そう来なくちゃ面白くねぇぜ!女ァ!」
マリッシャーの魔力がこもってなかったとは言え、魔障壁を壊すこと無く、耐えきった人間の実力には私も驚いたものだ。
何せ、マリッシャーはその辺の魔王種ですら、一撃で粉砕する馬鹿力を持っているんだ。
魔王種と言うからにはその強さもそこらの竜種如きでは相手にならないほど強いのだが、彼女にとっては一撃殴れば息の根が止まる獲物の様なものだ。
マリッシャーがサンドリアとブレイサに言う。
「おい、サンドリア、ブレイサ!テメェらは手出しすんなよ?手出ししやがったらぶっ殺してやるからな!」
サンドリアとブレイサはやれやれと首を振る。
「ケケケッ…俺たちの力が無いからって追い詰められんじゃねぇぞ?」
ブレイサはそう言うと詠唱をやめて、その場にドカッと座り込む。
「ならば、貴女に任せましょう。もし万が一、人間ごときに敗北するような事があれば笑ってさしあげますよ。」
サンドリアは直立不動で悪魔らしく嫌らしい笑い方をする。
「女!名は何という?」
マリッシャーが言うと人間が答える。
「人に名を聞く時は自分から名乗れって習わなかったか?」
「ハハッ!人間風情が生意気な口を聞きやがる!」
マリッシャーは人間の目を見る。
「俺の名はマリッシャーだ!冥土の土産に覚えておくんだな!」
「私はオリュンよ。あんたら悪魔にも勝る最強の冒険者の名を覚えとくといいわよ。」
人間…もとい、オリュンがそう言うとマリッシャーはニヤリとわらっていう。
「オリュン…俺ほどじゃねぇが、いい名じゃねぇか!」
マリッシャーは拳に魔力を纏わせて構える。
オリュンもそれを見て腰に差していた剣をゆっくりと抜いて構える。
「オリュン!てめぇの全力、見せやがれ!」
マリッシャーは一瞬で距離を詰めてオリュンの腹に右の拳を入れようとする。
「言われなくても!魔法剣!」
オリュンはそれを魔障壁で軽く防いで、そのまま魔法で燃える剣でマリッシャーの右腕を斬る。
「ギャン!」とまるで固いもの同士がぶつかるかのような音を立ててマリッシャーの右腕が弾かれる。
「おもしれぇ!」
マリッシャーが素早く後ろに後退して距離を取るとオリュンが魔力を練る。
「光よ…集え!光の矢!」
オリュンの突き出した剣の先から、無数の光の矢が出てきてマリッシャーを射抜こうとする。
「そんなもんで倒れるかよ!おらぁ!」
矢が当たる前にマリッシャーが突き出した右ストレートの風圧で全ての矢を巻き込みながら破壊する。
「その想定は出来ていますとも!深淵より来たれし者よ…我が眼前の敵を打ち砕け!影の巨人!」
オリュンの影から影の王を模した巨人が現れる。
簡易的とは言え、かなり高度な魔法である召喚魔法を瞬時に扱えるその能力の高さはまさに「最強の冒険者」に相応しいものだろう。
「ヒャッハー!俺の力、見せてヤルヨ!本気デ行クカラ覚悟シロヨ!」
マリッシャーが魔力を解放して、禍々しい藍色の巨大な二本の角、髪色は変わらずだが、背中には大きな黒い翼が生えており、肉体もかなり大人な体になった第二形態の姿に移行する。
「アハハハハハッ!オリュン、オ前ノ力ヲ見セテミロ!」
マリッシャーは一瞬で影の巨人を粉砕する。
「そんなっ!?影の巨人を一撃で破壊するなんて…!」
オリュンはとても驚いた様子でその様子を見ていた。
「アハハハハハッ!弱イ!弱スギルゾ!モット力ヲ出セ!」
マリッシャーはオリュンに対峙してオリュンが力を出すのを待つ。
「アンタがここまで強いのは正直、私にとっては予想外だったわ…同時にこのままでは勝てない事も思い知った。だから…」
オリュンの目の色が変わる。
「全力以上の力を出して見せるから、後悔しないでよね!」
オリュンを中心に魔力が集まる。
その様はさながら、我々悪魔の形態変化の様な雰囲気を感じる。
「限界突破!光よ、集え!魔法剣!」
先程よりもかなり戦闘力が上がった様な感覚を感じる。
それでもマリッシャーの足元にもおよばないレベルの力だが…
「先手必勝!セイクリッドレイ!」
オリュンの振り払った剣の軌跡から9本の光属性のレーザーが発射される。
「イイゼェ!受ケテヤルゼ!」
マリッシャーは避ける事も弾き返す素振りも見せずにそのままレーザーに焼かれる。
凄まじい爆炎と共にマリッシャーの姿が見えなくなる。
「はぁ…はぁ…バカね…私の…限界突破を使った…魔法を受けるなんて…自殺するも…同然よ…」
オリュンの体にかなりの負担がかかるのか、肩で息をしていた。
ブレイサは退屈そうにタバコに火をつけて「ふぅ…」と一服して言う。
「お前、あのバカを舐め過ぎだぜ。」
「何…?」
マリッシャーが「アハハハハハッ!」と高笑いすると元気でピンピンしている姿を見せつける。
「そんな…」
オリュンが絶望の表情をする。
「弱イ…弱イゾ…ニンゲン…俺ハ今トテモ悲シンデイル…ニンゲン、オ前ガ弱スギルカラダ。限界突破ヲシテ、ソレデコノ弱サ…ニンゲン、オ前ハ弱イ。俺ガ今マデ戦ッタ誰ヨリモ弱イ。」
マリッシャーが魔力の球を生成する。
「ニンゲン、オ前ハココデ死ヌ。ジャアナ。」
マリッシャーがそのまま魔力の球を発射する。
オリュンはそれを避ける事も出来ずにまともに受けて吹き飛ばされる。
「王様、アイツ死ンダノカ?」
オリュンは力無く地面に突っ伏していた。
マリッシャーは退屈そうに言う。
「いえ、死んではないわ。でも、もう立てないでしょうね。私から見ても虫の息よ…」
マリッシャーは元の少女の姿に戻る。
「なんだ…もう終わりなのか…呆気ないな。」
「ぅぁ…」
マリッシャーがオリュンの頭を掴んで持ち上げる。
「あの状態で死ななかった事は褒めてやる。だが、例え俺が悪魔じゃなくてもお前は俺には勝てない。何故だかわかるか?」
オリュンは睨むようにマリッシャーを見る。
「なら、教えてやろう。お前は何故弱いか、何故勝てないと言いきれるのか…」
マリッシャーはオリュンの顔に自分の顔を近づけて言う。
「オリュン、お前は弱いやつばっか相手にしすぎて強くなった気でいただけだ。その結果、自分一人の力でも倒せると思い込んで慢心してしまった。お前の強さはお前の弱点を補う相手がいてこその強さだ。さらにそこに体力の無さが加われば弱くない理由が無いな!お前自身の魔力は人間にしては高い方だとは思うが、詠唱なしで魔法を使うには弱過ぎる。それなら、接近戦を仕掛ける方がお前の良さを生かせるだろうし、魔法剣を使えるなら、適切な属性を使って武器を使った近接の属性攻撃を仕掛ける方が強いぞ。」
オリュンは何が言いたいのかわかってなさそうな表情をしていた。
敵であるはずの自分にアドバイスをする悪魔を完全に頭がイカれたやつの目で見ていた。
マリッシャーがそのままオリュンの頭を離した事で、オリュンは再び地面に叩きつけられる。
「がはっ…」
オリュンは体全体で息をしながら、立ち上がろうとする。
「辞めときな。それ以上無理をすれば、お前の体は崩壊するぞ。お前の体は壊れる寸前だ。お前が助けようとした相手は俺たちの王様だが、王様がお前の体を回復すれば冒険者は辞めなくても済むと思うぞ。」
マリッシャーはそのままどこかへと行ってしまう。
オリュンは信じられないと言いたげに私を見る。
「マリッシャーの言う通りよ。私は彼女たちの王…あー…親玉って言う方が良いかしら?その親玉の悪魔王レーヴァテインよ。この子は私たちの力を受け継ぐ私の可愛い可愛い一人娘ね。とある妖精の力も受け継いでいるから、最強の力を持っていると言いきれるわよ。」
その腕にいる獣人種の女の子は可愛らしい笑みでオリュンを見ていた。
「うー?あー!」
女の子が手を伸ばすとそこから精霊魔法の力が放たれる。
その力はオリュンの体を包んで癒しの効果を与え、オリュンの体の奥底から力が溢れてくる。
「おやおや…この子は貴方に興味があるみたいねぇ…貴方はもっともっと強くなるかもしれないわね!」
オリュンは女の子を見る。
「あうあう、うー!」
女の子が魔力を使い、私の腕から浮いて、オリュンに近づくとまるで「大丈夫だよ!」と言いたげにニコッと微笑む。
「あらあら…リリスちゃんったら、あの人が見たら嫉妬しそうな可愛らしい顔をしてるわ~♪」
配下の男2人もニヤニヤと嬉しそうに見ていた。
「リリスさん…ありがとうございます…」
「あうあおー!」
オリュンの言葉を理解しているのかはわからないが、リリスは口の動きを真似して楽しそうに笑っていた。
それがオリュンとリリスの最初の出会いだった。
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