魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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古き時の小波

25話

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「オリュン、今日の依頼はなんだ?」

クレアールが本を読んでいるオリュンの傍に寄りながら聞く。

「そうね…A級モンスター、ローズクイーンを20体討伐するのと、大量発生したA級モンスター、黄金ゴールドの討伐だったはずよ。あんたが一人で出来そうなものしか受けてないから、好きに行ってきなさい。私はこれからメイドの仕事だし…」

「ちぇ…オリュンは来ねぇのかよ…ま、今はあのお嬢ちゃんのお世話もあるもんな。」

オリュンは少し苛立っている様子でパタンと音を立てて本を閉じる。

「あんなの金を積まれなければ、相手にしないわ。所詮はビジネスの関係よ。それに冒険者の方が稼げるもの…」

クレアールはニヤニヤしながら言う。

「ハハッ!そういう事にしといてやるよ!」

クレアールは楽しげに出かけていく。

「はぁ…」

オリュンは深くため息をついて、再び本を読み始める。

「ほんとに…頭が痛い話だわ…」

オリュンはメイドの家の生まれだった。

本来ならオリュンは家業のメイドを継がなければならなかった。

主にヘコヘコと頭を下げる情けない親の姿が嫌で冒険者になろうと決意して家出したのだが…

「本当になんでこんな依頼を受けてしまったのかしら…バカバカし過ぎて頭がおかしくなりそうよ…」

冒険者は命懸けの仕事だ。

そこに命の心配がないうえに比較的に簡単な依頼、そして圧倒的に多い報酬金なんてものをチラつかされれば、誰だって飛びつくだろう。

それはオリュンも例外ではなかった。

「ほんとにバカよね…こんな依頼を受けるなんて…」

そんな事を思っていると部屋の扉がノックされる。

「オリュンさん、アイフェットです。」

オリュンはもうそんな時間かと時計を見る。

しかし、約束の時間はまだ少し先であった。

そのまま、視線を本に戻す。

「鍵は開いてますよ。ご自由にお入りください。」

オリュンは本を読んだまま、アイフェットが入るのを促す。

「じゃあ…お邪魔しまーす!」

アイフェットが元気よく挨拶をしながら入室し、オリュンの目の前に座ってニコニコとオリュンを見ていた。

しばらくはそのまま放っておいたが、ずっとニコニコと眺められていたオリュンが痺れを切らして聞く。

「オリュンの顔に何かついているのでしょうか?」

オリュンが少し本を下げて、アイフェットを見る。

「ううん。オリュンさんって、すごく楽しそうに本を読むなぁ…って見てたんだよ~。アーフェはオリュンさんが読んでるみたいな本は難しくて読めないから…」

アイフェットは頬を掻く。

ちなみにアーフェはこの時のアイフェットが自分の事を呼ぶ時の名前である。

元々は家族からの呼び名から来てるそうだ。

「そうですか…確かにオリュンは本を読むのは好きですね。本を読んでいる間は別の世界に行けるので、気分転換としてもとても楽しいです。」

「オリュンさんは本を読んでいると別の世界に行けるの?!それって、魔法使いって事だよね!すごーい!アーフェも魔法で別の世界に行ってみたい!」

アイフェットが期待の眼差しでオリュンを見つめる。

「魔法ではありませんよ。貴方も本を読めば、いつでも別の世界に行けますよ。オリュンが読んでいるものは小説ですが、例え絵本であってもそれは変わりません。大事なのは自分がそこに居ると思う事です。」

オリュンはそう言って再び本に視線を戻す。

「そうなんだ!じゃあ、アーフェも早速試してみるね!」

アイフェットはそう言うと自分のポーチから絵本を取り出して、読み始める。

「う~ん…こんな感じかなぁ?」

アイフェットが「う~ん」と頭を捻りながら、独り言をブツブツと呟いている。

「でも、やっぱり、ここはこうなのかな?アーフェなら、こっちも気になるんだけど…でも、何があるかはわかんないや。」

オリュンは少しだけ苛立ちを感じている様子だった。

それもそのはずだ。

普段なら、一人で静かに自分の世界に入り浸っている時間なのだ。

それにこの声がクレアールなら、オリュンとしては許せていたが、オリュンにとって深い関係でもない少女が邪魔をしているともなると苛立ちを感じるのは仕方ないと言えるだろう。

