魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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黒の少女

33話

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私はとても考えていた。

「厳しいわね…」

サーシャ、フレイ、アレクスが前衛で攻撃を行い、ルフェルシアも前衛で攻撃をしながらサポートをしていた。

アリフェスと私は後衛からの攻撃とサポートを担当していたのだが…

「ウィル、貴方の魔力でオレの弾を作れないか?そろそろ底が尽きそうなんだが…」

アリフェスが苦い顔をしながら言う。

「ごめんなさい…私の魔力もそっちに回せるほどの余裕が無いの。前衛の皆もかなり消耗してるし、このままだとジリ貧なのは間違いないわ。」

私も必要と思われる魔力量を計算するに余裕が無いことは理解していた。



サーシャが森に住む一般的な狼の姿をしたB級モンスターのウルフの群れに突っ込みながら言う。

「さらなる速さを…!魔法剣エレクトロン!」

速さに全振りした雷属性の魔法剣を付与した剣で次々とウルフを討伐していくが、少しづつダメージが蓄積されているように思われる。

「やるわね…でも、多勢に無勢では国防騎士の名折れですわ!」

サーシャはそう言って気合いを入れ直してウルフの群れの討伐を続ける。



「オラオラァ!こんなもんじゃ終わらねぇぞコラ!兜割りぃ!」

アレクスが鋼鉄のように硬い鱗に覆われたA級モンスターのスティールスネークに向かって大斧を振り下ろして地面ごと真っ二つにする。

「ちょっと!アレクス、危ないじゃない!」

その真横で岩石のような身体のB級モンスターのゴーレムと交戦していたフレイが言う。

「アァン?テメーの事なんか知らねぇよ。こっちだってヤベぇんだっつうの!」

アレクスが不満げに…と言うか、不満を隠す事もなく掴みかかりそうな勢いでフレイに言う。

「アンタねぇ!それでも王国騎士隊を目指す男なの?」

「ガタガタうっせぇ女だなぁ!そんなに言うなら、今ここでやり合ったって良いんだぜ?」

喧嘩する二人に六体のB級モンスターが襲いかかる。

「邪魔すんじゃねぇ!」
「邪魔しないで!」

二人の息ピッタリな連携で次々にB級モンスターが討伐される。

「ったくよ…邪魔くせぇったらありゃしねぇ!」

「とても不愉快だけれど、その意見には同感だわ。」

二人がまるで打ち合わせでもしたかのように息ピッタリに言う。

「どっちが多く倒すか…」

「勝負よ!」

「負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞く事でいいな!」

「当然よ!アンタのその変な頭を丸坊主にしてやるんだから!」

「上等だコラ!テメーの生意気な態度を叩き直してやんよ!」

「はっ!生意気なのはアンタの方でしょ?調子に乗らないでよね!」

再び喧嘩する二人に今度は4体のA級モンスターが襲いかかる。

「邪魔しないでって…」
「邪魔すんなって…」

「言ってんでしょうが!」
「言ってんだろうが!」

またしても二人の息ピッタリな連携で4体のA級モンスターが討伐される。



「はぁ!シールドバッシュ!」

ルフェルシアの盾を利用した体当たり攻撃で全身が刃物のような鋭い棘で覆われたS級モンスターのニードルソードを弾き飛ばしてひっくり返す。

「うぐっ…カウンターが痛い…」

ニードルソードの棘の攻撃は盾で防ぐ事は出来るが、貫通効果がある為、ダメージはそのまま通る性質があり、それは攻撃時に棘に触れた際にも適応される。

直接当たればもちろん、怪我どころでは済まないが、貫通効果によるダメージもかなりのものだった。

ルフェルシアはニードルソードが体制を立て直す前にポーションを一気に飲みほす。

「多少はこれで回復出来るとはいえ、かなり辛い状況なのには変わりないな…」

ニードルソードが体制を整えて棘を飛ばしてくる。

「くっ…ミラージュシールド!」

ミラージュシールドによってシールドに当たった棘を跳ね返す。

ニードルソードに跳ね返った棘が当たるが、その硬い皮膚に全て弾かれる。

