魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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黒の少女

34話

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「う~ん…」

少女は眩しさに目を開ける。

「…ん?」

少女は寝惚けた頭をフル回転させる。

「えっと…」

少女はまだ夢を見ているのだろうか…

「ここは…どこ?」

少女は屋敷で寝ていたと思ったら、森の中で寝ていた。

まさにそんな感じな気持ちだった。

「きっと、夢よね…」

少女はそんな事を思いながら、身体を動かす。

「…?!」

少女は自分が何も着ていない事に気がつく。

「どうして…」

少女は前を隠しながらも何かないか探す事にした。






「あれ?迷った…?」

私は感知を使う。

「感知が無効化されてる…これは厄介ね…」

私は感覚が狂わされる魔法のかかった場所に迷いこんでしまったらしい。

こうなると自力で抜け出すのはかなり難しくなるが…

「…まあ、何とかなるっしょ!」

私は剥いでマントみたいに加工した棘鎧狼の毛皮を着る。

「うん。やっぱり、これ面白いよね!持ち主の魔力に呼応して棘の強度が変わるんだからね。」

私が着るとそれはもうどんなモノであっても破壊する所か、傷をつけることさえ出来ないだろうと思えるくらいの硬さになっていた。

「でも、これで町は歩けないかな…硬すぎてすれ違うだけでミンチにしちゃうかもしれないし…」

棘が硬くなり過ぎて軽く触れるだけで皮膚を裂くくらいには硬かった。

…と言うか、さっきそれで人間より遥かに硬い皮膚を持つ大きなクマ型のB級モンスターのグリズリーをズタズタにしてしまったからね。

グリズリーが私に気がついて大振りに振り回した爪で引き裂こうとして、この毛皮に触れた瞬間、触れたところからミンチのようになっていた。

グリズリーがそのまま勢い余ってこちらに倒れこんだが最後、目の前には見るも無惨なグリズリーの死体が転がっていた。

せっかくなので、毛皮の無事な部分を服の素材として持ち帰ろうかと思ったけど、想像以上にボロボロで使い物にはならなかった。

「まあ、私が着ると自動殺戮兵器になっちゃうし、誰かちょうどいい人とか居ればいいんだけどなぁ…」

私がそんな事を言っていると目の前の草むらがガサガサと音を立てる。

私はその場で身構えていると…

「う~ん…なんもないわね…」

透き通る様な白い肌、美しい青色の長い髪、右が黒色で左が黄色のオッドアイ、背丈は15歳ほどで大きな膨らみが二つ立派に育った裸の少女が出てきた。

私はその少女と目が合う。

「きゃあああああああああああああ!!!!!」

少女が驚いて腰を抜かしてしまった。

私は少女が落ち着くまで何とか宥める。

「ご、ごめんなさい…急に人が現れてびっくりしてしまったの…」

少女が頭を下げて謝る。

「それは良いんだけど…」

私は少女の身体を見る。

「何でこんなところで裸で居るの?見たところ魔族でも無さそうだし…」

少女は恥ずかしそうに前を手で隠しながら言う。

「私にもわからないんです…気がついたら、森の中で寝てて…」

少女が目に涙を溜めて下を見る。

「そっか。じゃあ、これあげるよ。」

私は着ていた棘鎧狼の毛皮を脱いで少女に渡す。

「あの…これって、棘鎧狼の毛皮ですよね…災害級モンスターの棘鎧狼の…」

少女が毛皮を持つ手を震わせながら言う。

「うん。私が着ると自動殺戮兵器に早変わりしちゃうからね。だから、貴方にあげる!」

「えっ…棘鎧狼の毛皮って確か魔力量で…」

少女は毛皮を見ると驚いた表情で固まってしまった。

「あれ?気に入らなかったのかな…」

私がそんな事を言ってると我に返った少女が首を振る。

「そんなとんでもないです!ただ毛皮の状態の良さに加えて、貴方がそんなに凄い魔法使いさんだった事に驚いただけです…」

「あ~…私、魔力はあるけど、魔法は使えないんだ。」