オリュンはパタンと少し大きな音を立てて本を閉じて席を立つ。

「何処かに行くの?」

アイフェットがオリュンを見て首を傾げる。

「そうですよ。約束の時間までには戻りますので、ここにいてくださいね。」

「わかった!アーフェ、良い子で待ってるね!」

笑顔で見送るアイフェットに振り返る事もせず、オリュンはそのまま部屋を出て、行きつけの王立図書館に入る。

オリュンが受付に行くと顔見知りの獣人族、狼族ウルフィーの受付嬢がオリュンを見つけて笑顔で言う。

「オリュンさん、こんにちは。今日はどんな本をお探しですか?」

オリュンは少しだけ微笑んで言う。

「どうも。今日は貴方のおすすめを持ってきてもらえるかしら?」

「わかりました。では、いつもの席で待っててくださいね。」

受付嬢はそう言うと狼族の特徴的なフサフサの尻尾を揺らしながら、本を取りに行く。

オリュンはいつもの席でその辺から取ってきた本を読みながら、受付嬢を待つ。

「あ、いたいた…」

受付嬢が一冊の本を持って、パタパタと笑顔で駆け寄ってくる。

「お待たせしました。こちらが今日の私のオススメ、唱う宝玉獣カーヴァルです。こちらはとある地域の伝承が元になっていると言われる伝承みたいですね。なんでも、数日前に遺跡から発見されたそうで詳しい事はわかっていないのだそうです。それでは、私は失礼しますね。」

受付嬢は笑顔のまま、オリュンの座っている席に本を置いて、定位置に戻る。

「宝玉獣が題材になっているなんて珍しいわね…」

オリュンはその本を読み始めて、すぐに違和感を感じた。

「あれ?これって…」

× × × × × × 

「驚いたわ…ただの伝承にこんなものが隠れていたなんて…これを読み解けばきっと…」

オリュンは他の本を全て棚に戻し、受付嬢に言う。

「この本とこれに関する場所の本を借りてもいいかしら?」

「いいですよ。その本を気に入ってくれたみたいで良かったです。では、すぐにお持ちしますね。」

受付嬢はそう言って小走りして本を探しに行く。

少しすると数冊の本を抱えて受付嬢が戻ってくる。

「では、こちらの書類にサインをお願いします。いつもの様に魔力印プラムスゥルでも構いませんよ。」

受付嬢から、返却期限や取扱説明が書かれた書類を受け取り、魔力印でサインをする。

「では、お預かりいたしますね。またいらしてくださいね。」

「ああ、いつもありがとう。では…」

オリュンは本をポーチに収納して、時計を見る。

「おっと…そろそろ時間になるな…」

オリュンは少し早足で自宅に戻る。

「ただいま…」

自室の扉を開けるとすぐに見える時計がちょうど約束の時間になった事を示していた。

「…まあ、その当人は間抜け面晒して寝てるんですけどね。」

アイフェットは幸せそうに頬を緩ませながら机の上で寝ていた。

オリュンはアイフェットを起こさない様にそっとベッドまで運こぼうと抱き上げた瞬間…

「…んう?」

アイフェットが眠そうに目を擦りながら目を開ける。

「…オリュン?」

アイフェットはオリュンの顔を見て幸せそうに微笑む。

「おはようございます。約束のお時間になりましたが、いかがいたしましょうか?」

「なら、起きる…今日はオリュンの為に家の改築をしてるから、オリュンの好きな家具を買う日だからね…支払いはお爺様がしてくれるから、思う存分買っていいよって言ってたよ。」

正直に言うとそこまで長居する予定がはないとハッキリと伝えてる相手にここまでするのはさすが世界一の財力だなと感心せざるを得ない。

おそらく、オリュンたちのように命がけで稼がなくても一生遊んで暮らしても有り余るほど貯金があるのだろう。

そうでもなければ、オリュンのような戦う事しか能がない現役の冒険者にメイドをやらせようなんて思わないし、そのうえで良い意味で法外な報酬、衣食住の提供までするとなるとさすがにお金がかかり過ぎて、オリュンが支払う立場なら胃に穴を開けながら、頭を抱えている事だろう。

それほどまでにこの頃のオリュンにとってはお金は大切なものであった。

ちなみにアイフェットは社会経験の為に冒険者になったところをスカウトしたウェンを経由して、オリュンの事を知ったそうだ。

なんでも、アイフェットが自身の専属のメイドを探していたからなんだとか…

オリュンからすればかなり…いや、かつてないほどに迷惑な話だったが、報酬金とオリュンにとっての唯一の家族であるウェンからの頼みなのもあって渋々受けた依頼だった。

「了解しました。では、すぐに支度をいたしますね。」

アイフェットがオリュンの家まで通っている理由は知らないが、オリュンが迎えに行こうとしても、アイフェットが「アーフェはオリュンと仲良くなりたいの!だから、アーフェが迎えに行く!」と拒否していたのだ。

オリュンにとってはアイフェットの考えてる事はわからなかったが、この不思議な約束は10年以上ずっと変わらぬままなのであった。
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