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古き時の小波
24話
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オリュンは少し懐かしげに言う。
「それがアイフェットお嬢様との初めての出会いでした。今思えば、あの時、アイフェットお嬢様が来なければ、オリュンは今も冒険者をやっていたと思います。それほど、アイフェットお嬢様の存在はオリュンに大きな変化をもたらしたんです。」
アリスは「うんうん」と相槌をうちながら、楽しそうにオリュンの話を聞いていた。
オリュンがピタッと立ち止まる。
「オリュン…?」
アリスが不思議そうにオリュンを見る。
「すみません…なんでもないです。」
オリュンはニコリとアリスに微笑んで言う。
しかし、アリスにはオリュンがどことなく先程より気を張っているように感じた。
「そっか。」
アリスは気にしない事にした。
オリュンが狙いがつけやすい所を避けていたのを感覚で感じる。
アリスは幼いながらに何かが来る気配を感知していた。
「アリス様、すぐにオリュンも戻りますので、先に宿に戻って頂いてもよろしいですか?」
オリュンはとても小さな声でアリスに言う。
「オリュン…」
アリスは無意識に力を使う。
「アリス様?!」
アリスはオリュンに抱きつく。
「アリスもついて行く…6人居るよ…」
オリュンは一瞬だけ、とても驚いた表情をする。
「アリス様は冒険者としての才能もお有りなのですね…」
オリュンの元冒険者としての勘がアリスの冒険者としての才能を感じていた。
(もし…アリス様がお嬢様では無く、冒険者だったなら間違いなく歴代最高の冒険者になっていたわね…)
そうこうしているうちに人目のつきにくい細い路地に追い込まれてしまった。
「…居るのはわかってます。出てきてください。」
オリュンがそう言うと目の前に5人の暗殺者が現れる。
「メイドになったとは言え、さすがの腕前だな。我々の気配を感知出来るのはお前くらいなものだ。黒金の魔王、オリュン・アルフェリアと呼ばれただけある。」
リーダー格の赤黒い服の女が言う。
「ご主人様を護るのも私たちメイドの役目です。例え戦場を離れたとて、日々の鍛錬を怠る訳にはいきませんよ。」
赤黒い服の女が合図をすると他の4人が武器を構える。
「アリス様はオリュンが護ります。だから、アリス様はご安心くださいませ。」
オリュンがアリスに防御魔法を使う。
「貴方達の狙いはなんですか?少なくとも、オリュンがその対象に含まれていると感じていますが…」
リーダー格の女が言う。
「冥土の土産に少しだけ教えてやろう。我々はとある悪魔の娘の殺害を依頼されている。その悪魔の娘を殺す。」
リーダー格の女は首を振る。
「いや、これは表向きの話だな。」
リーダー格の女がアリスを見る。
「私の目的はお前の確保だ。お前の事は調べ尽くして居る。大人しく従えば、命は助けてやる。」
オリュンが身構える。
「アリスは拒否するよ!」
アリスが無意識に力を使う。
オリュンとアリスの身体を薄い光が包み込む。
リーダー格の女が嫌そうに言う。
「はぁ…勘の悪いガキは嫌いだ…」
女がフードを取る。
「お前は…ぐっ?!」
突然、オリュンの腹からナイフの刃が飛び出てくる。
オリュンが吐血して倒れる。
「オリュン?」
アリスは何が何だかわからなかった。
アリスが幼いからと言うのもあるが、ほんの一瞬の出来事だったのだ。
「アリス…様…」
オリュンが立ち上がろうとするが、上手く力が出ない様子だった。
「オリュン…オリュン…」
アリスの目から涙が溢れそうになる。
「アリス様…これでここからお逃げください…」