私がそう言うと少女は訳が分からないと言いたげに首を傾げて言う。

「…どういう事ですか?」

私は軽く自分の体質について説明する。

「そうだったのですね…そうとは知らずに…すみません…」

「別に慣れてるから、気にしないで。それよりも早くその毛皮着なよ。」

私がそう言うと少女はマントのような毛皮を器用にローブみたいにして着る。

「後は…この蔓で縛れば簡単には前が開かなくなるかな?」

少女は器用に棘の間に蔓を巻つけて即席ローブを完成させる。

「器用にローブを作ったね」

私が少女を褒めると少女は嬉しそうに言う。

「はい!私は元々ただの貴族なのですが、趣味で服を作っていたのでこう言った事は得意なんです!お兄様が望まれるのでしたら、何かお作りしましょうか?」

少女はキラキラとした目で私を見る。

「今はいいかな。私にはこれが一番だし…」

私がそう言うと少女が服の綻びや伸びてる箇所を指さしながら言う。

「例えば、この辺りとか穴が空いていて、修繕が必要ですよね?素材さえあれば、私が完璧に修繕しますよ!とにかく、私の恩人であり、こんなに良い物をくださったお兄様の役に立ちたいんです!だから、私になんでも言ってください!」

「じゃあ…」

私は少し考える。

「…とりあえず、自己紹介しようか。私、まだ名乗ってなかったよね?」

「はわわ…私とした事がうっかりしてました!」

少女は貴族らしくローブの裾を軽く持ち上げてお辞儀をして言う。

「私はリリーフィル・アンクレスト・アルフェノーツです。アルフェノーツの分家であるアンクレストの血筋ですね。」

私は昔見た家系帳を思い出す。

確かにアンクレストの名前がそこにあったので、間違いなく少女はアルフェノーツの分家の血筋だった。

「そうなんだ!私はSS級冒険者のアリス・アルフェノーツだよ!アルフェノーツの名前を継いでるけど、私自身は養子だから血の繋がりはないんだけどね。」

私がそう言うとリリーフィルはとんでもないものを見たと言いたげに目を丸くしていた。

「そんな凄い方に名乗りもしなかったなんて…とんだご無礼をおかけしてしまいました…」

そう言って跪こうとするリリーフィルを止めながら言う。

「気にしないで!むしろ、普通に話してくれた方が助かるから」

リリーフィルはまるで神を見るかのような眼差しを私に向けながら言う。

「なんてお優しい…アリスお兄様は神様ですよ。」

「神様だなんてリリーフィルさんは大袈裟だなぁ…まあ、持ち上げられて悪い気はしないけどさ。」

私はさすがに少し恥ずかしくて頬を掻きながら言う。

「いいえ、私にとって、アリスお兄様は恩人であり、我が神です。誰がなんと言おうと揺るぎませんわ!後、私の事は気軽にリリーフィルとお呼びください!神様にさん付けさせるなんて出来ませんので!」


…ん?お兄様?


リリーフィルはキラキラした目で私を見る。

「なら、呼び捨てにさせてもらうけど、私からも1つ良いかな?」

「はい!なんなりとお申しつけください!我が神の為ならば、例え火の中でも水の中でも茨の中でも入りますわ!」

「その我が神って言うの辞めてほしいかな…私にはアリスって名前もあるし、私は神様なんて存在とはかけ離れた人だもの…だから、リリーフィルも私の事はアリスって呼んでほしいな。後、私は女だよ。」

私がそう言うとリリーフィルはますます目を輝かせて言う。

「あ、え?アリス様はお兄様ではなくてお姉様だったのですか?!それは本当に失礼しました!じ、じゃあ、アリスお姉様って呼んでもいいですか?」

「いや…だから…普通にアリスで…」

「アリスお姉様とお呼びするのは嫌ですか?」

リリーフィルが瞳を潤ませながら言う。

あぁ…なんか悪い事をしてる気分になっちゃうなぁ…

「嫌では無いけど…」

「じゃあ、アリスお姉様って、お呼びしますね!私、一人っ子だから、ずっと憧れてたんですよ!周りの子供たちがお姉様とかお兄様って呼んでるのを見るだけで、ほんとにかっこいいなって思ってたんです!アリスお姉様みたいなかっこいいお姉様って素敵じゃないですか!」

