43 / 108
黒の少女
33話
しおりを挟む
私はとても考えていた。
「厳しいわね…」
サーシャ、フレイ、アレクスが前衛で攻撃を行い、ルフェルシアも前衛で攻撃をしながらサポートをしていた。
アリフェスと私は後衛からの攻撃とサポートを担当していたのだが…
「ウィル、貴方の魔力でオレの弾を作れないか?そろそろ底が尽きそうなんだが…」
アリフェスが苦い顔をしながら言う。
「ごめんなさい…私の魔力もそっちに回せるほどの余裕が無いの。前衛の皆もかなり消耗してるし、このままだとジリ貧なのは間違いないわ。」
私も必要と思われる魔力量を計算するに余裕が無いことは理解していた。
…
サーシャが森に住む一般的な狼の姿をしたB級モンスターの狼の群れに突っ込みながら言う。
「さらなる速さを…!魔法剣!」
速さに全振りした雷属性の魔法剣を付与した剣で次々とウルフを討伐していくが、少しづつダメージが蓄積されているように思われる。
「やるわね…でも、多勢に無勢では国防騎士の名折れですわ!」
サーシャはそう言って気合いを入れ直してウルフの群れの討伐を続ける。
…
「オラオラァ!こんなもんじゃ終わらねぇぞコラ!兜割りぃ!」
アレクスが鋼鉄のように硬い鱗に覆われたA級モンスターのスティールスネークに向かって大斧を振り下ろして地面ごと真っ二つにする。
「ちょっと!アレクス、危ないじゃない!」
その真横で岩石のような身体のB級モンスターのゴーレムと交戦していたフレイが言う。
「アァン?テメーの事なんか知らねぇよ。こっちだってヤベぇんだっつうの!」
アレクスが不満げに…と言うか、不満を隠す事もなく掴みかかりそうな勢いでフレイに言う。
「アンタねぇ!それでも王国騎士隊を目指す男なの?」
「ガタガタうっせぇ女だなぁ!そんなに言うなら、今ここでやり合ったって良いんだぜ?」
喧嘩する二人に六体のB級モンスターが襲いかかる。
「邪魔すんじゃねぇ!」
「邪魔しないで!」
二人の息ピッタリな連携で次々にB級モンスターが討伐される。
「ったくよ…邪魔くせぇったらありゃしねぇ!」
「とても不愉快だけれど、その意見には同感だわ。」
二人がまるで打ち合わせでもしたかのように息ピッタリに言う。
「どっちが多く倒すか…」
「勝負よ!」
「負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞く事でいいな!」
「当然よ!アンタのその変な頭を丸坊主にしてやるんだから!」
「上等だコラ!テメーの生意気な態度を叩き直してやんよ!」
「はっ!生意気なのはアンタの方でしょ?調子に乗らないでよね!」
再び喧嘩する二人に今度は4体のA級モンスターが襲いかかる。
「邪魔しないでって…」
「邪魔すんなって…」
「言ってんでしょうが!」
「言ってんだろうが!」
またしても二人の息ピッタリな連携で4体のA級モンスターが討伐される。
…
「はぁ!シールドバッシュ!」
ルフェルシアの盾を利用した体当たり攻撃で全身が刃物のような鋭い棘で覆われたS級モンスターのニードルソードを弾き飛ばしてひっくり返す。
「うぐっ…カウンターが痛い…」
ニードルソードの棘の攻撃は盾で防ぐ事は出来るが、貫通効果がある為、ダメージはそのまま通る性質があり、それは攻撃時に棘に触れた際にも適応される。
直接当たればもちろん、怪我どころでは済まないが、貫通効果によるダメージもかなりのものだった。
ルフェルシアはニードルソードが体制を立て直す前にポーションを一気に飲みほす。
「多少はこれで回復出来るとはいえ、かなり辛い状況なのには変わりないな…」
ニードルソードが体制を整えて棘を飛ばしてくる。
「くっ…ミラージュシールド!」
ミラージュシールドによってシールドに当たった棘を跳ね返す。
ニードルソードに跳ね返った棘が当たるが、その硬い皮膚に全て弾かれる。
「キュルルルルルル!」
ニードルソードが爪を伸ばしてルフェルシアを切り裂こうとする。
「私が…倒れるわけには…いかないんだ!」