オリュンは弱々しくあげた手からアリスに転移石を差し出す。
「アリス…オリュンを置いていけないよ…」
「ふふっ…オリュンは幸せ者です…アルフェノーツの皆様やこんなにも可愛くて優しいアリスお嬢様と共に過ごせた日々を送れていたのですから…」
オリュンの瞳が静かに閉じられていく。
「オリュン!起きて!起きてよ!アリスを置いていかないで!オリュン!」
オリュンの唇が僅かに動く。
『お嬢様…どうか…無事で…』
オリュンの腕が力なく地面に落ちる。
「そんな…いやよ…オリュン…」
アリスが顔を覆いながら、涙を流す。
アリスを中心に白い魔力が発生する。
「まずい!あいつに力を使わせるな!」
女が赤い髪を煌めかせながら、仲間に合図する。
「返して…」
アリスの周囲の魔力がどんどん強くなる。
「オリュンを返してよ!」
アリスがそう言った瞬間、アリスの身体が光り輝きはじめる。
そして、何も見えなくなるほどに眩く輝き、アリスの背に2枚の大きな妖精の翼が現れる。
「お前たちは許さない…絶対に許さない!」
アリスの姿が消え、一瞬で5人の暗殺者の身体を文字通りに跡形もなく消す。
「な、何が起きた?!」
アリスが女の前に現れる。
「お前たちのせいだ!お前たちさえ居なければ、オリュンは死なずに済んだのに!」
アリスが女の顔を右手で鷲掴みにして、空いた左手で腹を殴る。
「がはっ?!」
女が吐血する。
「楽に死ねると思うなよ!」
アリスの身体から癒しの魔力が発生する。
「あぁ…」
女は自身の身体が癒えていくのを感じて悟った。
一番怒らせてはダメな相手を怒らせてしまった事、そしてこれから始まる地獄より恐ろしい拷問が待っている事を…
「返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!」
女は何度も自分の体がぐちゃぐちゃになる感覚と耐え難い激痛に意識を支配される。
「オリュンを返せぇ!」
アリスが力一杯に女の顔を殴る。
女の体が跡形もなく吹き飛ぶ。
アリスは何も無くなった右手を見る。
「オリュン…」
アリスはそのままオリュンの身体からナイフを抜き取り、治療をする。
「オリュン…目を覚まして…オリュン…アリス…アリス…」
アリスの身体から白い魔力がアリスの腕を通じてオリュンの身体の中に入っていく。
「はぁ…はぁ…オリュン…」
アリスの身体から白い魔力が消え、元のアリスの姿に戻る。
「オリュン…アリスは…」
アリスがその場に倒れる。
「オリュン…」
アリスは朦朧としている意識の中でオリュンの名前を呼ぶ。
そして、アリスの意識が途切れると同時にオリュンの手がぴくりと動く。
そして、静かに目を開ける…
「これは…」
オリュンは不思議そうに自分の身体を見る。
「オリュンは生きている…のでしょうか…」
オリュンは倒れているアリスを見る。
「アリス様!」
オリュンが急いでアリスを抱き抱える。
「良かった…無事みたいです…」
オリュンは辺りを見回す。
ところどころに人の形に焦げた壁がある事に気がつく。
「もしかして…アリス様がこれを…?」
オリュンは自分の身体を見る。
傷は跡形もなく綺麗に治っており、身体に回っていたはずの即死性の毒も無くなっていた。
「アリス様…もしかして…」
オリュンは頭の中に浮かんだ考えを振り払う。
「そ、そんなわけありませんよね…」
一瞬だけ脳裏を過ったのは、最高位の精霊魔法…
その魔法は死者すら蘇らせるほど強力な癒しの魔法。
死転転生
その名が示すようにこの世界の力を借りて、対象を確実に蘇らせる力を持った妖精王のみが扱えるとされる究極の回復魔法にして、そのあまりの強力さ故に精霊王ですら力を制御しきれないと伝わる伝説の魔法だ。
遠くから足音が聞こえる。