「キュルルルルルル!」

ニードルソードが爪を伸ばしてルフェルシアを切り裂こうとする。

「私が…倒れるわけには…いかないんだ!」

ルフェルシアがどっしりと盾を構える。

「私はこの災厄の受け手…この手に全てを受け止める者!ゴッドウォール!」

それは神が建てた壁の様にニードルソードの爪を弾き返し追撃の棘ものとも破壊する。

「キュルルル?」

ニードルソードは訳が分からなそうな表情で自分の爪を見る。

「はぁ…はぁ…お前の武器は全部破壊してやったぞ!」

ニードルソードは力を溜める。

「キュルルルル!」

ニードルソードの身体から次々と棘が生える。

「まあ、そう簡単にいかないよな…本格的に困ったな…」

ニードルソードが再びルフェルシアを切り裂こうと爪を伸ばす。

「アリフェス!」

「任せて!」

私は雷の力を意識する。

「雷よ!我が声に呼応し、敵を貫け!サンダーボルト!」

私の突き出した両手から高圧の雷が発射される。

「キュルルルルルル?!」

ニードルソードが痺れて痙攣する。

「くらいなさい!ハデスショット!」

アリフェスが間髪入れずに相手が弱体効果を受けていて、相手の弱点に当てれば即死を付与出来る特殊な死の弾丸を放つ。

「キュルルルルルルゥゥゥゥゥゥ!!!!」

ニードルソードが死の弾丸で絶命する。

「はぁ…はぁ…さすがに魔力が底を尽きかけてますね…」

魔力がほぼ0になったアリフェスが言う。

「ルフェルシア、サーシャの援護に行けるか?」

私はルフェルシアに言う。

「私はまだいけそうだが…大丈夫なのか?」

ルフェルシアの心配も最もだ。

今は誰一人として目の前の敵以外の対処が極めて難しい状況だ。

そのうえで私はほとんど何も出来ない状態のアリフェスを守りながら、戦わないといけない。

そして、アレクスとフレイはまだ余裕がありそうだが、サーシャはかなり消耗しているはずだ。

「アリフェス、残弾はいくつ?」

「ん…10くらいですね。」

私は感知を使う。

私たちの周囲には30体ほどのC~A級のモンスターが居た。

「ギリギリだけど、何とかは出来そうだわ。とは言っても、かなり博打に近いやり方にはなるのだけれど…」

ルフェルシアは首を振る。

「それでも、決して勝算は高くないのだろう?」

「そうね…でも、やらなきゃサーシャが死ぬわ。私はね…悪運の強さには自信があるのよ。だから…勝つわ!」

私がそう言いきるとルフェルシアは「はぁ…」とため息をつく。

「君はいつもそうだ。頑固で賭け事が大好きでほんとに仕方の無いやつだ…」

ルフェルシアはサーシャの方へ行こうとしながら言う。

「ウィル、絶対に死ぬなよ。アリフェスも無理はするな。」

ルフェルシアはサーシャの元へと駆ける。

「ははっ!これがホントの地獄絵図ってな。」

アリフェスが目の前のモンスターの大群を見て隠していたナイフを取り出しながら言う。

「正直、勝率は低いけど…」

私がそう言ってる間にアリフェスがナイフを投げて目の前のA級モンスターの頭を一撃で貫いて討伐する。

「全力でぶっ倒すぞ!」

「おう!」

私はアリフェスの掛け声に答えて、敵の殲滅を開始する。




「や~…困ったなぁ…」

私は仲間の気配を辿りながら、そんな事を言う。

「アスティアさんとした事が、とんだ失態を晒しちゃったねぇ…」

私は周囲にモンスターの群れが現れるのを感知する。

「まあ、こんなところに一人で歩いていたら、嗅ぎつけてくるよね。」

目の前にB級モンスターの森に住む狼の森狼フォルフの群れが現れる。

「この程度なら、魔法拳まほうけんで大丈夫そうね。」

私は篭手をつけて、拳を構える。

「どこからでもかかって来なさい!」

「ウルウォーン!」

周囲の草むらや木の影から大量にフォルフが出てくる。

「燃えろ!魔法拳ファイア!」

私の構えた拳が火に包まれ、攻撃力が超強化される。

「熱血!爆裂拳!」

私は一番近くにいたフォルフの顔を殴る。

そのまま殴られたフォルフが他のフォルフに当たって爆発し、さらに他のフォルフに当たって爆発の連鎖を繋げていた。

「アオーン!」

フォルフが怒って飛びかかってくる。

「爆発だけじゃ足りなかったかしら?」

私は腰を低くして拳を後ろに引く。

「これでどうだ!紅蓮拳!」