ルフェルシアがどっしりと盾を構える。
「私はこの災厄の受け手…この手に全てを受け止める者!ゴッドウォール!」
それは神が建てた壁の様にニードルソードの爪を弾き返し追撃の棘ものとも破壊する。
「キュルルル?」
ニードルソードは訳が分からなそうな表情で自分の爪を見る。
「はぁ…はぁ…お前の武器は全部破壊してやったぞ!」
ニードルソードは力を溜める。
「キュルルルル!」
ニードルソードの身体から次々と棘が生える。
「まあ、そう簡単にいかないよな…本格的に困ったな…」
ニードルソードが再びルフェルシアを切り裂こうと爪を伸ばす。
「アリフェス!」
「任せて!」
私は雷の力を意識する。
「雷よ!我が声に呼応し、敵を貫け!サンダーボルト!」
私の突き出した両手から高圧の雷が発射される。
「キュルルルルルル?!」
ニードルソードが痺れて痙攣する。
「くらいなさい!ハデスショット!」
アリフェスが間髪入れずに相手が弱体効果を受けていて、相手の弱点に当てれば即死を付与出来る特殊な死の弾丸を放つ。
「キュルルルルルルゥゥゥゥゥゥ!!!!」
ニードルソードが死の弾丸で絶命する。
「はぁ…はぁ…さすがに魔力が底を尽きかけてますね…」
魔力がほぼ0になったアリフェスが言う。
「ルフェルシア、サーシャの援護に行けるか?」
私はルフェルシアに言う。
「私はまだいけそうだが…大丈夫なのか?」
ルフェルシアの心配も最もだ。
今は誰一人として目の前の敵以外の対処が極めて難しい状況だ。
そのうえで私はほとんど何も出来ない状態のアリフェスを守りながら、戦わないといけない。
そして、アレクスとフレイはまだ余裕がありそうだが、サーシャはかなり消耗しているはずだ。
「アリフェス、残弾はいくつ?」
「ん…10くらいですね。」
私は感知を使う。
私たちの周囲には30体ほどのC~A級のモンスターが居た。
「ギリギリだけど、何とかは出来そうだわ。とは言っても、かなり博打に近いやり方にはなるのだけれど…」
ルフェルシアは首を振る。
「それでも、決して勝算は高くないのだろう?」
「そうね…でも、やらなきゃサーシャが死ぬわ。私はね…悪運の強さには自信があるのよ。だから…勝つわ!」
私がそう言いきるとルフェルシアは「はぁ…」とため息をつく。
「君はいつもそうだ。頑固で賭け事が大好きでほんとに仕方の無いやつだ…」
ルフェルシアはサーシャの方へ行こうとしながら言う。
「ウィル、絶対に死ぬなよ。アリフェスも無理はするな。」
ルフェルシアはサーシャの元へと駆ける。
「ははっ!これがホントの地獄絵図ってな。」
アリフェスが目の前のモンスターの大群を見て隠していたナイフを取り出しながら言う。
「正直、勝率は低いけど…」
私がそう言ってる間にアリフェスがナイフを投げて目の前のA級モンスターの頭を一撃で貫いて討伐する。
「全力でぶっ倒すぞ!」
「おう!」
私はアリフェスの掛け声に答えて、敵の殲滅を開始する。
…
「や~…困ったなぁ…」
私は仲間の気配を辿りながら、そんな事を言う。
「アスティアさんとした事が、とんだ失態を晒しちゃったねぇ…」
私は周囲にモンスターの群れが現れるのを感知する。
「まあ、こんなところに一人で歩いていたら、嗅ぎつけてくるよね。」
目の前にB級モンスターの森に住む狼の森狼の群れが現れる。
「この程度なら、魔法拳で大丈夫そうね。」
私は篭手をつけて、拳を構える。
「どこからでもかかって来なさい!」
「ウルウォーン!」
周囲の草むらや木の影から大量にフォルフが出てくる。
「燃えろ!魔法拳!」
私の構えた拳が火に包まれ、攻撃力が超強化される。
「熱血!爆裂拳!」
私は一番近くにいたフォルフの顔を殴る。
そのまま殴られたフォルフが他のフォルフに当たって爆発し、さらに他のフォルフに当たって爆発の連鎖を繋げていた。
「アオーン!」
フォルフが怒って飛びかかってくる。
「爆発だけじゃ足りなかったかしら?」
私は腰を低くして拳を後ろに引く。
「これでどうだ!紅蓮拳!」
燃える拳でアッパーを繰り出しながら、周囲に火の玉を飛ばす。