オリュンは気絶して寝ているアリスの身体を抱き抱えて、その場を去る。
「アリス様はオリュンが守ります。今度こそ…絶対に…守りきります。」
アリスがアレをやったと知られてしまえば、確実にアリスの身が危ない事は明白であった。
「ご主人様には報告しておいた方がいいのでしょうか…」
「当然だよ。」
「…っ?!」
オリュンが驚いて振り返る。
そこにはいつもとは違い覇気があり、黒く肌に密着するスーツを着たオリュンの双子の妹、ウェンが居た。
「オリュンが一度死んだ事は皆知ってるよ。そして、これからアリス様をどうするかを話し合う事になってる。もちろん、私から逃げる事は出来ないのはオリュンならわかってるよね?」
オリュンもウェンも互いを知り尽くしているのだ。
戦い方、癖、考え方、性格、得手不得手、その全てを互いに知っている。
だからこそ、この言葉の意味が痛いほど分かるのだ。
「オリュンは…」
オリュンは小さく首を振る。
「いえ…なんでもありません。大人しく帰ります。」
それを聞くとウェンがいつもの様な眠そうな雰囲気に戻る。
「そっか。」
ウェンが先を歩き始める。
「ウェン…オリュンは…アリス様の事を守りきる事は出来るのでしょうか…」
「オリュンなら余裕でしょ。それに…」
ウェンは振り返ってニヤリと笑う。
「私もついてるしね!」
「ウェン…恩にきります…」
そして、オリュンはアリスを抱えたまま、ウェンと共に屋敷にもどる。
「アリス、よくぞ無事で戻って来ましたね。」
フィルアールはオリュンからひったくる様にアリスを抱き締めて、アリスの無事を喜ぶ。
オリュンが取り残された感を漂わせているとウェンが言う。
「フィルアール様にとって、アリスは唯一無二の妹様だからね…その妹様が危険な目にあったともなれば、私たちの様なその辺のメイドなんか視界にすら入らないと思うよ。」
「そう…ですね…」
フィルアールがオリュンを見る。
「すまない…アリスが無事だった事がほんとに嬉しくて…オリュンが居なかったらアリスは危険な目にあってたかもしれませんし、オリュンのおかげで私は大事なものを失わずに済みました…本当にありがとうございます。」
フィルアールが勢いよく頭を下げる。
「そ、そんな!フィルアール様、顔をお上げください!私はアリス様専属のメイドなのですから、責務を全うしただけですよ…」
奥から呆れた様子でアイフェットが出てくる。
「フィルアール、あまり激しくアリスを揺さぶらないでちょうだい。喜ぶ気持ちはわかるけど、アリスはオリュンに力を使って寝ているんでしょ?」
「そ、そうでした…すみません…」
フィルアールはそっとオリュンの腕にアリスを戻す。
アイフェットはオリュンに向き合う。
「オリュン、貴方の功績は誇っていいものですわ。ですが、アリスを悲しませる様な結果をもたらした事について、アイフェットはとても怒っています。もう二度とアリスを悲しませないでください。アリスにとって貴方を含めた屋敷の者は皆、かけがいのない宝物です。自分の身もしっかりと守りなさい。良いですね?」
「承知しました。アイフェットお嬢様の言葉を深く胸に刻みつけておきます。」
アイフェットはそれを聞くと楽しげに微笑む。
「ふふっ…私がオリュンに怒ったのなんて、何年ぶりかしらね…」
「そうですね…私がこの屋敷に来たばかりの頃から考えると10年以上前かと…」
オリュンがこの屋敷に来た時、一度だけ無断で危険な場所に行った事があった。
「あの頃は貴方もまだ尖っていたものね。」
「そうですね…思い返しても恥ずかしい限りですが、アルフェノーツ家の皆様の愛情の深さを知るには良い機会だったと思います。あの出来事が無ければ、オリュンはきっとここには居なかったでしょうね。」
とある依頼を受けた時だ。