リリーフィルが嬉々として興奮気味に言う。

「はぁ…なら、それでいいわよ…」

私はもう諦める事にした。

どうしたものかと考えているとリリーフィルが言う。

「そういえば、アリスお姉様、ここから出られなくてお困りだったりしますか?もしお困りでしたら、このリリーフィルにお任せ下さい!私の能力でアリスお姉様を速やかに目的地までご案内してみせますわ!」

「それはありがたいんだけど、この辺り感覚妨害の魔法がかけられてるから、抜け出せるかわからないよ?」

「それならご安心を!私の能力とはまさにその感覚妨害を無効化出来る能力なのです!さらに目的とする場所さえ分かれば、例え五感を奪われようとも辿り着ける能力もあるのですよ!どうですか?リリーフィルもなかなかやりますでしょう?」


感覚妨害を無効化出来る能力を持ったものは冒険者ギルドでもとても貴重な存在だ。

その上、リリーフィルの目的地さえ分かれば必ず辿り着ける能力もあるとなれば、それだけでS級パーティからも引っ張りだこなのは間違いないだろう。

それほど彼女は凄い能力を持っていると言ったのだ。


私はリリーフィルに言う。

「なら、リリーフィルにお願いしようかな…この感覚が狂わされるせいで感知も無力化されて上手く機能してないからね…とても困ってたんだよ。」

「はい!では、私についてきてください!目的地は…この空間の外で良いですか?」

「そうね。まずは貴方の能力についてちゃんと理解しておきたいから、それでお願いするわ。」

「わかりました!最短ルートで行きますよ!」

リリーフィルはそう言うと森の中に向かって走り始める。

私もその後を走って追いかける。

くねくねとあちらこちらに行ったり来たりしながら、森を走っているとリリーフィルが立ち止まる。

「アリスお姉様、この先直進する必要があるのですが、100ほど先にS級相当のモンスターがいます。いかが致しましょうか?」

「そうね…襲ってきたモンスターの相手は私がやればいいから、そのまま進んでちょうだい。」

「かしこまりました!では、全速前進です!」

リリーフィルと私はそのまま走り出す。

「きぇぇぇぇぇぇ!!!」

S級モンスターの酔いどれサルが現れる。


酔っ払ったおじさんみたいな真っ赤な顔とフラフラした足取りが特徴のサル型モンスターの酔いどれサルは身体能力こそ、B級モンスター程度だが、厄介なのはその生息域と多彩な状態異常を操る点だ。