目の前にまで迫っていたフォルフの腹にアッパーが炸裂しフォルフの身体が熱によって弾け飛ぶ。
周囲では焦げたフォルフの死体がそこそこあった。
「どうする?私は今逃げるって言うなら、見逃すけど?」
私はフォルフを挑発する。
「グルルルル…」
フォルフは圧倒的な力の差を見たからか、残った仲間と共に森の中へと逃げて行く。
残ったフォルフの死体を埋葬していると一匹だけまだ息があるフォルフが居た。
そのフォルフは元々傷ついており、ここで弱っていたようだ。
「グルル…」
フォルフが立ち上がって対抗しようとする。
「辞めた方がいいよ。今の貴方は息をするのも精一杯でしょ?」
私がそう言うとフォルフは諦めた様にぐったりと身体を地につけて居た。
「強さを求める者としては討伐して経験値にした方が良いのはわかってるんだけど…」
私は息のあるフォルフのお腹を見る。
大きく膨らんでおり、時折中が動いている様子がわかる。
「子を思う母の気持ちを踏み躙ってまでして、討伐しても後味が悪いわ…」
私はフォルフを治療する。
フォルフは驚いた様子で私を見ていた。
「立って仲間の元に戻るくらいは出来るまで治療してあげたわよ。でも、無理は禁物よ。私が出来るのは応急処置程度なのだから…」
フォルフはゆっくりと立ち上がる。
「…」
私も立ち上がる。
「じゃあね。」
私はそのまま仲間の元へ行こうとした瞬間だった。
「ワン!」
目の前に一匹の若いフォルフが現れる。
「あの子の事が心配で戻ってきたのかしら?」
フォルフは私が治療したフォルフを見て尻尾を振る。
私が治療したフォルフはフラフラとした足取りでゆっくりと私の後ろをついてきていた。
「ウォン…」
治療したフォルフが私の顔を見ながら小さく吠える。
「元はと言えば、私が一人で歩いてたのが悪いのよ。貴方たちは本能に従って獲物を狩ろうとしただけよ。気にする事は無いわ。」
私がそう言うと若いフォルフが遠吠えをする。
周囲からフォルフが現れる。
そのどれもが私と治療したフォルフを見て尻尾を振っていた。
「…」
若いフォルフが私の顔を見る。
「はぁ…全く…私はテイマーじゃ無いのよ?」
私は治療したフォルフに左手を突き出す。
「ウォン!」
治療したフォルフが私の左手に自分の鼻をつけて魔力を流す。
「下僕完了ね。最後にもう一度言うけど、傷が治るまでは大人しく仲間の元に帰りなさいな。私は国防騎士隊として働くの。だから、貴方が死なない為にも今は仲間の元に戻って休んでなさい。」
私がそう言うと治療したフォルフは私を介して周囲の魔力を吸収する。
「ウォン!」
治療したフォルフの身体の傷が塞がり、元気な状態になっていた。
「…貴方の心意気はよくわかったわ。そこまで言われちゃ、私も無理に返せないわね。」
私は目の前の若いフォルフに言う。
「貴方にはちょっと悪い事をしちゃったわね…」
「ワン!」
若いフォルフは気にするなと言いたげに吠えると尻尾を振りながら道を開け、仲間の元に帰っていく。
若いフォルフに呼び寄せられたフォルフ達も静かに仲間の元へと帰っていった。
「じゃあ、行こうか。パリス。」
「ウォン!」
治療したフォルフはパリスの名を与えられた事により魔力が高まり、姿がより強く逞しくなる。
俗に言う進化と言う奴だ。
フォルフが進化すると雷の力と風の力を持った狼の嵐狼になる。
お腹の子供も通常のフォルフよりかなり強い個体になるだろう。
パリスは嬉しそうに私の顔をペロペロと舐める。
「はいはい…どうも。」
パリスは私の身体を持ち上げて背中に乗せる。
「貴方、意外と器用なのね。」
私かそう言うとパリスは嬉しそうに尻尾を降って、私の目的地へと走り出す。
「フフッ…皆にあったら、ビックリしそうだわ。」
『群れの仲間より貴方のような強い人なら我の事もお腹の子供たちの事も任せられる。だから、我を連れて行け!仲間の元に戻れと何度言われても我はついて行くぞ!』なんて言われちゃったものね。
私は皆と会うのを楽しみにしていた。
「厳しいわね…」