当時のオリュンは冒険者を兼業する形でアルフェノーツ家のメイドをやっていた。
「それがアイフェットお嬢様との初めての出会いでした。今思えば、あの時、アイフェットお嬢様が来なければ、オリュンは今も冒険者をやっていたと思います。それほど、アイフェットお嬢様の存在はオリュンに大きな変化をもたらしたんです。」
アリスは「うんうん」と相槌をうちながら、楽しそうにオリュンの話を聞いていた。
オリュンがピタッと立ち止まる。
「オリュン…?」
アリスが不思議そうにオリュンを見る。
「すみません…なんでもないです。」
オリュンはニコリとアリスに微笑んで言う。
しかし、アリスにはオリュンがどことなく先程より気を張っているように感じた。
「そっか。」
アリスは気にしない事にした。
オリュンが狙いがつけやすい所を避けていたのを感覚で感じる。
アリスは幼いながらに何かが来る気配を感知していた。
「アリス様、すぐにオリュンも戻りますので、先に宿に戻って頂いてもよろしいですか?」
オリュンはとても小さな声でアリスに言う。
「オリュン…」
アリスは無意識に力を使う。
「アリス様?!」
アリスはオリュンに抱きつく。
「アリスもついて行く…6人居るよ…」
オリュンは一瞬だけ、とても驚いた表情をする。
「アリス様は冒険者としての才能もお有りなのですね…」
オリュンの元冒険者としての勘がアリスの冒険者としての才能を感じていた。
(もし…アリス様がお嬢様では無く、冒険者だったなら間違いなく歴代最高の冒険者になっていたわね…)
そうこうしているうちに人目のつきにくい細い路地に追い込まれてしまった。
「…居るのはわかってます。出てきてください。」
オリュンがそう言うと目の前に5人の暗殺者が現れる。
「メイドになったとは言え、さすがの腕前だな。我々の気配を感知出来るのはお前くらいなものだ。黒金の魔王、オリュン・アルフェリアと呼ばれただけある。」
リーダー格の赤黒い服の女が言う。
「ご主人様を護るのも私たちメイドの役目です。例え戦場を離れたとて、日々の鍛錬を怠る訳にはいきませんよ。」
赤黒い服の女が合図をすると他の4人が武器を構える。
「アリス様はオリュンが護ります。だから、アリス様はご安心くださいませ。」
オリュンがアリスに防御魔法を使う。
「貴方達の狙いはなんですか?少なくとも、オリュンがその対象に含まれていると感じていますが…」
リーダー格の女が言う。
「冥土の土産に少しだけ教えてやろう。我々はとある悪魔の娘の殺害を依頼されている。その悪魔の娘を殺す。」
リーダー格の女は首を振る。
「いや、これは表向きの話だな。」
リーダー格の女がアリスを見る。
「私の目的はお前の確保だ。お前の事は調べ尽くして居る。大人しく従えば、命は助けてやる。」
オリュンが身構える。
「アリスは拒否するよ!」
アリスが無意識に力を使う。
オリュンとアリスの身体を薄い光が包み込む。
リーダー格の女が嫌そうに言う。
「はぁ…勘の悪いガキは嫌いだ…」
女がフードを取る。
「お前は…ぐっ?!」
突然、オリュンの腹からナイフの刃が飛び出てくる。
オリュンが吐血して倒れる。
「オリュン?」
アリスは何が何だかわからなかった。
アリスが幼いからと言うのもあるが、ほんの一瞬の出来事だったのだ。
「アリス…様…」
オリュンが立ち上がろうとするが、上手く力が出ない様子だった。
「オリュン…オリュン…」
アリスの目から涙が溢れそうになる。
「アリス様…これでここからお逃げください…」
オリュンは弱々しくあげた手からアリスに転移石を差し出す。
「アリス…オリュンを置いていけないよ…」
「ふふっ…オリュンは幸せ者です…アルフェノーツの皆様やこんなにも可愛くて優しいアリスお嬢様と共に過ごせた日々を送れていたのですから…」