今、私が居るような感覚妨害地帯や様々な毒を持つ動植物が生息する場所を好んで住処とするため、とても厄介なモンスターなのだ。

幸い、私は状態異常は無効化出来るが、リリーフィルが状態異常になると私では治せないため、脱出は困難となるだろう。


リリーフィルがその辺で拾って削っただけの木の棒を構えながら言う。

「アリスお姉様、援護はお任せ下さい!私は魔法の心得がございますわ!」

「わかったわ。じゃあ、援護はお願いね!」

私は瞬時に酔いどれサルの目の前に移動する。

「大いなる大地の化身よ…我が声に応え、あらゆる災厄の波を防ぎたまえ!全弱化無効クリアオール!」

私とリリーフィルの身体を黄色の魔力が包み込んで、感覚妨害等の特殊状態異常を含んだ状態異常を無力化させる。

「キェェェェェ!」

酔いどれサルが狙いが定まっていないフリをした爪の攻撃を仕掛ける。

「遅い!」

私の左ストレートが酔いどれサルの鳩尾を突き刺す。

「キェェェェェ!キェキェェェェェェ!!」

酔いどれサルが露骨に痛がる。

「おい。演技を舐めてんのか?死にたくねぇなら、とっとと失せるかしっかり相手を見やがれ!」

私が殺気を放ちながら言うと酔いどれサルは痛がる素振りを直ぐにやめる。

「キェェェェェ…」

酔いどれサルは急に弱々しい声を出して油断を誘おうとする。

「死にたいか?」

私がさらに殺気を強める。

「キ、キェェェェ!!!」

酔いどれサルはヤケクソだと言いたげに飛びかかってくる。

「おらぁ!」

私の左ストレートが酔いどれサルの顔面をぶち抜く。

「キェェ…」

酔いどれサルの身体が吹き飛んで、完全に息絶える。

「ふぅ…こんなもんかな?」

私がそう言って酔いどれサルに近づくとリリーフィルが叫ぶ。

「お姉様!逃げて!」

その叫び声と共に酔いどれサルの身体から、鋭い爪が伸びる。

私は紙一重でそれを避ける。

「キシャアアアアアアアア!!!」

酔いどれサルの口の中からS級モンスターのパラサイマンティアが出てくる。


パラサイマンティアはS級モンスターの中では珍しく小さめの寄生型のカマキリのモンスターでとても凶暴な性質を持ち、獲物の口から侵入するとしばらくは栄養を根こそぎ奪い取りながら卵を産み、卵が孵化すると宿主の中身を食い尽くして皮だけにして擬態すると言う恐ろしい能力を持っている。

その生き物の特徴を学習する為、一度身体を乗っ取られると通常の寄生されてないものとほとんど見分けがつかないのだと言う。

過去に何度もそれなりに実力がある冒険者パーティや辺境の村が被害にあっており、その凶悪さは誰もが知ってると言える危険なモンスターだ。

パラサイマンティア自体の身体能力はA級モンスターよりも劣ると言われているが、油断すれば麻痺毒を利用しながら口から侵入するのでとても危険なのだ。


リリーフィルが魔法を使いながら飛び出す。

「波よ、我に力を!波強化ウェイヴアップ!」

音の波がリリーフィルの木の棒を高速振動させて、殺傷能力をあげる。

あっという間にパラサイマンティアの鎌を切り落とす。

「滾る炎の波よ!敵を焼き尽くせ!フレアウェイヴ!」

大海原を思わせるような炎の波がリリーフィルから放たれ、パラサイマンティアを焼き尽くす。

「おわっ…と、凄まじい熱量だね。」

私がそう言うとリリーフィルがドヤ顔する。

「この世界のありとあらゆる全ての"事象"には波があるのです。生物や非生物、神や悪魔に妖精に人間にも例外は一切なく波があります。私はその波を扱う波魔法のエキスパートってわけですよ!エッヘン!」

そんな彼女の背後ではパラサイマンティアが黒焦げになっていた。

「凄い…私も魔法が使えたら、使ってみたい魔法だわ!」

「おお!アリスお姉様も波魔法に興味がおありですか?属性魔法が扱えなくても魔力さえあればなんだって出来ちゃうのがこの波魔法の面白いところなので良かったら、アリスお姉様もどうですか?今なら、私が手取り足取り…」

「い、今はいいかな…それより、リリーフィルの魔法ってほんとに面白いね!私、波魔法は初めて見たんだけど、不思議な力だね。」

私がそう言って褒めるとリリーフィルがとても嬉しそうに語り始める。

「でしょでしょ!波魔法って本当に面白いの!属性魔力を持ってなくても様々な属性の魔法を波の操作だけで扱える様にしたり、自分の波を操って、自分の力を相手からわからなくさせたり出来るんだよ!それに相手の防御も防御の波と自分の波を合わせる事でただの木の棒でもS級武器くらいの強さになったり、防御貫通能力を得たり出来てとっても奥が深い魔法なんだよ!」

リリーフィルはそこまで言って「ハッ!?」とした顔をして恥ずかしそうに顔を赤くして言う。

「す、すみません…波魔法の事になると熱くなっちゃって…」

私はグラディオスが私のについて語っていた時の事を思い出す。

「いいのよ。熱く語れる事があるって事はそれだけ真剣って言う証だもの。それはとても凄い才能なんだから、誇りに思うといいわ。」

「うぅ…お姉様ぁ…しゅき!」

そう言いながら、リリーフィルは手でハートの形を作る。

「…」

私はもう何も考えない事にした。

「スルーされた?!…ま、いっか。」

リリーフィルはそう言うと歩き始める。

「もう少しでここから出られますので、ついてきてください。」

私はリリーフィルの後ろについていく。
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