サーシャ、フレイ、アレクスが前衛で攻撃を行い、ルフェルシアも前衛で攻撃をしながらサポートをしていた。
アリフェスと私は後衛からの攻撃とサポートを担当していたのだが…
「ウィル、貴方の魔力でオレの弾を作れないか?そろそろ底が尽きそうなんだが…」
アリフェスが苦い顔をしながら言う。
「ごめんなさい…私の魔力もそっちに回せるほどの余裕が無いの。前衛の皆もかなり消耗してるし、このままだとジリ貧なのは間違いないわ。」
私も必要と思われる魔力量を計算するに余裕が無いことは理解していた。
…
サーシャが森に住む一般的な狼の姿をしたB級モンスターの狼の群れに突っ込みながら言う。
「さらなる速さを…!魔法剣!」
速さに全振りした雷属性の魔法剣を付与した剣で次々とウルフを討伐していくが、少しづつダメージが蓄積されているように思われる。
「やるわね…でも、多勢に無勢では国防騎士の名折れですわ!」
サーシャはそう言って気合いを入れ直してウルフの群れの討伐を続ける。
…
「オラオラァ!こんなもんじゃ終わらねぇぞコラ!兜割りぃ!」
アレクスが鋼鉄のように硬い鱗に覆われたA級モンスターのスティールスネークに向かって大斧を振り下ろして地面ごと真っ二つにする。
「ちょっと!アレクス、危ないじゃない!」
その真横で岩石のような身体のB級モンスターのゴーレムと交戦していたフレイが言う。
「アァン?テメーの事なんか知らねぇよ。こっちだってヤベぇんだっつうの!」
アレクスが不満げに…と言うか、不満を隠す事もなく掴みかかりそうな勢いでフレイに言う。
「アンタねぇ!それでも王国騎士隊を目指す男なの?」
「ガタガタうっせぇ女だなぁ!そんなに言うなら、今ここでやり合ったって良いんだぜ?」
喧嘩する二人に六体のB級モンスターが襲いかかる。
「邪魔すんじゃねぇ!」
「邪魔しないで!」
二人の息ピッタリな連携で次々にB級モンスターが討伐される。
「ったくよ…邪魔くせぇったらありゃしねぇ!」
「とても不愉快だけれど、その意見には同感だわ。」
二人がまるで打ち合わせでもしたかのように息ピッタリに言う。
「どっちが多く倒すか…」
「勝負よ!」
「負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞く事でいいな!」
「当然よ!アンタのその変な頭を丸坊主にしてやるんだから!」
「上等だコラ!テメーの生意気な態度を叩き直してやんよ!」
「はっ!生意気なのはアンタの方でしょ?調子に乗らないでよね!」
再び喧嘩する二人に今度は4体のA級モンスターが襲いかかる。
「邪魔しないでって…」
「邪魔すんなって…」
「言ってんでしょうが!」
「言ってんだろうが!」
またしても二人の息ピッタリな連携で4体のA級モンスターが討伐される。
…
「はぁ!シールドバッシュ!」
ルフェルシアの盾を利用した体当たり攻撃で全身が刃物のような鋭い棘で覆われたS級モンスターのニードルソードを弾き飛ばしてひっくり返す。
「うぐっ…カウンターが痛い…」
ニードルソードの棘の攻撃は盾で防ぐ事は出来るが、貫通効果がある為、ダメージはそのまま通る性質があり、それは攻撃時に棘に触れた際にも適応される。
直接当たればもちろん、怪我どころでは済まないが、貫通効果によるダメージもかなりのものだった。
ルフェルシアはニードルソードが体制を立て直す前にポーションを一気に飲みほす。
「多少はこれで回復出来るとはいえ、かなり辛い状況なのには変わりないな…」
ニードルソードが体制を整えて棘を飛ばしてくる。
「くっ…ミラージュシールド!」
ミラージュシールドによってシールドに当たった棘を跳ね返す。
ニードルソードに跳ね返った棘が当たるが、その硬い皮膚に全て弾かれる。
「キュルルルルルル!」
ニードルソードが爪を伸ばしてルフェルシアを切り裂こうとする。
「私が…倒れるわけには…いかないんだ!」
ルフェルシアがどっしりと盾を構える。
「私はこの災厄の受け手…この手に全てを受け止める者!ゴッドウォール!」