オリュンの瞳が静かに閉じられていく。
「オリュン!起きて!起きてよ!アリスを置いていかないで!オリュン!」
オリュンの唇が僅かに動く。
『お嬢様…どうか…無事で…』
オリュンの腕が力なく地面に落ちる。
「そんな…いやよ…オリュン…」
アリスが顔を覆いながら、涙を流す。
アリスを中心に白い魔力が発生する。
「まずい!あいつに力を使わせるな!」
女が赤い髪を煌めかせながら、仲間に合図する。
「返して…」
アリスの周囲の魔力がどんどん強くなる。
「オリュンを返してよ!」
アリスがそう言った瞬間、アリスの身体が光り輝きはじめる。
そして、何も見えなくなるほどに眩く輝き、アリスの背に2枚の大きな妖精の翼が現れる。
「お前たちは許さない…絶対に許さない!」
アリスの姿が消え、一瞬で5人の暗殺者の身体を文字通りに跡形もなく消す。
「な、何が起きた?!」
アリスが女の前に現れる。
「お前たちのせいだ!お前たちさえ居なければ、オリュンは死なずに済んだのに!」
アリスが女の顔を右手で鷲掴みにして、空いた左手で腹を殴る。
「がはっ?!」
女が吐血する。
「楽に死ねると思うなよ!」
アリスの身体から癒しの魔力が発生する。
「あぁ…」
女は自身の身体が癒えていくのを感じて悟った。
一番怒らせてはダメな相手を怒らせてしまった事、そしてこれから始まる地獄より恐ろしい拷問が待っている事を…
「返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!」
女は何度も自分の体がぐちゃぐちゃになる感覚と耐え難い激痛に意識を支配される。
「オリュンを返せぇ!」
アリスが力一杯に女の顔を殴る。
女の体が跡形もなく吹き飛ぶ。
アリスは何も無くなった右手を見る。
「オリュン…」
アリスはそのままオリュンの身体からナイフを抜き取り、治療をする。
「オリュン…目を覚まして…オリュン…アリス…アリス…」
アリスの身体から白い魔力がアリスの腕を通じてオリュンの身体の中に入っていく。
「はぁ…はぁ…オリュン…」
アリスの身体から白い魔力が消え、元のアリスの姿に戻る。
「オリュン…アリスは…」
アリスがその場に倒れる。
「オリュン…」
アリスは朦朧としている意識の中でオリュンの名前を呼ぶ。
そして、アリスの意識が途切れると同時にオリュンの手がぴくりと動く。
そして、静かに目を開ける…
「これは…」
オリュンは不思議そうに自分の身体を見る。
「オリュンは生きている…のでしょうか…」
オリュンは倒れているアリスを見る。
「アリス様!」
オリュンが急いでアリスを抱き抱える。
「良かった…無事みたいです…」
オリュンは辺りを見回す。
ところどころに人の形に焦げた壁がある事に気がつく。
「もしかして…アリス様がこれを…?」
オリュンは自分の身体を見る。
傷は跡形もなく綺麗に治っており、身体に回っていたはずの即死性の毒も無くなっていた。
「アリス様…もしかして…」
オリュンは頭の中に浮かんだ考えを振り払う。
「そ、そんなわけありませんよね…」
一瞬だけ脳裏を過ったのは、最高位の精霊魔法…
その魔法は死者すら蘇らせるほど強力な癒しの魔法。
死転転生
その名が示すようにこの世界の力を借りて、対象を確実に蘇らせる力を持った妖精王のみが扱えるとされる究極の回復魔法にして、そのあまりの強力さ故に精霊王ですら力を制御しきれないと伝わる伝説の魔法だ。
遠くから足音が聞こえる。
オリュンは気絶して寝ているアリスの身体を抱き抱えて、その場を去る。
「アリス様はオリュンが守ります。今度こそ…絶対に…守りきります。」
アリスがアレをやったと知られてしまえば、確実にアリスの身が危ない事は明白であった。