燃える拳でアッパーを繰り出しながら、周囲に火の玉を飛ばす。

目の前にまで迫っていたフォルフの腹にアッパーが炸裂しフォルフの身体が熱によって弾け飛ぶ。

周囲では焦げたフォルフの死体がそこそこあった。

「どうする?私は今逃げるって言うなら、見逃すけど?」

私はフォルフを挑発する。

「グルルルル…」

フォルフは圧倒的な力の差を見たからか、残った仲間と共に森の中へと逃げて行く。

残ったフォルフの死体を埋葬していると一匹だけまだ息があるフォルフが居た。

そのフォルフは元々傷ついており、ここで弱っていたようだ。

「グルル…」

フォルフが立ち上がって対抗しようとする。

「辞めた方がいいよ。今の貴方は息をするのも精一杯でしょ?」

私がそう言うとフォルフは諦めた様にぐったりと身体を地につけて居た。

「強さを求める者としては討伐して経験値にした方が良いのはわかってるんだけど…」

私は息のあるフォルフのお腹を見る。

大きく膨らんでおり、時折中が動いている様子がわかる。

「子を思う母の気持ちを踏み躙ってまでして、討伐しても後味が悪いわ…」

私はフォルフを治療する。

フォルフは驚いた様子で私を見ていた。

「立って仲間の元に戻るくらいは出来るまで治療してあげたわよ。でも、無理は禁物よ。私が出来るのは応急処置程度なのだから…」

フォルフはゆっくりと立ち上がる。

「…」

私も立ち上がる。

「じゃあね。」

私はそのまま仲間の元へ行こうとした瞬間だった。

「ワン!」

目の前に一匹の若いフォルフが現れる。

「あの子の事が心配で戻ってきたのかしら?」

フォルフは私が治療したフォルフを見て尻尾を振る。

私が治療したフォルフはフラフラとした足取りでゆっくりと私の後ろをついてきていた。

「ウォン…」

治療したフォルフが私の顔を見ながら小さく吠える。

「元はと言えば、私が一人で歩いてたのが悪いのよ。貴方たちは本能に従って獲物を狩ろうとしただけよ。気にする事は無いわ。」

私がそう言うと若いフォルフが遠吠えをする。

周囲からフォルフが現れる。

そのどれもが私と治療したフォルフを見て尻尾を振っていた。

「…」

若いフォルフが私の顔を見る。

「はぁ…全く…私はテイマーじゃ無いのよ?」

私は治療したフォルフに左手を突き出す。

「ウォン!」

治療したフォルフが私の左手に自分の鼻をつけて魔力を流す。

下僕テイム完了ね。最後にもう一度言うけど、傷が治るまでは大人しく仲間の元に帰りなさいな。私は国防騎士隊として働くの。だから、貴方が死なない為にも今は仲間の元に戻って休んでなさい。」

私がそう言うと治療したフォルフは私を介して周囲の魔力を吸収する。

「ウォン!」

治療したフォルフの身体の傷が塞がり、元気な状態になっていた。

「…貴方の心意気はよくわかったわ。そこまで言われちゃ、私も無理に返せないわね。」

私は目の前の若いフォルフに言う。

「貴方にはちょっと悪い事をしちゃったわね…」

「ワン!」

若いフォルフは気にするなと言いたげに吠えると尻尾を振りながら道を開け、仲間の元に帰っていく。

若いフォルフに呼び寄せられたフォルフ達も静かに仲間の元へと帰っていった。

「じゃあ、行こうか。パリス。」

「ウォン!」

治療したフォルフはパリスの名を与えられた事により魔力が高まり、姿がより強く逞しくなる。

俗に言う進化と言う奴だ。

フォルフが進化すると雷の力と風の力を持った狼の嵐狼ハリンフになる。

お腹の子供も通常のフォルフよりかなり強い個体になるだろう。

パリスは嬉しそうに私の顔をペロペロと舐める。

「はいはい…どうも。」

パリスは私の身体を持ち上げて背中に乗せる。

「貴方、意外と器用なのね。」

私かそう言うとパリスは嬉しそうに尻尾を降って、私の目的地へと走り出す。

「フフッ…皆にあったら、ビックリしそうだわ。」

『群れの仲間より貴方のような強い人なら我の事もお腹の子供たちの事も任せられる。だから、我を連れて行け!仲間の元に戻れと何度言われても我はついて行くぞ!』なんて言われちゃったものね。

私は皆と会うのを楽しみにしていた。
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