それは神が建てた壁の様にニードルソードの爪を弾き返し追撃の棘ものとも破壊する。
「キュルルル?」
ニードルソードは訳が分からなそうな表情で自分の爪を見る。
「はぁ…はぁ…お前の武器は全部破壊してやったぞ!」
ニードルソードは力を溜める。
「キュルルルル!」
ニードルソードの身体から次々と棘が生える。
「まあ、そう簡単にいかないよな…本格的に困ったな…」
ニードルソードが再びルフェルシアを切り裂こうと爪を伸ばす。
「アリフェス!」
「任せて!」
私は雷の力を意識する。
「雷よ!我が声に呼応し、敵を貫け!サンダーボルト!」
私の突き出した両手から高圧の雷が発射される。
「キュルルルルルル?!」
ニードルソードが痺れて痙攣する。
「くらいなさい!ハデスショット!」
アリフェスが間髪入れずに相手が弱体効果を受けていて、相手の弱点に当てれば即死を付与出来る特殊な死の弾丸を放つ。
「キュルルルルルルゥゥゥゥゥゥ!!!!」
ニードルソードが死の弾丸で絶命する。
「はぁ…はぁ…さすがに魔力が底を尽きかけてますね…」
魔力がほぼ0になったアリフェスが言う。
「ルフェルシア、サーシャの援護に行けるか?」
私はルフェルシアに言う。
「私はまだいけそうだが…大丈夫なのか?」
ルフェルシアの心配も最もだ。
今は誰一人として目の前の敵以外の対処が極めて難しい状況だ。
そのうえで私はほとんど何も出来ない状態のアリフェスを守りながら、戦わないといけない。
そして、アレクスとフレイはまだ余裕がありそうだが、サーシャはかなり消耗しているはずだ。
「アリフェス、残弾はいくつ?」
「ん…10くらいですね。」
私は感知を使う。
私たちの周囲には30体ほどのC~A級のモンスターが居た。
「ギリギリだけど、何とかは出来そうだわ。とは言っても、かなり博打に近いやり方にはなるのだけれど…」
ルフェルシアは首を振る。
「それでも、決して勝算は高くないのだろう?」
「そうね…でも、やらなきゃサーシャが死ぬわ。私はね…悪運の強さには自信があるのよ。だから…勝つわ!」
私がそう言いきるとルフェルシアは「はぁ…」とため息をつく。
「君はいつもそうだ。頑固で賭け事が大好きでほんとに仕方の無いやつだ…」
ルフェルシアはサーシャの方へ行こうとしながら言う。
「ウィル、絶対に死ぬなよ。アリフェスも無理はするな。」
ルフェルシアはサーシャの元へと駆ける。
「ははっ!これがホントの地獄絵図ってな。」
アリフェスが目の前のモンスターの大群を見て隠していたナイフを取り出しながら言う。
「正直、勝率は低いけど…」
私がそう言ってる間にアリフェスがナイフを投げて目の前のA級モンスターの頭を一撃で貫いて討伐する。
「全力でぶっ倒すぞ!」
「おう!」
私はアリフェスの掛け声に答えて、敵の殲滅を開始する。
…
「や~…困ったなぁ…」
私は仲間の気配を辿りながら、そんな事を言う。
「アスティアさんとした事が、とんだ失態を晒しちゃったねぇ…」
私は周囲にモンスターの群れが現れるのを感知する。
「まあ、こんなところに一人で歩いていたら、嗅ぎつけてくるよね。」
目の前にB級モンスターの森に住む狼の森狼の群れが現れる。
「この程度なら、魔法拳で大丈夫そうね。」
私は篭手をつけて、拳を構える。
「どこからでもかかって来なさい!」
「ウルウォーン!」
周囲の草むらや木の影から大量にフォルフが出てくる。
「燃えろ!魔法拳!」
私の構えた拳が火に包まれ、攻撃力が超強化される。
「熱血!爆裂拳!」
私は一番近くにいたフォルフの顔を殴る。
そのまま殴られたフォルフが他のフォルフに当たって爆発し、さらに他のフォルフに当たって爆発の連鎖を繋げていた。
「アオーン!」
フォルフが怒って飛びかかってくる。
「爆発だけじゃ足りなかったかしら?」
私は腰を低くして拳を後ろに引く。
「これでどうだ!紅蓮拳!」
燃える拳でアッパーを繰り出しながら、周囲に火の玉を飛ばす。
目の前にまで迫っていたフォルフの腹にアッパーが炸裂しフォルフの身体が熱によって弾け飛ぶ。