「ご主人様には報告しておいた方がいいのでしょうか…」
「当然だよ。」
「…っ?!」
オリュンが驚いて振り返る。
そこにはいつもとは違い覇気があり、黒く肌に密着するスーツを着たオリュンの双子の妹、ウェンが居た。
「オリュンが一度死んだ事は皆知ってるよ。そして、これからアリス様をどうするかを話し合う事になってる。もちろん、私から逃げる事は出来ないのはオリュンならわかってるよね?」
オリュンもウェンも互いを知り尽くしているのだ。
戦い方、癖、考え方、性格、得手不得手、その全てを互いに知っている。
だからこそ、この言葉の意味が痛いほど分かるのだ。
「オリュンは…」
オリュンは小さく首を振る。
「いえ…なんでもありません。大人しく帰ります。」
それを聞くとウェンがいつもの様な眠そうな雰囲気に戻る。
「そっか。」
ウェンが先を歩き始める。
「ウェン…オリュンは…アリス様の事を守りきる事は出来るのでしょうか…」
「オリュンなら余裕でしょ。それに…」
ウェンは振り返ってニヤリと笑う。
「私もついてるしね!」
「ウェン…恩にきります…」
そして、オリュンはアリスを抱えたまま、ウェンと共に屋敷にもどる。
「アリス、よくぞ無事で戻って来ましたね。」
フィルアールはオリュンからひったくる様にアリスを抱き締めて、アリスの無事を喜ぶ。
オリュンが取り残された感を漂わせているとウェンが言う。
「フィルアール様にとって、アリスは唯一無二の妹様だからね…その妹様が危険な目にあったともなれば、私たちの様なその辺のメイドなんか視界にすら入らないと思うよ。」
「そう…ですね…」
フィルアールがオリュンを見る。
「すまない…アリスが無事だった事がほんとに嬉しくて…オリュンが居なかったらアリスは危険な目にあってたかもしれませんし、オリュンのおかげで私は大事なものを失わずに済みました…本当にありがとうございます。」
フィルアールが勢いよく頭を下げる。
「そ、そんな!フィルアール様、顔をお上げください!私はアリス様専属のメイドなのですから、責務を全うしただけですよ…」
奥から呆れた様子でアイフェットが出てくる。
「フィルアール、あまり激しくアリスを揺さぶらないでちょうだい。喜ぶ気持ちはわかるけど、アリスはオリュンに力を使って寝ているんでしょ?」
「そ、そうでした…すみません…」
フィルアールはそっとオリュンの腕にアリスを戻す。
アイフェットはオリュンに向き合う。
「オリュン、貴方の功績は誇っていいものですわ。ですが、アリスを悲しませる様な結果をもたらした事について、アイフェットはとても怒っています。もう二度とアリスを悲しませないでください。アリスにとって貴方を含めた屋敷の者は皆、かけがいのない宝物です。自分の身もしっかりと守りなさい。良いですね?」
「承知しました。アイフェットお嬢様の言葉を深く胸に刻みつけておきます。」
アイフェットはそれを聞くと楽しげに微笑む。
「ふふっ…私がオリュンに怒ったのなんて、何年ぶりかしらね…」
「そうですね…私がこの屋敷に来たばかりの頃から考えると10年以上前かと…」
オリュンがこの屋敷に来た時、一度だけ無断で危険な場所に行った事があった。
「あの頃は貴方もまだ尖っていたものね。」
「そうですね…思い返しても恥ずかしい限りですが、アルフェノーツ家の皆様の愛情の深さを知るには良い機会だったと思います。あの出来事が無ければ、オリュンはきっとここには居なかったでしょうね。」
とある依頼を受けた時だ。
当時のオリュンは冒険者を兼業する形でアルフェノーツ家のメイドをやっていた。
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