魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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古き時の小波

26話

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「すみません!誰か居ませんか?」

玄関で大声で呼ぶ声が聞こえる。

「アーフェが出るね!」

アイフェットはオリュンが静止するよりも先にトコトコと玄関に向かって行く。

ここまで来るやつなんてどうせ依頼しかない。

「あのガキに任せて大丈夫なわけがないな。」

オリュンは先に脱いでいた上の服のメイドのシャツを急いで着て、玄関に向かうとアイフェットと男性が言い合いをしていた。

「だから、アーフェが聞いてあげるよって言ってるじゃない!」

「あのねぇ…何度も言わせないでくれよ。大事な用事だから、お嬢ちゃんでは話にならないし、オリュンさんを呼んできてくれって言ってるよね?」

オリュンはすかさずアイフェットと男性の間に入る。

「お待たせしてごめんなさい。」

「全くだよ。このお嬢ちゃんが融通が効かなくてねぇ…」

「…ごめんなさい。」

アイフェットは何か言いたげな表情をしていたが、頭を下げて謝罪をして明らかに落ち込んだ様子で部屋に戻る。

「なんか悪い事をした気分だな…」

オリュンにとって、見慣れた姿をした竜人族ドラゴニュートの男性は少しだけ申し訳なさそうな表情をして言う。

「大丈夫よ。あの子、立ち直りだけは早いから…」

オリュンは呆れた様子で言う。

「オリュンさんがそう言うなら、そういう事にしてこうかな。」

男性はそう言ってオリュンに封のされた手紙を渡す。

「また、面倒な事をしてるわねぇ…」

オリュンは呆れながら封を開ける。

『愛しのオリュンちゃんへ♡
はーい♡オリュンちゃんの愛の天使、ロウェルだよ~♪
本当はもっと愛を語りたいところだけど、時間がないので手短に要件だけ伝えるね。今回はレヴァリアの村に調査に行ってほしいんだ。
なんでも普段と何か様子が違うとの事で、普段いるはずの場所から離れたところにモンスターが居たりしてるうえに普段とは様子も違ってなんだか不気味な感じがするんだって!
こんな面白い話を聞いたとなれば、オリュンちゃんは絶対黙ってないはず…ってな訳で、よろしくぅ!
あ、そうそう!オリュンちゃんにはアーフェちゃんのお世話もあるからなかなか時間が取りにくいかもしれないし、日程についてはオリュンちゃんに任せるけど、なるべく早めに行ってあげてね。それじゃ!
アーフェちゃんとも仲良くするんだぞ!
by.貴方だけの愛の天使ロウェルちゃんより♡』


「はぁ…相変わらず気持ちの悪い小娘だわ。」

オリュンが嫌そうな顔をしながらぽつりと言う。

「まあまあ、そう邪険にしてあげないでください。ここまでロウェル様に気に入られるような人間は極わずかですし、特にここまで心酔されるのはオリュンさんの人柄の良さがなせる技と言えますよ。」

男性が苦笑する。

「はぁ…ほんっとにあの時の自分をぶん殴りたいわ…」

オリュンは男性に言う。

「あの子にはとだけ伝えててくれない?」

「めんど…じゃなくて、愛してるよくらい付け足ししてもらっても良いかな?」

男性は子供っぽいイタズラな笑みを浮かべる。

「はいはい。じゃあ、で良いわよ。」

オリュンが心底嫌そうに言うと男性がにこやかに言う。

「わかりました。って言ってたと伝えておきますね。」

男性はそう言うと楽しそうに走って帰る。

「おい。さすがにそれはやり過ぎだろ…って、もう聞こえてねぇか…」

面倒な事になったと全面に押し出した顔でオリュンは肩を落としていた。

オリュンが部屋に戻るとアイフェットが申し訳なさそうに出迎える。

「オリュン…ごめんなさい…」

オリュンは特にアイフェットの顔を見る事もなく言う。

「私に謝られても困るんだけど…」

「そう…だよね…」

アイフェットがさらに落ち込む。

オリュンは着替えながら言う。

「まあ、反省してるなら、次は同じ間違いはしない事ね。この先、生きていく為にも十分過ぎる程に気をつけなさい。」

オリュンのような冒険者にとって一つのミスが命取りになる。

それ故に同じ間違いを犯す事は自殺行為であると言われている。
そんな自殺行為を繰り返していると一緒に行くパーティーも無くなるし、ギルド長直々に退職を促される場合もある為、冒険者にとって同じ間違いを何度もすると言うのはやってはならない行為なのだ。

「うん。アーフェ、気をつけるね。」

アイフェットは少し元気を取り戻した様だった。

(こいつはうるさくないと調子狂うし…まあ、良かったわよね。)

そんな事を考えながらもオリュンは着替え終わるまではアイフェットの方を見る事は無かったが、アイフェットは楽しげにオリュンを見ていた。

「そうそう…」

オリュンがそう言うとアイフェットは不思議そうに首を傾げていた。

「急ですけど、明後日は休みをいただく事にしますね。」

「そうなんだ…その日はアーフェ、オリュンと行きたい所があったから、ちょっと残念だけど、オリュンは冒険者のお仕事もあるもんね…」

アイフェットは少しだけ寂しげに言う。

「そういう事です。1日だけですので、明明後日にでも行きましょうか」

「そうだね。じゃあ、約束!」

アイフェットが拳を突き出す。

「おや?その構えは冒険者の…」

「うん!アーフェ、大きくなったら、オリュンみたいに冒険者になりたいから覚えたの!それで、オリュンより強くなって、今のアーフェが守ってもらえてるみたいにアーフェが守ってあげたい。」

「ふふっ…面白い事を言ってくれるじゃありませんか。」

オリュンはそう言うとアイフェットの拳に軽く拳をぶつける。

アイフェットには他の子供とは違い、魔法の才能がある様に感じていた。
だから、もしアイフェットが冒険者になったとしたら、かなりの腕前の冒険者になるはずだとオリュンの冒険者としての勘が告げていた。

そして、昼食を取った後に商店街に出かけ、アイフェットの提案で高級で質の良い家具を取り扱う店で家具一式と高級なメイド服一式も揃えて買って帰った。

金貨3900枚ほどにもなるあの金額を支払えるお金をアイフェットが持っていた事にも驚いたが、アイフェットの「そんなに少なくて良いの?」と言うまさに世間知らずな箱入り娘の発言には驚いたが、オリュンにとっては必要十分過ぎるほどに買っているが、その後に金貨1000枚も渡された。

なんでも、「アーフェの部屋にも色んな服があるし、少しはお洋服代の足しに出来ると思うから貰って!」…との事である。

アイフェットは既製品と変わらない程のクオリティの自作の大容量の収納魔法のかかったカバンに家具をしまって屋敷に帰って行った。

その夜、オリュンは金貨をマネーカードに収納しながら、明後日の日程を確認する。

「今回は私一人なのよね…クレアールは馬鹿力で大暴れしてくれるから貴重な戦力になってたのだけれど、今は居ないしなぁ…レヴァリアは普段なら比較的に安全な場所だけど…」

今回に至っては、普段と様子が違い、不気味な気配を感じるとの事だ。

ロウェルもA級冒険者と言うかなりの実力者ではあるのだが、そのロウェルですら、お手上げな依頼だ。
ただの調査だろうが、無事では済まないだろう。

「設置するだけで自動で補填してある魔力で敵を撃退する自律型魔法陣のセットと各種属性の敵に投げて属性ダメージを与える魔封石、魔力が切れた時の為の魔力増強剤プリムフェール…う~ん…かなり荷物が多くなりそうだな…魔法の枝の在庫も確認しなくては…」







こうして、オリュンは依頼の日の夜明けまでかけて、入念に準備をした。

「戸締りよし、火元の確認よし、クレアール用のご飯の準備もよし。」

オリュンは朝焼けの街を後にして、レヴァリアに向かう飛龍の龍車に乗る。

村の近くに龍停場があるから、そこまでは快適な空の旅だ。

「少し寝ときますか…」

オリュンは寝不足でミスをすると言う事を避ける為に仮眠をとる。







「…ん?」

オリュンは何かの気配を感じて目を覚ます。

「ちょっとこの辺で下ろしてもらえる?」

飛龍はオリュンの指示を聞くと静かに頷いて地面に降り立つ。

しかし、飛龍も気配を感じているのか、かなり不安そうに周囲を警戒する。

「この気配は…悪魔?いや、精霊?」

オリュンは悪魔のような精霊のような不思議な気配のする場所を見つける。

「あれは…!」

オリュンは人っぽい姿をした小さな何かが悪魔に取り囲まれているのを見つける。

「急ごう!」

オリュンは速度を上げて走っていく。
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