周囲では焦げたフォルフの死体がそこそこあった。
「どうする?私は今逃げるって言うなら、見逃すけど?」
私はフォルフを挑発する。
「グルルルル…」
フォルフは圧倒的な力の差を見たからか、残った仲間と共に森の中へと逃げて行く。
残ったフォルフの死体を埋葬していると一匹だけまだ息があるフォルフが居た。
そのフォルフは元々傷ついており、ここで弱っていたようだ。
「グルル…」
フォルフが立ち上がって対抗しようとする。
「辞めた方がいいよ。今の貴方は息をするのも精一杯でしょ?」
私がそう言うとフォルフは諦めた様にぐったりと身体を地につけて居た。
「強さを求める者としては討伐して経験値にした方が良いのはわかってるんだけど…」
私は息のあるフォルフのお腹を見る。
大きく膨らんでおり、時折中が動いている様子がわかる。
「子を思う母の気持ちを踏み躙ってまでして、討伐しても後味が悪いわ…」
私はフォルフを治療する。
フォルフは驚いた様子で私を見ていた。
「立って仲間の元に戻るくらいは出来るまで治療してあげたわよ。でも、無理は禁物よ。私が出来るのは応急処置程度なのだから…」
フォルフはゆっくりと立ち上がる。
「…」
私も立ち上がる。
「じゃあね。」
私はそのまま仲間の元へ行こうとした瞬間だった。
「ワン!」
目の前に一匹の若いフォルフが現れる。
「あの子の事が心配で戻ってきたのかしら?」
フォルフは私が治療したフォルフを見て尻尾を振る。
私が治療したフォルフはフラフラとした足取りでゆっくりと私の後ろをついてきていた。
「ウォン…」
治療したフォルフが私の顔を見ながら小さく吠える。
「元はと言えば、私が一人で歩いてたのが悪いのよ。貴方たちは本能に従って獲物を狩ろうとしただけよ。気にする事は無いわ。」
私がそう言うと若いフォルフが遠吠えをする。
周囲からフォルフが現れる。
そのどれもが私と治療したフォルフを見て尻尾を振っていた。
「…」
若いフォルフが私の顔を見る。
「はぁ…全く…私はテイマーじゃ無いのよ?」
私は治療したフォルフに左手を突き出す。
「ウォン!」
治療したフォルフが私の左手に自分の鼻をつけて魔力を流す。
「下僕完了ね。最後にもう一度言うけど、傷が治るまでは大人しく仲間の元に帰りなさいな。私は国防騎士隊として働くの。だから、貴方が死なない為にも今は仲間の元に戻って休んでなさい。」
私がそう言うと治療したフォルフは私を介して周囲の魔力を吸収する。
「ウォン!」
治療したフォルフの身体の傷が塞がり、元気な状態になっていた。
「…貴方の心意気はよくわかったわ。そこまで言われちゃ、私も無理に返せないわね。」
私は目の前の若いフォルフに言う。
「貴方にはちょっと悪い事をしちゃったわね…」
「ワン!」
若いフォルフは気にするなと言いたげに吠えると尻尾を振りながら道を開け、仲間の元に帰っていく。
若いフォルフに呼び寄せられたフォルフ達も静かに仲間の元へと帰っていった。
「じゃあ、行こうか。パリス。」
「ウォン!」
治療したフォルフはパリスの名を与えられた事により魔力が高まり、姿がより強く逞しくなる。
俗に言う進化と言う奴だ。
フォルフが進化すると雷の力と風の力を持った狼の嵐狼になる。
お腹の子供も通常のフォルフよりかなり強い個体になるだろう。
パリスは嬉しそうに私の顔をペロペロと舐める。
「はいはい…どうも。」
パリスは私の身体を持ち上げて背中に乗せる。
「貴方、意外と器用なのね。」
私かそう言うとパリスは嬉しそうに尻尾を降って、私の目的地へと走り出す。
「フフッ…皆にあったら、ビックリしそうだわ。」
『群れの仲間より貴方のような強い人なら我の事もお腹の子供たちの事も任せられる。だから、我を連れて行け!仲間の元に戻れと何度言われても我はついて行くぞ!』なんて言われちゃったものね。
私は皆と会うのを楽しみにしていた。
0
あなたにおすすめの小説
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる